※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

44 / 52
43.市街地戦闘5

 43.

 

 

 ダークラグネは、明らかに「多 vs 単」を想定された造形のダーカーだ。

 赤い波動を利用した、前方への広範囲攻撃。全周囲を覆うように降らせる赤の雷。囲まれたと判断すれば体躯を活かした膂力による大ジャンプで、仕切り直すだけの判断力も持ち合わせている。

 

「左前腕! ウィーク・バレット……撃つよ!」

 

 ティアが放った特殊弾頭に合わせる。

 ダークラグネは終始こちらを前方に捉えようとする……ため、前腕は削り易い。

 右前腕は甲殻を破壊し終えており、残るは3。あの巨体を支える脚を痛めつければ機動力を奪う事が出来る。

 全6つの脚のうち、攻撃のレーダー用途として触角のように使われている2は甲殻がなく、しかも前方複眼の真ん前に据え付けられている。機能停止のためには斬り落とす必要があるだろう。

 

 ウィークバレットによって構成阻害を受けた箇所の甲殻を削ぎ落す方が、まだ現実的だった。

 大剣『ザンバ』の刃を通す。少しずつ弾き飛ばして……ダウン。

 

 頭の後方。やや攻撃のし辛い場所にダーカー共通の弱点であるコアが露出するも。

 巨体が、跳ねる。Y軸を経て放物線を描き、遥かに遠ざかってゆく。

 

「……また逃げた。このジャンプがある限り、あのダークラグネに痛撃を与えるのは難しそうかな」

 

 飛び退いたダークラグネを目だけで追って、ティアは溜息を隠そうともしない。

 流石にエース個体なだけはある。しぶとい。ダークラグネは継戦の意志をあらわに、赤色の眼でこちら2人……3人をねめつけ。再び赤雷から、遠距離戦を展開した。

 

 赤雷は距離を関係なく落とされる。

 そこら中に充満している、この重苦しさ。ダーカーの因子によって生み出されているもののようだ。

 

 こちらも機動力に関してはアークス屈指である(と評価をされている)が、主体は相手にある。

 後を追って迎撃をされたのではたまらない。普通の部隊であれば緊急保護充填剤(ムーンアトマイザー)の投げ合いも可能だろうけれども、こちらは現在、2人と1基。

 

 ……迷う必要はない。

 機動力を奪うための結論は、既に出されている。脚の甲殻全てを破壊し尽くしてしまえばいい。手順は確立されている。既に脚は2つ、破壊した。

 

 これを続けるべきだろう。

 全距離一撃離脱。それで問題なく、ダークラグネの討伐は成されるはずだ。

 

 例外さえなければ。

 

「左後脚、次に右後脚ね。順にやっちゃおう」

 

 ティアの放ったウィーク・バレットに付き従うように、狙う脚を変えてゆく。

 明らかに効率が良い。PAが扱えない自分の振るう剣であっても、これならば十分な傷を作り出せるほどだ。

 

 自分の扱うデバフテクニックと違って、集中的に高度の低下を引き起こす。

 かつて考えていた通り、強度の高い個体には有効だ。

 

 左後足。

 自分が前衛を引き受けて、ティアの集中砲撃をくらわせる。

 甲殻が焼け付いて、遂には落ちた。

 

 右後脚。

 ティアが機動的に立ち回り、煙幕(スモーク)を利用して接近する。

 大剣『ザンバ』の刃に腰を入れ、甲殻を斬り叩いた。

 

 自分は赤雷を、着弾地点……地面からの迎え雷が見えた時点で反応で回避している。

 ティアの方はと言うと、細かい移動は難しいらしく、必要な部分は『ディオスクロイ』から展開したフォトン・バリアによって防御。逸らしているようだった。

 

 ……脚、4つ目。

 

「これで ―― て、わぁっ!?」

 

