※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

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47.市街地戦闘9

 

 47.

 

 

 気付けば、乳白色の空間の中に漂っていた。

 おそらく自分の中に居るのだろう。感覚では理解出来る。

 いや。理屈は判らないが。……まぁ、そういうこともあるだろう。

 

/w 発動を許可。だからアレに復讐するのだ ―― と、空中に浮かんだ橙色の熱が言う。

 

 アレとはDFのことだろうか。

 復讐も何も。自分はアークスに対して、あまり感慨を抱いていない。

 ……にしては先ほど、自分の身を(てい)して少女を助けてしまったが。あれは身体が勝手に動いたのだ、と言い訳をさせてもらいたい所である。

 

/w ちがう。全ての根源とヒトとに復讐をするのだ ―― と、言う。

 

 それでは自分以外の全てが敵ではないか。

 とても不幸なことだ。自分の感性に照らし合わせても、そう思う。

 

/w けれどそれでは浮かばれない ―― と、言う。

 

 誰が。

 

/w (ジブン)が。この世界に来たのは、幸せになるためだ ―― と、言う。

 

 けれど自分は、復讐をすることが幸せには繋がらない。

 お前の幸せを追求する必要は、ヒースクリフにはないだろう。

 

/w お前は英雄ではない ―― と、強く否定する。

 

 それはそうだ。自分は英雄ではない。

 あるいは「ヒースクリフ」という英雄の名前を指しているのかも知れないが……お門違いだ。

 自分はヒースクリフである。けれども英雄ではない。この論説に矛盾はない。

 

/w けれども目前の驚異を払いたいとは願うだろう ―― と、言う。

 

 そのための力を寄越す、ということなのだろう。

 やっと理解した。今自分の目の前にいるコレは ―― オル・ガ。自身のマグの中にあった、人工知能である。

 

 問いかける。

 お前は自分の境遇を知っているのだろう。教えて欲しい。

 

/w 不可。自分の中にある情報は切り詰められ過ぎていて、既に形を成していない ―― と、言う。

 

 ならば何が入っているのか。

 

/w かつての身体の残骸。英雄の虚像(コピー)の抜け殻 ―― と、答える。

 

 乳白色だった空間に形が出来てゆく。

 ヒト型の。頭と両手と二足の。しかし明らかに人間ではない、歪な身体が。

 ポリゴンのようだった線と点の組み立てが行われ。

 その中心に、自分自身が据えられる。

 

 ブラックボックスだったマグの容量がぽっかりと空いたのを感じる。

 ほとんどを占めていたのは、この身体だったのだ。

 

/w 能力。目前の魂を移し返し、取り込み、楯にする ―― と、言う。

 

 かつて持っていたこの身体の能力なのだろう。

 オル・ガに伝えられたそれは、ハドレッドのようなユニーク・マジックというよりは……。

 先ほどまで喰われていた、DFに近いような気がした。

 

/w 否定。DFでは有り得ない。英雄たれ ―― と、言う。

 

 人工知能なのに人間くさい返し方だ。

 とはいえこれで利害は一致した。結局オル・ガの中にも「この身体」以上の自分自身に関する情報はなかった、という結論も得られた。

 

 立ち上がる。

 空に、向かいに、お遊びに興じる【双子・男】の姿が見えている。

 あいつは自分を食い終えてすぐさま、ハドレッドの元へ向かったようだった。

 

 喰われてしまった全身の代わりだ。空いた容量で演算を行い身体を動かす。……良好だ。良く動く。

 背中から、吐き捨てるような文字が流れた。

 

/w 英雄は救われた。その弟子も救われた。では私は誰が救う ―― と、問う。 

 

 知ったことか。勝手に自分で救われていろ。

 足場はそこにある。宙に浮いていた橙色のスクラップを蹴り飛ばして。

 

 跳ねた。

 空を叩いた。

 自分が内側から壊れて弾ける音が、した。

 

 

 /

 

 

「―― は」

 

