催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
27.
手元で作戦区画の
惑星リリーパの一角を鳥瞰。
規則正しく正方形、真四角に配置された金属の通路。
その四角の頂点それぞれに、寂れた給水塔や研究棟が配置され。
通路の更に外側には、広大な岩と砂の海が広がっている。
ここが今回の作戦の撃破目標である大型機甲種 ―― 「ビッグヴァーダー」討伐の区画だ。
実際には真四角の通路の中央。何もないがある区画の直下に、今まさに完成間近の本体が収納されているのだそうだ。
ビッグヴァーダーそれ自体は、アークスが所持するサプライシップや装甲車よりも遙かに大きな……巨大な。「陸上艦」を模した機甲種であると、モニカらの探査により予測が成されている。多数の砲塔やダーカーにも対抗しうる弾頭を搭載した、まさに大型のエネミーである。
アークスの作戦立案は困難だった。
何せ始めて遭遇する大きさのエネミーに対して、おおよそ研修を終えたばかりの新人アークス達が任務として挑むのである。
本来であれば経験のあるリーダーを送り込むべき場面だとは思うのだが……最後に着任した4人ですら、自分達よりも新人のアークスだったのだ。
違和感のある構成ではあるが、任務は任務。
その代わりにとでも言うべきか、本部が立案を担当してくれている。
提案された作戦手順が、こうだ。
フェーズ1。
ビッグヴァーダーの起動まで、アークス隊員は四角い通路上に配置し
撃破対象は既に殆ど完成しており、あとは敵性存在が接近するなどの
特に大型のダーカーとして注意が必要なのは、足元に造った異空間に潜行し奇襲を行う「グワナーダ」と。各星のいずれの環境にも適応して出現する4つ足・高火力・高機動の万能種「ダーク・ラグネ」。これまで惑星リリーパの砂漠地帯に出現しているのは全て「虫型」であるため、統率種であるこれらが出てくることは殆ど確定と言って良いだろう。
ダーカーと機甲種が戦えば御の字ではないかと考える者がいるかも知れないが、そうもいかない。
もしもダーカー側が勝利した場合、ビッグヴァーダーに対する「浸食」が成功し……大型機甲種の
侵食なる能力が無機物関係なしというのは、悪食が過ぎるとわめきたくもなるが。
だからこそ確実に破壊する必要がある。これらふたつを引き離すためのフェーズ1だ。
ビッグヴァーダーが地表へ姿を出すまで、アークス達は通路上を右往左往することになるだろう。
フェーズ2。
ビッグヴァーダーが地上に姿を現した時点で、アークスは突入部隊を編成する。これはその時点で「戦艦に接近できるアークス」を、管制官が選出する予定となっている。
それら突入部隊はビッグヴァーダーの甲板に侵入し「サイトビーコン」を設置する。これを目印にして、惑星リリーパの衛星軌道上に待機している
ちなみに対象の地上浮上を待つのは、単純に火力が足りなくなるからだ。そもそも地面内には岩盤や金属残骸が混じっており、砲撃機の主砲であるフォトン・ブラスターの火力が分散してしまう可能性も高い。初撃で確実に仕留めるために必要な手順という訳である。
以上。自分から見ても所感は悪くない。
巨大エネミーの撃破を目的とした現実的な作戦であると思う。
ただこれをこなすためには戦闘員だけでなく、後方人員まで全てを含めた綿密な連携が必要となるだろう。今回の管制はモニカだけでなく本部からの上級管制官も手伝ってくれるようなので、その点について惜しみなく助力を乞いたいところだ。
高度な柔軟性を必要とする、防衛・襲撃の切り替えを行う予定のある作戦 ――「砂漠遊撃戦」。
オーザは迷いに迷った末、今回の作戦をこう名称づけたようだった。
……考えている内にどうやら、作戦開始時刻が目前となっていたようだ。
惑星リリーパの地平線上に陽が昇る。気温が急激に上昇を始め、明星を端から浚い始めた頃。
『―― 総員、配置を確認しました。作戦目標は、周囲に出現が予測されるダーカーの掃討。および、大型機甲種ビッグヴァーダーの討伐です。私も全力で管制を行います……皆様、ご無事で』
上級管制官ブリギッタの最終確認が入った。
カウントダウン。
3、2、1。
状況開始。
/
『ビ、ビッグヴァーダー起動! 隔壁、最下層から順に解放……地上への浮上を開始しましたぁ……! 予測猶予、3分!』
12人全員が配置に着いた瞬間だった。
モニカからの通信と同時、周囲に真っ黒な気配が満ちてゆく。
