催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
11.
「ちょっとちょっとちょっとー! ねぇ、あなたが噂の機関員さん……でしょっ!?」
「あっ、パティちゃん! ……えっと、ごめんなさい。
ショップエリアの人気のない方。
交換ショップの上の段の……テレポーターがぽつんと置かれた区画で休んでいると、少女
とはいえ、彼女らが目的の待ち人である。
自分はベンチから立ち上がると、挨拶をすることにした。
「ヒースクリフさん……ね。初めまして。わたしはティア。こちらの姉のパティちゃんとバディを組んで、情報屋というものをやっているの」
「えぇ~。ティア~。あたしに説明させてよ~」
「まずは自己紹介。わたしたちのこと、知ってもらわなきゃいけないんだから」
「ぶーぶー。……ま、いっか。お待たせ、こんにちは! パティちゃんですよ~! 情報屋、ふたり合わせてパティエンティア!」
それはどうも、と電子名刺を受け取ってマグに流す。
そう。先日妹のクーナから受け取った依頼を、自分が受けることにしたのだった。
返答をするとすぐに取材の申し込みが有り、こうして待ち合わせをすることとなった……のだが。
思わずふたりの容姿を見比べてしまう。顔が似ている。一卵性の双子のようだ。
始めはすわクローンかという考えも頭を過ぎったが、胸の大きさが違う。姉と呼ばれた少女、パティが大きく膨らんでいて。妹であろう少女、ティアは慎ましやかな胸部をしている。
クローンを作る意義からして、通常は生育に関しても差を出さないよう行うもの。こういう
だとすれば。
黄色と黄緑を基調としたよく似た服をまとい、ふたり共がツーテールの髪型に揃えているのも、営業の内なのだろう。
ただ情報屋だと紹介されるよりは、双子であるという属性が付与されていたほうが覚えは良い。
「……あの。今どこで判別をつけようとしましたか……?」
件の
気を悪くしてしまったなら申し訳ないが……とはいえ。初対面であるため、区別を記憶しようと努力をしているところだ。そう正直に話すことにする。
「えーと……まぁ、判りやすいですもんね……? パティちゃんにマウント取られるよりは全然ましなので、ヒースクリフさんのそれは不問にしましょう」
「よかったねー、ヒースさん!」
嬉しそうな表情で寄ってくるパティを、ティアはむくれたものかどうか迷うような表情で受け止めている。
双子で仲は良いようだ。そして、不問にして貰えたならばありがたい。こちらとしても交渉の前から悪印象をもたれてしまっては、よろしくはないのだから。
「あっ、それそれ! ヒースさんはわたしたちの取材を受けてくれる……ってことで、良いんだよね?」
「そうそう。それです」
話題をうまく転換してくれた。
パティというよりはティアが、言葉と考えをまとめながら話してくれる。
「取材を受けてくれるなら、とってもありがたいです。でも……秘匿されていた
ティアの瞳が細められている。彼女が交渉担当であるらしい。
つまりはこう問われたのだ。取材をするための条件は何です? ……と。
勘ぐられているのは理解出来た。
……が、それはとんだ無駄足だ。虚数機関に身を置いているとはいえ、自分はその中でも本当に何も知らない、末端も良い所の人員である。
加えて虚数機関という実の名前すら出ていない辺り、彼女らは本当につかんでいる情報が少ないのだろう。
それらをふまえながら、返答の内容を少し考える。
……ここは素直に話してしまっても問題は無いだろう。
「―― えぇと……あなたはただ単に、新人でも受けられる任務を探してた。それと、情報屋との繋がりが欲しかった……?」
ティアが呆れている。
そう。自分としてはそれくらいしか目的が無い。
戦闘部門に仮置きされているものの、自分にはダーカーや各惑星の原生生物に対する知識が全くない。データーベースでしか知らないのだ。
だとすればそこに対する真っ当な対策は、先輩アークスと同道すること……となるだろう。
そんな自分が、機関に来ていた依頼を知った。
こちらから渡せる情報は少ないにしても、幾らかの融通は効く。情報屋とやらの質問にも、答えられる範囲で答えようと思っている。
