催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
18.
ルーサーから量子メールが届いていた。
どうやらアークスの内部処置的には、きちんと虚数機関が自分の所属部署となっているようで。支給されたサポートパートナーの枠が、ルーサーに届いたのだそうだ。
先日帰投した際に、コフィーさんから説明を受けたのだが……。
サポートパートナーとは、アークス隊員に支給されるお手伝い用のサポートロイドである。サイバネティクスによるキャストでもヒューマンでもない形の、AIではない疑似人格を搭載したアークス個人の専属サポートだ。
……こんがらがってしまいそうな説明だが、要は「人ではない、アークス個人ごとに専属の助手」である。
サポパの主な活躍先は、デイリーオーダーの手伝い。
エネミーの先陣掃討や納品物の回収、ギャザリングなど。そういったものを派遣先に応じて集めたりこなしたりしてくれるのである。これがまた、ソロで活動をしているアークスにはありがたい。
また疑似人格であるため性格に限りはあり、体躯はアークスよりもかなり小さくなるが、見た目は通常のアークスと殆ど変わりが無いそうだ。
そして何より。
……見た目や
開いていた説明書を閉じる。
手元に残ったサポートパートナーの呼び出し権利を抱えて、指定の場所へ向かうことにした。
向かう先は「エステ」。アークスの見た目や装飾や服装を登録すると、ここで調整が出来てしまうらしい。
……アークス全員がこれを利用できるなら、ティアがやたらと慎ましやかな胸囲を気にしていた理由などが、いまいち判らなくなってしまうが……。
それはそれとして、エステはショップロビーの2階部分に設けられていた。転送装置をいくつか乗り継げば、到着はすぐだった。
受付の方にサポートパートナーの登録であることを告げるとすぐに手続きをしてくれた。
簡易の説明を口頭で受ける。どうやら自分が初期の見た目などを決める必要があるらしい。
入れば判るだろう。受付さんの言葉に頷いて、エステの入り口を潜った。
潜ると。
何もない、が広がっている空間に辿り着き。
そこに ―― 3分の2スケールほどに縮小された、クラリスクレイスが浮いていた。
この間に見かけた威圧的な少女の姿、ほとんどそのままだ。
色はやや濃い紫色に変わっていて。小さな身体がより小さくなっていて。
あと、全裸だ。乳首や女性器も丸出し。これはまぁ、先日に発行されたインナー周りの変更によるものだろう。
紫のクラリスクレイスの身体ステータスを覗こうとすると、ルーサーからのメッセージが添付されている事に気がついた。
『君のことだからキャラクリエイトには興味が無いだろう。僕の方からテンプレートをつけておいてあげよう』とのことだ。
確かに、自分で決めたらデフォルトのままだったろう。
だからといって知り合いの容姿をそのまま使うのも気は引ける。
しばらく考えた末。デフォルトであっても、どうせ、一般的なデザインアークスとは容姿が被ることを思い出した。
ここはクローンもコピーもありのオラクルである。サポートパートナーの1体くらいはいいだろう。ルーサーの案を採用することにした。
決定を押してエステの外へ出る。
受付さんにお礼を言って……完成したサポートパートナーはマイルームへ転送されたそうなので、部屋へ向かうことにする。
扉を開くと、びしり。
先ほど見かけた紫のクラリスクレイスが、無表情のまま出迎えてくれた。
「―― おかえりなさいませ、マスター」
恭しくこちらへ頭をさげる、サポートパートナーの「イリス」。
見た目と口調による違和感が凄まじいが、サポートパートナーとはこういうもの……なのだそうだ。ちなみに彼女の名前もルーサー指定のデフォルトである。
自分も挨拶をしておいて。説明書の通りに彼女へ適当な余っている装備品を与え、装備してもらうことにする。
あとは派遣先を選ぶのだが……と、悩んでおいて。まぁ余り選択肢はないので、ダーカーが居なくて研修先に選ばれることが多いという、惑星ナベリウスへ派遣することにした。
……ああ、その前に。少し待って、と口に出した瞬間。
