明けの明星が輝く頃、中堅メイドのルナは鏡の前で服に汚れがないか、入念にチェックしていた。
「よしっ」
まだ周りのメイドが眠っている中、ルナはすでに動き出していた。
いつもはルナも他のメイドと同じように寝息を立てているが、今日はルナにとって特別な日、気合の入れ方が常とは違った。
ルナがお屋敷に来てもう三年が経過した、真面目で努力家な彼女の評判は高く、今年はついに新人メイドの教育係に任命された。
メイド長から打診を受けた時、ルナは思わず飛び上がる程喜んだ。評価してもらえるのも、努力が実を結んだのも嬉しいが、それ以上に後輩ができることに歓喜した。
メイド服を整えたルナは、机に座って新人メイドにどう接するか、にまにましながら妄想に耽った。
―――そうして、数時間が経過した!
「ちょっと、ルナ……ルナっ!!」
メイド服を着たまま自室のデスクで居眠りしていたルナは、ルームメイトのセツナに肩を揺すられて目を覚ました。
一瞬呆けてしまうも、すぐに自分が居眠りしてしまったことに気が付いたルナは、きょろきょろと辺りを見回す。
窓の外は既に明るく、扉の外からは朝の活気に溢れた喧騒が聞こえてきた。
「あああ、寝ちゃってた!? えっと、今何時!?」
「九時前よ、まったく……新人の子、もう来てるから案内してあげて頂戴」
「は、はひっ!」
ルナは勢いよく立ち上がり、部屋をあとにした。
長い廊下を通り抜け、玄関ホールへと駆け足で降りていくルナ。
軽く息を切らしながらホールにたどり着いたルナは、吹き抜けの上から新人らしき人物を目にした。
(わっ、綺麗な銀髪……)
ルナの視線の先には、白いブラウスに青いスカートを履き、手に大きな鞄と帽子を持って柱の近くに立っている少女がいた。
ルナが遅刻したせいで少し待ち草臥れてしまったのだろう、きっちり足を揃えて立っている少女は少し身じろぎしていた。
「ご、ごめんね。し、仕事がちょっと立て込んでて……新人の子だよね?」
これで客人だったら大変なことになるぞ、とルナは階段を降りながら声を掛けたあとで少し不安になった。
「あ、初めまして、今日からお世話になりますセーラです、よろしくお願いします」
セーラは礼儀正しくペコリとお辞儀をした。長いさらさらとした銀髪が流れるのをぼんやりと見惚れていたルナも慌てて頭を下げる。
「は、初めまして、ルナです……えっと、案内するね」
(わぁぁ、めちゃくちゃ可愛い子だ! どっかの御令嬢とかじゃなくてメイドなの!? 嘘でしょ!?)
ルナは内心動揺しながら、屋敷を案内するために踵を返した。
たった今歩いて来た道を戻り、まずは私室に案内する。
「ここが私達のお部屋だよ」
ルナとセツナが使っている部屋には空きベットが一つあり、ルナはカーテンで仕切られたそこを指差す。
「わぁ、素敵なお部屋ですね、ありがとうございます」
(うわぁぁ、笑顔が眩しいぃぃ、こんな子が来るなんて聞いてないよーっ!)
