※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

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05.アークス研修5

 

 05.

 

 

 研修の最終、4週目。

 メルフォンシーナが巨大なホログラム ―― ロックベアへ法撃術(テクニック)を放つ。

 

「……死になさい!」

 

 物騒な言葉と共に、ロックベアの顔面を捉える位置に風が渦巻いて、切り裂いた。

 エネミーの意識がそちらへ向いた。今だろう。接近。

 

「トドメを!」

 

 地面を蹴り大剣を突き出す。

 自分はロックベアの視界の外から ―― 裏拳で放たれた拳を、大剣でいなすように斬り払った。

 

 ドシィィン、という重量級の音。

 こちらの2倍はあるようなロックベアの体勢が大きく崩れていた。そもそも攻撃のために拳を振り回しては倒れているような、アンバランスさを持つ原生生物だ。こうなるのは当然と言える。

 自分はロックベアの身体の上に着地。大剣の持ち手を素早く入れ替えて、頭。突き立てた。

 

 VR生成物のため血は出ない。

 代わりに青い結晶が弾けるようなエフェクトが散って、(エマージェンシー)トライアル成功のアナウンスが入った。

 

 大剣を背負う。

 息をひとつ吐いて振り向くと。

 

「―― VRロックベアの消滅を確認。これにて訓練は終了です。おめでとうございます、ヒース様。全行程の終了です」

 

 短杖(ウォンド)を腰に収め。後方で支援をくれていたメルフォンシーナとハイタッチを交わした。

 そう。4週目……アークス研修の最終行程。その最後のプログラムが、星固有の大型生物。ロックベアの討伐であったらしい。

 

 自分の場合は始めから、このロックベアなどよりずっと凶暴な……ゲッテムハルト隊長と手合わせをしていたのだ。既に合格をもらっているとはいえ、通常の行程を修了できたというのは自信になる。

 少なくとも自分がアークス戦闘部隊に求められる最低限の戦闘能力を保持していると、名実ともに証明できたのだから。

 

「そうですね。テクニックはデバフのみ。フォトンアーツは使えない。それでもロックベアの討伐は難なくこなせるというならば、十分でしょう」

 

 ついでにメルフォンシーナからもお墨付きをもらってしまった。

 ありがたいことだ。彼女の支援にもお礼を言いながら、ふたりで訓練室を出る事にした。

 

 さて。これにてアークスとしての研修は修了である。

 とはいえゲッテムハルト隊長からも、メルフォンシーナからも、多くの課題をもらっている。自分のアークスシップに帰投してからも、やるべきことは山積みだ。

 

 武器を量子化し。訓練用シップの作戦室へ移動し終えると。

 

「―― では、これを。アークス上層部からジグさんへの、正式な紹介状です」

 

 メルフォンシーナから1枚の書類(量子)が手渡された。

 マグ内に格納し、展開する。言われたとおりの紹介状だ。名義がゲッテムハルトではなくレギアスとなっているあたり、あの日……1週目にゲッテムハルトから合格をもらった時点で、手配を済ませていたのだろう。日付がそうなっている。

 レギアスは六芒均衡という位置に属する、アークスのトップ6みたいな役割の人だ。お偉いさんである。

 

「はい。レギアスさん名義にした方が、おそらくジグさんへの通りは良いと思われますので。……ジグさんは現在、少々熱量は失っているにしても……武器の鍛冶を行うことが出来る、数少ない技術の継承者です。ヒース様専用の楯の作成や、フォースに合った大剣の調整に役立ってくれるでしょう」

 

 そう。まずは武器の調整。

 楯は確かに。自分は持った方がいいだろうと、ここ数日の訓練から実感が出来ていた。どうも自分の身体は、楯がある事を前提に動いていたらしい。

 

 ない物を作る、のは大変ではあるだろう。色々と、上への通しとかそういうのが。

 しかしまずは相談してみなくては始まらないのである。

 

 ……ちなみにジグさんはどんな人なのだろうか。

 

「……現代では唯一、創世器の調整が可能なキャストのお方です。同時に、企業に頼らないオリジナルの武器を作るには、彼を通さなくては許可が下りないと聞いています」

 

 なるほど。つまりは鍛冶のお偉いさん、だ。

 ちなみに創世器とは他の武器とは一線を画した、戦術級の戦果をもたらすことの出来るオートクチュール武器のことを指す。素材も持ち主も選ぶ必要があり、殆どの場合はコストがリターンに見合わないため、数は作られていないとか。

 

