※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

13 / 52
12.情報屋2

 

 12.

 

 

 クラリスクレイスとの面会は応接間……かと思いきや。

 シップ内の研究施設を貸し切って行われることとなった。

 

 何でも法撃(テクニック)に関しては、外部機器での観測が非常に有用であるらしい。

 アークスが主要に扱うものなので、当然と言えば当然か。特にフィールド広域に影響を及ぼすような現象 ―― フォトン・センシティブ・エフェクト(PSE)などは、観測官からの必須報告項目なのだそうだ。

 

 そういう聞きかじった知識をまとめながら、目的地の扉を開く。

 クラリスクレイス専用の実験場。

 

「―― よぉくきたな! さぁ、私に新しいテクニックとやらを、見せるが良いっ!!」

 

 胸の前で両腕を組んで、反らし。

 仁王立ちをした小柄な少女が、そこに居た。

 

 尖った耳にフォースお馴染み、丸帽子。

 全体的に赤を基調としたコーディネイトが成されているが……どうやらこの小さな娘が、先日自分を探してシップ内を走り回っていた、六芒均衡のひとりであるようだ。

 

 礼を逸してはならないだろう。

 決して侮ること無く、丁寧な挨拶とお礼。続けて自己紹介から入ることにする。

 

「ほう。あのゲッテムハルトから研修合格の判をもらったと聞いたから、どんなヤツなのだろうと思っていたが……」

 

 じろりじろりとこちらを見上げる、クラリスクレイス3代目。

 最終的にこちらが持っていた長杖で視線を止め……少女らしくはあるが、やや尊大な表情で笑った。

 

「確かに面白いやつではあるかも知れんな! お前の身体を流れるフォトンの流れは、とても酷いぞ! ばらばらというか……遠目で見てやっと、規則性が理解出来るというか!」

 

 こちらを近くで見上げただけだったのだが、彼女には判ったようだった。

 思わず手のひらや腕付近を見回したが、それで判るはずは無い。通常のアークスとは違うのだとメルフォンシーナに指摘されてはいるものの……自分の身体のことだというのに実感が無いのも、困りものである。

 

 とりあえず、そうなのかと返す。

 ついでに彼女の指示に従って、その場でデバフテクニックを順に使ってみせる事にした。

 

 攻撃低下(ジェルン)。からの、防御低下(ザルア)

 

「ふむ……ふむ? なぁるほど、なるほど。面白いな。こういう考えは、したことが無かったな……。アークス以外をマーカーし、活性化を止めるという方法で能力を低下させるのか……。うむ、もう一度使ってみてくれないか?」

 

 指示に従う。

 連続で使うのは初めてだが、失敗することは無い。使用頻度はむしろこれから、惑星アムドゥスキアに降下してから増えてゆくことだろう。

 

 何度か使っていると、クラリスクレイスはこちらの長杖を眺めながら、うぅんと唸った。

 

「なるほどな。……うむ、少し講釈を垂れておこう。私は基本的に攻撃テクニックの開発がメインなのだが、全般の解析にも余念は無い。お前が扱うデバフテクニックについて、多少は解釈ができそうだ!」

 

 本当に嬉しそうに破顔して、クラリスクレイスはモニターの前へと歩いて行った。

 自分も後ろをついて行く。先ほどまでテクニックを使っていたフィールドを観測し続けていたものの結果が出たようだ。

 機器の前で立ち止まった彼女は、画面をすいすいと指先でスクロールし、目的のものを呼び出した。

 

 ……フォトンによる、フォトンを利用しない生物すらも対象に出来る。

 細胞活性の ―― 阻害・妨害(ジャミング)

 

「うむ。つまりは他の生物に干渉する、ということだな。……基本的なことから話すが、フォトンというものは我々の体内にも。そして空気中にも多量に存在しているものなのだ。多寡はあれどな」

 

 指先をくるくると、まるい頬の前で回しながら。

 