ルナは少し赤みが差した顔で頷き返し、荷物を置くように勧める。
大きな鞄は、少女の華奢な身体では負担が大きかったのだろう、鞄を置いたセーラはどこかほっとした様子を見せていた。
遅刻した上に嘘まで付いたルナにほんのりと罪悪感が芽生える。
(うっ、結構待たせちゃったもんなぁ……)
「き、来たばっかりで疲れたよね、ちょっと休憩しよっか」
セーラはセツナと共用で使っている白いテーブルとイスを指差し、座るように勧める。
「お茶淹れてくるね……ゆっくりしていてね」
なるべくセーラの顔を見ないようにしながら、ルナは部屋をあとにしてティーセットを取りに行った。
そんなルナの小さな背中を見送ったセーラは、すぐにもじもじと身を捩り始める。
「はぁ……どうしよう……」
服にしわが付かないようにそっと前を押さえたセーラは、ほんの少しだけ楽になった身体でため息を漏らす。
深夜の便で馬車に乗り込んだセーラはずっと前から催していたが、用を足せそうな場所はどこにもなく、仕方なくお屋敷まで我慢を続けていたのだ。
お屋敷に着いた時には既に限界寸前だったが、玄関まで案内してくれたメイドは声を掛ける前にバタバタとどこかへ行ってしまった。
勝手に屋敷を彷徨くわけにも行かず、セーラは誰もいない玄関ホールでじっと身を固くして待っていた。
無人故に、時々鞄や帽子で隠しながら前を押さえていたが、我慢出来ずに中に入ってしまいそうになったところでルナが声を掛けてきた。
挨拶が終わってからトイレに行かせてもらおうと思っていたのに、ルナは間髪入れずに部屋の案内を始めてしまったから言い出せなかった。
ルナが帰ってきたら何が何でもトイレを切り出そう、でなければもう粗相をしてしまう……セーラはパンパンに張った下腹部を撫でながら、羞恥心を押さえて決心した。
セーラはしばらくジタバタしていたが、部屋の扉がノックされる音が聞こえると、ピタリと身体の動きを止めた。
「遅くなってごめんねー……」
テーブルの上に紅茶やお菓子を並べるルナを見て一度口を閉じたセーラは、ルナが配膳を終えたら声を掛けようと決意する。
「「あの……」」
同じことを考えていたのか、ルナと声が被ってしまう。
「えっと……どうぞ」
「あ、ご、ごめんね……ちょっとトイレ行っていいかな? 実は朝から行けてなくて……」
そう言いながら身を捩って軽く前を押さえるルナ。
セーラは驚愕に目を見開きつつ、チャンスとばかりに口を開いた。
「あ、実は私も少し催していて……あとで案内してもらえますか?」
実際はパンク寸前だが、気恥ずかしさのあまり少し見栄を張ったセーラは、ようやく用を足せそうな流れに安堵した。
「う、うん、気が付かなくてごめんね、私が終わったら使っていいからね!」
そう言いながらパタパタと部屋の隅にあったお手洗いに駆け込むルナ。
(あ、なんだ、そこにあったんだ……)
自分の視野の狭さに少し呆れたセーラは、あと少しの辛抱だと前を押さえて最後の我慢を続ける。
シュィィィィィ……
「!」
部屋の中に小さな音が聞こえ、セーラはびくりと背を伸ばした。
(る、ルナ先輩のおしっこの音だ!)
ルナのプライベートな音を聞いたセーラは、顔を赤くしながら身を捩った。
放尿を連想させる音に、どうしても体が勝手に反応してしまい、じわりと下着が湿りだす。
勝手に漏れ出す液体に背筋を凍らせながら、足をバタつかせて耐えていたセーラは、なんとか平静を保とうと震える手で前を更にぎゅっと押さえる。
「はぁぁ……」
そんなセーラの耳に、お手洗いの音に混じってルナの甘いため息が聞こえてくる。
ぶちっ。
セーラは糸が千切れるような音が聞こえるのを、どこか他人事のように感じた。
すぐにセーラの体は電流が走ったかのようにびくりと痙攣し、硬直した体から水気が溢れ出す。
じゅ、じゅうっ……シュウイィィィィ!!!
