催眠玩具船団・オラクル 作:どろまみれ
48.World with me
戦時警戒が解かれ、被害や成果が判明するまでには時間を要した。
歴史上2度目のダーカーによるアークスシップ襲撃は、アークス側が艦を1つ廃棄。死亡者4桁、内戦闘員は不明者含め2桁。それら犠牲と引き替えに、100倍数以上のダーカーと倍数以上の大型ダーカーを撃破した……という戦果をもって幕を閉じたのだった。
自分が【双子】を退け、ハドレッドの
レギアスと交戦していた区画から、激しいピンク色のエネルギーが直上へ撃ちあがり……アークスシップの隔壁を貫いた。どうやらそれがトドメとなったようで、直後に退艦指示が出たのである。
そう。ハドレッドは転移……つまりはアークスという組織から脱走した。
やはりダークファルス本体から因子を吸収するのは容量的にも機能的にも許容量を超過していたようで、暴走しかねないどころか、半分暴走している状態のまま戦闘を続けていたらしい。
言葉は通じなかったが、それでも彼がくれた理性有る視線は、確かに自分が受け取った。弟は最後にいつかダーカーとの闘いを終わらせること……怨恨の根絶を託し、何処へと消え去ったのだった。
彼は彼で、ダーカーとの闘いを続けるのだろう。そもそもこのままアークス周辺にいても討伐対象となるだけだ。自分としてもこの結末がベスト……ベターでもビターでも無く、ベストである……と考える。
ハドレッドのために自分に出来ることはやはり、ダーカーとの戦いを続けることなのだろう。変わりはない。
そしてこの戦闘には、アークス全体には周知されない戦果が存在する。
自分による「ダークファルスの核人格の
これについては元の身体に戻った後も、自らの剣による「魂の剥離」はしっかりと不可逆のようで……。
『
当然、問題が存在する。
自分の能力によってDFから切り離された「器」。彼と彼女はどうやら情報体の塊である「エーテル体」として存在を固定されているようで……アークスの監視下におくためには、様々な処置を行う必要があった。
結論から言って、フローは封印
フラウはAIコントロールが主であるサポートパートナーの身体にエーテル体を完全定着させた後。自分……ヒースクリフの『相棒』として扱い、監視を継続。稼働データを収集することとなった。
サポートパートナーという立場や肉体は、彼女を扱うのに都合が良い。
フォトンを扱わせることになるのでDF側の因子を牽制できる。そもそも肉体としての強度が低く、DFの力には耐えられない。完全に人工製の細胞や肉体を使っているためアークスの完全管理下における……等々。
これら全て自分が帰投後に相談を持ちかけた相手 ―― クロトによる縁と紹介を駆使した結論だ。
レギアスやカスラを含む……とはいえマザーシップによる演算が主だろうけれども。そういう上層部の許可を得た上での、最終決定である。
自分としては今まではルーサーに頼り切っていたが、流石に
必要な部分は頼るべきだと感じるが。彼は彼自身の「拘りの主目的」以外の部分では、損得での交渉が可能な人物だ。
……だからこそ可能な部分だけは、今の自分達だけで取り組もうとも思っている。
いずれにせよあまり心配はしていない。ルーサーと出会う機会は必ずある。どうせ彼はアークスの上の方を掌握しているのだし。
「―― ひぃっ。あの、すいませ……。て、定刻の……」
マイルームの扉を開き、件のフラウが顔を出していた。
その右上には小さく、自らの「マグのうちのひとつ」がぷかぷかと浮いている。
自分がフラウをサポパとして引き受けることになった最大の理由。
2つあったマグのうち。ひとつをフラウ拘束のための外付け演算装置として、貸与したのだ。
元とはいえ人格以上の存在であるダークファルスの片割れを……完全に制御下監視下におけるような演算力を持つ物体など。アークスにおいてもオーパーツ扱いを受ける人工知能「オル・ガ」しかなかったのである。
ちなみにもう一つ理由を挙げるとすれば「彼女に親近感を感じたから」だ。
戦闘中に自分が行った
自立してはいるが、普通のアークスではありえない。人間でもダーカーでも複製体でも……フォトナーですらない。どこか自分に似た立ち位置なのである。
ふと、扉から顔を出し腰が引けたままの、フラウの姿を見やる。
長かった紫髪のポニーテールは断髪し。おかっぱだったサイドを襟足で括って垂らし……かつてのサポパ・イリスを踏襲した短めのツインテールにさせている。表情も多少は見えるようになっただろう。
