催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
24.
さて。
レダに問われた内容を軽くまとめると、こうだ。
最近あったアークスの繁殖に関する倫理レベル引き下げに際して、一般的なオラクル住民……だけでなく。その戦闘防衛部隊であるアークスにも多大な影響があった。
特に大きなものが「性的な事柄に関する情報統制の緩和」。要は「公的な組織によるアダルト動画や配信」が解禁されたと言うものだ。
これに関して、アークス上層部側が初の認可を降ろした制作会社が2つ存在する。
ひとつは「オラクル特需映像部門」、俗称「オ特」。
そして「マイショップ/Pornography」、俗称「マイショ
前者はこの名前で公的機関ではなく、民間の映像企業から独立した専門人員による発足。女優IVからドラマ、企画まで幅広く動画を作っているらしい。所属女優の源氏名や個人撮影会など、企業的なイベントが多いのが特徴のようだ。
後者はこれよりかなり自由。個人撮影なども投稿できる検閲付きの掲示板に近い扱いで、映像だけでなく
それらをおおっぴらに利用できるとあって、アークス男性の間では生物としては前代未聞。第二次性徴の到来が如き、空前の
呼称がどう聞いても間抜けなのは置いておくとして。これらは全てたった今、レダから聞いた内容なので精査は必要だろうけれども。
「―― でよ。ヒースはどうなんだ? どこのを使ってんだよ~?」
レダが下世話に首を傾ける。ご自慢の紫リーゼントが大きく突き出された。
……なるほど。レダはこういう世俗的な話題も好んで行う
「だろ~? オーザは毎日シコってるくせに、こういう話題は『いやオレはしてないぞっ』つって、付き合ってくれないヤツだったしよ~。流石に女性陣に話すわけにもいかないじゃん? ヒースは付き合ってくれるから気が楽だぜ~」
レダはコンソール周りの椅子に寄りかかりながらだらしなく、自分の席でもレーダーを起動した。
そのまま精査を始めてしまう。どうやら猥談に付き合う代わりに、警邏も手伝ってくれるようだった。
律儀な奴だな、と思う。ありがたい。
……ので、先ほど問われた内容には応じることにする。
レダからの「いつシコってんの?」という質問。
それに対する答えは「自分は精通していない」となる。
「……は? いや、あの、え? ……マジかよ」
マジだ。
とはいえ年齢や肉体は要件を満たしている。きちんと
この理由は、自分が「肉体的調整を受けている人種である」ことに由来する。
自分にある記憶の最も昔 ―― 赤と黒の景色。
あの日。ダーカーの巣から回収された自分は臓器の再生補填と肉体の再生施術を受け、その際に肉体の強制成長処置も施されたのだ。これはこの身体の筋肉・骨格の強度があまりにも脆かったことが理由である。循環器に施術を行うには、相応の生命力が必要なのだ。
性的機能が追い付いていないのは、これら様々な処置の反動と言えるだろう。生命維持に関係のない部分であるため異論はない。
そもそも勃起はするし性的な衝動が無いわけでもない。機能が失われている訳でも無く、射精に至るレベルの快感があればオーガズムにも達する。単に器官が未熟で精液が産生されていないと言うだけだ。
……問題があるとすれば、自分にとって「射精をしないのならばあまり意味を感じない」。「今の所、他を
「はー、なるほど。だからヒースは
此方を見たレダが屈託なく笑ってみせる。どうやら気を使ってくれたようだった。
自分の肉体的な生育は年齢不相応の段階で、当初のオーザにも指摘をされている。成長が歪なだけでいつかは追いつくとルーサーから明言されている……が。気を使わせてしまったのは申し訳なく思う。
申し訳なく思う。しかし、話題は掘り起こさせてもらおう。
ちなみにレダはそれら自慰に関して、どちらの企業が御用達だとか、そういうのはあるのだろうか。是非とも
「おっ、興味津々ってか~? へへっ、このレダ様が教えてやるぜ! おれのオススメはな~……」
注文通り、レダの語りが始まった。
任務の方……シップ周囲の警邏はオートでも行える。画面を注視しているだけで十分だ。
その合間を利用して、という意も伝わったのだろう。レダは流れるようにオススメの動画だとか、愛用のグッズだとかを紹介し始めてくれた。
それらを流し聞きながら、考える。
考えるのは先日マイルームで「クラリスクレイスを操った」時のこと。偶発的な出来事だったが、クラリスクレイス。つまりはアークスのトップのひとりを、自分は言葉だけで操作したのだ。
再現をしてみたい、と思っている。
アークスを乱すのは楽しそうだ、とも思っている。
「人を操作」する
手元で長杖『イモータルフェザー』を物質化。その紫色のコアを弄るような
「―― オ特で最近女優デビューした
すまないが、少し長杖の回路を確認したく思う。
昼間モニカとマールーへ調整を頼んでいたのだが、調整後に実働させていないことを、よりにもよって真夜中の今気付いてしまったのだ。
杖としての対象識別機能の稼働と、回路内をフォトンが通せることが確認できれば問題ない。異常があれば術者が判る。