ずしん、と重い感覚。ついで、各所にダーカーが一斉に出現した。
東西南北。地面から生える無数のダガンとクラーダ。岩場上の狙撃配置にワープしてくるカルターゴ。空の上からブリアーダとエルアーダ。
それらを視認したアークス隊員が、一斉に各方面へと散らばった。
四方をカバーしなくてはならないので、パーティーを3人ずつに再編成した形。
「―― かかって来い!!」
東側。真っ先に先陣を切ったのは、やはりオーザだった。
地上の雑兵だけでなく、今回は空中に居たエルアーダらもまとめてオーザへ視線を向ける。殺到したそれらを、レダとマールーがフォローを入れつつ捌いてゆく。
「―― 燃えてっ……!」
「オーザ、あっちのカルターゴも寄せといてくれよーっと!!」
「むぅんっ……了解した!!」
こういう防衛において、オーザの戦闘スタイルは頼もしい。ダーカーが生来持っている戦闘欲を刺激し、ヘイトを買うことが出来るからだ。
ひとりで突貫してくるオーザはさぞや狙い易く見えるのだろう。実際にはマールーが放つ炎テクニックで燃やされ、レダの銃弾によって転がされ、順にオーザに仕留められてはゆくのだが。
南側。
配置されたメンバーはポルクス、カストル、もう1人。
「ウィークバレット射出。空中優先」
「―― 追撃します。ターゲット1、4、5」
中距離をけん制しながら連携を組むランチャー2人に、ファイターがひとり。とはいえむしろ、本来であれば近接戦を挑む役職であるファイターが、援護に回っているような火力差だ。
これはチーム『@♯!』のふたりがよっぽど緻密な連携を組めているというのが理由のひとつ。もうひとつは、ダーカーが必ず有する弱点部位「コア」の存在に対して、デバフ弾『
WBは直撃させた部位の対フォトン防御力を著しく低下させる。それが弱点であれば猶更だ。射線さえ確保できれば狙いをつけられる遠距離武器の特性と相まって、ふたりはダーカーの群れを寄った端から薙ぎ払ってみせている。
「プギッ……着弾。地上の掃討を開始します」
「フゴッ……WBリキャスト完了。空中型出現後に対象とします」
例え接近したとしても高火力、ファイターの出番である。盤石といえよう。
……ポルクスとカストルのふたりはランチャーに
西側。
先ほどのファイターを除いた3名が担当。新人とは言え自分達と経歴は同様なので、連携は問題ないようだ。それぞれが適切に距離を保ちながら、必要分のダーカーを惹き付けてくれている。
そして、自分たちが担当する北側。
チーム員はゼノとエコーだ。
「―― セァアアッ! 残りだエコー!」
「りょーかいゼノ! ……
ゼノとエコーの本格的な戦闘を見るのはこれが初めてなのだが、かなり様になっている。
本来の適性ではない
自分は中間距離で、ゼノとエコー両名の流動的な援護を行うことにした。
ダガンやクラーダがエコーに寄るならば斬り。エルアーダなどの囲まれたくないダーカーが多数湧けば、ゼノの側へデバフテクニックをとばす。必要とあれば自分でヘイトを集めにもゆく。
『北側、ダーカー反応増大! 来ます!!』
ブリギッタから端的な報告。周囲を確認。
カルターゴからの射線は給水塔で切れている。ダガンはワープではなく地面を経由して涌いてくるため、優先度を下げて。
先ほどからずっと
……マーカー接近。
ガギンッ。
ゼノの傍に飛び掛かったエルアーダを空中で受け止め、楯で弾いて、蹴り飛ばす。質量差を利用して叩き落とし、
やはりPAが扱えないのは厳しいな、と考えながら死骸を蹴って距離を取る。
そのままエコーの背後に回り、術チャージを援護していると。
「―― ッ、やっぱ、スゲェな……!」
そちらはそちらでカルターゴを背後から真っ二つに裂いて見せたゼノが、話しかけてきていた。
余裕はない。エコーの放った
「目の前のエネミーやりながら、全体の状況まで、見てんのは……やり過ぎだろ! 今からそんな技仕込むだなんて、まるで仕官候補生じゃねぇか!」
大剣を下から上へ。ダガン2体を、ゼノはまとめて斬り捨てる。
クラーダをボウガンで牽制しながら接近し、コアへ一撃。……そういうゼノも、エコーのサポートを
「そりゃあな。……正直あいつ、危なっかし過ぎると思わねぇか?」
首肯する。危なっかしい。
……ゼノが出来すぎている、というのもあるのだろうけれども。エコーの立ち回り。攻撃判断。間合いの取り方。どれをとってもアークスの正隊員としては中央値に近いだろう。だからこそ自分がオーザ班を離れ、こちらへ来ているという理由も有る。