「ハンターというクラスは、体内での活性化を優先する。フォースというクラスは、体内よりも体外のフォトンの操作性を優先する。レンジャーなどの射撃職は、フォトンの固着化が特異でな? 弾丸による相手の弱体化は可能となっているが……つまり相手の体内(・・・・・)という項目は、未だ開発されていない部位なのだ」

 

 そうなのか、と首を傾げると。

 そうなのだ、と頷いてみせる。

 

「無論、検討されなかった訳では無い。しかし無数に存在するダーカーの系統にデバフを与えるよりも、アークスという部隊を均一に強化するほうが予測がしやすく、簡単だろう? 要は開発の優先度の問題で、これまでは後回しにされてきたのだな」

 

 これまでは。

 ならばここから開発に入る、ということなのだろうか。

 

「話が早いな。実際にはお前と同じような身体の仕組みを持つ者でなければ、テクニックとしての発動は不可能だろうが……」

 

 そこでクラリスクレイスは、自分が持っていた長杖をみやる。

 長い持ち手と、紫色の発動体(コア)。持ち手の芯を貫くように飛び出し、槌の様な先端を象った、固形のフォトン。

 この日のためにジグから受け取ってきた ――『イモータルフェザー』である。

 

「ならばわたしが、その杖を最適化してやろう。今よりも少ないフォトンで、速度のあるテクニックの行使が出来るようにな。ただしその代わりに、杖に施した『回路』の構成をアークス側に引き取らせてもらう。レンジャーの部隊が弾丸として、デバフを扱えるようにしたいそうでな」

 

 成る程。

 クラリスクレイスは、技術的な部分を経由すればこの術は再現が可能だと判断したのだ。

 

 否やは無い。むしろアークスにとって有用な技術なのであれば、使い回して欲しいとさえ思う。

 すぐに頷いた自分をみて、クラリスクレイスは胸をなで下ろした様に息を吐いた。

 

「ふぅー。ならば交渉はまとまったな。こういうのは苦手なので、少しばかり勝手が判らなかったのだ。最悪の場合には絶対命令権の行使まで考えていたが……ふふふ。それはさすがに冗談だ、安心しろ! 六芒の五、クラリスクレイス! そう簡単に権力を振りかざしたりはしないからなっ!」

 

 そういうものか。

 よく判らないが、やはりこの少女はアークスとしては権力者であるようだ。

 

「ようし。これでやっと、自由活動のための根回しが出来るぞう。まずはこの技術を解析して、持ち帰って。ウィークバレットとは別の補助機能の根幹になるテクニックがあれば、あの連中も技術を買うだろう。他部署への私の貢献度を、認めざるを得まい……!」

 

 ひとりでガッツポーズなどを決めている少女へ向けて。では、と長杖を渡す。

 早速調整を始めるぞと手を(かざ)した彼女の横で、様子を見ている事にした。

 

 クラリスクレイス。

 視線は手元の長杖に落としたまま。

 

「……しかしまぁ、お前も災難だな。現状存在する属性の攻撃テクニックは、全て扱えないのだろう?」

 

 どうやら報告はしっかり受けているようだ。頷く。

 

「うーむ。デバフの例を鑑みるに、報告書の意見には私も賛成だ。お前にはお前にしか合わないテクニックがありそうだ、と思うぞ」

 

 しかしそれを探すというならば、専門的な検査協力が必要とも聞いている。

 自分はまだアークスとしての活動を始めたばかりで有り、その時間を見繕うタイミングがない。

 

「だろうな。そういうものだ。私も複合テクニックの開発を、もう少し積極的に進めたいのだがなぁ……。努力はしないが、開発はするぞ。他にすることが無いからな。……まったく。実践に出られなければ、試す場も無かろうに」

 

 複合テクニックとは。

 

「ほう? 興味があるか? 今はまだ秘密だが、そのうちに精鋭のフォースを集めて検討会などを開こうと考えていたところだ。お前もその時には呼んでやろう、ヒースクリフ」

 

 なんとも、悪戯を思い付いた時のような笑い方だ。

 クラリスクレイスがそう言うならば、あとは深くは聞かないでおこう。

 

