クロスハンター こかんがあちーぜ! 他作品ヒロインと豪快えっち集 作:北村 貴之
プロローグ1 シローの悩み
広大な海に浮かぶ大きな大陸「ホライズン」。
ごく普通の平和な大陸であったが、突如としてそれは終わりを告げた。
異界から出現した魔王「ザガン」が、多くの魔物の軍勢を引き連れ、この大陸を手中に収めるべく侵攻を開始したためであった。
ホライズンに存在する多くの国や町が滅ぼされ、人々は絶望に打ちひしがれた。
ザガンとその軍勢の出現の影響により、もとよりホライズンに生息している動物たちが狂暴化するという現象も見られ始めた。
そのため、大陸の生態系が変化してしまい、人々は異界からの魔物のみならず、それまで穏やかであった動物たちをも恐怖してしまったのだった。
しかし、人々の中には希望の灯を消さず、魔王を倒すために立ち上がった者達もいた。
その中でも代表的な者は、「勇者」と呼ばれる存在である男性「リュウ」と、その親友である、月影流の武術を極めた男、「ガンテツ」だった。
リュウとガンテツは、ザガン軍との戦いに明け暮れていた。
しかしザガンは数多くの魔物たちを引き連れているために、歴戦の戦士であるリュウとガンテツに何匹倒されようとも、魔物たちは次々と湧いてきた。
リュウとガンテツは戦い続けながら、魔物たちと闘う力をつけさせるべく戦士たちを育成していた。
ガンテツは前線でザガン軍と戦いつつ、月影流武術の師範を努め弟子たちを育てていた。
リュウには妻と息子がいた。
しかし、彼らはリュウにとってはかけがえのない宝であった。
愛妻と息子だけは戦いに巻き込ませるわけにはいかなかった。
息子が戦いたいので剣を教えてほしいと言ってきても、頑なに断った。
息子には悪いと感じていたが、彼には幸せになってほしかったからだった。
そして、ザガンが出現してから2年。
一向に戦いが終わらぬその中、悲劇は起こってしまった…。
「クソっ…。ここまでか…?」
片手剣を握り、後ろにいる妻と息子を守っているリュウ。
リュウの一家はいま、絶体絶命の危機に瀕していた。
リュウの目の前には、ザガンの手先である魔物たちがいる。
そして、運の悪いことに、リュウたちの背後には、断崖絶壁の崖がある。
なんとか魔物たちの追撃を振り切り、断崖絶壁の崖の上まで来たところだったのだが、この絶壁は急斜面になっていて、登れない。
そして下には、大きな川が流れていた。
「ガハハハッ!勇者たる者がこんな時勢にピクニックとは…。なんともめでたい頭の持ち主だな!」
魔物たちのリーダーである、骸骨の騎士が笑っていた。
この日、リュウは妻と子を連れてピクニックへと出かけていた。
この場所には魔物が出現したという情報がないと聞き、羽休めにリュウが連れてきたのだった。
しかし、それを嗅ぎつけられたのか不明だが、ザガンの軍勢が襲って来たのだった。
笑っている骸骨を、リュウは睨みつけている。
「リュウさん…、私を置いて逃げて!私たちはもう助からない!貴方だけでも逃げて!」
妻は必死の表情で訴えるが、リュウは首を横に振る。
「そんなことできるわけないだろ!!お前を置いて逃げるなんて!!」
「でもこのままだと貴方も…!」
「大丈夫だ…」
剣を握り、妻子の方を向くリュウ。
(シロー…)
息子の名を心の中で呼んだ。
ツンツン頭の黒髪の少年、シローが父の視線に気づく。
「と、父さん…!」
「シロー…。お前は強くなれ…、誰よりも強く…」
リュウの目には涙が溜まっていた。
その涙の理由を、シローは理解したようだ。
父が立つ方へと向かおうとする。
「父さん!俺も一緒に…!」
「ダメだ!お前は逃げろ!」
息子を怒鳴りつけるリュウ。
しかし、息子は首を横に振る。
「嫌だよ!!俺も戦う!!」
「ダメだ!!お前だけは生きてくれ!!」
息子の目を見つめるリュウ。
そして、その横では妻が涙を流していた。
(すまない…)
心の中でそう謝罪した後、リュウはシローの方へと近づいた。
そして…。
「許せっ…!」
そう言うと、シローを思いっきり崖の下へと突き飛ばした。
突然の父の行動に戸惑う暇もなく、シローは真っ逆さまの方向へと落ちていった。
崖と川の距離はかなりあった。
「うわあああああああああああっ!」
シローは涙を流しながら叫び、落ちていった。
彼の叫びは川の流れの中へと消えていった…。
「ハッ!?」
シローが目覚めた。
「夢…。か」
シローは辺りを見回した。
どうやら、自分の部屋の中のようだ。