深夜から我慢を重ねて煮詰められたセーラの秘密の液体が音を立てて流れ出す。
セーラのぴっちりと閉じられた太ももの間に注ぎ込まれた熱水は、すぐに溢れて椅子や足を伝って床に溢れ広がっていく。
取り返しの付かない粗相をしながら、セーラはどこかぼんやりとした目で虚空を見つめていた。
「お、お待たせ―、セーラちゃ……ん……」
気恥ずかしそうにお手洗いから出てきたルナは、思わず言葉を失ってしまう。
背筋を伸ばしたまま虚ろな目で虚空を見つめるセーラのスカートから、ルナが見たそれよりも濃い液体が溢れ出している。
ルナの何倍もの音を立てて溢れ出すセーラの熱水は留まる事を知らず、絨毯の上には湯気を立てている大きな琥珀色の水溜まりができていた。
(せ、セーラちゃん我慢してたんだ、こんなに沢山……)
たっぷりと三分以上掛けておしっこを出し尽くしたセーラはしばらく放心していたが、横で立ち尽くすルナを見て、じわりと目に涙を浮かべる。
そんなセーラを見たルナはわたわたしながら必死で言葉を探した。
「えっ、えっと我慢してたんだね!……じゃなくて、えっと、女の子なら誰にでもある事だよ! 気にしないで」
「ご、ごめんなさい……お部屋を汚してごめんなさい……」
しくしく泣きながら謝り倒すセーラの背をさすってなんとか泣き止ませたルナは、自分のクローゼットからメイド服を取り出す。
「さ、サイズ合わないかもだけど、とりあえずこれ着ちゃって! あ、タオルもいるよね!?」
「で、でも……よ、汚れてしまいます……」
「い、いいからいいから! ほらっ、着替えて!」
セーラに服とタオルを押し付けたルナは、セーラをカーテンの中に押し込んで、床の掃除を始めた。
(す、すごい量……それにすっごい濃いし、何時間前から我慢してたのセーラちゃん……)
お屋敷ではたまに年少のメイドが粗相をするため、片付け自体は慣れたものだったが、ここまで大きな水溜まりをルナは見たことがなかった。
(えーん、拭いても拭いても終わらないよー!)
タオルで絨毯のおしっこを吸い込ませ、横のバケツの中で搾り取る。
大量の液体を絨毯に溢した時に始めに行う処置だが、バケツが結構な水位になったというのに、絨毯はまだまだびちゃびちゃだった。
ようやく拭き終えて、染み抜きまで済ませた頃、ルナはカーテンに体の大半を隠しながらおすおずとこちらに視線を向けてくるセーラと目が合う。
「あ……る、ルナ先輩……」
「セーラちゃん……ごめんね、私、自分のことしか考えてなくて、セーラちゃんの体調が悪いことに気が付かなかった……」
「そ、そんな……私こそ粗相をしてしまって、その……おしっこの処理までしてもらって、すみませんでした……」
後半を消え去りそうな声で言ったセーラは、少しのだぶついたメイド服に身を包みながら頭を下げ、それを見たルナも慌てて頭を下げた。
お互いに頭をペコペコと下げ合っていたルナとセーラはふと目が合って、お互いにしばらく呆けていたが、不意にルナがクスクスと笑い出した。
「本当に気にしなくていいからね……その代わり、私がおねしょした時は内緒にしてね?」
後半を囁くように付け加えたルナに、セーラがクスクスと笑い出す。
セーラの笑顔に絆されたルナは、彼女の頭をポンポンと叩こうとして、自分の手がおしっこまみれなのに気が付いて止めた。
「えっと……改めてお茶にしよっか!」
ルナとセーラは手を洗ってから席に着いた。
温くなった紅茶を口に運んだルナは苦笑いしながら、苦いと口を尖らせる。
抽出しすぎて真っ黒になった紅茶はとても苦く、セーラも顔を顰めた。
「紅茶は置いといてお菓子食べよっか」
「あ、その前にお手洗い行ってきますね」
席を立ったセーラはぱたぱたと駆け込み、すぐに激しいお手洗いの音を立てる。
(わぁ……セーラちゃんよく出すなぁ……)
ルナはクッキーを齧りながら、ちょっと困った可愛い後輩の、可愛らしい吐息に頬を緩ませた。