 攻撃に(はや)ったティアを抱えて飛び退いた。

 全周囲雷撃の範囲内だった。彼女を後ろに置いて「あ、ありがと」、こちらは再び斬り込んでゆく。

 

 再度の全周囲雷撃。

 もはやダークラグネを中心とした放電の要領。

 が……やりようはある。必要なのはタイミングだけだ。

 

 雷撃を斬り(・・)逸らした。

 これがダーカー因子を素にした攻撃である以上、フォトンで干渉できない道理はない。バリアで逸らせた時点で実証も出来ている。

 

 大技の後隙をさらって、突貫。

 ズタボロの細骨のようになった前脚2つを潜り抜けて、そのまま大剣を振り抜いた。

 

 硬質な何かが砕けた音がした。ダークラグネのコアに、ヒビが入った音だった。

 追撃。ティアとパティによる砲撃。杭のようなものが撃ち込まれ、再生を阻害し、そのまま、爆撃がこれでもかと叩き込まれる。

 

 爆風をスモークに。杭を目掛け、自分は再び突貫する。

 大剣の腹を使って叩き込む。ダークラグネのコアを、破壊した。

 

 巨虫が倒れ込む。四つ足がぐにゃりと柔らかく解け、地面に伏せる。

 どすり。そのままダークラグネの巨体が赤く細かな粒子となって、霧散した。

 

 大型のダーカーとは言え消滅の際は、他のダーカーと大差はないらしい。アークス側で解析に出せる情報の量が段違いになるため、報酬にはかなりの差が出るのだが。

 

「ダークラグネ、撃破。……やった。やった……んだ。あたしたち(・・)でも、十分に戦えた。討伐できた」

 

 ティアが感慨深そうな表情を、バイザーの奥に被せながら言う。

 彼女らは前線を張るようなアークスではなかった。それでも自分と連携をしただけでエース級のダーカーを討伐できたというのだから、複合兵装の運用結果としては十分ではないだろうか。

 

 彼女は慎ましやかな胸を張り、『ディオスクロイ』を腰に構えた。

 そしてそのまま先ほどの戦場、ハドレッドと【双子】との戦闘区域に戻るかを考えているようだった。

 

 もう少しすれば。彼女が浸っている達成感から浮かび上がってくれば、自分に質問が来るだろう。

 だというのに、自分は身構えたまま。警戒を解いていないままでいる。

 

「ねぇ、ヒースクリフ。……ヒースクリフ?」

 

 怪訝な顔をしたティアを隣に置いたまま。

 『ザンバ』を構える。『イモータルフェザー』を構える。『スターダスター』に装填する。フォトン・スフィア製の中楯を構えた。

 

 周囲にはアークスとダーカーの戦闘の音が満ちている。

 化学薬品の煙と、燃料が炸裂した臭さと、脂肪性のものが燃えているべたつきと。

 

 その喧噪を割いて、来る。

 

 来た。

 

「―― ひだりっ!!」

 

 ティアの声掛けよりも疾く、大剣『ザンバ』を持った手首を返す。

 苛烈な雷 ―― それよりも遥かに早い。音が後から響くような、鮮烈な閃きを伴った斬撃だった。

 

 体全部を後ろへ投げ出すように、受け止めた。

 受け止めた『ザンバ』の刃の反りが、抉れたようにへこんでしまっている。

 体勢を崩さないまま、長杖を杖として利用し、立ち上がる。

 

 ようやっと正面を見ることが出来た。

 精悍な顔立ちの頭部パーツを身に着けた、白いキャストが立っている。

 

 肉体部が表に見えないほど、全身にキャスト化の改造が施されたアークスだ。

 両手で武器の()を順手に握り、刀身を巨大な長方形の箱のようなもので覆った、鈍器のような創世器(・・・)を持っている。

 

 知識でだけは、知っている。

 六芒均衡の一。三英雄の筆頭 ―― レギアス。

 

「私のことは知っているな。……すまないが、お前らは斬り捨てさせてもらおう」

 

