催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
45.
アークスの歴史上、ダークファルスとの戦闘記録は30年ほど前。【
実際にはアークスシップ・テミスを襲撃したのも、ダークファルスなのだろう。
なにせ先ほどから【
128番艦、テミスのものが多量に含まれているのだから。
「あははははっ! ほうら、お手玉!」
量子看板に「アークスシップ・No.128」がでかでかと描かれたビルが落ちて来た。
身をひるがえして避ける。
「あははふふっ! ほうら、水切り!」
回転し、破片をまき散らしながら、「クラフトマスター・ジグ」を有するビルが迫る。
ハドレッドは正四角錘の赤槍を生成すると、斜めから当てて、上手くビルを逸らして見せた。
……紛らわしいので対象の呼称を決めよう。
先ほど「ぼくとわたし」と発言した方。ヘアピンが左にあるほうを、
先ほど「わたしとぼく」と発言した方。ヘアピンが右にあるほうを、
これでいい。ハドレッドから生暖かな視線が向けられた気もするが、気のせいとする。
次に、定義を決める。
ルーサーに返すべき恩。「痛い一撃」とは一体何か。
それはもちろん。【双子】の活動に影響を及ぼす……可能ならその活動を阻害するだけのダメージを与えること、である。
一介の戦闘員に過ぎない自分に出来るのか。
やれるだけやってみようと、そう思う。
「へぇ」
ビルを躱し、斬り込んだところで……。
向かいで手をつないでいた左ピンが、自分をとても興味深そうに眺めている。
「ねぇ。あれの臭いってさ……」
「……そうかな? ……そうかも?」
「―― ォォォォオッ!!」
「きゃはっ!」「あはっ!!」
ひそひそ話へ、空気を読まず割り込んだハドレッドの爪を大げさに避けて。
【双子】は楽しそうに笑い合う。先ほどからの印象からして……ダークファルスにとって。これら殺戮や艦の破壊は、遊びの一環なのだろう。
理解はできる。
誰かが丹精込めて作った積み木の城は、壊すととても楽しいものだ。
だからそれを作った誰かに報復をされるのは、自明の理。
せめて痛手を与えてやろう。その方法を考える。
……カスラから、造龍計画の仔細については聞いている。
アイドルの付き人を完遂した報酬である。それによれば向こうに居る義弟・ハドレッドは「ダーカーの因子を吸収し力に変換する能力」を持っている。
それは文章に起こしてみるよりも、遥かにあり得ざる力だ。なにせダーカーと言う存在そのものが、不可思議に過ぎる構造をしているのだから。
ダーカーとは何なのか、という経過を飛び越えて……力にする、という結末をもたらす力。
それがハドレッドが研究によって手に入れた、
学問上正しいのかは知らないが、そういう表現をさせて欲しい。
なにせ自分にとっても誰にとっても……おそらくは。こういう結末を迎えた以上、ルーサーにとっても全ての理解なんて不可能な能力なのだろうから。
狙いは続けて左ピン。
『スターダスター』の矢。袖を少しだけ削った。すぐに回復される。
凹んだ『ザンバ』の刃。相応の力で拮抗され、押し斬れない。
『イモータルフェザー』で土法術。ディーガは物質化する分スピードに乏しい。避けられる。
ハドレッドがその間に右ピンを、爪と槍で封殺しつつ……ひらりと、そのあばらの間をすり抜けられてしまっていた。
攻撃が通じることは間違いない。
ルーサーから返却されたマグもある。自分の
【双子】が遊んでいる内が唯一のチャンス。
事態を硬直させず。楽しませるため、次々と新しい手札を見せてゆく。
「これ、食べたいね。どんな味がするのかな?」
「龍の方は食べたくないね。ドブみたいな味だよきっと」
不穏な会話を正面に、ハドレッドにタイミングを合わせてゆく。
察してくれたのだろう。ハドレッドは……。
「ォォォオオ……」
腹の中央に抱えていた、青黒い球体を解放した。
全周囲。全展開。地上に群がっていたダーカーの雑兵を、この高さから全て吸収せしめ……。
「―― オオオオオオォォォォーーン゛ッッッ!!!!」
端から身体を、黒色に染めて。
背中に負っていた翼を、金色に染めて。
虹色のエネルギーの翼膜を開いて、【双子】へ向けて突貫した。
「―― 待ってた! 待ってたよ、それ!」
「―― 待ってた! 待ってたよ、これ!」