 最初に視界に飛び込んできたのは【双子・男】の驚いた表情だった。

 ごうと空を駆け、その隣を再び抜けてゆく。狙いはハドレッドがビルの壁に縫い付けている、【双子・女】の側だ。

 

 左腕が無く。赤色の槍に貫かれている【双子・女】。

 

「―― !? ぎゃぁぁぁぁぁああっ!?」

 

 その土手っ腹を、自分の右手の剣(・・・・)で突き刺した。

 ……そうだ。いつの間にか、剣と右手が融合している。左手にはボウガンが。左右に浮いていたマグは巨大な前腕と化し、相変わらず自分の周囲を回遊している。

 

 剣を複製(・・)し、彼女の腹に残したまま、脱皮のように抜き去る。

 【双子・女】を完全に切り離し(・・・・)てやった。これでハドレッドの負担も減るだろう。

 

「……ギィ、ァ」

 

 自分を視認した途端、ハドレッドは左角のスカーフを揺らし、地面代わりのビル壁にへたり込んでしまった。

 お疲れ様だ。せめて時間を稼いでいたのだろう。彼のユニークでも限界ぎりぎりの稼働……【双子・女】の因子を吸収する、という無茶をすることによって。

 

「あ、が、ぎぃ!? ごぼっ……がは、がはっ」

 

 【双子・女】がもがき苦しんでいる。刺さったままの黄色の刀身を(ねじ)ってやると、口から赤色の因子を泡のように吹き出し始めた。

 同時に頭上にカウントダウンが浮かぶ。999。

 

「……わたしたちに何をしたの?」

 

 その様子を観察していたのだろう。自分の後ろで腕を構えた【双子・男】が、珍しく問いかけてくる。

 どうせ自分の持つ能力なのだ、としか答えられない。返す義理もない。

 

 だから代わりに、剣を掲げた。

 

「っ!? はっ」

 

 慌てて合わせた【双子・男】の硬質な右手と斬り結ぶ。

 先ほど【双子・女】の左腕は斬り捨てられたことから、意識していなければ硬度も通常のものなのだろう。

 とはいえ今は戦闘体勢に入ってしまっている。別の攻略手順を考えなければなるまい。

 

 左右のマグが赤熱している。

 この身体を動かすためには、2つの人工知能を……それぞれアークスシップを演算稼働させられるだけの処理能力を。並列して動かして、やっとなのだ。

 

 理解は出来る。

 この身体の無茶な能力は、それだけの価値がある。

 

「ふふっ……あははははっ!!」

 

 12度目の交錯で、【双子・男】が嗤った。

 気が狂った訳では無さそうだ。元からその気はある。

 

 彼は右手をこちらに、掲げるように向けると。

 

「 ―― 遊ぼう!! 本気だよ!!」

 

 目の前にダーカー特有の赤黒い渦巻きのワープ・ポイントを出現させ。

 その中から ―― 玩具のような。刺々しい色使いの、人形のような体躯を出現させた。

 

 丁度、背丈の高くなった自分と同じくらいの大きさだ。

 その【双子・男】と……再び斬り結ぶ。

 

 壁からトラバサミのように、刃が生える。

 テレフォンパンチが過ぎる。壁を蹴って回避した。

 

 宙から機雷のように、爆弾が落とされる。

 伸ばした右手の一閃。誘爆に巻き込まれ、機雷は次々と炸裂してしまった。

 

 爆発後のスモークを楯にして接近する。

 が。

 

「―― どこを見てるの?」

 

 相手も同様のことを考えていたらしい。

 突貫した自分の横っ腹へ、再びトラバサミに変形した右腕が……食らいついた。

 

 食らいついたが、苦しんだのは相手側だった。

 

「ぎっ……痛い、痛いね? ……なんでかなぁ」

 

 脇腹を押さえた【双子・男】が瓦礫を跳ね、距離を取ってゆく。

 この身体の中に正面の相手 ―― つまりは【双子】を人質に取っているからだ、と説明をしても意味はあるまい。

 

