催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
01.
「―― 俺はゼノ! よろしくな、ヒース!」
研修用に丸々一艦を使った、専用のアークスシップの中。
赤髪の、快活な少年がこちらへ手を差しだしてくる。
意味は判る。握手だ。自分もゼノへ向かって手のひらを差し出し握る。
「へへっ……。お前がゲッテムハルトのチーム員だって? 大変そうだなー。何かあったら手伝うからさ、いつでも声、かけてくれよ!」
ゼノは見る限り、自分よりも僅かに年上。
どうやら社交的な性格のようで、途中入隊のこちらを気遣って声をかけてくれたようだった。
ルーサーらの見送りを受け。
培養液から這い出したこの身体はやっとのこと、フォトンの使用に慣れ始めてきている。
フォトン。大気に満ちるマナ、エーテル、粒子のような何某か。
アークスはこのエネルギーのようなものを使用して身体を強化し、武器を作り、通信を行う。
要は万能の物質である。物質なのか。いや。そういう詳しいことは、自分はあまり正確には理解出来ていない……と。妹からお墨付きまでもらっているので自信はない。
「どうかしたのか? やっぱり、訓練は大変か?」
心配してくれるゼノに向かって、いいやと返す。
少し考え事をしていただけだ。
「そうか。それならよかった! ……っと。せっかくの新入りさんだし、エコーの奴にも紹介しとくべきか……?」
目の前でぶつぶつと、ゼノも何やら考えごとを始めてしまった。
……しばらくそのまま。研修用シップの廊下で立ち尽くしていると。
「こらー! ゼノ、またどっかに行って!」
「おあーっ!? いや待て、エコー! 今回は勝手に訓練に来たんじゃないんだって!」
ゼノの後ろから、金髪の少女が駆けてきていた。
彼女がどうやらゼノの言う、エコーであるらしい。
先手をうって頭を下げる。挨拶と自己紹介だ。
「……そ、そうなんだ。ゴメンねなんか、いきなり、怒鳴ってるところを見せちゃって……」
少女も慌てた様子で、こちらへ頭を下げてきた。
どうやら彼女が怒っていたのは、ゼノの側にも非があるらしい。
「ゼノってば、最近すぐ『師匠と訓練だ!』……って、どこかにいっちゃうんだもの」
「いや、だってさ。スゲーんだぜ、師匠! こう、剣も、銃も、スパーン! ……ってさぁ」
「あんたが良い師匠を見つけられるならそれで良いけど……。でもそれで点呼とか、定例会とかに遅刻してちゃ、ダメでしょーがっ!!」
「……そりゃあ……スマン。悪ぃな、エコー」
つまりはそういうことのようだった。
今回みたいにゼノがどっと駆けてくるのは、珍しいことではないのだろう。
謝るゼノ。呆れた様子の。しかし、仕方がないなと笑みを浮かべるエコー。
仲が良いな、と率直な感想を漏らしてしまう。
「仲っ……!? ……いやまぁ、悪くはねえんだろうけどさ……」
「……そーですか。まぁ、腐れ縁よね。どちらかというと」
目をそらし、髪をがしがしと掻くゼノ。
頬を膨らませ、明らかに不満げな態度のエコー。
ああ。やはり仲は良いのだろう。今度は声には出さないが。
「それで、貴方がヒースクリフ? ゲッテムハルトの所に入隊って、大変ね」
「だろ? だから声かけにきてみたんだよ。ちゃんとした理由だろ?」
「それはまぁ、そうかも知れないけれど……」
どうやら自分に声をかけるというのは「ちゃんとした理由」であるらしい。
どういうことだろうか。
「最近、随分大きなダーカーとの決戦があったみたいでな。戦死者もかなり出て、入隊希望者を募ってんだが……」
「まぁ直近で沢山の死者が出た戦闘部門への入隊だなんて、あんまりしたくはないのが普通よね?」
頷く。それはそうだ。
「だからまぁ、新人さんは貴重なんだよ。その上、今は
「……ゲッテムハルトも荒れるだけの理由はあるんだけれどね。除隊にならないのは、そういう所を加味しての采配みたいだし……」