精査の際にメディカルセンターから支給された「イージクラスタ」という可動性を重視した衣装に身を包んだ彼女は。以前のような……
アークスに登録する彼女の名前は、多少もじらせてもらった。
ルーサーにばれないためとかそういう理由ではない。単純に区別を付けるためのもの。
フ
どうせ呼び方はフラウで変わらない。
彼女に
同時にダークファルスが「フォトナーを器に憑依した」という事実が確定したのは、良い情報が聞けたものだと思っている。
さて。待たせてしまった。
フラウの元へ歩き寄り。
「ひっ……あ、あ……ま、待って……くだ、さ……」
自分と同程度の背丈の彼女を率いて、まずはロビーへと向かうことにする。
本日はアークス・シップ艦橋において、略式ではあるが……自分の叙任が行われる日なのだ。
……。
……。
……ああ、ちなみにどうでも良いことではあるが。
道中でレダと合流でき、そういう会話の内容があって思い出したので、一応までに。
自分は精通した。童貞も脱した。
フラウには、都合の良い
/
「―― では隊長ヒースクリフ。隊員フラウウェン。あなた達を惑星ナベリウス、リリーパ、アムドゥスキア……および惑星ウォパルにおける先遣調査隊、兼、教導隊員として任命しますよ。よろしくお願いしますね」
尖ったサングラスの奥に格式張った笑みを貼り付けて、カスラがこちらに電子媒体を差しだした。
恭しく受け取る。ふたりでサイン。これにて自分達は、現在アークスが派遣されている全惑星における教導官としての任務を開始したこととなる。
叙任式を終えた後。
艦橋出口のテレポーターを潜ると、自分と同じく新任教導官としての立場になったゼノが待ってくれていた。
「よう! 大変だったみたいだな、その
呼びかけてくれたゼノに頷き返しながら。
艦橋から出てくる人の流れを阻害しないよう、階段の隅まで移動した。
左腕 ―― 人工筋肉とフォトン含有装甲の、上腕と前腕と手のひらを、握って動かして見せてやる。
今は硬質の素材によって造られたそれは、戦後の処置として施してもらった「義手」である。
そう。
【双子】に喰われた身体の内。胃袋代わりの内的宇宙の中で、後から丸呑みをされた他の部分は無事に見つかったのだが……先に喰われた左腕は、とうとう見つからなかったのだ。
その割には『ザンバ』が、折れて尚自分の身体を縫い止めてくれていたあたり。愛剣には感謝をしておきたい所である。
「部分的なキャスト化手術を受けたって聞いたぜ。もう痛みとか、無いのかよ?」
ない。戦闘にも問題はない……どころか、左腕に装備する楯やボウガンとのフォトン的親和性は上昇しているという結果をメディカルセンターの医師から聞いている。
握って開いて。握って開いて。こうして動かしてみても軋む音のひとつもない、見事な出来であると思う。
「そうか、問題ないならよかったな。……で、だ。ヒースクリフとそこのお嬢さんは、どこで隊長をする予定なんだ?」
びくり、と服の裾を強く握られている。
後ろに完全に隠れてしまったフラウを、ゼノに向けて紹介しつつ。
自分達は現地ではなく「アークスの士官候補生を育成するための学校」に赴任する予定だ、と伝えておく。
「へぇ~! 面白ぇな、それ! どこにでも行ける権限はもらってんだろ? それでわざわざ学生指導に入るのかぁ」
頷く。
理由は単純。今現在のアークスにおける教習課程を自分も学んでおきたいから、だ。
実戦指導は主導でもティーチングアシスタントとしても行うが……座学面では、自分も学んでおきたいことがある。ヒースクリフという特性上、これから単独行動が多くなることは明白だ。戦闘面では無くアークスの福利厚生、システム面で扱えるものが沢山ある事だろう。
そういう意味で、外部教員である自分とフラウは。
仕官学校で3年ほど、アークスとしてのコネを作ろうと思っている。
……と、ゼノには率直に話したところ。
「そりゃあ、有効なような。そうでもないような。結局はマザーシップの演算頼みだからなぁ。アークス。……あー、でも最近じゃあ管理官前提でハイキャストとかが作られてるってのは聞いたから、そういう部分にゃ媚びうるのもアリかもな」
どうやら意図は汲んでくれたらしい。
ちなみにゼノはどうなのだろう。
「しばらくは実地指導だな。リリーパとアムドゥスキア辺りを担当しようと思ってる。レギアスからハンターとしてのクラス許可はもらったところだし、そっちの慣らしもかねてる」
