※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

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03.アークス研修3

 

03.

 

 

 ゲッテムハルトが旅立ってから1週が経過した。

 自分にとってメルフォンシーナはかなり感触のよい教官である。

 

「―― 本当に、ヒース様はどのテクニックも使用出来ないようですね」

 

 自分の額に当てていた手のひらを離し、彼女はほうと息を吐いた。

 ため息でなかっただけマシだろう。自分はすいませんと謝罪を挟んで後、手に持ったままだった彼女の短杖(ウォンド)を返却した。

 

 相変わらず無機質な訓練室の中で2人きり。

 

 引いてメルフォンシーナの容姿をみやる。

 尖った耳にやや色白の肌。法撃職に伝統の、なにやらでっかい帽子と丸みのある服。

 短いサイドや襟足とは対照的に、鮮やかな緑青の前髪は目を覆うほど長い。彼女の視線は遮られ、はっきりとは感じられない。

 

 彼女はテクニックを使えないと語った自分の言を受け入れつつ、再度の確認をはさんでくれていた。

 なぜ使えないのか、を彼女自身でも確認したいようだった。

 

 こうして終えたからには結論は出たのだろう。言葉を待つ。

 

「……結論から言いますと、テクニックを使用出来るだけの……そうですね。変換回路、というのでしょうか。フォトンを別の構成に書き換える仕組みは、きちんとヒース様の身体の中に存在しているようです」

 

 そういう流れが確認できました、だそうだ。

 メルフォンシーナの職はテクター。自分の職であるフォースと同様に法撃を扱い……より直接的に相手を殴り倒す。ついでに周囲のフォトンを利用して回復やバフを行うことを得意とする職だ。

 だからこそそういう基礎的な部分も判る、のだそうだ。

 

 構成だとか、回路だとか。仔細は判らないが、自分がプライベートシップ内で行った簡易適性検査より精密にやってくれたのだろう。

 ありがたいことだ……が。であれば自分は何故、テクニックを使えないのだろうか。

 

「……貴方のような例を、かつて私は見たことが……。……いえ。あくまで今までの属性テクニックでは、と括ることにしましょう」

 

 メルフォンシーナが首を振るう。尖った耳の先がぶるんぶるんと揺れている。

 この耳は(基本的に)ニューマンという種族の特徴だ。アークスに所属している種族はおおよそ4つ。

 

 中立の只人、ヒューマン。

 法撃への適性が高い代わりに身体能力がやや低い、ニューマン。

 機械の身体を持つキャスト。

 そしてルーサーが作り出した……戦闘用の機構を意図的に組み込んだ、デューマン。

 

 ちなみに自分はヒューマンである。耳は尖っていない。

 そもそも耳が尖っているから絶対にニューマンというわけでも無い。あくまで内々の、仕組みの差異であるらしい。ルーサーなどはどうなのだろうか。彼の耳は尖っている。

 

「……少しだけ」

 

 自分がどうでも良いことを考えている間、メルフォンシーナは思考を続けてくれていたらしい。

 反省をして聞きに徹する。と。

 

「思い当たる人は、居ます。……今はもう居ない人なのですが……」

 

 覆われた髪の向こう。僅かに上を見上げながら、彼女は続ける。

 

「……例えば、バフなどはどうでしょう。本来はテクターの得手ですが、フォースも使用は可能なはずです。シフタと……デバンド。フォトンを活性化させ、周囲のアークスの攻撃能力と防御能力を上昇させる術です」

 

 ふぉん、と短杖を振るわれる。

 同時に赤い輪と青い輪が彼女の周囲を包み、確かに。身体能力が向上しているのが判る。

 

 なるほど。

 使い方を簡易に伝えてもらい、同様のフォトン繰りを行ってみる。

 

「……出ませんね」

 

 どうやら少しだけ落胆させてしまったようだ。

 ……ただ、違う。感触は悪くない。今までよりも何とか、使えるような感がある。フォトンが蓋をされていないというか。

 

 そういうことを彼女へ伝え、色々と試行錯誤をしてみることにする。

 

