催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
14.
アムドゥスキアは大きく分けて火山地帯である「下層」と。
現在地はアムドゥスキア下層。夜になると冷えはするが、溶岩層が露出している地形であるため暖を取る必要はない。
その分、有毒ガスやダーカーの襲撃。龍族との敵対には備えなければならなくなるが……。
アークスがこういう場でも難なく活動出来るのは、オラクル……もとい。恒星間を航行し惑星探査を行うという、船団元々の機能によるところが大きい。具体的にはフォトンという万能粒子を使用した、潤沢な装備を有しているのだ。
中には人には適さない環境の星もある。大気が万全でないなど普通のことだ。その中であっても調査は行うというのだから、使命感の強さには恐れ入るばかり。
現在オラクルが調査中の星は、いずれもアークスが活動する分には問題ない。
それぞれ星に原生生物も住んでいるし、ダーカーとは敵対している。アークスとコンタクトの取れる種族が発見されているのは惑星リリーパと惑星ウォパルの海中くらいのようだが……。
「―― ふむふむ。それじゃあヒースクリフは、医療機関での最低限の治療を受けた後、肉体的な調整が必要だと判断されて、虚数機関に移ったと」
目前。
簡易キャンプ地の中。横に座ったティアが、自分の説明に相槌をうっている。
今は自分が話すことのできる情報を彼女へ伝えたところだった。ちなみにパティは移動用テントの中で眠っている。
表向きの……という程ではないが。
虚数機関とは、デューマンを造り出したことで研究を完成とした組織であること。ミューテーションやダーカーのアブダクションを切欠にクローンを研究していたこと。そのため人工臓器や成長装置の空きがあったこと。近いうちに機関そのものが閉鎖される予定であること。
この程度だ。最後に閉鎖の予定について伝えておくことで信憑性を加算しておく。
ティアは内容をメモした後、うんうんと頷き。
……ちらりとこちらを窺うように視線をよこして。
「……一応聞いておきたいんだけれど。ヒースクリフがアークスの戦闘員として現場に出たのは、ちゃんと回復したからなんだよね?」
どうやら心配をかけてしまったようだ。
そうだ。この通り、大剣などであっても問題なく振るう事は出来ている。
「フォトン・アーツが使えないのを問題ない、って言い切っちゃうのは問題だと思うけど……。でもヒースクリフが気にしていないなら、わたしが気にするのも変な話だね」
ティアは量子タブレットに新たな項目を作ると、まとめてうちこんでゆく。
どうやら自分の生い立ちに興味を持ってくれたようだった。指でデータをスクロール、スクロール。
ふむ、と一息挟む。
「確かに、ダーカーの巣へのアブダクションは最近また増えてきてる現象ね。機関がダーカーのクローンを研究していたのなら、それを秘匿していたのも理屈は判る。あまり倫理的に良くない研究だから。……てっきりクロトさんがお金を出したのは口封じなのかな、って考えちゃってたけど……単純に迷惑料みたいなものだね。この感じだと」
そう言う考え方も出来るか。
ティアの中では理屈が通ったようなので、よしとしておこう。
……真剣な表情で、空中の量子タブレットを指で操作してゆくティアの横顔から視線を離して。
こちらも聞いてみたいことがある。
「……情報屋の意義?」
尋ねられたティアが、怪訝そうな……というか。苦々しげな顔を浮かべる。
う~んと悩んで。話さなきゃだめ? というような視線を受けて。いや聞いてみたかっただけなので、答えられないなら良いのだが。
情報屋、という職業の存在意義がいまいち不明である。
アークス間では量子通信を使用した情報共有が密に成され、シップに常駐している管理官・管制官がそれら情報を統合して振り分ける作業をしてくれている。つまりはアークスという組織の中心には情報が集積されており、手続きさえ正規のものを踏んでいれば必要な情報というのは得られるのである。
逆にだ。隊員らが
「違うからね? 一応言っておくけど……情報屋、っていう肩書きそれ自体はメセタを集めるための職業じゃない。わたしもパティちゃんも、先遣部隊とか斥候の役割で惑星調査に行っているのが殆どだから」
なるほど。あくまで副次的な立ち位置としての情報屋であると。
