※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

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45.市街地戦闘7

 

 45.

 

 

 アークスの歴史上、ダークファルスとの戦闘記録は30年ほど前。【巨躯(エルダー)】を討伐(本当は封印)した際のものしか残っていない。が。

 実際にはアークスシップ・テミスを襲撃したのも、ダークファルスなのだろう。

 

 なにせ先ほどから【双子(ダブル)】が吐き出し、投石のように投げているビルの中には。

 128番艦、テミスのものが多量に含まれているのだから。

 

「あははははっ! ほうら、お手玉!」

 

 量子看板に「アークスシップ・No.128」がでかでかと描かれたビルが落ちて来た。

 身をひるがえして避ける。

 

「あははふふっ! ほうら、水切り!」

 

 回転し、破片をまき散らしながら、「クラフトマスター・ジグ」を有するビルが迫る。

 ハドレッドは正四角錘の赤槍を生成すると、斜めから当てて、上手くビルを逸らして見せた。

 

 ……紛らわしいので対象の呼称を決めよう。

 先ほど「ぼくとわたし」と発言した方。ヘアピンが左にあるほうを、()ピン。

 先ほど「わたしとぼく」と発言した方。ヘアピンが右にあるほうを、()ピン。

 これでいい。ハドレッドから生暖かな視線が向けられた気もするが、気のせいとする。

 

 次に、定義を決める。

 ルーサーに返すべき恩。「痛い一撃」とは一体何か。

 それはもちろん。【双子】の活動に影響を及ぼす……可能ならその活動を阻害するだけのダメージを与えること、である。

 

 一介の戦闘員に過ぎない自分に出来るのか。

 やれるだけやってみようと、そう思う。

 

「へぇ」

 

 ビルを躱し、斬り込んだところで……。

 向かいで手をつないでいた左ピンが、自分をとても興味深そうに眺めている。

 

「ねぇ。あれの臭いってさ……」

 

「……そうかな? ……そうかも?」

 

「―― ォォォォオッ!!」

 

「きゃはっ!」「あはっ!!」

 

 ひそひそ話へ、空気を読まず割り込んだハドレッドの爪を大げさに避けて。

 【双子】は楽しそうに笑い合う。先ほどからの印象からして……ダークファルスにとって。これら殺戮や艦の破壊は、遊びの一環なのだろう。

 

 理解はできる。

 誰かが丹精込めて作った積み木の城は、壊すととても楽しいものだ。

 

 だからそれを作った誰かに報復をされるのは、自明の理。

 せめて痛手を与えてやろう。その方法を考える。

 

 ……カスラから、造龍計画の仔細については聞いている。

 アイドルの付き人を完遂した報酬である。それによれば向こうに居る義弟・ハドレッドは「ダーカーの因子を吸収し力に変換する能力」を持っている。

 それは文章に起こしてみるよりも、遥かにあり得ざる力だ。なにせダーカーと言う存在そのものが、不可思議に過ぎる構造をしているのだから。

 

 ダーカーとは何なのか、という経過を飛び越えて……力にする、という結末をもたらす力。

 それがハドレッドが研究によって手に入れた、超常の(ユニーク)マジック(・・・)である。

 

 学問上正しいのかは知らないが、そういう表現をさせて欲しい。

 なにせ自分にとっても誰にとっても……おそらくは。こういう結末を迎えた以上、ルーサーにとっても全ての理解なんて不可能な能力なのだろうから。

 

 狙いは続けて左ピン。

 『スターダスター』の矢。袖を少しだけ削った。すぐに回復される。

 凹んだ『ザンバ』の刃。相応の力で拮抗され、押し斬れない。

 『イモータルフェザー』で土法術。ディーガは物質化する分スピードに乏しい。避けられる。

 ハドレッドがその間に右ピンを、爪と槍で封殺しつつ……ひらりと、そのあばらの間をすり抜けられてしまっていた。

 

 攻撃が通じることは間違いない。

 ルーサーから返却されたマグもある。自分の奥の手(・・・)を切るべきだろう。そう決める。

 

 【双子】が遊んでいる内が唯一のチャンス。

 事態を硬直させず。楽しませるため、次々と新しい手札を見せてゆく。

 

「これ、食べたいね。どんな味がするのかな?」

 

「龍の方は食べたくないね。ドブみたいな味だよきっと」

 

 不穏な会話を正面に、ハドレッドにタイミングを合わせてゆく。

 察してくれたのだろう。ハドレッドは……。

 

「ォォォオオ……」

 

 腹の中央に抱えていた、青黒い球体を解放した。

 全周囲。全展開。地上に群がっていたダーカーの雑兵を、この高さから全て吸収せしめ……。

 

「―― オオオオオオォォォォーーン゛ッッッ!!!!」

 

 端から身体を、黒色に染めて。

 背中に負っていた翼を、金色に染めて。

 虹色のエネルギーの翼膜を開いて、【双子】へ向けて突貫した。

 

「―― 待ってた! 待ってたよ、それ!」

 

「―― 待ってた! 待ってたよ、これ!」

 

