伊丹は緊張していた電話をかけるのは久しぶりだっただ、それにここは署内だ、一応、周りに人がいないのを確かめて大丈夫だと思ったからかけているのだが、万が一ということもある。
クリスマスが過ぎ、彼女の家に泊まる筈だった予定は年末の厳戒態勢で流れてしまった。
街全体が正月の飾りつけに変わると人々の足取りもなんとなく足早になり、時間までもが早く過ぎるように感じられる。
署を出ようとしたスマホを取り出した、もし都合が良ければ、いや、師走間近だ忙しいだろう、声を聞くだけでもと思ったとき、怒鳴るような声がした。
振り返ると三浦とせんぱーいと呼ぶ芹沢が向かってくる、二人の表情を見て嫌な予感がした。
「犯行予告だ」
三浦の言葉に驚いた、しかも署から、さほど放れていない撮影所に爆弾が仕掛けられたという、現場は撮影所だ。
最初は局内で不満、恨みを持った人間の犯行かと思われた、だが、局内の中で事件が起きたことに視聴率を上げようとしたテレビ局側が勝手に動きだしたことで混乱した。
犯人が単独、複数なのか、人物像がわからず中には視聴率を上げるためのでっちあげだと本気で思っていた人間もいたようだ。
犯人を見つけて捕まえれば事は終わり、事件解決だと思っていたが、局内で煙と爆発音がしたことで大騒ぎになった。
「くそっ、なんだこりゃ」
黒こげになった段ボール箱を見て伊丹は思わず悪態をつきそうになる、中に入っていたのは爆弾ではなかった、予告はただの悪戯、愉快犯か。
調べていた米沢が、ほうっと感心したような声を漏らした。
「タイマーセットで発火するようになっているですが、花火、市販のものではないですね」
三浦が怪訝な顔をする。
「海外のものに手を加えています」
説明する米沢の声が途切れたのは突然の爆発音のせいだ、それもかなり大きい。
捕まったのは若い男だ、芸能界に憧れていたが日々の仕事は朝から晩まで下働きだ、ちょっとした憂さ晴らしのつもりだったらしい、自分がやったと自首してきたのはいいとして文句が気になった。
事情を聞くため署に連れて行こうとしてパトカーに乗せようとすると嫌がった。
怪我人が出たわけではない、機材が大きく破損しこわれたわけでも、だから自分の罪は軽い筈だというのだ。
すると、少し放れたところから見ていた右京が近寄って来た。
「犯行は、あなた一人で考えて実行したのでしょうか」
青年は頷く。
「爆弾の知識はネットですか、随分と勉強されたんでしょうね」
感心したように頷く右京を青年は不思議そうに、いや、いぶかしげに見た。
「先程から、何を気にしているんです」
右京の言葉の意味が分からなかったのかもしれない、一瞬、青年は不思議そうな顔になったが、その目には困惑の色が浮かんだ。
「まるで、芝居を見ているようです、爆発音の音がして騒ぎが落ち着くと刑事に近寄り、自分がやりましたと自首する、爆弾、本当に、あなたが作ったのでしょうか」
「警部殿」
右京の言葉に三浦は何かを感じたようだ、周りを見ると局内にいた人々は自分たちに注目している、だが。
「右京さん」
そのとき、亀山が駆け寄ってくると耳打ちした。
頷いた右京は海外旅行の経験はありますか青年に尋ねた。
「二つ目の爆発、置かれた場所は一つ目とは違いがありました」
右京の言葉に青年の表情、顔色が変わった、そのとき。
一人の女性が待ってくださいと近づいてきた。
「ま、待って」」
そばにいた刑事たちは驚いた。
「美也、さん、どうして、ここに」
名前を呼ばれた女性は伊丹の声に驚いたようだ。
だが、男に向き直ると詰め寄るように話しかけた。
「桜は、どこです、撮影に使うって勝手に連れて行ったそうですね、人慣れしていないんです」
青年の顔に嫌悪の表情に変わった。
「う、うるさいっっ、あんな役にたたない、クソッツ」
突然、青年が声をあげた足下に、いつの間にか猫がいたのだ、だが、それだけではない、猫はズボンの裾をじゃれるように。
「おいっ、やめろっっ、こいつっっ」
青年が猫を蹴ろうとする、だが、その前に桜と呼び、両手を伸ばした彼女が猫を抱き上げた。
「おいっっ」
鋭い半ばドスのきいた声で三浦が青年に声をかけた、地面に落ちているものに気づいたからだ。
そばにいた伊丹、芹沢だけでない右京、亀山の視線が向けられた。
ビニール袋には白い錠剤と飴が入っていた。
三浦が青年の顔に袋を突きつける、まずいといわんばかりに無言になった青年は叫び声をあげた。
「さんっっ、助けてくれよ、俺は」
暴れようとする青年の腕を掴んだ伊丹は、美也さん、危ないですと声をかけてパトカーに押し込んだ。
「詳しい話を聞こうか、署の取調室でな」
伊丹と三浦の視線にはさまれた青年は諦めたのか、後部座席のシートに倒れるように身体を沈めた。
だが、それきり、動かなくなった。
ギャグにするつもりだったのに