※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

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46.市街地戦闘8

 

 46.

 

 

 左腕の感触がない。

 熱さも寒さも実感もない。

 感触があるのかすら判断が難しい。

 

「へぇ。アークスを助けるんだ。君、そういうヒトに見えなかったけど」

 

 自分の内側を占めているのは痛みだ。

 激しい疼痛に、頭をがんがんと叩かれている。

 起きろ、ではなく。眠ってしまえと蹴り落とす、けたたましい……拍動の音だ。

 

「でも ―― すごい! すっっごい!! 美味しいね、君!」

 

 自分は床を舐めるようにうつ伏せ、倒れている。

 枕元に【双子】の左ピンが立ち、踊るように揺れている。

 

 ……どうでもいいことが判った。左ピンは、男児だ。

 自分が足元から見上げたせいで。先ほどの左腕の味(・・・・)に興奮し勃起した(・・・・)股座の性器(ダークファルス)の形がくっきりと、インナースーツを貫通してしまっている。

 

「美味しいね、美味しいよ! 本当(ホント)本当(ホント)! あの時食べた【若人(アプレンティス)】よりも瑞々(みずみず)しくって、ぼくたちわたしたち同族の生臭さも感じない! フォトナーみたいにスカスカじゃないし、アークスみたいな苦みもない!」

 

 【双子・男】はかちかちと右腕の歯を鳴らし、食レポ(かいさい)を叫ぶ。

 体温が低下してゆく。血が流れ出てゆく。フォトンが外へ漏れ出してゆく。……止まらない。

 せめて突き飛ばした彼女が【双子・男】に追われる事なく。狙われたのが自分でよかったとだけ、思う。

 

 ぎしぎしと軋む音、

 ハドレッドが貫いた際の慣性がまだ生きている。元から崩れ落ちそうだったビルが「くの字」に折れて。軋む音をあげて。灰色の天井が、こちらを押し潰すべく近付いている。

 

 ―― マグが熱をあげている。

 

「残りはどうする? ぼくが食べちゃう? わたしが食べちゃう? ……そっか。じゃあ、ぼく()が」

 

 【双子・男】は好物から順番に食べる気性のようだ。

 後残し派閥の自分とはそりが合わない。

 

 ―― マグが熱をあげている。

 先ほど奥の手(・・・)を切るべく指示し、途中で取りやめたせいで。

 待機指示を受け付けているオル・ガが、虹色の燐光を発した待機状態のまま、震えている。

 

「イタダキマス」

 

 がばぁっと、右腕が上下にわかたれ口を開いた。

 ギザギザで。黒と紫で。内側に無限が広がっている……。

 

 口を。

 

 構えて。

 

 その前で。

 

  ―― 諦めの悪いマグが、ふたつ揃って熱をあげている。

 

 だから告げた。フォトン・ブラスト。

 二重(・・)の虹色の輪が、宙域一帯(・・・・)を覆い尽くす程に広がり、収縮した。

 

 

 /

 

 

「―― む」

 

「はっは! あれだけデスクワークばかりに駆り出されていたのに……剣は鈍っていないな、レギアス!」

 

 ヒューイが『ワルフラーン』で『世果』の横っ腹をぶっ叩く。

 ごぉんと重機がぶつかったような音と共に、しかしレギアスは武器を手放すことは無く。空中でひらりと身体を回転させると、そのまま壁を足場にして勢いを殺した。

 

 すたりと、何事もなかったかのように道路へと着地してしまうレギアス。

 ……着地点を覆うように砲撃を行った誘導弾もフォトン・ランチャーも。全てがあっという間に切り裂かれてしまった。

 

 ポルクスが呆れ顔で言う。

 

「……あのさ。レギアスはあの()でどうやって斬ってるの? 斬れるような武器じゃなくない?」

 

「すまんが、知らん。オレが六芒均衡に入ったのは、つい最近だからな。レギアスと手合わせをしたこともない」

 

