催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
43.
ダークラグネは、明らかに「多 vs 単」を想定された造形のダーカーだ。
赤い波動を利用した、前方への広範囲攻撃。全周囲を覆うように降らせる赤の雷。囲まれたと判断すれば体躯を活かした膂力による大ジャンプで、仕切り直すだけの判断力も持ち合わせている。
「左前腕! ウィーク・バレット……撃つよ!」
ティアが放った特殊弾頭に合わせる。
ダークラグネは終始こちらを前方に捉えようとする……ため、前腕は削り易い。
右前腕は甲殻を破壊し終えており、残るは3。あの巨体を支える脚を痛めつければ機動力を奪う事が出来る。
全6つの脚のうち、攻撃のレーダー用途として触角のように使われている2は甲殻がなく、しかも前方複眼の真ん前に据え付けられている。機能停止のためには斬り落とす必要があるだろう。
ウィークバレットによって構成阻害を受けた箇所の甲殻を削ぎ落す方が、まだ現実的だった。
大剣『ザンバ』の刃を通す。少しずつ弾き飛ばして……ダウン。
頭の後方。やや攻撃のし辛い場所にダーカー共通の弱点であるコアが露出するも。
巨体が、跳ねる。Y軸を経て放物線を描き、遥かに遠ざかってゆく。
「……また逃げた。このジャンプがある限り、あのダークラグネに痛撃を与えるのは難しそうかな」
飛び退いたダークラグネを目だけで追って、ティアは溜息を隠そうともしない。
流石にエース個体なだけはある。しぶとい。ダークラグネは継戦の意志をあらわに、赤色の眼でこちら2人……3人をねめつけ。再び赤雷から、遠距離戦を展開した。
赤雷は距離を関係なく落とされる。
そこら中に充満している、この重苦しさ。ダーカーの因子によって生み出されているもののようだ。
こちらも機動力に関してはアークス屈指である(と評価をされている)が、主体は相手にある。
後を追って迎撃をされたのではたまらない。普通の部隊であれば
……迷う必要はない。
機動力を奪うための結論は、既に出されている。脚の甲殻全てを破壊し尽くしてしまえばいい。手順は確立されている。既に脚は2つ、破壊した。
これを続けるべきだろう。
全距離一撃離脱。それで問題なく、ダークラグネの討伐は成されるはずだ。
例外さえなければ。
「左後脚、次に右後脚ね。順にやっちゃおう」
ティアの放ったウィーク・バレットに付き従うように、狙う脚を変えてゆく。
明らかに効率が良い。PAが扱えない自分の振るう剣であっても、これならば十分な傷を作り出せるほどだ。
自分の扱うデバフテクニックと違って、集中的に高度の低下を引き起こす。
かつて考えていた通り、強度の高い個体には有効だ。
左後足。
自分が前衛を引き受けて、ティアの集中砲撃をくらわせる。
甲殻が焼け付いて、遂には落ちた。
右後脚。
ティアが機動的に立ち回り、
大剣『ザンバ』の刃に腰を入れ、甲殻を斬り叩いた。
自分は赤雷を、着弾地点……地面からの迎え雷が見えた時点で反応で回避している。
ティアの方はと言うと、細かい移動は難しいらしく、必要な部分は『ディオスクロイ』から展開したフォトン・バリアによって防御。逸らしているようだった。
……脚、4つ目。
「これで ―― て、わぁっ!?」
攻撃に
全周囲雷撃の範囲内だった。彼女を後ろに置いて「あ、ありがと」、こちらは再び斬り込んでゆく。
再度の全周囲雷撃。
もはやダークラグネを中心とした放電の要領。
が……やりようはある。必要なのはタイミングだけだ。
雷撃を
これがダーカー因子を素にした攻撃である以上、フォトンで干渉できない道理はない。バリアで逸らせた時点で実証も出来ている。
大技の後隙をさらって、突貫。
ズタボロの細骨のようになった前脚2つを潜り抜けて、そのまま大剣を振り抜いた。
硬質な何かが砕けた音がした。ダークラグネのコアに、ヒビが入った音だった。
追撃。ティアとパティによる砲撃。杭のようなものが撃ち込まれ、再生を阻害し、そのまま、爆撃がこれでもかと叩き込まれる。
爆風をスモークに。杭を目掛け、自分は再び突貫する。
大剣の腹を使って叩き込む。ダークラグネのコアを、破壊した。
巨虫が倒れ込む。四つ足がぐにゃりと柔らかく解け、地面に伏せる。
どすり。そのままダークラグネの巨体が赤く細かな粒子となって、霧散した。
大型のダーカーとは言え消滅の際は、他のダーカーと大差はないらしい。アークス側で解析に出せる情報の量が段違いになるため、報酬にはかなりの差が出るのだが。
「ダークラグネ、撃破。……やった。やった……んだ。あたし
ティアが感慨深そうな表情を、バイザーの奥に被せながら言う。
彼女らは前線を張るようなアークスではなかった。それでも自分と連携をしただけでエース級のダーカーを討伐できたというのだから、複合兵装の運用結果としては十分ではないだろうか。
