催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
44.
きっといつでもこうだった。
剣を持ち。人の前に立つことを常としていた。
……いや、違うか。
自分は外野だ。
そういう人を外から見て、憧れていた。
あくまで、正面に立った
ゴミ捨て場に沈む英雄を哀れに思った。
この胸の中に沸き立った初めての
「――
意識が遠のいていたのは一瞬で。
今はレギアスの声が聞こえる範囲に、戻った。
自分の体勢は崩れていない。剣が、今度は
彼はフォトンをまとった武器を保持している。それを感じればよいと、気づいた。
ただし迫る『世果』が武器として不条理な鈍器であることに変わりはない。
要するに質量兵器だ。覆す論理は
フォトンでもって、覆せ。
胴。払い。
後の先。十分だ。剣を振るうために力を込めた尺骨を、『ザンバ』で叩くように打ち据える。
「……っ!」
そしてレギアスは、自分の速度だけを優先させた打撃を、造作もなく手首ではじいた。
鋼材の身体をもつキャストだから出来てしまうのだろう。距離を取る。
続いた連撃が、ここで初めて途切れていた。
構えたままのレギアス。
「―― 貴様は、何を企んでいる?」
彼の剣域は未だこちらを捉えたままだ。自分が後ずさればその分を踏み込んで、先までと変わらぬ剣で打ち裂くだろう。
会話に応じておこう。何も企んでなどいない。
レギアスが頭を振るう。
「知っている。だが、ルーサーは捨て置けん」
声色だけにとどまらない悔しそうな表情を、キャストは浮かべた。
……情報を統合する。捨て置ける、という感想を抱ける立場なのだろうか。レギアスは。
「いや。そうではない。そうではないのだ」
『世果』の剣先が、レギアスの頭に応じて震える。
ならば自分達を斬り倒すことが、あなたにとっての復讐なのだろうか。
「……それは」
「……そうなの?」
横に立ったティアが尋ねた。
応答はない。正面で立ち尽くす彼の反応をみて、やっと理解ができた。ダーカーを滅ぼすという観点から見た場合に、間違いなくレギアスは
けれども、やっぱり ―― ルーサーは違うのだ。
それがはっきりしただけでも、彼と剣を打ち合った成果はあったと言えよう。
……戦闘は続いているが、こちらにとって得るものは得た。
自分はハドレッドの援護に向かいたい。願わくばルーサーへ借りを返すため、あの【双子】に痛い一撃を加えておきたい。
それを、レギアスが許すだろうか。
「そうもいかん」
頑固な御仁であるようだ。
自分とパティエンティアを斬ることがレギアスにとっての願いならば。それを止める権利は彼の中にしか有り得ない。
仕方があるまい。勝算は全く見えないが、戦いを続ける他ない。
そう考えていた時だった。
「―― とうっ!!」
突然現れる、青色のマーカー。
ビルの屋上から飛び降りた。高さなど関係なく、レギアスの前に猛然と降り立つ。
六芒均衡を前にして尚、一切の怖れなく拳を構えたその男。
「困難の最中にある人よ、フォトンよ! オレをっ!! 呼んだかっっっっ!!!」
六芒均衡の六 ―― ヒューイ。
彼は降り立つなりポーズを決めて、自分を見て、笑った。
「ヒースクリフ! 手伝うぞ!!」
「……ヒューイか。よりにもよってそちらに加勢をするのか?」
レギアスが『世果』の切っ先を、自分からヒューイへと移しながら言う。
彼らは互いにアークスのトップ同士だが。ヒューイはというと、とっくに向けていた拳をぶんぶんと振るい。
「いやいや……いやいやいやいや。あのなぁ、レギアス。オレは今現在、現場に到着したばかりなんだ。そしたらいきなり仲間が襲われているじゃあないか。例え上官だとしても、味方に剣を向けている奴を止めるのは当然だろう?」
ヒューイは圧に動じず返してみせる。
どうやらそういうつもりのようだ。ありがたい。
「私の命令だとしてもか」
「生憎、オレの通信機は壊れていない。
ヒューイがちらりとこちらを見た。この間に行け、ということか。
ならばティアは、と彼女を見るも。
「行っていいよ、ヒースクリフ。あたしたちはこっちを手伝う。アークスの最大戦力相手に……手、足りないでしょ」
「おお! 助かるぞ……破廉恥な格好のお嬢さん! 正直、オレだけでレギアスを相手にするのは自信が無かったところだ!!」
複合兵装をぴったりと腰に当て。尻からエネルギーを充填しつつ、ティアはヒューイとクロスを組んだ。