情報屋というからには、自分自身が情報をもらうことも出来るだろう。そこへアムドゥスキアへの護衛依頼という直接的な経験までついてくるならば、カウンターで探すよりもはるかに一石複数鳥である。
この返答を受けて、ティアは再び考え込んだ。
「うーん……そう、なの、かな……?」
「ティア~! この人、良い人! 絶対の絶対に、良い人だよ~!」
妹の袖をぐいぐいとひっぱりながら、姉が良い人だと主張をしてくれている。
もううるさいなぁと揺れながら、ちらり。
「……それだけで、わたしたちに情報を開示してくれると?」
ああ。そうだ。
ついでにいえば。最近の情報のまわりようから……自分自身。ようはヒースクリフという存在それ自体が、アークスの中で話の種になっているというのも知っている。
何かきっかけがあったのだろうか。
「はい、ありました。
あの、に力が込められていた。
アークスの市井において、クロトが金を出すというのはよっぽどの事態であるようだ。
「だって絶対にもうけてるでしょ~。マイショップの売り上げ、いくらもらってるんだろーね?」
「関係ない話はやめてね、パティちゃん。……こほん。とにかくあのジグさんを動かして。三英雄・レギアスさんからの勅令を持っていて。さらには……えーと、同じく三英雄・三代目のクラリスクレイスさんがこの間、あなたの名前を呼びながらアークスシップ内を駆け回っていた……なんて事件もあったそうなので」
「すごいよね~! 六芒均衡のうち、昔の大戦を直接止めたっていう三英雄! レギアス、カスラ、クラリスクレイス!! そんなアークスの絶対命令権を持つ人達から、ヒースさんは直接指令をもらっているってことでしょ?」
勅令というのはおそらく、レギアスから武器作成の許可願いと作成願いのことだろう。
あれはジグを動かすためにもらったものであり、どちらかというとルーサーのコネだ。しかもジグを直接的に動かしたのはゲッテムハルトとメルフォンシーナの縁だというのだから、あまり関係が無いというオチまでついていたりする。
とはいえ、外から見た構図としては間違っていない。
しかし、ティアのいう走り回っていたクラリスクレイスは知らなかった。まだ自分がシップに帰還していない間の出来事のようだ。
……どうやら3代目のクラリスクレイスは外見らしく、少女の感性をもっているとは聞いているが。
いや。それは会ってから確かめることにしよう。
そのクラリスクレイスとも、自分は直接会う予定になっている。具体的には明日だ。デバフ術の顔見せと……ついでに、ジグから受け取った長杖の調整が出来ればいいなと思っている。
「そうなんだ。……それなら確かに、ヒースクリフさん自身の情報収集と。クラリスクレイスさんへの間接的な取材。護衛の依頼までできちゃって、お得なのかも……?」
「もうー、ティアってば考えすぎだよ~。そもそも新人アークスなんでしょ? ヒースさんは。なら情報は景気よくあげちゃおうよー! でもって、護衛もしてもらっちゃおうよ~!」
「我が姉ながら短絡的だ……。……うん。とはいえ、わたしも確かに考えすぎたかな」
心づもりは決まったようだ。
ティアはふっと顔をほころばせると。
「それじゃあよろしくお願いします、ヒースクリフさん」
「よろしくね~!」
双子とそれぞれ握手を交わす。
それと、「さん」は必要ない。自分よりも双子の方が年上で、先輩だ。
「じゃあ、ヒースクリフ。わたしもティアでいいよ」
「ヒースー! あっ、あたしはパティでよろしくね!」
それぞれ思い思いの呼び名を決めながら。
これから始まるアークスシップでの顔見せ回りと、アムドゥスキアにおける初めての惑星探査。
どうやら忙しい任務になりそうだった。
・パティ
姉。胸の大きいほう。
明るい。もっといえば脳天気。たまに核心をつくこともあるが、数撃てばのほうだと思われる。
・ティア
妹。胸の小さいほう。
冷静というか丁寧……にみせかけて、姉に対してはかなり辛辣。
どちらかというとこの双子はコメディ要員寄りである。
・三英雄
三権分立的な……?
レギアスは本人。カスラは2代目。クラリスクレイスに至っては3代目。
英雄という立場を世襲する意味はよく判らない(絶対命令権のバランスを取るにしても、六芒均衡に他に適切……というか権利を無理矢理にでも持たせるべき人物がいるため)。