※この作品はR-18です。

催眠玩具船団・オラクル   作:どろまみれ

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08.虚数機関3

 

 08.

 

 

 結局、ルーサーはどんな研究をしているのだろうか。

 気になってしまったのは先日のクロトとの会話のせいだろう。

 

 彼がデューマンという種族を産み出したのは知っている。ダーカーの殲滅を使命とするアークスにとって、戦闘能力に長けた種族の拡張というのは命題であるからだ。

 弟であるハドレッド……造龍を作り出したことも知っている。クーナによれば惑星アムドゥスキアに由来する固有の情報端末、その素材に近しいもので出来ていると言うことも。

 

 アークスという組織はそういうもの。

 その身を削ってでもダーカー殲滅に近づければそれで良い。

 あちらを滅さなければ、いずれこちらが滅びると。驚異の第一に、ダーカーという種族を置いているのだ。

 

 ……その上で、ルーサーにはルーサーの目的があるように感じている。

 それは何なのだろうか。何故ルーサーは、ダーカーの巣などという場所に来ていたのだろうか。

 

 今ならば聞けるだろう。そういう事を考えながら、虚数機関へ続く道を歩いてゆく。

 途中でワープをはさんで。ワープ中に貸与されているインターセプターを起動。

 アークスシップから独立した場所に、虚数機関は存在している。

 

 転送が終わる。入り口は目の前だ。

 呼び鈴を鳴らすと、解錠。

 

「―― 来たかい」

 

 椅子に座ったルーサーがくるりとこちらを向いた。

 珍しくタブレットはいじっていない。机に肘を着いて、いつにもまして興味深そうな瞳を投げかけてくる。

 武器防具の準備を終えた。これでアークスとしての教習を全て終えたことを説明する。お礼も、同時に。

 

「構わないさ。君がどのように戦うのか……物語を紡ぐのか。僕はとても楽しみにしているよ」

 

 言葉通りに楽しそうに、ルーサーは笑う。

 こちらから聞かねばならないのだろう。だから問う。自分は虚数機関の一員として、どのように動けば良いだろうか。

 

「クーナから少し聞いただろう。君は一般的な戦闘部隊のアークスとして所属していてくれればそれで良い。これだけでは不服かい?」

 

 不服というわけではない。意味のあることならば、これからも自分本位にアークスを見て回るだろう。

 しかし自分は命を救ってもらったのだ。それに見合う返礼が、今までのように『自分の過去を思い出すためだけに動く』ことだとは思わない。

 

 もっと率直に言おう。

 借りたものを返せないでいるのは、気持ちが悪い。

 

「いいね。面白い表現だ。……ふむ。じゃあ説明しようか。ヒースに倣ってこちらからも率直に言わせてもらえば……その内にこの虚数機関という集まりは、解体されることになる。事故が起こる(・・・・・・)予定なんだよ」

 

 起こる予定。意図的な事故と言うことか。

 

「そうだね。……何が起こるのかは教えられないが、この件について君に何かをしてもらおうとは思わない。見える範囲の未来に解体が予定されている組織に、貢献してもらおうとも思わない。これが君に対価を強いていない、1番の理由だよ」

 

 成る程。

 自分がこれだけこの場所で過ごしていても研究内容の端すら掴めなかったのは、そういう理由か。

 既にこの機関は、役目を終えていると。

 

「ついでに言えば君を助けたのは、ダーカー側のクローン技術を吸収すれば、デューマン製造の技術にひと工夫出来るかも知れないと思ったからさ」

 

 ルーサーは瞳を細める。

 爪と指を絡め、すりあわせる。

 

「……結論から言えば君はクローンでは無く、けれども、アークスではない別のフォトン体系をもつ戦士だった。だから戦闘部門へ推薦するという采配をした。どうだい、理屈はあっているだろう?」

 

 確かだ。

 ……追求はこれまでにしよう。

 自分にはこれ以上、彼へ問うだけの理由を持っていない。

 

「……ふむ、君は……うん?」

 

 ルーサーの言葉を先んじて止める。

 

 自分が彼に助けられた側だから、ではない。

 そもそも自分以外に興味が無い(・・・・・)ことが判ったのだ。

 

 内面と過去を探っていて思ったことがある。

 自分の中には確かに、何か他のものが棲んでいる。

 大剣を扱うから。体術があるから。だからどうだというのだ。

 

 アークス達にも興味以上のものを感じることはなかった。

 ゲッテムハルトとメルフォンシーナが。ゼノとエコーが。ジグが。クロトが。

 どうせ彼らは全て、ダーカー殲滅のために費やされる存在だ。

 

 ありがたさは感じている。

 恩はある。

 

 けれどそこではない。

 そこではないのだ。

 

 自らの胸に手を当てる。

 世界と宇宙の中心がここにある。

 未だ熱さを伴って、内側を食い破って飛び出してしまいそうなくらいに燃えている。

 自分は過去に何か、()を持っていた。その残り火がここにある。

 