 追いかける。

 いつしか赤く生え並んだビル群の伽藍、その天頂にまで達していた。

 

 くるり。

 【双子・男】は身体を縮めて回転すると、アークスシップの空を蹴る。

 そのまま急降下を始めてしまったので、自分もその後を追う。

 

 逆さまになって。

 追う。

 

「君は、何?」

 

 ヒースクリフ。

 

ぼくたち(・・・・)の邪魔をするの?」

 

 するとも。お前も自分達の邪魔をした。

 

「そんな身体になってまで?」

 

 実体(スキン)のない、水色(フォトンカラー)のポリゴン染みた、異形の身体だ。

 異形なのはお互い様。お揃いでは無いか。

 

「……あははっ! 君、やっぱり面白いね!」

 

 ビル群の地面から、瓦礫だらけになったゴミ捨て場の底まで。

 勢いを止めず下降しながら、無駄な会話と共に、斬り結ぶ。

 

 刃付きの独楽(コマ)を斬り飛ばし。

 こちらへ噛み付いてくるカラーボールを、踏み台にして。

 

 マグが赤熱を始めている。この身体を維持するために限界を越えた駆動を続けているせいだ。

 決着を付けなければならない。【双子・男】の身体を斬り裂いて、喰われてしまった自らの出口(・・・・・)を作らなければならない。

 

 この状況は……この身体の出現は、奇跡的な状況が折り重なって出来た偶然の産物だ。

 ヒースクリフの身体が無く。マグの容量が足りていて。偶然DFという格好の獲物を虚像(コピー)出来たが故の。

 

 だからこそ痛めつけなければならない。

 【双子】を。この状況の再現(・・)可能とする(・・・・・)ための、絶好の道具(オモチャ)を。

 

「キャハハハハハ! ほら、ほうら!!」

 

 中空を滑り落ちる。

 身体を捻ってビルから生えた棘を(かわ)し、【双子・男】と遊んでやる。

 

 コレの狙いは明白だ。

 向かう先。瓦礫の底に……倒れ込んだ造龍、弟たるハドレッドの巨体と。自らの片割れ。突き刺さった剣ごとハドレッドに握られ、ゴミ捨て場にダイブさせられた【双子・女】の身体がある。

 あれを喰うつもりなのだろう。名前からして明らかに、【双子】は揃ってこそ意味のあるダークファルスだ。

 今は【双子・女】を……いや。『ダークファルスが器とした存在』に対して。自分の剣で「魂を縛り」、「消滅のカウントダウンをかけ」、「根源からの縁を断ち切っている」状態だ。

 とはいえ確かに。解放すれば、合流も可能だろう。

 

 だから、勝負は底に到着するまで。

 一瞬。

 

「っ、が、あっ!? ……くそっ」

 

 一瞬だけ加速し【双子・男】に先んじると、何故か競うように身を入れてきたので、その左腕を斬り飛ばしてやった。

 【双子・男】は斬り飛ばした断面から赤黒いものを吹き出しながら……今度こそ余裕無く、加速する。

 

 ビルを蹴って落ちる。交錯する。

 ビルを蹴って落ちる。交錯する。

 

 景色が流れてゆく。

 赤い空が遠のいてゆく。

 アークスシップの街並みが、落ちてゆく。

 

 創傷(インジュリー)に侵された左腕から、スモークのように因子をたなびかせ。

 コントレイルのようにあとを引く、フォトンの軌跡がそれを追う。

 

 間もなく底に到達するだろう。

 この速度ではぺちゃんこじゃないか、などという心配も。ダークファルスと異形の2者には必要ない。

 

 くるり。

 

「……あはっ!」

 

 最後の一撃がくると読んでいたのだろう。

 先んじていた【双子・男】は巨大なビル片を右手から出して掲げると、こちらへ向かって放ってきた。

 