 ダーカーは数で攻めてくるエネミーである。

 アークスも最低限、数が必要なのだ。

 

「とにかく。そちらの紹介状があれば、今の(・・)ジグ様にもアークスからの正式な指令として伝わってくれるでしょう。是非ともお役立てください。……では次に」

 

 次に。

 メルフォンシーナは机の上にもうひとつ、紹介状を並べて見せた。

 

 封を見る。宛先は「クラリスクレイス」。

 またもお偉いさん。彼女も先に挙げた六芒均衡、そのひとりだ。

 

「こちらも私から。ヒース様のデバフテクニックについて上層部へ報告をしましたところ、クラリスクレイスさんから、是非とも見せて欲しい……と返答をもらいまして。面会を取り付けることが出来ました」

 

 メルフォンシーナは仕事が出来る。率直な感想である。

 

「……これは私の見立てなだけで、可能性の話ではあるのですが。貴方は別の……アークスの本流ではない、別系統のテクニックが扱えるのでは?」

 

 ……そうだろうな、とは自分も思う。

 それを探す手段がないので困っていたが。クラリスクレイスは六芒均衡の中でも、フォース……強力無比なテクニックを駆使するアークスだ。相談先としてこれ以上の人物はない。

 

「万年戦闘状態であるアークスにおいて、新たにテクニックが開発されるということは珍しくありません。六芒の彼女は特に、開発に余念がないと聞きます。力を借りてみてはいかがでしょう」

 

 そうしよう。ありがとう。

 彼女に再び礼を言って、ふたつの紹介状をしまい込む。

 

 ……そして最後に。

 机に置かれたのは、ハサミ(・・・)

 

「これは私ではなく、ゲッテムハルト様からです。髪が長くて邪魔そうだから切っておけと。……ついでにヒースクリフ様のマイルーム権限を付与できるキーにもなりますので、ご活用ください」

 

 アークスには個人ごとに、シップの居住区内に自由に扱えるマイルームが与えられる。正隊員としての資格を得たので、この際に渡しておくということだろう。

 ハサミの方がついでだとは思うのだが、実際に髪は長い。後で切ろう。予定を追加しておく。

 

「では。明日早朝に帰還のための入港許可を申請しておきました。プライベートシップで、いつでも自由にご帰還ください」

 

 最後の最後まで、手続き関係を済ませておいてくれたようだ。

 本当にありがとう。ならば明日はメルフォンシーナには会えないということか。

 改めて、挨拶を済ませておくことにする。自分はここで多くのことを学ぶことができた。……ふたりとも、次の任務などは決まっていたりするのだろうか。

 

「私は……ゲッテムハルト様がいるナベリウスへ向かいます」

 

 後を追って、という意味なのだろう。メルフォンシーナはふいと視線を落として、悩むことはないと言い切った。

 ……最後に自分からも、少しだけ。

 

 この訓練の恩は、アークスとしての働きで返すのが1番だろう。そうするとして。

 感想を返しておく。自分から見たメルフォンシーナは「ゲッテムハルトの付属品」ではなかったと。

 

「……? いえ。でも、私は……」

 

 付属品はついて回るだけだ。書類仕事や手続きの代わりをすることは、出来ないだろう。

 どちらかというと従者、という言い分が正しいように思う。

 

「……」

 

 それをゲッテムハルトが許すかは、また別の話だが。

 そもそも彼は、彼女の同伴を嫌がっていた……ようにも見えた。部屋にも入れていなかった辺り。関係をどうこうしようとは思わない。自分が決めることではないからだ。

 ただ、物には肉なんてついていない。有機的な動きもしないのである。

 

 彼女は一度、悩むように目を伏せて。

 

「……お気遣いは、ありがたく受け取っておくことにします」

 

 そういう結論にするようだ。

 なら自分としてはこれ以上言うこともない。

 

 ありがとう。

 何度も重ねてそう伝え、次の日。虚数機関を抱えるアークスシップへと帰投した。

 

 






・VRシステム
 ホログラムでエネミーを再現し、アークス各位が戦闘訓練を行う事の出来るシステム。
 こちらの時間における時系列的には、かなり後発で導入されたシステムだが、どう考えても初期からあった方が便利。


・創星器
 今宇宙の超初期の時点から作成が確認されている、戦術級かそれ以上の威力・性能・効果を持つ武器のこと。
 昔のものは素材としてフォトナーが必要で、近現代に移るにつれて、同性能のものをフォトナーなどの犠牲無く作成できるようになったとされているそうです。

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