 そんなハドレッドの渾身の一撃へ向けて、【双子】は右手と左手の『口』を大きく開いてみせた。

 捕食だ。ハドレッドの攻撃がダメージになるかどうかと、飲み込むことが出来るかどうかは別の問題。

 真面目に考えるのが馬鹿らしい、ダークファルスの能力のことだ。可能なのだろう。

 

 だから。

 傍に接近していた自分が ―― 右ピンの左手首を、斬り飛ばした。

 

「え?」

 

「は?」

 

 【双子】が揃って双子らしく、唖然とした顔。戦闘中に浮かべるべきではない表情をした。

 正直に言おう。【双子】の能力や硬質さは脅威である。

 しかし身のこなしも体術も、素人のそれだ。

 

 懐に入るのは容易かった。

 今まで見せていなかった最高速を、ここ一番で出しただけだ。

 

 そして【双子】が唖然とした顔で此方を見ている間に、ハドレッドが軌道を変える。

 ビル群の間に、『ギ・ディーガ』によるカタパルトを出現させた。

 

「あっ、あ!?」

 

「えっ、え!?」

 

 正面から逸れて右上。

 右上から岩に乗って飛び出して、後ろ。

 後ろから岩に弾かれて、真下。

 

 『ギ・ディーガ』は簡潔に言えば、地面に地割れを起こすテクニックである。

 本来ならばエネミーを巻き込む範囲攻撃として扱うのが良いのだろうけれども……土属性の利点は他にも存在する。

 物質化するのだ。だから、フォトンを扱えない生物にも影響を及ぼせる。

 

 ビルに向けて『ギ・ディーガ』。地盤操作で壁を隆起させ、ハドレッドを射出する。

 ピンボールのように弾かれたハドレッドが、【双子】の背を捉えた。

 

「あ、がっ!?」

 

 右ピン。

 自分が手を切り落し、まだ再生が済んでいない方の【双子】が、ハドレッド渾身の一撃を浴びせられ。甲高い悲鳴をあげながら、ビルの壁へと突っ込んでゆく。

 

 ビルを貫通した。

 

 ビルを貫通した。

 

 ……マップを見やる。

 

 ビルを貫通した。

 

 ビルを貫通した。

 

 破砕音が無限に連なって、遥か遠くまで、ハドレッドの爪を食い込ませながら遠ざかってゆく。

 

 今しかない。

 ビルを蹴る。中空を、フォトンを反発させて、蹴る。

 

「あ ―― 」

 

 【双子】の、左ピンの横を抜けてゆく(・・・・・)

 ハドレッドが貫通した1つ目のビルの中層。そこで倒れ込んでいるアークス候補生(・・・)目掛けて、跳んでゆく。

 

 避難誘導の任にあたっていたのだろう。重力異常の区画に巻き込まれ、脱出をしている最中に、この戦闘に巻き込まれてしまったと考える。

 装備品を与えられておらず、この無重力の空間を移動する術を持っていない。むしろ持っている自分やティア、習得できたヒューイが特別なのである。

 

 ごうごうとビルの合間を抜けてゆく。

 近づいてきた。顔が見える距離。

 水色の髪を肩まで伸ばし、アークス候補生の制服をきちりと着こなした女子だ。

 身体を起こし。脚を挫いているのかひょこひょこと歩き、壁に手をかけ。

 

 彼女は接近する自分を見て、視線が交わり、幼さの残る顔を驚きに染めて。

 

 信じられないと嘆くような……泣きそうな顔をしながら、唇をわななかせた。

 

 吸い込まれそうに丸いフォレストグリーンの瞳を見開いて。

 

 ついには泣いてしまって、叫んだ。

 

「―― 兄さんッッ?」

 

 風に乗ってそう聞こえた。

 スピードは緩めていない。自分は未だ中空に居る。

 どういうことだ、と考えたその瞬間……。

 

 右前方に、赤黒い凝集光が集まっているのが見えた。

 

「―― いただきます」

 

 ワープ。【双子】。左ピン。右手が大きく口を開く。

 是非を考えるより早く、自分は、アークス候補生の彼女を突き飛ばしていた。

 

「あ」

 

 中楯ごと。ボウガンごと。

 左手に持ち替えていた、『ザンバ』ごと。

 

「がぶぅり」

 

 左の二の腕から激しい痛み、熱を感じる。

 動脈から激しく血が漏れていくのを感じながら。

 怪我もなく損傷もなく。無重力地域を流星のように遠ざかってゆくアークス候補生の彼女を、見送った。 

 






・金色の翼
 もしかして:アポストロ・ドラゴン
 クローム・ドラゴンの強化種、非レア族の技です。

・ギ・ディーガ
 本来は自分を中心とする術ですが、色々と不便なのでこうなりました。
 地割れ……あれ、地割れだったんですね。自分は調べて初めて知りました。地面のエネルギー的なのを発露させているとばかり思ってましたね。グラフィック的に。

 というか地割れでエネミーってダメージ受けるんですか……?
 別ゲーの一撃必殺のは、挟むのでイメージしやすいですけれども。

・兄さん
 原作キャラです。
 EP:0で解消される予定はありません。
 いつかくるEP:1以降をお待ちください。
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