シローは寝ていた布団の上で、息切れを起こしていた。
幼き日のあの記憶が夢の中で蘇ってしまったようだ。
夢から覚めたことに安堵していたが、すぐにシローは不安な表情を浮かべる。
「母さん…、父さん…」
かつての家族を想い出し、悲しい表情を浮かべたがすぐに頭を切り替えた。
「よし…。飯できてる頃かな」
そう独り言をいうと、シローは身支度を始めたのだった。
現在、シローは12歳。
幼さが残る顔だが、どこかたくましさも感じられる顔つきになっていた。
年齢には不似合いだが、これでもいつか来るザガンとの戦いに備えて鍛錬を行っていたため、身体は引き締まり、顔も戦士相応の顔つきになっていた。
寝間着から着替え、食堂へと向かいドアを開けるシロー。
そこには。
「シロー。起きたか」
目の前には男がいた。
その男は白髪交じりのオールバックの黒髪に黒い瞳を持ち、ガタイのいい体格をしていた。
この男こそがシローの父親の親友にして、月影流の師範を努めるガンテツだ。
「師匠…。おはようございます」
シローはガンテツに挨拶をした。
ガンテツはそんなシローの表情がどこか気になるようだった。
そこで、彼に質問をすることにした。
「どうしたシロー。朝だというのに浮かない顔だな」
「ええ、実は両親とのあの日の記憶が夢に出てきまして…」
正直に師匠に、夢の事を話すシロー。
「そうか。あの日ほどつらかった出来事はあるまい。だが、そろそろ忘れなければな。もうあれから3年経っている」
「はい…。わかってはいるのですが…」
シローは表情を曇らせている。
ガンテツはそんなシローに声をかけることにした。
「ほら。座りなさい。お前を待っていたんだ」
ガンテツの周りには、彼の弟子たちが椅子に座り、シローが来るのを待っていたようだ。
「…はい!」
ガンテツの言葉に従い、朝食を取り始めるシロー。
そんな様子を見て、ガンテツは思うのだった。
(辛いとは思うが、いつまでも引きずっていてはいけないのだ…!)
内心でそう強く思っていたのだった。
朝食後。
シローは道場の外で、いつものように木刀を素振りしていた。
シローは最近、ホライズンで悪さをしているザガンの手先の魔物たちを討伐していた。
基本的には近くの町の人々からの依頼を受けて魔物を倒しているのだが、この日は依頼が来なかったために道場で鍛錬をしていた。
両親と離れ離れになり川に落とされたシローだが、気を失い川の下流に流れ着いていたところを、ガンテツの娘である、トウカに拾われたのだった。
それ以来シローはガンテツに引き取られ、トウカ、そしてガンテツの弟子たちと共に過ごしてきたのだった。
ガンテツから厳しく仕込まれていたシローだが、「ザガンを倒す」という目的から、必死に己を鍛えこんだ。
両親が現在どうなっているか不明だが、ザガンを倒さない限りホライズンに平和が訪れることはないこと。
そして、自分が強くなって、両親の仇を打てる日が来た時の為に強くなることを心に決めているのだった。
木刀を振り続けること早1時間…。
「よし…!」
シローは素振りを終え、汗を拭き始めた。
(ふぅ…)
一息ついたところで、シローの視界に一人の少女の姿が映った。
ポニーテールの黒髪を持つ袴姿の美少女だ。
少女の名はトウカ。
ガンテツの娘であり、シローとも親しくしている少女である。
そんな彼女は微笑を浮かべ、シローの方へと向かってきた。
「変わらず精が出ていますね」
そう言って、シローを称賛するトウカ。
「なんだ、トウカさんか」
安心した表情を浮かべるシロー。
シローとは年上なので、彼にとっては姉同然の存在だ。
トウカもザガンの軍勢と闘っている。
剣の腕前もかなりのもので、並の実力のモンスターならば束でかかってきてもあっさりと斬り伏せてしまうほどだ。
普段は胴着と袴という出で立ちなので、清純かつ凛とした雰囲気が出ている。
足には新品同然の純白の足袋と草鞋を履いている。
「して…。最近はどうですか?調子は」
「調子?そうね、う~む…。ここ数日魔物たちが強くなってきてるような気がしなくもなくて…」
シローはそう答えた。
シローは基本的にひとりで魔物を倒している。
ガンテツから戦い方の基本から応用まで教わっており、仲間がい。
剣の腕前はかなりのものであり、ザガンの軍勢と渡り合えるほどの実力を持っている。
しかし、それでもまだ未熟な面がある。
なので、シローは日々鍛錬を行っているのだった。
そんな彼の答えを聞いてトウカは頷く。