なるほど。
ナベリウスはゲッテムハルトが居るから……ということか。
「そう、なんだが……俺がファングバンサー討伐っていう成果をあげて教導隊に入ったって話をしたらよ。エコーのやつ、ナベリウスで訓練積むって張り切っちまってさ。あいつの適性的にはリリーパがいんだけどなぁ」
雷テクニックを得意としているからだろう。機甲種には
そちらにはついていってやらないのだろうか。
「俺は俺。エコーはエコーだ。人の後をついていくのが絶対的な正解だとは、俺は思わねぇからな。……ヒースだってそうなんだろ?」
それはそうだ。
だからこそいきなり、士官学校への赴任だとかいう脇道に逸れてみている。
カウンターの方角をみやる。
ロビーを行き交う、談笑で集まる、クエストを吟味する。そういうアークス達の活発な姿を見下ろして。
だらりと柵にもたれた、ゼノがいう。
「士官学校、楽しめると良いな。そんでもってお前の目的も達成できちまえば、一石二鳥だぜ」
彼は本当に良い笑顔で笑うので。
こちらこそ、と拳をぶつけて。分かれる事にした。
/
再びマイルームへ帰ってきてから、思う。
結局「自分は何者なのか」という問いに対して……少しは答えられるようになった。近づけたと感じている。
自分は、アークスではない。オラクルの人間でもない。
けれど少なくとも、ただの
そう確信できるに至った情報源……人工知能のオル・ガとはあれ以降、直接的なコミュニケーションをとれていない。
あの乳白色の空間で話した通り。オル・ガのメモリの殆どは、「あの肉体」を格納・封印するために使われているのだろう。それでも一般的なマグよりは多機能なのだから、不足はない。
倒れ込んでいたベッドから、起きる。
ベランダの犬小屋で眠っていたフラウが慌てて起き上がり、ばたばたと駆けてくる姿が視界の端に映った。
士官学校への赴任を翌週に控え。
やることが尽きないのは、良いことだ。折れた『ザンバ』の代わりも探さなければならない。あの肉体で剣へと変貌していた長杖『イモータルフェザー』の、割れてしまった核の代わりも……いや。流石に新たに長杖を作る方が早いだろうか。
歩いてきた先で、前を向く。
未だ道は続いている。託された願いも。山積した課題と目標も、路傍に数多転がっている。
アークスでは無く、オラクル人ですら無い自分にも……丁度同じ境遇の相棒が、出来たところだ。
世界も宇宙も。目の前に連綿と繋がり、広がっている。
その中にはまだ見ぬ出会いも自分の手がかりも、あることだろう。
では行こう。量子バックパックを背負い。
自分達は、今日も自室を後にした。
ということで一部完結とさせていただきます。
ご拝読、ありがとうございました!
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スーパー設定ネタバレありの長っげぇ外部あとがき(note様)はこちらからどうぞ。
↓
https://note.com/scribble_2nd/n/nfbaffa543c79
・フラウウェン
名前としては結構ちぐはぐで日本語英語的、かつ造語感が強いぽいですが、まぁもじるのがメインですしいいだろうということで。
ヒースクリフ・フロウウェンはそもそも名姓順だろうって……?
うぅん。そうですね(諦め
作中ではヒースのあの肉体の能力 ―― 魂の格納と切り離しによって、よりにもよって「フォトナーのフローのコピーである『フラウ』という人格」を……つまりは「本来ありもしないものをここに存在させている」という理屈です。
なので、ある程度女の子然とした描写をしていますね。
……今のところ怯えてしかいない? いえまぁ、だから、女の子然としていますね。
・士官学校
この辺は明言はされていませんが、有るっぽいですよね……?
ウルクさんとかはちょっと指揮側としては異端の才能過ぎるので、置いておくとしても。
現地で指揮を執る人と管制官と、シップ管理などが主のハイキャスト(シエラなどの最初からキャストとして造られた種族)は別ですからね。実際としてあっても良いのでは無いでしょうか。
いちおうここでの話が1.5章であり、アフィンやらルピカやらが登場する予定となっています。
ただし予定は未定。
・ 48.World with me
ここにだけ意味のある副題を付けました。
ここからがPSO2だぜ、という想いを込めて。
では、では。