自分は外の……現在史ですらない、リアルタイムのアークスの戦闘については知識がない。
聞いてみる。隊長に何があったのだろう。
「戦死というか、MIAだよ。アイツの大切な人がな」
ゼノが沈痛な面持ちで教えてくれる。
成る程。納得がいく。ならば彼が今、教導部隊の隊長などをやっているのは……。
「ああ。何かあれば除隊するための理由づくり、って捉えられてもおかしくねーわな」
「上が考えた配置だからね。そもそもアークスの人数が足りないってのもあるし、ゲッテムハルトのやつ、腕っ節はかなりたつんだけど……」
ふたりはにが虫を噛んだ様な表情だ。今現在アークスが置かれた状況自体、切羽詰まってだろう。
……しかしまぁ、色々な要素が絡んだおかげで、自分はこうして早期に入隊訓練を受けられている。研修を終えればゼノとエコーとも、ゲッテムハルト隊長とも、肩を並べることもあるだろう。
実際には虚数機関の所属であるため、そうなるのかは判らないが。
「……そうね。なんにせよ、ヒース。何かあったらあたしも頼っていいからね! ゼノでもいいけど、あたしでも!」
「なんだよそれ。先にヒースに声かけたのは、俺だっての!」
またも仲良く言い合いを始めてしまいそうな雰囲気だ。
丸く治めておくことにする。頼りにしていますセンパイ方、と伝えておく。
「……まぁお前のその様子だと、なんかうまくやれちまいそうだな」
「なんとなーくだけど、あたしもそんな予感がする」
ご多分な評価をいただいてしまった。
ルーサーの手伝いを、なるべく早く始めるためにも。
是非とも、うまくやろう。そう思う。
/
実際のところ、自分からゲッテムハルト隊長への評価は悪くない。
「―― ハッ」
隊長に鼻で笑われた。
外周をしているだけだというのに。
そう。研修を始めて日も浅い。自分が行っているのは体力訓練やフォトンの操作訓練。訓練用にフォトンコートされた武器の扱いの座学などなど。直接隊長からの訓示をもらうようなものではなかったのだ。
現在は研修用アークスシップの一画、訓練スペースの中。
ゲッテムハルト隊長の顔を見やる。
筋肉質で大柄。浅黒い肌に、バックに撫でつけた青銀の髪。
彫りの深い顔なので、好みはあるだろうが、かなり精悍な顔立ちをしていると個人的には思う。
腕組みをしたままこちらをじっと見ている隊長の前で。
外周を終えたので、今度は武器の馴染ませ、素振りに取り掛かることにする。
「……」
やはり、見られている……。
隊長は、自分の何かが気になるのだろうか。
視線を感じつつも武器を手に取ることにする。
自分の体格ほどもある大きさの、片面を固形化したフォトンで覆った、
ぶんと振るう。
……ぶんと振るう。
「おい」
隊長からお声がかかった。
はいと返答して、そちらを向く。
「ソードなんて使えんのか? ……オマエ、
ああ、成る程。それはまた、気になって当たり前だ。
ダーカーとの戦闘に面するアークスには、
ハンター。ファイター。
この2職は主に近接武器を扱い、インファイトを行うクラスである。
ハンターはやや防御より。ファイターは火力特化といった所か。
レンジャー。
とはいえ遠距離という訳では無く、得意なのは中距離戦。および特殊弾頭などを扱った、相手の弱体化などを専門としている。
そして、フォース。テクター。
法撃 ―― テクニックと呼ばれる術を駆使して攻撃を行うクラス。
役割としてはやや特殊で、法撃による攻撃では相手に状態異常を引き起こすことが出来たりする。
等々。
新たなクラスの検討も始まっているようだが、今現在運用されているのはこれらクラス。
第2世代以前のアークスには、フォトンの感受性などなどから自動的にクラスが割り振られ、これを変更することは不可能。次の世代からは変更が可能なよう調整が成されるようだ、とルーサーから聞いている。
フォース。つまりは法撃を得意とするクラス。
持つべき武器は
