催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
46.
左腕の感触がない。
熱さも寒さも実感もない。
感触があるのかすら判断が難しい。
「へぇ。アークスを助けるんだ。君、そういうヒトに見えなかったけど」
自分の内側を占めているのは痛みだ。
激しい疼痛に、頭をがんがんと叩かれている。
起きろ、ではなく。眠ってしまえと蹴り落とす、けたたましい……拍動の音だ。
「でも ―― すごい! すっっごい!! 美味しいね、君!」
自分は床を舐めるようにうつ伏せ、倒れている。
枕元に【双子】の左ピンが立ち、踊るように揺れている。
……どうでもいいことが判った。左ピンは、男児だ。
自分が足元から見上げたせいで。先ほどの
「美味しいね、美味しいよ!
【双子・男】はかちかちと右腕の歯を鳴らし、
体温が低下してゆく。血が流れ出てゆく。フォトンが外へ漏れ出してゆく。……止まらない。
せめて突き飛ばした彼女が【双子・男】に追われる事なく。狙われたのが自分でよかったとだけ、思う。
ぎしぎしと軋む音、
ハドレッドが貫いた際の慣性がまだ生きている。元から崩れ落ちそうだったビルが「くの字」に折れて。軋む音をあげて。灰色の天井が、こちらを押し潰すべく近付いている。
―― マグが熱をあげている。
「残りはどうする? ぼくが食べちゃう? わたしが食べちゃう? ……そっか。じゃあ、ぼく
【双子・男】は好物から順番に食べる気性のようだ。
後残し派閥の自分とはそりが合わない。
―― マグが熱をあげている。
先ほど
待機指示を受け付けているオル・ガが、虹色の燐光を発した待機状態のまま、震えている。
「イタダキマス」
がばぁっと、右腕が上下にわかたれ口を開いた。
ギザギザで。黒と紫で。内側に無限が広がっている……。
口を。
構えて。
その前で。
―― 諦めの悪いマグが、ふたつ揃って熱をあげている。
だから告げた。フォトン・ブラスト。
/
「―― む」
「はっは! あれだけデスクワークばかりに駆り出されていたのに……剣は鈍っていないな、レギアス!」
ヒューイが『ワルフラーン』で『世果』の横っ腹をぶっ叩く。
ごぉんと重機がぶつかったような音と共に、しかしレギアスは武器を手放すことは無く。空中でひらりと身体を回転させると、そのまま壁を足場にして勢いを殺した。
すたりと、何事もなかったかのように道路へと着地してしまうレギアス。
……着地点を覆うように砲撃を行った誘導弾もフォトン・ランチャーも。全てがあっという間に切り裂かれてしまった。
ポルクスが呆れ顔で言う。
「……あのさ。レギアスはあの
「すまんが、知らん。オレが六芒均衡に入ったのは、つい最近だからな。レギアスと手合わせをしたこともない」
ヒューイは申し訳ないと眉をひそめながら、拳を再び半身に構えた。
すぐに来る。レギアスの斬撃を、再び
彼の目的はヒューイではない。ヒースクリフ、あるいはポルクスとカストル。もしくは『ディオスクロイ』なのだ。
そうして交戦しながらヒューイは考えてゆく。
自分たちの勝利条件は、果たして何か。
ひとつは戦闘終了の指示まで耐えること。
アークスシップの損傷具合からして、退艦指示はいずれ出る。レギアスは指示権限も絶対令も有しているが、総意として出されたマザーシップの判断には従わざるを得ないはずだ。
もうひとつは、レギアスを戦闘不能な状態にまで持ち込むこと。
武器の損傷。移動能力のはく奪。あるいは拘束。
殺すという選択肢は、ヒューイにはなかった。レギアスは仲間なのである。
「……せあああっ!!」
「ふっ」
裏拳、千拳、足蹴。
炎のように唸りをあげるそれらを、レギアスは鈍器1本で受け、反撃。
鋭い。鋭すぎる逆袈裟が、ヒューイを襲う。
辛うじて『ワルフラーン』の小指で反らした。冷や汗をかく暇もなく体勢を戻し、再びレギアスに向き直る。
ぼごんっ。
後隙を埋めてくれていたポルクスの援護射撃のひとつがヒューイの背中に直撃した音だ。
すわフレンドリー・ファイアかと思いきやダメージは皆無で……それは、量子メールだった。ヒューイの視界の隅に、彼にだけ視認出来るメッセージが表示されている。
『空中で動きを止めて』
策がある、ということだろう。ポルクスも仲間である。疑う必要は、今はない。
応じよう。ヒューイは素早く前傾姿勢を取ると、今度こそ気合一声、レギアスの剣域へと踏み込んだ。
「ふっ! ……つぇあ!」
「す、ふっ……はぁぁっ!!」
拳が飛ぶ。剣が飛ぶ。
炎が舞って、剣尖が閃く。
横薙ぎの剣に下から潜り込んだ。
