催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
33.
「ふははははははっ! そこで手持ち無沙汰になっている、アークスの君! ……そう、君だ!」
クラリスクレイスはいつも突然やって来る……が。
どうやら、別の六芒均衡も突然やってくるようだった。
灰色と幾何学模様のタイル。只今、シップの訓練場。
自分は本日予定していたゼノとの訓練の土壇場キャンセルをくらい、後の予定を確認していた所だったのだが……。
こちらを指さし、
青髪を棘棘に逆立たせ。
筋骨隆々な身体のラインが出るアークス規定の男性用戦闘服……先日にはオーザが着ていたものだ……を、専用に際立たせたウェア。アサルトアーマーのような両肩の防護パッドや、人目を引く赤や橙の警戒色で彩ったものを身に着けている。
彼はこちらの近くまで一瞬で寄ると、再び大声をあげ、気持ち良く笑った。
「ふはははは! オレの名はヒューイ! 六芒均衡の六……
びしりとポーズを決めている。
近くで立つと、自分との身長差が際立って見えた。しかし過剰な威圧感は感じない。暑苦しいとか、朗らかとか、そういう形容が似合う男だった。
ヒューイはこちらの容姿をひとしきり確認すると、うむと頷いて言う。
「どうやら君がシップ内で噂になっていると聞いて、探し回っていたのだ! そこへ先日、六芒の三と逢い引きに出掛けたという話を聞いたのでね。訓練場の予約をみて、先回らせてもらったのさ!」
やっていたことはやや直接的だが。
……とはいえ、六芒均衡の偶数番。彼はアークスの位階において自分よりも遙か上。上役である。こちらの予定を確認するくらいは、彼の権限の内だろう。
仕切り直す。
わざわざ自分を探していたと言うことは、こちらに用事があるということだ。
「おお、そうとも! 君よ……ヒースクリフ! 是非ともオレと、手合わせをしてくれないだろうか!」
今度は徒手空拳に構え、こちらに向けて半身になって言う。
聞いておく。対人戦の訓練を、ということだろうか。
「そうとも!」
成る程。
こちらとしては遙かな格上、六芒均衡と手合わせを望めるのは
ただ、六芒均衡の内、世襲制である奇数番の三英雄と違い。偶数番……イーブン・ナンバーの選定基準は、純粋な戦闘能力だと聞いている。
先の大戦から稼働をしており、単体戦力としては過剰とまで評価をされているマリア。
先任が死亡した後該当者が現われず、空位のままの六芒の4。
そして戦後初の選任。いちアークスから
目前にいるのはその当人である。
新人極まりなく。PAも扱えない。自分などと訓練をして、実になるものがあるのだろうか。
「あるぞ!」
言い切られてしまった。
どうやらあるらしい。
自分がほうと視線を向けていると、彼はややばつの悪い表情で頬をかいた。
「……というかだな。最近のアークスは連携や
言われてみれば、そうか。
自分はただでさえフォトンによる身体の部分強化や、体外のフォトンを利用・操作して行う加速など。既存のアークスの教科書にない技術を率先して扱っている。
それらから。前回の惑星リリーパでの「砂漠遊撃戦」を鑑みて。
今現在の自分の所感として ―― アークスの戦闘員は戦闘スピードが遅い、のである。
身の振り。剣の振り。移動。銃の扱いひとつとっても、だ。
自分としてもヒューイの言には頷ける。
「確かに集団行動を取ることは大切だ。アークスの死亡率は連携を組むことによって大きく下がる。単純に
ヒューイが拳を握る。
その手のひらは、小さなアークスの頭ならば握りつぶせてしまうほどに大きい。
「集団行動を取ると言うことは、
びしりと指を差された。
おそらく自分の行動記録や訓練中の映像を確認したのだろう。ヒューイは目の前で
「今のオレに必要なのは、君の体術を盗むこと! そしてPAなどを含まない
