催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
15.
道の端。火山の中。溶岩の滝。岩塊の上。
あらゆる場所から
道一杯で視認出来る数は10。周囲の空気に満ちていたフォトンやマナが、黒い何かに押され圧縮されているような雰囲気がしている。おそらくこれは、潜んでいるダーカーによるものなのだろう。
つまりは10以上。伏兵あり……だ。
「ダーカー……! パティちゃん、戦闘態勢!」
「もちろんっ!」
ティアとパティがそれぞれ法具と両刃剣を構える。
自分も大剣と楯を構え直しながら周囲を見回す。先ほど少しだけ姿が見えていた龍族は、見当たらない。どこかへ隠れているのか、避難しているのか、はたまた彼または彼女が、これらダーカーを引き連れていたのか。
首を振るう。今は考えるよりも、目前のダーカーを相手すべきだろう。
龍族による
ダガン4。エル・ダガン4。ブリアーダ2。
まずは移動速度に勝るダガンとエル・ダガンからだろう。2体の目の前に躍り出て、攻撃を回避しながら大剣で腹を斬り飛ばす。
エル・ダガンはダガンの強化形態である。主にブリアーダがばらまく種子から産まれた個体がこれであり、最初から出現すると言うことは……ブリアーダが待ち構えていた、ということを意味している。
蹴り足。切り上げ。ひっくり返した核に『ザンバ』をぶち込んで、まずはダガンの処理を終える。
「―― せいあーっ!」
エル・ダガン2体を巻き込みながら、パティが両刃剣を振り回す。
まとっていた風によって吹き飛ばし……ダウン中の相手に、飛び込むように突き立てる。あれがフォトン・アーツなのだろう。
問題ないだろう。残りもパティに任せつつ、ブリアーダをみやる。
2体ともが既に、気球のように膨らんだ後頭部から種子を空中にばらまいていて……。
「―― 凍って!」
ティアは自分の周囲に氷の渦を巻きながら、前方放射状に氷の刃を飛ばし、種子を空中で撃墜しようと試みていた。
彼女の頭上。そして前方広範囲に散らばっていた種子が、次々粒子となって砕け散ってゆく。
ただ、ブリアーダ2体分から放出された種子の数はまだまだあった。全ての範囲はカバーできていない。ティアから離れた位置に着地した種子は、地面に付くとすぐに根のようなものを張って。
地面に溶け込むように消えると。
「ごめん、エル・ダガン追加5!」
ティアが叫ぶ。彼女の撃ち漏らしというわけではないので謝罪は必要ない。
しかし対策は必要だ。ブリアーダは空中に……よりにもよって、溶岩溜まりの上で浮いている。地面に足を付けているこちらを嘲笑っているかのようだった。
一応、ダメージは覚悟しなければならないが、溶岩内を移動できなくは無い。
ただでさえダガンとの乱戦の最中だ。ダメージは避けたいが、ブリアーダは処理しなければならないだろう。このままではエル・ダガンとの連戦、いたちごっこである。
自分の武器を探る。
大剣『ザンバ』。『フォトンシールド中型』。長杖『イモータルフェザー』。
攻撃テクニックが扱えるか、遠距離攻撃の手段を有していればなんとか出来ただろうが……。
考えながら目前、追加分のエル・ダガンを1体払う。
後方。パティ。
「ヒース! ブリアーダはあたしとティアで何とかする! でも時間、ちょっとだけちょうだい!」
承った。
大剣と楯を構え直し、左手に構えた長杖でジェルン・ザルアを発動させた。
どうやらクラリスクレイスは遠慮なしに調整を行ったらしい。超広範囲に影響をおよぼしたデバフの成果。新たに生えてきたエル・ダガンを含めたダーカー全個体に効果が入り……その敵意が全て、自分へと集まった。陽動。
わらわらと寄ってくるダガンが、これといった連携もタイミングも無く、無造作に爪を振ってくる。
ひとつ。ふたつ。避けきれない範囲の爪を左の楯で弾いて、反動で後ろへ転がった。
起き上がるや否や、ザンバを腰だめに構えて、突貫。
こちらに体重をかけようとしていたダガンの1匹を突き上げ、そのまま奥へと転がした。
息を整えながら奥を見る。ブリアーダ達は種子の第二波を打ち上げていた。
ダガンの処理に四苦八苦している自分を尻目に、空中を漂う種子がゆらゆらと、アムドゥスキアの地面へと降りたってゆく。遠距離武器も作ってもらおう。そう決めた。
振り返らない。目前のダガンを大剣の腹で叩いて除けると、空いた場所に滑り込む。
横から突き出された爪を楯で受け、逆から突き出された爪は甘んじて大腿で受け止めて。被ダメージそのまま、爪から核まで急所斬り。
弱ったこちらを追撃……ということもない。
一度周囲をうろつく個体もいれば、遊ぶようにぴょんぴょんと跳ねている個体もいる。
違和感を覚えた。ここで初めて自分は後方、パティとティアの様子を確認する。
「詠唱 ――」
「―― フォトン・ブラスト、チェイン完了!」
足を止め。
周囲に虹色の環を浮かべながら、ふたりは手のひらをかざしていた。
―― その後方。
ダーカーが
つまりは別個体。考える間もなく、地を蹴った。
間に合うか。
間に合わせる。
こちらをびっくりしたように見上げるティアと。
こちらをあぜんとした表情で見上げるパティと、目が合った。
フォトン・ジャンプ。
彼女らの頭上の高さでもう1度、中空でフォトンを蹴り上がる。
飛び越えた。敵は目前。集まった光が形取ったのはダーカー、カルターゴ。
荷台のような背。うぞうぞと蠢く多足。羽のような触覚を広げて ―― 頭上、レーザー!!
