催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
42.
アークスの対空砲撃の陣地を抜けて。
赤黒い光が明滅する場所……へ、近づくと。
「いた! あれだよね!!」
向かい風の中。ティアが指さした先。
緑化公園の中央、噴水付近に……。
「―― グ、ォォォォオオオオオオ!!!」
無数のダーカーに囲まれた、造龍。ハドレッドが暴れていた。
彼は周囲に居たダーカーを凝集し、捕食すると、腹に青白い球体として蓄える。
蓄えたと思うと同時、周囲に正四角錘の槍を形成すると、中空に向かって打ち放った。
ガシュシュシュン、と鋭い音が他方から迫る。
迫った先を視線で追う。真っ赤な空に浮いていたのは。
「―― うふふ、あはははははははっ!!!」
「―― はははっ、あはははははははっ!!」
黒い貫頭衣のようなものを羽織った……見るからに、双子。
子どもの様相をした
黒い双子は互いに手を取り、踊るようにハドレッドの槍を避けながら……。
片方が右手を。片方が左手を伸ばした。広い袖の先端がぐわっと開いたかと思うと、ハドレッドの攻撃を……ばくり。
食べた。吐き出す。同様に組成された槍が、造龍の周囲を予測射撃もかくやと降り注いでゆく。そういう能力を、あの手に持っているのだろう。
視線を上へ戻す。
笑っている。遊んでいる。あの黒い双子が、ダークファルスだ。
「……ねぇヒースクリフ。あれ、どっちが敵なの?」
困惑顔をバイザーに浮かべたティアが、指を降ろす。
ハドレッドもダーカーも、空中に浮かんだ異物も。確かに全て、アークスから見ればエネミーだ。マーカーも赤い。
ティアが尋ねたのは、自分がどちらに
決まっている。まずはハドレッド周囲のダーカーを掃討する。
「あ、そっちなんだ。了解。遠距離攻撃から入って、普通に近づくけどいい?」
それが良いだろう。自分とふたりの特性上、機動力では既存のダーカーには圧倒的な有利を取れる。その上で
……少し考えて。ハドレッドの
「白い龍の援護だね。……あの双子が人型のダークファルス、なんだよね」
反応上はそうだ。
だから力を削ることを念頭に置いて行動をする。
「力を削る?」
具体的には、大型のダーカーを召喚させる。
戦況のログをみるに、明らかにダーカーが組成されているのが見て取れる。市街地戦が複雑化するにつれて、ダガンの様な雑兵の個体数が少なくなっているからだ。
逆に言えば、時系列の最初の頃。オラクル市民を襲う場合や施設を破壊する場合には、コストパフォーマンスの良い兵隊が使われている。
いずれにせよダークファルスと呼ばれる個体の力が未知数な以上、その力を測る斥候役が必要だ。
自分たちが先ず、それに成る。
「わかった、生存優先ってことだね。
少数精鋭で行こう。
そう決めて、自分もボウガンにフォトンの矢をつがえた。
呼称を決める。
対象名、DF【
「―― グォォオオオオオ!!」
槍の雨を身を縮めてやり過ごしたハドレッドが立ち上がり、土煙を吹き飛ばす勢いで吼え叫ぶ。
その咆哮にあわせて、自分とティアは戦闘区域へと突入した。
移動予測。カルターゴの後ろを取る。後頭部へ向けて左腕のボウガン『スターダスター』を引き絞り、アンカーを射出。コアに張り付けたフォトン・ワイヤーを巻き取りながら接近し、右手に持った『ザンバ』で切り裂いた。
「カルターゴ3、殲滅! 次、北側!!」
ティアは足部に装着した具足でホバー移動しながら、次の対象をロックオン。
足を止めることもない。移動砲台。彼女の尻穴から出たエネルギーケーブルがピンク色に光って波打つ。砲塔が止むことなくマズルフラッシュを瞬かせ、爆散したり放射状に広がったり、弾丸が矢継ぎ早に放たれてゆく。
自分もそちらへ向けて跳び込んでゆく。カルターゴのレーザーが交錯するように撃ち放たれるが、その間に身をかがめ、前転。懐へ潜ることが出来た。
いち。に。
自分の着地点を狙っていたエルアーダには、空中で待機させていた
振り向く。がぎんっ。地面に落とした身体を矢で追撃し、撃破。
「狙撃位置予測。そっち……てやあああっ!」
ダーカーの行動を統計予測を利用して、先撃ち。
素早くブーストしたティアが、自分よりも一段奥。ビルの上へ展開していたカルターゴの後ろへ回り、砲塔下に展開した巨大なブレードで切り裂いていた。
道が開いた。斬り込め。
一足、二足 ―― フォトン・グライド。
ステップからのコンフリクト。自分自身を鏃とみなし、対象へ向けて飛び込んだ。
フォトン反発力の
火花が散った。
空に留まると256番艦の街並みが、燃えている市街が一望できる。
目前に、ダークファルス。
「―― へぇ? 君、楽しいね」
「―― おお? 君、面白いね」
楯を腕に構えて、肉薄する。
体躯は小さい。言動も相まって子どもの様だ。
その容姿を間近に見た。白味の強い紫髪。おかっぱ。襟足で一括りにした髪が足元まで垂れ、ゆらりと風に遊ばせている。