とはいえエコーが放つ雷テクニックの威力は十分。
「はっは! でもよ、ヒースがそれ言っちまったら、どう考えても適性に乏しいお前が出来てんのに……ってことになんねぇか? PA使えないのなんて、普通は入隊前に弾かれちまうだろ」
笑いながらダガンを掃討し終える。
なるほど、そういう展開にもなり得るか。これは失言だったな……と考えながら。
レンジャーとフォースが揃って互いに、
斬っても斬っても、周囲のダーカー反応は減少しない。増えていないので上々だろう。
……ひとつ、聞いておく。ゼノがレンジャーなのに大剣を担いでいるのは……。
「だいじょうぶ、お前の影響とかじゃあねーよ。俺の中で、誰かの前に立つ武器ってーと
周囲に目を配りながらゼノが言う。
「こらー! ふたりとも喋ってないで、次のダーカー出現を……」
すっかり
……した時だった。
『―― 最終隔壁解放! ビッグヴァーダー、来ます!!』
ブリギッタの報告に合わせて、ずしん。
まるで砂漠全体が揺れたのではないかと思うほどの振動が足裏から頭まで抜けていった。
採掘基地の中央の地面が割れて、金属質な身体が陽光に晒されてゆく。
アラートが響き渡る。鈍色の甲板から艦首まで。無数の砲塔。発射台。そのひとつひとつがアークス装甲車並の大きさを持っている。
臨戦態勢のビッグヴァーダーは、地上に姿を現すと同時。
周囲に探査のための子機……球状の浮遊する機甲種を、ばらまいた。
加えて。
『き、緊急通達ぅ! 大型ダーカー出現! 南方にグワナーダ、東側に……ダークラグネ! 至急、現場に……はわ、あ、でもぉ』
『これよりフェーズ2。アークス隊員へ再編成を通達します。選抜隊員はヒースクリフ、ポルクス1、レダの3名。ビッグヴァーダーへ突入し、サイトビーコンの設置へ移行してください。他隊員は配置を変更し、大型ダーカーの討伐を。北側と西側の防衛は放棄。迅速な作戦の遂行をお願いします』
ブリギッタの指示に異存は無い。
足を止める。踵を返す。
「―― 行ってこい、ヒース!」
「頼んだわよー!」
ゼノとエコーに後を託し。
ビッグヴァーダーが出現した区画中央部へと、走った。
・ビッグヴァーダー
既存のエネミーでは大きい。レイドボスでも全長は負けているものが多い。
とは言え甲板上の指令部分を破壊すればokなので、見かけ倒しではある。開幕一斉射の初見殺しつき。
確実に会えるのはリリーパ地下坑道なのだが、砂漠でも途中通路がひん曲がっているとこのボスが出現するエリアに突入することがある。
・ウィークバレット
当てた部分に凄まじいデバフ量の防御力低下を付与する弾頭。レンジャーの本体と言って良い。
これの存在とサブクラスの存在が中期頃までのPSO2の仕様を複雑化……というか調整を困難にしていた。あとはマロンヴァニッシュとかですかね。
現行のNGSでもタイムを目指すならパーティーに必須。ないとレイドボスの討伐時間はWBの効果分だけ伸びるくらいには強力なスキルと化している。
・ランチャー
あまりぱっとしない武器。
ぷそ2の状態では何かしら目立った逸話を思いつけません。ランチャーではWBが放てないという致命的な仕様があるので……。
強いて言えば、一貫して「ゲロビ(持続照射する極太ビーム)を放てる」という特徴があるので、使っている自キャラがメチャクチャ格好良い。
ちなみにランチャーに跨がって、乗り、相手に叩き込むというPAが存在します。
作中の無様はオマージュです。
・チーム
前回に解説がなかったので。
本来はプレイヤー同士が組んで、交流など行うためのもの。ランキングなどの対抗コンテンツも存在する。
ツリーが存在するせいで「入っていないだけ損」な状況に加えて、よりにもよって攻撃力を増強させてしまう効果があるため「入っていないだけ足を引っ張る」という凄まじい状況を産みだしてしまう。
・砂漠遊撃戦
昔あった緊急クエスト。
まるぐるのお手本みたいな緊急。旨味はない。
・まるぐる
マルチパーティークエストにおいて、制限時間もしくはポイント上限まで指定区画でエネミーを倒したりトライアルをクリアしたりして報酬を得る形態に用いられる。
マルチパーティーが、エリアをぐるぐる回って周回するの意。
トライアル中心の緊急クエストはビーチウォーズ等筆頭に評判が悪く、終盤に出たハルコタンのまるぐるも評判は散々だったようだ。
おそらくPSEバーストの弱体化が主たる原因なのだが、弱体化はされるべくしてされたと思うので、さもありなん。