チィィィ! という甲高い音。半身になった肩先を赤黒い光りが掠め、通り過ぎる。
避けた。すれ違い様カルターゴの背に足を付け、全力で腰を振る。大剣の重さを叩きつける巻き打ちを放った。
がつり。カルターゴの後頭部に位置していた核が砕けた音がする。
カルターゴがのけぞり、霧散。不安定な足元を……着地。顔を見上げると。
ふたりを包んでいた虹色の輪が、一気に収縮した。
「―― ヘリクス・プロイ!」
「―― ケートス・イメラ!」
白色の一角獣と。
白鱗の巨大魚が、頭上に現われていた。
パティが呼び出した一角獣が、雷を伴いながら突進。
生まれたばかりのダガンの群れを鎧袖一触、跡形も無くかき消してしまった。
ティアが呼び出した白鱗魚が、顔の前で光りを収束。
前方を薙ぎ払う極太のレーザーを撃ち放ち、ブリアーダ2体をまとめて消し飛ばしてしまった。
形勢逆転どころか、戦闘終了である。
先ほどまでの重い空気もない。パティとティアの周囲を回遊していた一角獣と白鱗魚がぴかぴかと電灯のように光ると……段々と収縮。それぞれの横に浮かぶ、マグへと姿を変えていた。
「ふぅ。ありがと、ヒースクリフ。おかげで何とかうまくいったみたい」
「フォトン・ブラスト、準備しておいてよかった~!」
パティとティアが笑顔をこぼす。自分も長杖の先を下ろし、大剣を持つ手首を垂れ下げる。
どうやら先ほどの必殺技は、フォトン・ブラストと呼ばれるもののようだ。
「うん。レベルアップしたマグを核として扱う、幻獣召喚の術だね」
「エネルギーが溜まってないと使えないんだけどね~。今回は連戦だったから溜まってたけど……いやぁ、危なかったね~」
どうやらそうらしい。
頭の横で浮いている自分のマグをみやる。相変わらず不気味な前腕のような姿のまま、周囲サーチの結果を機械的に吐き出している。ダーカーの反応は、ないそうだ。
「よかった。でもこれでダーカー出現のポイントは幾つか絞れたし……ここから先は確か、ヒの一族。龍族の縄張りになっていたはずだね」
「うーん……流石にあたしたちだけで入っちゃうのは問題かな?」
「問題も問題、大問題だよパティちゃん。……つまりは調査はここまで。うん、メセタも十分量。今回の記録を持って、1度シップに帰ろっか」
ティアの促しに、パティがやった~とはしゃぐ。
継戦能力的には問題ないが、確かに。ダーカーとの遭遇戦だけでなく、連戦まで経験できたのだ。
戦闘部分では遠距離攻撃武器という課題も出来た。シップへ戻って、損は無い。
大剣を背負って。長杖を量子化。
……背筋を伸ばすと。
「……あれは、さっきの、龍族の……」
ティアが遠視した先に、先ほどダーカー出現前に姿を見せた赤鱗の龍族が現われていた。
かなり遠くだが、どうやらこちらを見ているようだ。
ティアと顔を見合わせる。
「……えと。帰る……?」
龍族は法撃用途であろう杖を持っているが、攻撃してくるわけでも無い。ただこちらをじっと見ている。
なので、全員揃って礼をして。この場を去ることにした。
始めから帰投予定だったのである。
あの龍族が敵対部族かどうかも判らない。ダーカーを撃退したとはいえ、彼らの縄張りの範囲内で戦闘行為を行ったのも事実。
難癖を付けられている訳でも無いのなら、これでいいだろう。
着地点まで接続してある使い捨てのテレポーターを起動。
全員で乗り込むこちらの様子を、あの龍族は、最後まで見つめていたようだった。
・ザンバ
鉄塊ではないが、おおよそFFクラ○ドのバスターソードで外見は間違いない。
フォトンがどうこうだとか書いているが、無骨で飾り気は無い。
それでも威力が保てるならば、フォトンをわざわざ固形化して刀身にする意味とは……?
・フォトンシールド中型
アクセサリーにあるあれ。機能はしないが外観だけはある。
作中ヒースクリフはこれを前腕から肘にかけて装着し、積極的に受けに行っている。
基本的にダーカーは接触による浸食という設定が存在するため、一般的には接触の可能性そのものを避けるのが1番なのだろう。
・ステップジャンプ
ステップからジャンプを入力することで、高速で武器収納、ダッシュ(走りモーション)へと移行できる操作。
後発の機能だがかなり大事。これが出来るまでは高速移動のためにはステップジャンプステップ、ステップジャンプステップ……という高難度操作か、肩越しテッセン移動の習熟が求められていた。
・二段ジャンプ
作中ではフォトンジャンプと呼びましたが、y軸をプレイヤーキャラクターが能動的に移動し、アクションとして求められるこの機能は、この時代のゲームとしてはかなり革新的だった。
他はゴッ○イーターとかでしょうか……? でもあれは空中機動はメインではなかったですからね。
・フォトンブラスト
前時代のものとも、NGSのものとも仕様が大きく違うもの。
ゲーム末期には一部のものしか使われていなかったくらいには攻撃力不足の必殺技。飾りでしか無い。サブパレットが埋まるのをもったいなく思うなら外すまである。
一応、13武器の初実装に思い入れがあるならば、これらのデザインには親しみと羨望と懐かしさを覚えるかも知れない。