ターゲッティングが必要だがダメージのない、つまりはデバフテクニックが要件を満たしている。レダにその
「おう、全然いいぜー! もし今から
レダはどんと両腕を広げて受け止めるポーズ。
間違いなく良い人材だ。だから彼にはもう少し
杖に手のひらを沿わせた。
ジェルンとザルア……ではなく、しかし相手の中へ語りかけるように。
肌を貫き、害する。彼のフォトン回路を通して、レダという「人の中身」を引きつけ、遠ざける。
そういう風に意識をしながらテクニックを起動した。
『イモータルフェザー』の翼がばさりと開く。稼働に差異はない。幾何学様に羽が舞う。
指先を揃えて、ぴしり。
「……は」
その中心に居たレダは ―― いつかのクラリスクレイスと同様、微動だにしない。
水平真っ直ぐの手のひらを額に当て、敬礼ポーズの人形と相成った。
「……」
命令待ちの
長杖の励起を保ちつつ、その様子を観察する。目は虚ろで、こちらが身体に触れて尚、人体として必須である
いいだろう。これにて、いちどの区切り。確認可能な条件は出し切れた。
「自分がデバフの影響を及ぼしたことのある相手」に「テクニックを発動するための発動体と回路を経由して」、その上で「相手を害する明確な意思を込めて命令をする」ことの3つである。
仮説は幾つかあった。拭えきれなかった別の有力要素は「長杖のコアに触れた経験があること」。
これらは自分がクラリスクレイスへ行ったアクションを要素として抽出したものだが……マイルーム以前にクラリスクレイスと出会ったのは1度きり。自分が加えた外的要因は、長杖の調整とデバフテクニック程度しかない。
あのコアは自分からみても来歴や仔細が不明なもの。可能性としては高いと考えていた。その場合は自分の力がどうこうと言うよりも、ルーサーがもつ特異性によるものという結論になったかも知れないが……。
しかしコアが主要因ならば、今回の様にレダにはかからない。要素は排除出来たと考える。マールーとモニカは整備で触れているため、判別のためにはレダかオーザで試す必要があったのだ。
手元の杖から視線を戻す。
キャンプシップのフロントグラスに、リリーパの砂が吹き付けてばちばちと鳴っている。
夜闇にぼんやりと浮かぶ省エネモードの量子モニターが順番の最後、無機質なレダの顔を照らし続けている。
待たせすぎるのもよくないか。
どこまで出来るのかを確認したい。まずはオーザ班の風紀を乱すことから初めてみるのが適切と考える。
―― レダに命令をする。
あなたの倫理レベルを更に下方、今現在あなたの心理基準で可能な部分まで引き下げる。
あなたは射精が大好きだ。性交を無性に求めるようになる。あなたはオーザ班の女性陣を魅力的に感じ、肉体関係を持ちたいと望む。
自らの判断でもってそれぞれ機会を窺い、近づき、性交渉を行おうとする。
命令をくだした対象と命令をされたこと自体を、あなたは忘れる。これらを自分の意思であると考え、納得する。疑問をもたない。
「……了解、したぜ~」
レダがかくんと力なく頷く。
……これくらいだろう。行動の最終判断を彼自身に任せることで、可否や影響の程度も確認できる具合となる。
明日以降、モニカやマールーやオーザにも試しておこう。そう予定をたてながら、最後にレダに礼を言って、
辺りに静寂が満ちる。普段通りのモニタールームが帰ってきた。
「―― おん? ありゃ、もうこんな時間かよ。ん~……次の警邏はオーザだし、おれはもうちょっと寝てくるとすっかな~」
レダは目をこすりながら立ち上がり、最後に「そんじゃまたな、ヒース!」といって部屋を後にした。
手を振って見送る。扉がしまったのを確認し、椅子に深く腰掛ける。
ひと仕事終えた気分である。比喩としては正しい。
これらアークス駒遊びは仕事と言うよりも、趣味の範疇なのだろうけれども。
本日はここまで。こんばんは。明日からの変化を楽しみとしよう。
ユニークテクニックの名前は何がよいか。そんなどうでもいいことを考えながら。
ひとり、背筋を伸ばしてモニターの観測へと戻った。
・オ特
俗称だと多分これくらいのノリになるのが好ましい。
資本の認可はあるが公営ではないという辺りがミソ。
・マイショ2(まいしょに)
FUN2(ファンツァ)とかの方が響きはよかったのですが、語句に意味がないのでこっちを採用しました。呼び方のノリはおそらく煮コミの語句解体。
・FUN
ゲーム内通貨の無料の方。どちらかというとイベント参加やフレパの利用など、「アークス本筋ではない組織への貢献」によって得られる単位という印象です。
なのでここで出しました。アダルトショップの使用通貨、および名称として飾られるのはとてもではないが栄誉とはいえない。
NGSには存在しない。が、別に役割はないので不便ではない。
これ以上ショップと石を増やさないで欲しい(
・ユニークテクニック
本編には登場しないオリジナル。造語。
前駆的な意味を持たせるために、あえて区分けしています。
なのでついでに。作中主人公がここで言及した条件はあんまり信用しないでおいてください。