「そうですか…。確かにここ最近魔物たちが強くなってきてますね」
「ああ…」
神妙な顔をするシローを、トウカは少し心配そうに見つめた。
弟同然の彼は普段そんな表情は見せないが、長く戦っているために疲労が溜まっているのか、それとも何か不安なことがあるからなのか…。
「…ですが、あなたは月影流で長い間鍛錬に励んでいます。父からの教えをしっかり守り、ザガンを倒すという目的のために、あの日からがむしゃらに修行してきたはずです」
トウカへの言葉を受け、シローは少しだけだがどこか元気そうな目を見せた。
だが、彼は満足そうではないようだ。
そんなシローを見て、トウカは改めてシローに話しかけた。
「ふむ…。励ましのつもりで言ったはずなのですが…。まだ悩みがあるのですか?」
「あ、ああ…」
トウカにそう言われ、少しドキッとした表情を見せるシロー。
その表情は、まるでトウカに心の内を見透かされたような顔であった。
トウカの顔を見て、隠しても仕方がないと判断したシローは、こう言ったのだった。
「最近魔物が強くなってきているのはトウカさんも知ってるはずだ。最近俺が戦う奴らは、これまでとは違ってきてるんだ。単純に殴ってきたり、武器を持ってそれで攻撃してきたりじゃなくて、いわゆる魔法とか、そんなものを使ってきたり、早い動きでこちらを翻弄してきたりと…」
シローはここ数日、特殊能力を有したモンスターたちとの闘いを繰り広げていた。
そのモンスターたちの戦い方は多種多様であり、これまでのように力任せに襲い掛かってきたり、単純な戦法で攻撃をしてくるのではなくなってきたのだった。
シローは、これまでのように、ガンテツより仕込まれた戦い方でモンスターたちを討伐してきたのだが、基本的にひとりで戦うために新たに戦う敵に苦戦することが増えてきていた。
そんなシローに対してトウカが話しかける。
「そうですね…。確かにここ最近は魔物たちが強くなってきていると私も感じます。でもそれはあなたも同じです」
「…そうか」
トウカも同じようだ。
「父から教わったやり方が徐々に通用しづらくなっているのはこちらも同じ意見です。ですが、魔物が現れた以上、私たちは倒さねばなりません。このホライズンに住む人たちを守るために」
悩みを聞いていた立場のトウカもいつの間にか、シローと同じように悩んでいるような顔をしていた。
そんな彼女を見て、シローは、
「師匠に頼みこんで、一緒に組んで戦う…、てのはどう?」
と提案した。
それを聞いたトウカは、
「そ、そうですね…。それはいいアイデアとは思いますが、現在戦える者は数える程度。束ねたとはいえ、守るべき所ががら空きだと、最悪の事態を招きかねないかも…」
トウカの言葉はごもっとものようだった。
月影流の道場でまともに戦えるのは、現時点ではガンテツ、シロー、トウカくらいしかいなかった。
修行中の弟子たちだが、普段は道場の周りの仕事を中心に生活しているため、あまり鍛錬をする時間がなく戦闘に慣れていないのだ。
近くの町は月影流の道場の者たちが守っているが、それも多いとは言えないために、警備が手薄になればザガン軍に攻め込まれれば壊滅する危険性もあった。
その事実に気づいたシローは、
「あ、そうか…」
と残念そうに肩を落とした。
そんなシローを見て、トウカはこう言った。
「ですが、こうするのはいかがでしょうか?」
「へ…?」
首を傾げるシロー。
「確か…。噂程度なのですが、父ガンテツは裏の修行メニューを有していると聞いたことがあります。それが真のことかはわかりかねますが…」
「裏…。メニュー?」
シローはその修行内容が気になる様子だった。
「ええ。これはあくまで道場内のお弟子さんたちや町の人たちの噂話で知った程度に過ぎないのですが」
「それで、その内容ってのは…?」
シローが聞くと、トウカはこう答えた。
「それは…。父に聞いてみないとわかりません。ですが、事情を話せば打ち明けてくれるかもしれませんね」
その内容は道場主の娘であるトウカですら知らないようだ。
気になるその裏修行。
シローは、その修行を受けてみたいと思っていた。
いくら鍛錬しているとはいえ、次々と見たことのない特殊な力を持つモンスターへの対処がシローには難しくなってきている。
そんな時に、ガンテツのその裏の修行メニューはうってつけでると思っていた。
「そうか…。なら、師匠に聞いてみよう」
「ええ。それがいいと思います。私もご一緒します」
こうして、トウカとシローは、道場へと戻って行ったのだった。