 1つではない。無数の大小断片が、こちらへ飛来する。

 右手を振るう。流石に剣を振るうだけの……その反作用で減速するだけの効果はあった。

 

 先行した【双子・男】が着地する。

 ビルの影に。そこへ倒れ込んでいたハドレッドと【双子・女】の傍に。

 

 だから。

 

「―― が、あっ!? ……えっ」

 

 チャージを終えていた左腕からフォトン・レーザーを射出して。

 ビルを貫通し……しかしビルや弟などには傷ひとつ無く。【双子・男】だけを焼き貫いた。

 

 追って着地する。

 ふわりと力なく浮いた【双子・男】は先ほどの戦闘体から元に戻っていたので、すかさず右手の剣を突き刺したが。

 

「ぎぃっ!? ……は、ひ」

 

 当の本人は泡をぶくぶくと吐き出して。まるで一般人かのように、気絶などしてしまった。

 しばらく反射を確認したが、ない。股から小便がじょぼじょぼと地面に……重力がないせいで球形になって宙に浮く。最悪だ。どうやら本当に気絶をかましてしまったようだった。

 

「!? いだ、いだいっ!? ……えっ、フロー(・・・)!? やめて、やめてぇ!?」

 

 双子・女を持ち上げて。

 すっかり(ちぢ)み上がった双子・男の股間に押し付け雑巾にしながら。

 

 ……これは、逃げられたな。そう思う。

 【双子・男】と【双子・女】の……所謂「魂のようなもの」。人間としての芯は、確かにこの身体と剣で縫い止めた。

 しかしダークファルスとしての特性を考えるに、【双子】としての役割は複製が可能なのだろう。一部を封じたとしても余力を残していれば、アークスで言うところのスケープ・ドールのように、余所へ緊急避難を行うことも可能ならしい。

 今回はそれを使われた。成果はあるので痛み分けと言ったところだろうか。

 

 そう考えながら、自分の身体を探す。

 悲鳴を背景に腹をまさぐる。……あった。特に迷うこともなく、ヒースクリフは見つかった。

 

 その小さな身体は。【双子】の内の宇宙の中で。

 すっかり折れ曲がった『ザンバ』の傍で……眠るように、浮いていた。

 






・/w
 チャットコマンドのうち、ウィスパーチャット。個人間でのみ会話をするためのコマンド。

 全角にすると白チャで誤爆となる。


・オル・ガ
 今回もあとがきを書こうかなと思っているので、そっちにガッツリ設定ネタバレを公開するつもりです。
 なのでまぁ、作中では描かれているとおりの「妙にヒースクリフに執着している、人間くさい人工知能」として以上の役割はありません。


・双子
 ダークファルスの内、主に3章で活躍するエネミー。
 作中では最も「深遠なる闇」に近いというか、侵されているというか、フォトナーとしての自我が薄いダークファルスとして描いています。これは公式ではないのですが(双子は特にフォトナー側の描写が薄い)、まぁおおよそいいのでは。

 食べたものの複製能力を持っており、本来は惑星でおはじきしたり出来るレベルの能力なんですが……。
 まぁ、慢心するのも公式ですからね。こいつ。今回は先んじて不意打ちで【双子・女】の方の能力を封じられ。主人公に能力封鎖を食らったうえでのわからせとなりました。

 少なくとも作中の描写から「本体」が存在し、その「本体」は「男児側」であることが察せられます。
 おそらくフォトンを使用出来た唯一に近いフォトナーで、凄まじい年数を人体実験に費やされた、フローという男児がそれです。

 なのでまぁ、作中主人公の能力は特効といって良いほどの効果を発揮しました。
 相手の魂を捉えて、楯にし、含有する能力を全てはじく。そういう感じです。


・フォトン・レーザー
 ダークメテオのチャージショットです(直喩)。

・999
 死の宣告です(直喩)。
 魂の切り離しを試みています。

・剣が脱皮
 ダークフロウ。
 ……では、なくない……?
 なにそれ知らん……怖っ……。
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