 ヒューイは申し訳ないと眉をひそめながら、拳を再び半身に構えた。

 すぐに来る。レギアスの斬撃を、再び(さば)く……ポルクスをレギアスの攻撃範囲に入れないよう、細心の注意を払いながら。

 彼の目的はヒューイではない。ヒースクリフ、あるいはポルクスとカストル。もしくは『ディオスクロイ』なのだ。

 

 そうして交戦しながらヒューイは考えてゆく。

 自分たちの勝利条件は、果たして何か。

 

 ひとつは戦闘終了の指示まで耐えること。

 アークスシップの損傷具合からして、退艦指示はいずれ出る。レギアスは指示権限も絶対令も有しているが、総意として出されたマザーシップの判断には従わざるを得ないはずだ。

 

 もうひとつは、レギアスを戦闘不能な状態にまで持ち込むこと。

 武器の損傷。移動能力のはく奪。あるいは拘束。

 

 殺すという選択肢は、ヒューイにはなかった。レギアスは仲間なのである。

 

「……せあああっ!!」

 

「ふっ」

 

 裏拳、千拳、足蹴。

 炎のように唸りをあげるそれらを、レギアスは鈍器1本で受け、反撃。

 

 鋭い。鋭すぎる逆袈裟が、ヒューイを襲う。

 辛うじて『ワルフラーン』の小指で反らした。冷や汗をかく暇もなく体勢を戻し、再びレギアスに向き直る。

 

 ぼごんっ。

 後隙を埋めてくれていたポルクスの援護射撃のひとつがヒューイの背中に直撃した音だ。

 すわフレンドリー・ファイアかと思いきやダメージは皆無で……それは、量子メールだった。ヒューイの視界の隅に、彼にだけ視認出来るメッセージが表示されている。

 

『空中で動きを止めて』

 

 策がある、ということだろう。ポルクスも仲間である。疑う必要は、今はない。

 応じよう。ヒューイは素早く前傾姿勢を取ると、今度こそ気合一声、レギアスの剣域へと踏み込んだ。

 

「ふっ! ……つぇあ!」

 

「す、ふっ……はぁぁっ!!」

 

 拳が飛ぶ。剣が飛ぶ。

 炎が舞って、剣尖が閃く。

 

 横薙ぎの剣に下から潜り込んだ。

 反撃覚悟で下から、身を入れた蹴り。わざと受け止めさせてレギアスを浮かせる。

 中空に飛び上がったレギアスを追う。当然迎撃が放たれた。『世果』の角が回転させた左脇を(かす)めて、(えぐ)れ飛ぶ。

 

 そのまま空中を蹴って(フォトン・ジャンプ)を繰り出すと、肉薄した。

 まだだ。動きを止める。ヒューイが一歩を引いて半身に構えると。

 

「―― ッ」

 

 レギアスは鈍器のカタナを片手に構え ―― 突きを繰り出した。

 これを待っていた。アークスの体術に忠実な……忠実すぎる、レギアスの剣。

 

 破壊力と速さと質量を備えた一撃を。

 ヒューイは肩のアサルトアーマーで受け止めて。

 長方形の刃に『ワルフラーン』の左を添えた ―― 右の手のひらで、その柄を掴みながら。

 

 レギアスには空中で身を躱す(・・・・)手段がない。

 ヒューイとポルクスと、もっといえばヒースクリフにはある。

 

 注文通りに動きを止めた。

 だから叫ぶ。

 

「―― 撃て! オレごとだっ!!」

 

 六芒均衡のふたりが視線を交わしたまま。

 その背後。地上にしっかりと銃架をかけて固定したポルクスが、銃口を合わせ終えていた。

 

「最終ロック解除。……いくよ、パティちゃん!!」

 

 フォトン粒子が熱され、収束し、ビームを形成してゆく。

 ポルクスの尻から出たチューブが急速にドピンクに発光し、波打ち、勃起した乳首までもが警戒色に輝き始める。

 

「フォトン・ブラスト ―― 装填!!」

 