双子の片割れ。ヘアピンは左。先ほどみた『食べる腕』が右。他方の【双子】はどちらも逆で、線対称になっているようだった。
近場で見るダークファルスの姿は、外見だけなら、ますますもって人間染みている。
だが違う。人を何とも思っていない……アークスを何とも思わない。そういう捕食者の表情と、目と、身体をしているのだ。
視線が4つ。じろり。相手の体躯も子ども染みているせいで、自分とは視線の高さがぴったりだった。
「君が敗者の、回し者?」
「君が敗者の、晒し者?」
戦うでもなく話すでもなく。ただただ状況を楽しむための、独り言。
返答を期待されている訳でもないだろう。
自分が相応の力を込めたフォトンの刃は、なんということもなく、ダークファルスが無造作に構えた左腕に防がれた。
空中にいる間にも追撃が来る。赤の槍だ。左右に一度ずつスライドし、最後に
ティアが放ってくれた援護射撃の誘導弾とすれ違うように、地面へ四つ足で着地した。
すぐに上を向く。
空中で爆炎が……あがらない。どうやら弾頭が食べられたようだった。
「……全方位を囲むみたいに撃てば届くかなって思ったんだけど、信じられないくらいの大口を開けて食べられちゃった。悪食だね、あれ」
視線は【双子】にあわせたまま、着地点を守ってくれていたティアと合流する。
……ハドレッドが此方を見ている。自分も彼へ向けて横目に頷くと、3対2の構図が出来上がる。
「呼んじゃおっか。その方が、楽しいもんね!」
「呼んじゃおう! その方が、楽しいもんね!」
ふたりが空に手を掲げる。
赤黒い
いつしか、雷雲となった。
頭上でばちばちと爆ぜていたエネルギーがひとつ所に集まって、落ちてくる。
ズシン。
ぐるりと渦を巻くように現れた。テナントビルを踏みつぶして、瓦礫の上に降臨する。
アークス3人を縦に並べてやっとの全高。脚ひとつを取っても、一般的なアークスよりも巨大。
4+2の節足を持つ黒甲虫 ―― ダークラグネ。
いつかのリリーパで別部隊が相手をしていた、ダーカーの
少なくとも万全のこれを捕食は、出来ないはずだ。ハドレッドから引き離すべきだろう。これ
ティアと交互に射撃を繰り返しながら此方を向かせ、ヘイトを引き受け。隔壁に囲まれた
残された問題点。
【双子】が自分達とハドレッドのどちらにちょっかいをかけてくるのか……については、臨機応変に現場判断で対応しよう。
/
西の空を見る。
引きずるように把持した
第一世代のキャストとして改造を受け。
先天のフォトン能力に磨きをかけつつ、こうしてダーカーとの闘争を繰り返してきた。
自分はどこまで戦えばよいのか。
傀儡としてこのまま戦い続けて、よいものか。
そういう
千載一遇の機会を、今、得た。
今ならばルーサーの
計画にほころびを作り出すことが出来る……やも知れない。
彼と彼女は、造龍の味方をした。
ダーカーとは敵対を続けているとはいえ。少なくとも、詭弁は通せる。
とはいえだ。
彼も彼女も、アークスであることに変わりはない。
それを自ら斬り捨てるのか。そもそも斬り捨てたとて、計画が崩れる保証もないが。
六芒均衡の一。
レギアスは、悩んだ。
悩んだうえで ―― 選んだ。
彼らを排除する、という手段を。
自分の迷いを斬り捨てたい、という逃げの一手。
かつて自分が腰を振って、射精をさせられたあの尻を、恥とまとめて斬り捨てられる機会でもあると。
そういう不甲斐のない考えが、相も変わらず、老キャストの思考の内を占めている。
・フォトングライド
NGSでは空中を滑るだけですが、それが出来るならもっと色々……と考えてしまった末の技術。反発力で浮く、を繰り返して自分をレールガン状に射出する。
AISやMARSならば無制限での上昇移動が出来ていたり、旧の場合でもダッシュリングや長距離移動カタパルトは存在しているあたり、ではそもそもアークスにそれを可能とする携行品や装備品をデフォルトで持たせない理由があるのか? と、なってしまう。
あれらがフォトン由来のシステムではない、とかなのでしょうか。
・『スターダスター』
ボウガン。オリジナル。
ヒースクリフの左腕、中楯に搭載されているジグ作成の複合兵装。
リムや巻き取り機器がフォトンによって構成されており、量子展開により出し入れが可能。楯の受け能力を減算せずに着脱可能となっている。
普通に矢を撃つ他に、弾頭複数搭載してスリングの散弾として放つことも出来たり、アンカーやワイヤー張りとしても活用できる。どちらかというと狩りゲーのスリンガー。
パイルバンカーは無い。延焼もしない。追撃で大剣が燃えたりもしない。
・ハドレッド
クーナの弟として製造された造龍。クローム・ドラゴン。
PSO2の龍族はやや特殊な生物で、この造龍は造られたが故に、その輪廻の内側に存在しない。
とはいえアニメ版でも色々とキーになっていたり、重要な立ち位置に居る。
固有エネミーとして有する通常個体との違いは、左角に巻かれた黄色のスカーフ。