彼女は慎ましやかな胸を張り、『ディオスクロイ』を腰に構えた。
そしてそのまま先ほどの戦場、ハドレッドと【双子】との戦闘区域に戻るかを考えているようだった。
もう少しすれば。彼女が浸っている達成感から浮かび上がってくれば、自分に質問が来るだろう。
だというのに、自分は身構えたまま。警戒を解いていないままでいる。
「ねぇ、ヒースクリフ。……ヒースクリフ?」
怪訝な顔をしたティアを隣に置いたまま。
『ザンバ』を構える。『イモータルフェザー』を構える。『スターダスター』に装填する。フォトン・スフィア製の中楯を構えた。
周囲にはアークスとダーカーの戦闘の音が満ちている。
化学薬品の煙と、燃料が炸裂した臭さと、脂肪性のものが燃えているべたつきと。
その喧噪を割いて、来る。
来た。
「―― ひだりっ!!」
ティアの声掛けよりも疾く、大剣『ザンバ』を持った手首を返す。
苛烈な雷 ―― それよりも遥かに早い。音が後から響くような、鮮烈な閃きを伴った斬撃だった。
体全部を後ろへ投げ出すように、受け止めた。
受け止めた『ザンバ』の刃の反りが、抉れたようにへこんでしまっている。
体勢を崩さないまま、長杖を杖として利用し、立ち上がる。
ようやっと正面を見ることが出来た。
精悍な顔立ちの頭部パーツを身に着けた、白いキャストが立っている。
肉体部が表に見えないほど、全身にキャスト化の改造が施されたアークスだ。
両手で武器の
知識でだけは、知っている。
六芒均衡の一。三英雄の筆頭 ―― レギアス。
「私のことは知っているな。……すまないが、お前らは斬り捨てさせてもらおう」
彼は手に持った創世器『世果』を正眼に構えた。
レギアスについては忠言もされていた。
同僚のアークスのため、マーカーで位置も知れた。
だというのにだ。
斬り捨てるはずの自分達には、こうして警告をして。先んじて着いていたはずなのに、ダークラグネとの交戦には横やりを入れずに待っていて。
やることが中途半端だな、とは思っている。
それでも彼が
相手をしよう。
自分は兎も角。ティアとパティは既に、完全にルーサーの所持物と呼んで差し支えない。
彼女らを斬られるのは本意ではない。
面白く、ない。
「ふぅっ!」
レギアスが息を吐き、止め、踏み込んだ。
早い。あれだけの巨大な得物の軌道が、見えない。刃筋から読むしかないのだ。
どちらで受ける。『ザンバ』。
到底、長物からは鳴りようのない音がした。
「……早い」
どうやら向こうも同じ感想のようだった。
自分が早いのは身体の小ささ。膂力の少なさを補うための、刃渡りの効率的な取り回し方によるものだ。
簡単に言えば、レギアス相手には身体にぴったりと刀身を密着させて持っている。身体を捻って、彼の攻撃を受け流す事だけに注力をしている。
「……っ、撃てないッ」
ティアが『ディオスクロイ』の砲身を持ち上げてレギアスを狙うが、フレンドリーファイアを気にしているのだろう。援護に入れる位置を取ったまま、撃ちあぐねている。
レギアスはそちらに意識を少しだけ割いたが、再びこちらへ戻したようだ。
彼はティアよりも自分を先に片付けるべきだ、と考えている。正しい。自分達はいずれかが的にされたならば、逃走に徹する。自分とてレギアスの剣域……追い打ちの範囲へ出られるならば、そうするだろう。
ただ、レギアスは剣速だけでそれを許さない。
あの鈍器を振るう、その剣速だけで。
「つぁっ!」
こちらの後退に合わせた巻きうち。
普通に振るよりも奥へ。深い踏み込みで、こちらの『ザンバ』を弾き飛ばさんとする勢いだ。
辛うじて掌に吸い付けたまま、受け流した。
『ザンバ』だとて質量で叩けるだけの剣だ。だがあの『世果』には適う訳もない。そもそもが創世器という、基準が別の位階にある武器であるとか。物理的な反作用は考えなくてよいだとか。
無駄なのだ。こちらの考えと言うものは。
そういう口うるさいものは、前提にない。
だから。
捨てた。
「―― 」
レギアスが何か、音を発しながら剣を振るった。
衝撃があった。意識が遠のく程の、衝撃が。
「―― 」
レギアスが剣を振るい、壁のような音が鳴った。
衝撃があった。意識を切り離す程の、衝撃が。
「―― 」
剣がある。自分の前には剣がある。
自分の前には剣がある。
……そして自分の内にも、今ならば見えるだろう。
剣が。
熱されて橙色の、人の形をした、それは剣だ。
真正面にあるものを写し取っただけの。
寄せては返す ――窮極の剣。
・ダークラグネ
PSO2のOPムービーにも登場する、森を驀進している巨大ダーカー。
どこかで戦わせたかったので、ここでのご出演と相成りました。
BGMめっちゃ好き。
・ザンバ
後のための解説の追加。
別の世界やら別の宇宙やらの三英雄、ドノフ・バズが愛用していた剣。
彼は、きちりと、1万匹を斬り倒した。