否やはない。
むしろ自分のそれら体術を、映像を
なにせリリーパで教えたオーザはおろか、ハンターとしてはかなりの上澄みでスジの良いゼノですら。未だこれら体術を完全には扱えていないのだ。
これら経験から、自分の体術は本来のアークスにとっては「習得の難しいもの」なのだろうと考えている。
そう思うと、ヒューイの持つ
OKをした。
自分は楯と
ただし体術を教える代わりに、自分からもお願いがある。
訓練を土壇場キャンセルしたゼノはエコーに付き合い、惑星アムドゥスキアの長期調査へと連れて行かれたらしい。当初から予定されていた惑星ナベリウスでのハンター訓練も、その調査の直後に予定されているようなので……。
つまりその間、自分は訓練相手が不足している状態なのだ。ヒューイにずっと付き合ってもらいたいのだが、構わないだろうか。
「ああ、構わない! むしろオレからお願いしたいくらいだ!!」
快諾である。どこまでも気持ちの良い男だな、と思う。
こうして、相手を六芒均衡の6に代えて。新たな訓練が始まった。
/
改めて考えてみても、豪華な訓練である。
ヒューイの武器は
確かにこのスタイルでは、スピードが重要視されるだろう。
陣形やフレンドリー・ファイアを気にしながら動かねばならない射撃戦とは、必要な速度の基準が異なるのである。
「オレが君に学ぼうと考えたのはそれだけじゃあないさ。……君は思考や展開の速度が根本的に違う」
床に
速度の違い。どういうことだろう。
「ここ数週間の手合わせの最中にオレも考えてみたんだが……君の場合は。動きの基準が自分本位ではなく、相手がどう動くかに合わせているように見える」
ほう。
「そうなると、自然と攻撃と防御の切り替えがスムーズになる。移動もポジションも相手の行動の見やすさを重視する。自分が火力を出すのではなく、相手に隙があるから火力を出す……のだ」
ヒューイが身振り手振りを交えながら、説明をしてくれた。
確かに、言われてみればそうかも知れない。
「そうすることで、相手の行動を探る・恐れるタイミングがなくなっているのだ。猶予がないと言い換えることも出来る。……一般的なアークスが銃を撃つタイミングで君はポジショニングを図り、一般的なアークスがすわ攻撃に備えよと身構えているタイミングで、君はぎりぎりまで攻撃を叩き込む。肝心の攻撃はその楯で、受けきらないまでもいなしきる。読めているからこそ取れる行動だ。普通はマネできん」
そうは言うが。ヒューイは出来ているのではないか。
「いいや。オレは移動や手数はマネできても、その行動に移るまでにそれなりの時間がかかる。初見の相手に対して、到底君のようには動けない。これらの底にある原因として、君が持つ観察眼に寄る部分が大きい……と。オレなりに結論づけてみたのだが、どうだろう」
だろうか。……考えてみれば確かに、相手の行動パターンを分析し。その行動を見極めるタイミングは、心がけているように思えた。
これも自分の身体と同じく。どこかに記憶されていた、かつての自分が持つ経験によるものなのだろう。
「だからオレとしては次の段階として、君がどうやってそこまでの眼を持つに至ったのか、を知りたい所なんだが……」
それは自分も知りたい所だ、と。笑ってしまうことにする。
ヒューイも揃えて、笑ってくれた。
「ははははは、それもそうか。……自分みたいな若造がなれるのだから。本来なら君も六芒均衡に推薦してしまいたいところなんだが……まぁ、PAも扱えずテクニックも単一のものという時点で、難しいのだろうな」
呆れたような。諦めたような。そういう表情で、ヒューイは足を組み直した。
思うところがあるらしい。