反撃覚悟で下から、身を入れた蹴り。わざと受け止めさせてレギアスを浮かせる。
中空に飛び上がったレギアスを追う。当然迎撃が放たれた。『世果』の角が回転させた左脇を
そのまま
まだだ。動きを止める。ヒューイが一歩を引いて半身に構えると。
「―― ッ」
レギアスは鈍器のカタナを片手に構え ―― 突きを繰り出した。
これを待っていた。アークスの体術に忠実な……忠実すぎる、レギアスの剣。
破壊力と速さと質量を備えた一撃を。
ヒューイは肩のアサルトアーマーで受け止めて。
長方形の刃に『ワルフラーン』の左を添えた ―― 右の手のひらで、その柄を掴みながら。
レギアスには空中で
ヒューイとポルクスと、もっといえばヒースクリフにはある。
注文通りに動きを止めた。
だから叫ぶ。
「―― 撃て! オレごとだっ!!」
六芒均衡のふたりが視線を交わしたまま。
その背後。地上にしっかりと銃架をかけて固定したポルクスが、銃口を合わせ終えていた。
「最終ロック解除。……いくよ、パティちゃん!!」
フォトン粒子が熱され、収束し、ビームを形成してゆく。
ポルクスの尻から出たチューブが急速にドピンクに発光し、波打ち、勃起した乳首までもが警戒色に輝き始める。
「フォトン・ブラスト ―― 装填!!」
虹色の輪っかがふたつ、メビウスの輪を模してポルクスの周囲に展開した。
双子のフォトン回路を循環し圧縮されたフォトン粒子が。フォトン・ブラストで呼び出された幻獣……
最後にそれら、虹色の幻獣すらもエネルギーとして充填し……撃鉄。
放たれる。
「―― いっけぇ! ツイン・バスター・ブラスター!!!」
音が消え去る。奪い去る。
戦闘用アークス・シップの主砲級かそれ以上の熱量を有した
空が、一部、砕けた。
ばりぃん。モニターが割れた音。緊急隔壁が閉鎖する音。
赤かった空間を真っピンクに染め上げるほどのエネルギーが数秒間、そのまま中空へと伸びてゆき……。
……。
……ぽとり。
「っぷはぁ! はっは! 流石にオレも、あれに直撃していたら危なかったな!!」
地面に倒れ込んだまま、しばし空を見上げる。
「レギアスは……無事だろう。『
立ち上がって、決め手を放った当人……ポルクスとカストルの方を振り向いた。
が。
「……おお? 気絶している、のか……?」
股からバックファイアもかくやと液体を噴き出し。尻穴から抜けたケーブルから、どろどろしたカラフル過ぎる充填液を逆流させ。尻を高く天に掲げた格好で、その水溜まりの中に突っ伏してしまっていた。
ヒューイはしばらく考えた後。
まぁ、排泄物ではなく冷却水の類いだろうと臭気から判断をして。
「はははっ! 良い活躍だったぞ、ポルクス! カストル!! ……悪いな。転送装置を使ってしまったから、そちらの戦況はしばらくお前に任せてしまうぞ、ヒースクリフ」
赤い空の中心。ビルが天から生え揃った空間に向けて視線を飛ばすと、双子を担いで救護シップの常駐している区画まで駆けていった。
・君、そういうヒトに見えなかったけど
じゃあなんで助けたん、いう話。
・カタナ
PAシュンカがぶっ壊れていたり、テッセンマンが強かったりしていた武器。
……なんですが、レギアスは『世果』をカタナとして登録しつつ大剣として扱っていた(モーションが)というよく判らない理屈もあるのでこうなりました。
ゲーム的には優遇されてしかるべきカッコイイ武器なので、個人的には好きですね。
ガードカウンターによるカウンターゲーはこの辺りを踏襲されており、後発の上級(セカンド)クラスは明らかにカウンターを意識して火力を調整されている。
なんか説明したことある気がしますが、気にしません。何度も言いますがこの欄はホントに、投稿直前にばーっと書いてます。
・スケープドール(ハーフドール)
床舐め(HPゼロ)になった場合に、倒れた状態から復帰するための道具。
自分で自分自身に使えるが、1回切り。ハーフドールは基本的にログインボーナスなどで手に入る無料アイテムだが、クエストにつき持ち込みが1個のみ。スケープドールは課金アイテムで買えば幾らでも追加できます(
要は緊急脱出アイテム。ベイルアウトです。
作中ではムーン・アトマイザーとの差別化のために、名前の通りに「みがわり」的なアイテムとして使用出来ることとしています。
別位相にフォトン粒子に転換した身体を瞬間転送させ、ダメージを身代わりさせるアイテムとか。そんな感じです。
・ツインバスターブラスター
最後の最後までフォトンブラストブラスターとどっちがいいか悩んでました。
どっちでもいいかと悩むのをやめてこうなりました。
多分最後はシェルターを砲撃し出す。