「もう一度。……もう一度。……もう一度、お願いします。……。……ああ、成る程。最後の放出系だけがうまくいっていないようですね。今までの攻撃用属性テクニックは底から汲み上げる時点で失敗していましたから……確かに。こちらの方が適性はありそうですが……」

 

 自分の身体に顔を近づけ、メルフォンシーナはうんうんと唸る。

 

「……違う。もしかして……」

 

 何かを思い付いてくれたようだ。

 策があるならば全部を試してみたい。教官の言葉を待つ。ふるりと首を振って後、彼女はあくまで推測ですが……と前置いて。

 

「……逆流。シフタとデバンドを逆さの手順で、発動させてみてください」

 

 逆とは、どういうことだろう。

 

「はい。バフではなく ―― デバフ、ということです」

 

 ささやくように。頷きは小さく。しかし確信を持って、メルフォンシーナは口を開いた。

 デバフ。……(テクニック)としては、アークスの扱う中には存在していないとデータベースには書いてあった気がするが……。

 

「そうですね。……アークスの扱うテクニックは基本的に指向性を持たせてあるもの。回復術であるレスタや、それこそバフであるシフタなどが敵性存在(エネミー)にかからないよう、始めからタグ付けされているのです」

 

 ここ1週間で1番饒舌だった。

 驚いた顔をしてしまっていたのだろう。彼女は自分に近付きすぎていた顔を、こほんという咳払いと共に離して。

 

「……逆に言えば。回路が始めから逆さ(・・)を向いている貴方であれば、エネミーだけをターゲッティングし、デバフをまくことが出来るのかも知れません」

 

 成る程。そういうことか。

 やってみる。何度かメルフォンシーナの口頭での助言をもらいながら……。

 

 ……15回目。

 確かに周囲のフォトンが自分に従い、術を発動できた感触があった。

 

「成功です。おめでとうございます」

 

 隣に居た彼女が、手のひらを叩いて祝福をしてくれる。

 そのまま何度か試してみたが、どうやら会得することが出来た様だ。

 

 データベースを念のため検索してみたが、やはりどうやら自分しか扱わない術であるようだ。

 ……ただ、アークスの方ではなく。自分のマグ(・・・・・)の中には、該当単語がヒットしていた。

 

 攻撃低下術のジェルンと、防御低下術のザルア。

 名前がなくては不便なので。取りあえず、そう呼んでおくことにしよう。

 

「アークス単体では発動不可能でも、外部機器でヒース様と同様の術を構築できるようにすれば、他の方も扱えるようになるかもしれません。それこそレンジャーなどの弾頭として使用出来れば、私たちの戦闘の幅は一層広がることでしょう」

 

 相手側へのデバフ、というのはどちらかといえば強力な単一個に対して有効だろう。

 シフタやデバンドほどではなくても、扱えるに越したことはない。

 

 改めてメルフォンシーナに礼を言う。

 ……無言の間。空調の音が響く室内に、循環するフォトンの水色光だけが浮いている。

 彼女はじぃっと、礼を言った自分をみつめながら。

 

「……いえ。残り2週あります。貴方が術を使えないわけではない、というのはこれで証明されました。ゲッテムハルト様もお喜びになるでしょう。……私もデータベースを漁ります。他の術式も色々と、試す必要がありそうです」

 

 実に教官らしい言葉で、締め括ってくれた。

 






・メルフォンシーナ
 そう呼ばれている。ゲッテムハルトの喪われた恋人、その妹本人。

・ジェルン、ザルア
 過去のPSOシリーズに存在していたデバフ術。
 今作以降はテクニックとしてはオミットされ、後のアップデートにより色々なクラスのスキルにそれぞれが付与されたという複雑と言うか面倒な経緯がある。

 なんでオミットしたんでしょうね。
 テクターとフォースの差別化とかこれにしても良かったと思うんですが……と言いたい所ですが、フォトンの固着化(敵対生物に影響を及ぼす)は別のクラスが得意と言う設定があります。
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