……それはそれで、なぜ。
ティアが手元で量子タブレットを閉じる。
周囲を一度、確認するような仕草をしてから……息を吐き出す。膝を抱えて。
「……アークスは全部の情報を開示しているわけじゃない。個人の情報だって集積されているけど、一般的なもの以外は引き出せないでしょ? それと同じ。虚数機関っていう組織そのものが秘匿されていたのだって、その一環」
全てを開示すれば良いというわけではない、というのは理解出来る。組織として当然の在り方だろう。
それでも尚、情報屋というものが必要であるとパティエンティアは考えた。
「うん。アムドゥスキアは上層じゃなければ通信はジャミングが強くされているし、今回の調査は管制官の同行を頼んでないから言えるけど……」
自分から虚数機関の情報を口頭で聞くための処置だ。
おかげでこうして話せている。そう前置いて。
「アークスという組織の中心にはまだ、何か……隠されている事象がある。これは確信。アークスの内部が一枚岩ではないのがその理由の最たる部分で……六英雄をわざわざ、世襲しているのも理由が不明。デューマンっていう新たな種族を、世間の反対を押し切ってまで造り出しておいて、その制作者が不明だったのも」
制作者は今、ヒースクリフから聞いて判ったけどね。ティアがそう続ける。
なるほど。情報も統合され、指示系統も一本化されていると思っていたが……確かに。アークスという組織には
特にルーサーが介入していた色々な部分や、レギアスという上位の権力者を軽々しく動かせていることなど。どうにもちぐはぐな印象を受けている。
デューマンが産まれた経緯や世論などは今初めて知ったが、そういう意見があってもおかしくは無いだろう。何せデューマンは他種族の遺伝子を混ぜ込んで攻撃に特化させた結果、肉体それ自体は脆く弱くなっているとうのが定説である。
こちらの納得した様子を眺めていたのだろう。
ティアは抱えた膝に額を押し当てながら、首をぶるぶると振るった。
「そもそも諜報部はあると思うしね。情報屋っていう立場がレッドオーシャンなのは本当。……でもまぁ、こっちの方が大事な理由なんだけど。わたしたちが現場に近い情報を持っていることで、新人さんを助けられるでしょ? 戦闘面はチュートリアルを受けるけど、色々な理由があって情報面のプリセット・インストールを受けられない人は沢山居るの」
悪戯な笑み。あなたもそうでしょ? と、言われている。
言われてみればそうか。教導を受けるのは絶対であっても、それから後に部隊に入るとは限らない。死亡を含めた離職率の高い職場である戦闘員として働くには、情報を受け取った後で活かすための実践も必要だ。
パティエンティアはそう言う部分で助けになることが出来るだろう。
必要が無いくらい戦闘技能が出来上がっている……なんていうような、
「事実としてヒースクリフにも、こうして臨時部隊として同行出来ているわけだから……ね? 無駄じゃないでしょ?」
ティアは彼女にしては珍しい、楽しそうなドヤ顔でこちらを見上げている。
仰るとおり。お世話になっております。きちりと頭を下げて後、彼女と見合って。思わず、笑いを溢した。
――
――
明けて翌日。
簡易キャンプを外に出ると、昨日と変わらない溶岩地帯の光景が広がっていた。
が。違う部分がひとつ。
「―― あれ、龍族?」
ティアが
杖を抱えた、赤色の鱗をまとった二足歩行の生物が奥へ奥へと駆けてゆくのが見えた。
どうしたことだろう。
寝ぼけていたパティを(ティアが、叩き)起こして、その後を追う。
……後を追うまでもなく。その順路には。
黒色の節足を蠢かす生物たちが、待ち構えていた。
・情報屋
実際のゲーム内におけるパティエンティアはTipsのような、世界観説明を行ってくれる立ち位置にある。
ちょくちょくマターボード(ストーリーモード)の合間に出てきては、語句の説明やアークスそれ自体の空気感。隊員現場の世情などを教えてくれる。実際、ゲームとしてはとても重要な立ち位置ではある。世界観的には確かに不遇。
・アークスとコンタクトの取れる種族
リリーパ族とカブラカン。実際にはこの後にもハルコタンなどへ出向くので、増える予定はある。
リリーパ族に対しての罵詈雑言は、後のお話で出てくる予定があるので、そこでぶつけることにします。