 彼は手に持った創世器『世果』を正眼に構えた。

 

 レギアスについては忠言もされていた。

 同僚のアークスのため、マーカーで位置も知れた。

 

 だというのにだ。

 斬り捨てるはずの自分達には、こうして警告をして。先んじて着いていたはずなのに、ダークラグネとの交戦には横やりを入れずに待っていて。

 

 やることが中途半端だな、とは思っている。

 それでも彼がこれから(・・・・)自分を斬り捨てる、という意志には(よど)みを感じない。

 

 相手をしよう。

 自分は兎も角。ティアとパティは既に、完全にルーサーの所持物と呼んで差し支えない。

 

 彼女らを斬られるのは本意ではない。

 

 面白く、ない。

 

「ふぅっ!」

 

 レギアスが息を吐き、止め、踏み込んだ。

 早い。あれだけの巨大な得物の軌道が、見えない。刃筋から読むしかないのだ。

 

 どちらで受ける。『ザンバ』。

 到底、長物からは鳴りようのない音がした。

 

「……早い」

 

 どうやら向こうも同じ感想のようだった。

 自分が早いのは身体の小ささ。膂力の少なさを補うための、刃渡りの効率的な取り回し方によるものだ。

 簡単に言えば、レギアス相手には身体にぴったりと刀身を密着させて持っている。身体を捻って、彼の攻撃を受け流す事だけに注力をしている。

 

「……っ、撃てないッ」

 

 ティアが『ディオスクロイ』の砲身を持ち上げてレギアスを狙うが、フレンドリーファイアを気にしているのだろう。援護に入れる位置を取ったまま、撃ちあぐねている。

 

 レギアスはそちらに意識を少しだけ割いたが、再びこちらへ戻したようだ。

 彼はティアよりも自分を先に片付けるべきだ、と考えている。正しい。自分達はいずれかが的にされたならば、逃走に徹する。自分とてレギアスの剣域……追い打ちの範囲へ出られるならば、そうするだろう。

 

 ただ、レギアスは剣速だけでそれを許さない。

 あの鈍器を振るう、その剣速だけで。

 

「つぁっ!」

 

 こちらの後退に合わせた巻きうち。

 普通に振るよりも奥へ。深い踏み込みで、こちらの『ザンバ』を弾き飛ばさんとする勢いだ。

 

 辛うじて掌に吸い付けたまま、受け流した。

 『ザンバ』だとて質量で叩けるだけの剣だ。だがあの『世果』には適う訳もない。そもそもが創世器という、基準が別の位階にある武器であるとか。物理的な反作用は考えなくてよいだとか。

 

 無駄なのだ。こちらの考えと言うものは。

 そういう口うるさいものは、前提にない。

 

 だから。

 

 捨てた。

 

「―― 」

 

 レギアスが何か、音を発しながら剣を振るった。

 衝撃があった。意識が遠のく程の、衝撃が。

 

「―― 」

 

 レギアスが剣を振るい、壁のような音が鳴った。

 衝撃があった。意識を切り離す程の、衝撃が。

 

「―― 」

 

 剣がある。自分の前には剣がある。

 自分の前には剣がある。いつでも(・・・・)。いつでもだ。

 

 ……そして自分の内にも、今ならば見えるだろう。

 

 剣が。

 熱されて橙色の、人の形をした、それは剣だ。

 真正面にあるものを写し取っただけの。

 

 寄せては返す ――窮極の剣。

 





・ダークラグネ
 PSO2のOPムービーにも登場する、森を驀進している巨大ダーカー。
 どこかで戦わせたかったので、ここでのご出演と相成りました。

 BGMめっちゃ好き。


・ザンバ
 後のための解説の追加。
 別の世界やら別の宇宙やらの三英雄、ドノフ・バズが愛用していた剣。

 彼は、きちりと、1万匹を斬り倒した。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。