催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
37.
「え~っ、1週間も待たされちゃうの~?」
アークス市街地、市街区のカフェにて。
照りつける人工照明とどこまでも広がる
兄と義妹でありながら、売れ始めたアイドルと付き人。
クーナも顔は知れたとは言え、意識的に隠していれば問題は無い程度。活動の伸びしろはまだまだ残されている、と言ったところか。
そういう訳で、直近の活動についてまとめを行い。
自分の予定についてもクーナへ説明を行った結果が、先ほどの反応である。
「お兄ちゃん、じゃあどうするの? もうちょっとあたしの付き人しちゃう?」
義妹は
それはない。自分の付き人生活は本日までだ。1週間の間にカスラへの報告や報酬手続き。クラリスクレイスらへの帰投挨拶やお土産配り。そういうものを片付けてしまおうと思っている。
虚数機関からの依頼でもあるため、ルーサーへの別途報告だけは済ませてきたが……。
「そっか。デビュー巡業は予定通り終わりました~……くらいだもんね。長くはならないかぁ」
その通り。そういう訳で、これがクーナに同道出来る最後の食事である。
……だからといって感慨に浸るような仲でもないが。そう考えながら、バンズの片側上の方を口へ放り込んで咀嚼する。
「そうだね。そういうアークスだもんね、お兄ちゃん」
クーナがテーブルに両肘を着く。
形良く細い前腕の先で開いた両掌を、小顔のふち。顎に沿うようにあてて……。
じぃっと。覗き込むように、こちらの顔を眺め始めた。
……。
……。
……楽しいのだろうか。
「楽しいよ~。……また離れちゃうんだもんね~。お兄ちゃん
溢れるような瞳の義妹。
虚数機関の生まれ。始末屋。ながらに顔が良い。愛嬌完備。
整った彼女の顔立ちは、自分とは似ても似つかないもの。
「それを言ったらあたしとハドレッドだって、似てないでしょ~?」
それもそうか。自分達には血の繋がりがない。龍と人と非アークス。当然だった。
……意味のない会話を、続けた。彼女が飽きてしまうまで。
自分が大食漢に食事を終えた頃になって、ようやく気が済んだようだ。
彼女は視線を外し、今度は窓の向こうを眺め始めた。
景色が良い。
船内だということを忘れてしまうような、活気のある街中だ。
綺麗に整備された真っ白な外壁が立ち並び。清潔感のある水色のフォトン光が街中と、空を縦横無尽に彩り巡る。
オラクルの民は、今日も活気に満ちている。
……。
「……。……あたしね、アイドルっていうお仕事。好きだな~って、思えたよ」
クーナが笑う。
「やってよかったと思う。アイドルとしてのお仕事の中でもさ、歌が良いよね。勢いを乗せて、こう、ぶわ~っと……明るく、激しく、鮮烈に広がってく感じがさ。みんなを笑顔に出来るのって、こんなに嬉しいんだ~……って。思えたんだ」
両手を広げたり、掲げたり、伸ばしたり、逸らしたり。
身振り手振りで楽しさを表現しようと、クーナは試行錯誤しているようだ。
彼女のデビューに合わせて作られたオリジナルの曲のうち。
アークスの士気を高める目的を直接的に書き表した歌詞をしている「Our Fighting」と。
彼女が作詞に口を出した(のを横で自分も見ていた)バラードの「永遠のencore」。
これら両面のシングルは、クーナにとってお気に入りの持ち歌となってくれたようだった。
それだけ彼女が、この1年間。アイドルと言う活動に力を入れたということでもある。
……1年をかけて色々なことを学んだのは、自分も同様か。
「お兄ちゃんも色々と資格……権限みたいなのを、取ったんだもんね?」
義妹の言う通り。自分はこの期間、肉体は維持程度。筋肉ではなく身体の成長に栄養を回せるよう、ほどほどの訓練としたうえで……。
資格。権限。つまりはアークス側での立場を作ることに
「あたしの紹介した諜報部隊にも、先行調査部隊にも入れるようになったし……教導の資格も足掛けてるんだったよね。それと技術部。
まだだ。シップ帰投後にジグさんから初級クラフターとしての認可を貰う予定となっている。
……このように、だ。自分を「色々な立場に置くことの出来る駒」として完成させるのが、最も好ましい立ち回りであると考えた。
つまりは野良。特定の固定の部隊には所属せず、転々としながら戦果を稼ぐ者。
アークスにおいては存外に需要のある立ち位置である。そもそも管理官から単独でのクエスト許可が降りる人物が
その分、自由に動ける分。
駒として浮いてしまう、という弱点はあるだろうけれども。
「まぁ、元からか。お兄ちゃんは。……あたしだってそうだもんね」
虚数機関という組織の常である。仕方があるまい。
それでもこうして義兄弟やらが居るのならば、マシな方ではあるのだろう。
「孤児院みたいなのも多いもんね~、アークスは。必ずしも恋愛結婚という訳じゃない……というか。普通に人工授精とかが主だし。上層部側が、マザーシップを使って演算した結果に人口比率を合わせてるから」
そういえば、初めの頃に。出自が不明でヤーキス翁(未だ見知らぬ人だ)の預かりとなっている自分が、メルフォンシーナに疑われていたこともあったな……と思い出す。
孤児院と名は付くが、ネガティブな内容では無いのだろう。
「親がいないだけだからね。珍しくないもん。……あ、それでさそれでさ。ハドレッドへのお土産、腕に巻けるスカーフにしようかなーってカタログを貰ってきてみたんだけど……お兄ちゃん、どれが良いと思う?」
くるり。アイドルでもなく始末屋でもなく。
途端に姉の顔になったクーナは、楽し気に通算5つ目のお土産を探し始めてしまった。
付き合おう。
弟へのお土産選びを楽しめるのは、兄と姉の特権である。
/
義妹と別れれば再びアークスの日々がやってくる。
少なくとも1週間を、シップ帰投後の挨拶に費やした。
ルーサーからの
あの男がただ真っ直ぐな連絡を寄こすものなのか、と身構えてた所に……。
―― 駐在していたアークスシップの市街地内で、爆発が起きた。
管制官からの緊急連絡が巡る、巡る。
スクリーンの空が緊急時を示す赤に染まり、その最中を、黒々とした飛行虫たちが
それも数匹ではない。埋め尽くす程の……大群だ。
ダーカー群によるアークスシップの襲撃。
歴史上2度目。128番艦テミスに次ぐ、計画的な艦内戦の発令である。
・Our Fighting
最初に実装された曲。というだけでなく、アレンジverがライブ2種目のアンコール曲にもなっている。
(
・永遠のアンコール
歌詞内容的にはハドレッドへの追悼を意図した歌詞の気もするが、時系列的に始末する前から歌っているので「どちらともとれる」。
始末屋の際に口ずさんでいるのは、だいたいこちら。
・クラフト
低レア(とはいえ赤レアではある)の武器を素材を使用して再強化し、そこそこのレベルまで扱えるようにするための機能。
個人で請け負える強化割合や法撃のレベル。時限防具強化などがあり、ユーザー間での相互依頼が起きる。オンラインゲームらしくて割と好きな機能だった。
とはいえ活用されていたのはレア12辺りまでで、それ以降は
杖修復からこの機能を主に引っ張られたのがジグさんだったりする。
主人公のワンオフ武器防具というロマンは達成されたような、されなかったような。