 虹色の輪っかがふたつ、メビウスの輪を模してポルクスの周囲に展開した。

 双子のフォトン回路を循環し圧縮されたフォトン粒子が。フォトン・ブラストで呼び出された幻獣……白色の一角獣(ヘリクス)白鱗の巨大魚(ケートス)の召喚陣を経由して加速され。

 

 最後にそれら、虹色の幻獣すらもエネルギーとして充填し……撃鉄。

 放たれる。

 

「―― いっけぇ! ツイン・バスター・ブラスター!!!」

 

 音が消え去る。奪い去る。

 戦闘用アークス・シップの主砲級かそれ以上の熱量を有した法撃(・・)が、中空にいたふたりを貫いた。

 

 空が、一部、砕けた。

 ばりぃん。モニターが割れた音。緊急隔壁が閉鎖する音。

 赤かった空間を真っピンクに染め上げるほどのエネルギーが数秒間、そのまま中空へと伸びてゆき……。

 

 ……。

 

 ……ぽとり。

 

「っぷはぁ! はっは! 流石にオレも、あれに直撃していたら危なかったな!!」

 

 緊急転送装置(スケープ・ドール)を利用して直前で回避したヒューイが、落ちてきた。

 地面に倒れ込んだまま、しばし空を見上げる。

 

「レギアスは……無事だろう。『世果(ヨノハテ)』の外殻で受けていた。とはいえ宇宙空間に飛ばしてしまえば、確かに。回収されるまでは身動き出来ない……か。よく考えたな!」

 

 立ち上がって、決め手を放った当人……ポルクスとカストルの方を振り向いた。

 が。

 

「……おお? 気絶している、のか……?」

 

 大型複合武器(ディオスクロイ)も。ポルクスも。

 股からバックファイアもかくやと液体を噴き出し。尻穴から抜けたケーブルから、どろどろしたカラフル過ぎる充填液を逆流させ。尻を高く天に掲げた格好で、その水溜まりの中に突っ伏してしまっていた。

 

 ヒューイはしばらく考えた後。

 まぁ、排泄物ではなく冷却水の類いだろうと臭気から判断をして。

 

「はははっ! 良い活躍だったぞ、ポルクス! カストル!! ……悪いな。転送装置を使ってしまったから、そちらの戦況はしばらくお前に任せてしまうぞ、ヒースクリフ」

 

 赤い空の中心。ビルが天から生え揃った空間に向けて視線を飛ばすと、双子を担いで救護シップの常駐している区画まで駆けていった。

 

 






・君、そういうヒトに見えなかったけど
 じゃあなんで助けたん、いう話。


・カタナ
 PAシュンカがぶっ壊れていたり、テッセンマンが強かったりしていた武器。
 ……なんですが、レギアスは『世果』をカタナとして登録しつつ大剣として扱っていた(モーションが)というよく判らない理屈もあるのでこうなりました。

 ゲーム的には優遇されてしかるべきカッコイイ武器なので、個人的には好きですね。
 ガードカウンターによるカウンターゲーはこの辺りを踏襲されており、後発の上級(セカンド)クラスは明らかにカウンターを意識して火力を調整されている。
 なんか説明したことある気がしますが、気にしません。何度も言いますがこの欄はホントに、投稿直前にばーっと書いてます。

・スケープドール(ハーフドール)
 床舐め(HPゼロ)になった場合に、倒れた状態から復帰するための道具。
 自分で自分自身に使えるが、1回切り。ハーフドールは基本的にログインボーナスなどで手に入る無料アイテムだが、クエストにつき持ち込みが1個のみ。スケープドールは課金アイテムで買えば幾らでも追加できます(
 要は緊急脱出アイテム。ベイルアウトです。

 作中ではムーン・アトマイザーとの差別化のために、名前の通りに「みがわり」的なアイテムとして使用出来ることとしています。
 別位相にフォトン粒子に転換した身体を瞬間転送させ、ダメージを身代わりさせるアイテムとか。そんな感じです。


・ツインバスターブラスター
 最後の最後までフォトンブラストブラスターとどっちがいいか悩んでました。
 どっちでもいいかと悩むのをやめてこうなりました。

 多分最後はシェルターを砲撃し出す。

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