彼女ならいざとなれば逃げの一手も取れる。任せられるだろう。
背を向ける。一足にレギアスから距離を取る。
瞬間、『世果』がこちらへ迫り。
ごぉうと炎が燃え上がる音が、受け止めた。
ヒューイが握った両の拳が、凄まじい熱量の炎をまとって燃えている。
「お出ましだ、破拳 ―― ワルフラーン!! さあ! 共に戦うぞ、破廉恥お嬢!!」
「ポ、ル、ク、ス。名前で呼んでちょうだい、お願いだから……」
「よしよし。ポルクス! 覚えたぞ! ……ならそっちの
彼は笑い、ポージングをこなしながらも堂々と、レギアスの剣を受け止め……反撃までしてみせている。
あれがヒューイの持つ創世器なのだろう。つまりは全力という事だ。
ありがたい。これ以上ない助力である。
この機を逃す
ハドレッドの元へ。
/
戦況は五分五分。
ダークラグネやグワナーダなど、大型の虫ダーカーが幾度となく出現し始めている。
応戦は十分。アークスの戦力が足りていない訳ではないが。
ではアークスシップ・ベスタを「廃棄するのか」。「いつ廃棄するか」というタイミングを考えなければならない頃合いが近づいている。
ここは重要機器や軍事施設が集約しているような船ではない。決断は早いだろう。
他に判断基準は……と、情報集積のタブをめくり避難誘導の進捗を見る。どうやら殆ど終わっているようだ。
撤退戦に移行してもおかしくはタイミングになったか。そう考えている内に、目的地には到達していた。
頭上に現実離れした光景。
ビル群が浮いている。コピーされたように鏡写しの棟が幾つも並んで、真っ赤な空に生えているのだ。
「―― グゥオオオオオオオ!!!」
「あははははは! 滑稽だね!!」
「うふふははは! 残念だね!!」
その合間に点がふたつと、大きな龍が飛び交っている。
龍の方は背中にダーカーを素材にしたような黒さの……翼膜のない、骨だけの、物理的には飛べるはずのない両翼を展開して、飛んでいる。
上昇。下降。螺旋。ターン。
漸近線の如くビルをすれすれになぞった黒い線同士がぶつかって、赤黒い火花が散った。
艦の破壊も進んでいる。部分的に人工重力が働かなくなったのだろう。
そこへ【双子】があの能力でコピーしたビルを幾つも投げ込んだ結果、こんなに現実感のない場所が出来上がってしまったのだ。
自分の推測を裏付けるかのように。区画に足を踏み入れた瞬間、身体がふわりと浮いた。
移動がままならない。本来ならばアークス支給の船外活動用バックパックなどを探すのが筋なのだろうが……。
自分ならば大丈夫だ。いつも通り空中でフォトンを蹴って推進力にすると、戦闘区画へ乗り出した。
加速が良い。重力が無い分、自由に動き回れるとさえ言えよう。
単身、空から生えた無数のビルの合間へ飛び込んでゆく。
いつか見たダーカーの巣の赤い星空に似ているなと、何でもないことを想う。
「―― 来たね! ぼくとわたしの、
「―― 来たよ! わたしとぼくの、
ボウガンを撃ちながら接近し、大剣で斬り結ぶ。
外皮ですらない衣服の袖で弾かれた。ダークファルスは身体全てが凶器であると考えて良いだろう。
「あ、ぎゃっ!?」
なのでその内の、ヘアピンが左にある方。右腕に口を持つ方の腹を蹴って、打ち据えた。
交錯した隙にハドレッドが爪を振るった。ヘアピンが右にある方は、その爪をしっかりと防御している。ダーカー由来の力だとしても、ハドレッドに一度
「あいつ……とっても生意気だね」
「食べちゃう? 美味しそうだよ?」
「そうだね。とーっても、美味しそうだね」
ダメージにはなっていない。しかし【双子】の敵意が感じられるようになった。
あしらわれるだけの存在から、多少はランクアップしただろうか。
一度、周囲を確認する。
空一杯を覆うように生えそろったビルの
隣に巨体。尾をだらりと下げたままの頼もしき弟、ハドレッドが並ぶ。
いくぞ、と。そういう声が聞こえたようだ。
最終決戦の火蓋が、切られた。
・市街地
OPとは印象が違い、ダークラグネと闘う際に最も印象深いのはここのドームではないかなと思います。
・ヒューイ、レギアス
いちおう諸々の言動から見るに、レギアス≒マリア>>ヒューイくらいの力の差があるという認識です。
ヒューイさんについてはいつも通りのご登場なのですが……。避難誘導にあたらされたり、禁止されていたり、今作では勝手にアークスに斬りかかったり。そういうそんな役目をいつも担わされている人、という印象ですね。レギアスさんは。