「―― ここがお前のマイルームか、ヒースクリフ! 私が来てやっっ……」
びたり。
エアロックが解けた扉の前で。本家本元のクラリスクレイスが、停止していた。
「……」
動かない。
こちらから挨拶をする……も、微動だにしない。
隣ではイリスがこちらを窺うように見上げているも、理由は不明だ。
クラリスクレイス流の、悪戯か遊びか何かなのだろうか。
そう思いながら。
顔の前で手を振ってみる ―― 睫毛反応すらない。
肩に触れてみる ―― 揺れるが、手足瞳孔共に動かない。
頭に触れる ―― やはり、反応がない。
体調不良や、知見のない病気などで無ければ良いが……と考えつつ、彼女の前で途方に暮れていると。
「マスターが待ってと言ったので、
サポートパートナーから、そんな言葉をかけられた。
命令によって動くイリスであれば兎も角。いちアークスで有り、六芒均衡でもあるクラリスクレイスが自分の命令を聞く理由はない……と思いつつも。
他にすることもないので、もういいぞと声をかけてみることにする。
すると。
「……ったぞっ! 先日のテクニック研究の件なのだが……。……うむ? なんだ、その顔は?」
言葉の通り。……まるで自分の言葉に従ったかのように、クラリスクレイスが再び動き出していた。
止まっていた最中のことは、どうやら覚えていないらしい。彼女が触れてこないので、そのまま話題に乗ることにする。
「まぁいいが……。とにかく。私のほうで六芒均衡の権限を使って、アーカイブを深いところまで調べてみたところだな。お前のフォトン回路でも扱えそうなテクニックが幾つか、
朗報だった。
本当か、とは口に出さず彼女の説明を待つ。
「ただ、かなり面倒なテクニックでな? 習熟も兼ねて、是非ともお前に使ってもらいたい ―― この、
――
――
テクニックに関しては、明日以降の固定パーティーで試すこととしておいて。
昼間のクラリスクレイスの、不可思議な様子について考える。
サポートパートナーだからこそ考えついたのだろう。
「ヒースクリフの命令を聞いた」という理屈は、普通に考えれば有り得ないものだ。
ただ、自分は虚数期間内の資料で学習をしていたから知っている。
アークスという組織には「絶対命令」という指令が存在していることを。
人そのものの権利など関係ないというばかりの絶対命令。これは「アークス側の意思を無視して強制的に命令をくだすことが出来る」という、六芒均衡の一部が持つ権限である。
文字通りの効果があり、これが発令された時点で一般的なアークスは逆らいようがないようだ。
……だとすれば。
ルーサーが、アークスではない自分を擁した理由が、少しばかり見えてくる部分もあるが。
面白いな、と思った。
理屈を知り、これを扱えれば ―― アークスという箱庭を、ぐちゃぐちゃの、混沌の中へ放り込むことが出来るのではないか。
そう言う熱が自分の中に産まれたことに、少しばかりびっくりし。
飲み込んだ。それもまた自分自身である。腹の中が満たされた感覚と共に、マイルームの中で眠りについた。
・サポートパートナー
作中の通り、デイリーオーダーが少しだけ楽になる小間使い。
あまり登場の機会は無いが、一部ストーリーでも必要とされる場面がある。
イリスの名前付きですが、オリキャラではありません。
要はクラリスクレイス・クローンです。
これ、なんでNGSは導入しなかったん……?
・エステ
プレイヤーがキャラクリを行う場所。
最終的には人種からアクセから目の色から肌色から大きさから乳と尻から下着から、すべて変えられるようになった。
機能を鑑みるに、明らかにエステという呼称はそぐわない。
一応他のアークスも使えるような描写も無くはないのだが、容姿そのものを変えるような場面は見られず。変えていても髪型、服装などである。
そのため機能は制限されており……「ゲーム中プレイヤーと同様のシステムを使うにはプレイヤーIDが必要となる」という独自設定をしてあります。
・絶対命令
非人道的過ぎるやつ。ストーリー上で示唆されながらも、あまりにあれだった。
主人公はこれを知っているせいで、アークスの人員をあまり人としては見ていない。兵隊としては優秀だな、くらい。