「……今の君のように動ける者は、今のアークスだとレギアスかゲッテムハルト。例外も含めて良いならマリアくらいのものだろう。レギアスは実戦から離れているから訓練には付き合ってくれん……し。マリアは数年前の
そういう実情があるらしい。
ちなみにゲッテムハルトは駄目なのだろうか。
「駄目だな。あれはダーカー因子の浸食を受け過ぎている。せめて浄化に応じてくれれば良いが、彼はテミスでの事件以降、アークスの上層部から距離を取っている。……ああ、そう言えば君を隊員承認した際の上司は、彼だったな。それもまた、君を六芒均衡のような上役に推薦するための障害になってしまうだろう」
その程度には遠ざけられている人物のようだった。
成る程。理解出来た。そういう話が聞けたのも、ヒューイ相手だからだ。
……一応、駄目で元々。聞いておく。
ダークファルスは、討伐されているのだろうか。
この質問にヒューイは一瞬、目を見開いたものの。
「……ああ、君は虚数機関の出身だものな。知っているか。その通りだ。 ―― ダークファルス【
教えてくれた。
情報統制は良いのだろうか。
「ははは! オレは六芒均衡だからな。絶対令も効かん。ほぼ強制で上役なんかに就かされたのだから、こうやって友人に腹を割った話をするくらいは許してもらうさ!」
ありがたいことだ。
ちなみにそうしている理由はなんなのだろう。
「戦争で失われたオラクル民に、ショックを思い出させないため……だそうだ。レギアス達の決定だと、そう聞いている。……率直に言えば逆効果だと思っているが、オレが六芒均衡になるずっと前に決まっていたことだ。今さら覆しようは、ないからな」
さて、とヒューイが立ち上がる。
まだ昼の頃合い。ふたりで適当にドリンクを頼んで、再び戦闘場で向き合うことにする。
拳を構え。腹に力を入れ直したヒューイが言う。
「ヒースクリフ。君のもつ技は『対人を
言うとおりだ。
実際に楯を扱っていて……相手に対して。フォトンや質量によって圧倒的なブーストを受けた攻撃を、この楯で防ぐのは無意味に近いのである。
だから、明らかに『人型の敵』を相手にするための剣技なのだ。私の剣は。
そうと。ヒューイとの訓練を繰り返すことで、知ることが出来ていた。
「さあ、それを完成させてしまおう。何せ人型のダークファルスが出てこないとも、限らないからな!」
彼は突飛なことをいう。
そういう実例があるのだろうか。
「さあな! オレの、カンだ!! はははははっ!!!」
ならばきっと、この訓練も無駄ではない。
迫り来る拳の雨と、蹴りの雷を前にして。自分は剣を振り続けた。
・ヒューイ
新参の六芒均衡。創世器は拳、ワルフラーン。
クォンタムらと同じく、この辺りは素材となったフォトナーの人格が確認できない枠。
彼が六芒均衡に戦闘能力準拠で選ばれたり、この時期だったりするのは原作準拠。
バトル物の漫画だったら絶対にスーパー才能天才枠のキャラクター。彼だけ戦闘能力の底が見えていない辺り、とても描写が映えるタイプである事は確実。
とはいえファレグさん辺りの評価を鑑みるに、やはりプレイヤー君ちゃんには及んでいないのでしょうけれども。
・戦闘スピードが遅い
それが極まった結果が昨今のカウンターゲーである。
ただまぁ時代的な背景を考えると、PSO2周辺は明瞭に過渡期。ゲームスピードの先鋭化や区別化が大事になってゆく世代の最中にあって、持続的にサービスを続けなければならなかったという立ち位置にある。
アクションゲームとオンラインゲームというふたつの天秤皿に一緒に乗せて評価されなければならないのは、やや不遇かなとは思う。
とはいえラスターとかは扱ってて気持ち良いんですよねぇ。
NGSでリセットされちゃいましたけど。
・内部乱闘
サラは救出済みです。
基本的にシナリオの本筋上において、原作外の結果を迎えることはありません。
逆に言えば本筋以外ならば……?