そんなハドレッドの渾身の一撃へ向けて、【双子】は右手と左手の『口』を大きく開いてみせた。
捕食だ。ハドレッドの攻撃がダメージになるかどうかと、飲み込むことが出来るかどうかは別の問題。
真面目に考えるのが馬鹿らしい、ダークファルスの能力のことだ。可能なのだろう。
だから。
傍に接近していた自分が ―― 右ピンの左手首を、斬り飛ばした。
「え?」
「は?」
【双子】が揃って双子らしく、唖然とした顔。戦闘中に浮かべるべきではない表情をした。
正直に言おう。【双子】の能力や硬質さは脅威である。
しかし身のこなしも体術も、素人のそれだ。
懐に入るのは容易かった。
今まで見せていなかった最高速を、ここ一番で出しただけだ。
そして【双子】が唖然とした顔で此方を見ている間に、ハドレッドが軌道を変える。
ビル群の間に、『ギ・ディーガ』によるカタパルトを出現させた。
「あっ、あ!?」
「えっ、え!?」
正面から逸れて右上。
右上から岩に乗って飛び出して、後ろ。
後ろから岩に弾かれて、真下。
『ギ・ディーガ』は簡潔に言えば、地面に地割れを起こすテクニックである。
本来ならばエネミーを巻き込む範囲攻撃として扱うのが良いのだろうけれども……土属性の利点は他にも存在する。
物質化するのだ。だから、フォトンを扱えない生物にも影響を及ぼせる。
ビルに向けて『ギ・ディーガ』。地盤操作で壁を隆起させ、ハドレッドを射出する。
ピンボールのように弾かれたハドレッドが、【双子】の背を捉えた。
「あ、がっ!?」
右ピン。
自分が手を切り落し、まだ再生が済んでいない方の【双子】が、ハドレッド渾身の一撃を浴びせられ。甲高い悲鳴をあげながら、ビルの壁へと突っ込んでゆく。
ビルを貫通した。
ビルを貫通した。
……マップを見やる。
ビルを貫通した。
ビルを貫通した。
破砕音が無限に連なって、遥か遠くまで、ハドレッドの爪を食い込ませながら遠ざかってゆく。
今しかない。
ビルを蹴る。中空を、フォトンを反発させて、蹴る。
「あ ―― 」
【双子】の、左ピンの横を
ハドレッドが貫通した1つ目のビルの中層。そこで倒れ込んでいるアークス
避難誘導の任にあたっていたのだろう。重力異常の区画に巻き込まれ、脱出をしている最中に、この戦闘に巻き込まれてしまったと考える。
装備品を与えられておらず、この無重力の空間を移動する術を持っていない。むしろ持っている自分やティア、習得できたヒューイが特別なのである。
ごうごうとビルの合間を抜けてゆく。
近づいてきた。顔が見える距離。
水色の髪を肩まで伸ばし、アークス候補生の制服をきちりと着こなした女子だ。
身体を起こし。脚を挫いているのかひょこひょこと歩き、壁に手をかけ。
彼女は接近する自分を見て、視線が交わり、幼さの残る顔を驚きに染めて。
信じられないと嘆くような……泣きそうな顔をしながら、唇をわななかせた。
吸い込まれそうに丸いフォレストグリーンの瞳を見開いて。
ついには泣いてしまって、叫んだ。
「―― 兄さんッッ?」
風に乗ってそう聞こえた。
スピードは緩めていない。自分は未だ中空に居る。
どういうことだ、と考えたその瞬間……。
右前方に、赤黒い凝集光が集まっているのが見えた。
「―― いただきます」
ワープ。【双子】。左ピン。右手が大きく口を開く。
是非を考えるより早く、自分は、アークス候補生の彼女を突き飛ばしていた。
「あ」
中楯ごと。ボウガンごと。
左手に持ち替えていた、『ザンバ』ごと。
「がぶぅり」
左の二の腕から激しい痛み、熱を感じる。
動脈から激しく血が漏れていくのを感じながら。
怪我もなく損傷もなく。無重力地域を流星のように遠ざかってゆくアークス候補生の彼女を、見送った。
・金色の翼
もしかして:アポストロ・ドラゴン
クローム・ドラゴンの強化種、非レア族の技です。
・ギ・ディーガ
本来は自分を中心とする術ですが、色々と不便なのでこうなりました。
地割れ……あれ、地割れだったんですね。自分は調べて初めて知りました。地面のエネルギー的なのを発露させているとばかり思ってましたね。グラフィック的に。
というか地割れでエネミーってダメージ受けるんですか……?
別ゲーの一撃必殺のは、挟むのでイメージしやすいですけれども。
・兄さん
原作キャラです。
EP:0で解消される予定はありません。
いつかくるEP:1以降をお待ちください。