……もう1度だけ、手に持った大剣をぶんと振る。
持つだけの理由は有るのだ。自分をダーカーの巣から回収したルーサーによれば。
倒れた私のその傍には、破壊されたマグらしきものが2つと。
水色と黄色が混じり合ったようなフォトン塊を刀身とする大剣が、置かれてあったそうなのだから。
つまり大剣を扱うことは、自分を遡るための近道なのだ。
いくらフォースだとて、これを譲るつもりはない。
「殺すぞ雑魚。オレが決めてんじゃねぇ、アークスの上の方で推奨してんだ。ただでさえ身体がなってねぇってのに、武器まで雑魚を持つんじゃねぇよ、甘々のクソ雑魚が」
クソ雑魚にランクアップしてしまった。
頬を掻く。……とはいえ自分が大剣を持つべき理由はもうひとつある。
ゲッテムハルト隊長に伝える。
自分は今のところ、法撃職が扱うテクニックの内。
炎も。氷も。風も。雷も。光も、闇も。
適性がなく、どれも扱えていないのです……と。
「……ハァ!?」
良いリアクションをいただいてしまったが、嘘はない。
自分は法撃に適性があると判断されてフォースになったのだから、どれかは扱えてしかるべき……なのだが。
実際にはどれも、扱うどころか発生すらしてくれなかったのだ。
だから最も身近で、手にしっくりきている、大剣を扱わせてもらう。
理に適った選択だと思うのだが。
「……」
悩んでいる。悩んでいる。
ゲッテムハルト隊長からすれば当然だ。ゼノとエコーの話によれば、自分は隊長を試すための試金石でもあるのだから。
彼の素行が悪いのは、口調からも態度からも読み取れる。自分にはまだ甘い方であるようだ。
自分は貴重な新米アークスである。潰すわけにはいかない。とはいえ、彼の流儀にはいまいち沿っていないようでもある。
さあどうする。
自分は大剣を扱うことを、やめるつもりは毛頭ないが。
「―― クソが。おいオマエ、ついてこい」
ゲッテムハルト隊長が背を向ける。
どこへゆくつもりだろう。
「テメエと
ふんと鼻息を鳴らして、隊長は歩いて行ってしまう。
小走りにその後ろを追う。未だ小柄である自分と彼が並ぶと、見上げる形になってしまうが。
「テメェの殺意を見せてみろ。オレも、テメェを殺すつもりでやってやる。それで納得がいきゃあ……オレもテメェが持つ武器に一筆、許しの書類を書いて出してやるよ」
それは願ったりかなったり。
自分にも試したいことが色々と出来ていたところだ。
隊長と並んで歩く。
模擬戦闘を行うための、やたらと広い訓練場の扉の前。
「―― ただし、殺意の欠片もねぇことしやがったんなら。殺す」
除隊だろう。それもまた仕方がない。
その場合は自分は、虚数機関として働くことにはなるのだろうが……。
いずれにせよダーカーを追うならば、戦闘部門に関わっていたい所だ。
ならば全力をみせるとしよう。
訓練場の中心。ゲッテムハルトの正面に立ち。
ずらり、剣を抜き放った。
・フォトン
PSOシリーズおなじみの、全てを解決する万能物質。
今作ではダーカーに対抗するための基本的な力として扱われている。
テクニックを使うのも、身体を強化するのも、情報処理も、だいたいこれで解決される。そういうものだと思ってもらって相違はない。
ちなみに他にエーテルとマナも存在し、よくわからない。
・ゼノ
赤髪の少年。キャラクター的には陽。
現在は研修中の身であり、師匠と慕う誰か=原作主人公=あなたを目標として訓練中。
・エコー
ゼノの幼馴染。
彼女の活躍や懊悩は本編をご参照の事。
・ゲッテムハルト
アークスシップ・テミスの事故で恋人である『メルフォンシーナ』を失い、ダーカーによる浸食と合わせて心が壊れてしまった男。
戦闘能力はあるためなんとか生かそうと試みられている。アークスは万年戦闘員不足である。
・クラス
本文中解説の通り。
主人公はフォース。昔のPSОはクラスによる武器制限は(ユニーク以外は)あまりなく、ステータス依存であった。