 ……ばちり。

 

「……ふむ? このコアに触れると多少、指先が痺れるような感覚があるが……。まぁ私であれば、問題ではあるまい!」

 

 青色の量子タブレットを空中に呼び出し、勢いよく内部を書き換えてゆくクラリスクレイス。

 あのコアはルーサーからもらったものだ。深くツッコミを入れられると困るため、話題を少し逸らしておくことにしよう。

 ちなみに、貴女が得意なテクニックの属性などはあるのだろうか。

 

「私は全て扱えるが、特に炎だな! 範囲に、威力に、汎用性に、フォトンポイント・コスト・パフォーマンス! 取り回しもよく、抜群にオススメできるテクニックなのだぞ!」

 

 ふふんと胸を張る。

 どうにも気分屋ではあるが、悪い少女ではなさそうだ。

 何より自分と年齢が近い。自分が覚える気安さも、そういった外見的肉体的特徴による影響が大きいだろう。

 

 炎テクニックについての自慢を一通り終えて。

 彼女は長杖から目を外し、自分へ向けて微笑んだ。

 

「正直に言えば、このデバフテクニックそれ自体がイレギュラーな物なのだぞ? それを扱うというお前もな。だが、面白い。面白いのだ! ……先にも挙げたように、他の生物に干渉する……しかもフォトンを利用していない生物。主にダーカーだな。これらにも影響を及ぼす術というのは、開発が進めば進むほど、強力な個体に対して重要は位置づけになるだろうと私は考えている」

 

 だからこそお前の報告には興味を持った。クラリスクレイスがそう続ける。

 自分もその考えだ。全員が持つ必要はない。しかし誰かが持っていれば、有効になる場面は必ずやってくることだろう。

 

「まぁダーカーとの直接的な決戦は、いずれまたやってくる! その時にはお前の出番もあるかも知れんな。……私がぜーんぶ吹っ飛ばしてしまっていなければ、の話だが!!」

 

 まさに豪快な笑いが似合う表情で、最後にクラリスクレイスは指をぱちり。

 どうやら調整が終わったようだ。彼女が差しだした杖を受け取り、量子インベントリに格納する。

 

 お礼を言う。彼女はお礼を受け取って、頷き。

 

「うむ。ではお前の報告に対する返礼だが……私のほうで、新たな属性(・・・・・)のテクニックというものについて調べておいてやろう!」

 

 出来る物なのだろうか。

 そもそも、既にお礼として長杖の調整をしてもらったばかりだ。

 

「なぁに、気にするな! 複合テクニックについてはどうせ、外に出られなければ試せぬのだ。時間は有り余っている。ならば机上での論を進めておくのも悪くはあるまい!」

 

 その一環として自分用のテクニックの開発を進めてくれると。そう言っているのだ。

 本当にありがたい。彼女へ再度のお礼を言う。ついでに先ほどからの言動から……彼女は船外での活動が許されていないようだ。もしもその力になれる場面があれば、自分は君の援助をしよう。そう約束する。

 

「本当か? 約束だぞ! ……うむ、これで1人目の協力者だな! 道は長いが、着実な歩みだ!」

 

 それは喜ばしいことだ。

 彼女の快活な笑顔に付き合って、取りあえず昼食など奢らせてもらうことにした。

 

 






・イモータルフェザー
 オリジナル。外見は『ソーサラーの杖』あたりをイメージしてますが、オリジナル。
 命名はジグ。テクニック仕様の際、先端のコアが幾何学模様のフチ(・・)を展開し、抜けた羽のような粒子を四方にばらまくため。

 中身はクラリスクレイス謹製で実用性抜群。伝導性はフォトンスフィアそのままで使用者からダイレクトに伝わる(ただし加速機構なし)。その分テクニックの展開と拡張のためのソースが割かれておらず、実力がそのまま出ると思われる。そういう所まで名実共に、クラリスクレイス謹製。

 クラフト武器のため拡張性有りとはしておきますが、コアが模倣創世記である灰錫なのでさもありなん。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。