 ただただ攻撃性だけを持って蠢くダーカーなど、生命ですらない。

 そんなダーカーを殲滅するためだけに生きているアークス達が、人形に見える。

 

 救いようがない。

 だからどうでも良い。

 熱は自分の内側にだけあって。

 だから私は、自らの過去を追う。

 

 ―― この未明の熱を放り出してしまいたい。

 ―― 放り出してしまわなければ、生きた心地がしていない。

 

 これから解放されなければ、私は死んだままなのだ。

 そのためだけに、私は歩いて前へと進もう。

 邪魔な物全て、斬り飛ばしてでも。前へ。

 

「どうやらこちらから尋ねる必要はなかったようだ。君はやはり、僕と同じ種類の人間だった。嬉しく思うとも。……それで? 君はこれから、どうする?」

 

 結論から。私はアークスに協力をしよう。

 それが自身を救った者の願いであると、今、聞いたから。

 ……だからルーサーには、そのままくれてやることにする。

 

「何をだい?」

 

 もうひとつ(・・・・・)のマグを、だ。

 自分が倒れていた場には、オル・ガを名乗るこのマグが落ちていた。

 記憶の中にはもうひとつ。同型が落ちていたはずなのだ。それの所有権を、放棄する。

 

「……」

 

 無言のままにぃと笑ったルーサーに、どう使うつもりなのかは知らないが……と続けて。

 強いて言えば。そちらに何か私に関する情報が入っていたのならば、教えて欲しさはあるのだが。

 

「何もなかったね、何もだ。……こちらのマグは、君が持つオル・ガの片割れでしかない。持っている情報は同じだよ。けれどその分このマグは、外付けの演算装置として利用できる」

 

 ある程度は彼の興味を惹けたようで、ルーサーが饒舌になる。

 

「結論から言おう。以前に交流が断絶されたアムドゥスキアの龍種に、この演算装置を持って再接触してみようと考えているんだ。ロのカミツと呼ばれる彼女(・・)の中であれば、アカシックレコードの端に触れ……シオンの捕縛のみならずコントロールも可能かも知れない、とね」

 

 自分が知らない名前も単語も、彼の中では完結しているのだろう。問題は無い。

 その目的のために自分を救い。マグを拝借したと。

 

「単純に君への興味もあるけれどね。けれどそちらは、君自身が追うのだろう? ならば僕は君の結末までを見届けて、記録するとしようじゃないか。それでいい」

 

 ぎしり。ルーサーは椅子に背をもたれ、満足げな表情。

 

「なるほど。君が、君こそが混沌の種(・・・・)か。確かに君はアークスではない。この歴史を外から観測し、好き勝手に弄り倒す権利がある。面白い。面白い結論だ」

 

 瞳が青緑に輝いた。

 彼の回りに揺らめいていたフォトンが、粒子を放ち昇ってゆく。

 

「虚数機関から出向だ、ヒースクリフ。アークス戦闘部門。転属では無く、正式な辞令だとも。……混沌の中でまた会おう、アークスならざる人。自分勝手な何者か」

 

 最後に一礼してルーサーの部屋を出る。

 また会う時が来るだろうか。そういう最悪の想像をしながら、私は虚数機関を後にした。

 

 

 /

 

 

「そうですか。お出になるのですね、ヒース兄さまは」

 

 マイルームへ自分の荷物を運ぶ途中で、妹のクーナと合流した。

 未だ機関の解体については知らないようだったが、自分の出向については、別の機関員から聞かされたのだそうだ。

 実際には虚数機関の籍が無くなるわけではない。しかし、あの研究室を訪れる機会はなくなるだろう。

 

 聞いておく。クーナはどう働いているのだろうか。

 

「……兄さまには伝えて良いと聞いているので、伝えます。私は諜報員として動いています」

 

 そう言いながら彼女は、肌に貼り付くような……肩から腰にかけた身体のライン丸出しのスーツを指先で摘まんでみせる。

 どうやら彼女がもつ特殊な武器に適した、隠密用の素材で出来ているようだ。それにしても尻などは殆ど形がそのまま判るような、扇情的な格好だとは思うのだが。

 

 しかし……諜報員。なんともまた、アークスらしくない役職だ。

 なにせアークスが目の敵にしているのは攻撃性と敵愾心がそのまま形になったようなエネミー、ダーカーなのである。斥候や先行調査員であれば兎も角、情報戦をしかけてくるとは思えない。

 だからまぁ、内部(・・)むけなのだろう。そう結論づけておく。

 

 いずれにせよ、クーナ自身の戦闘力について心配はしていない。が。身体には気をつけて欲しい。自分はクーナにも借りがある。これから出向してしまう自分が言うのも何だが、の堂々巡り。

 それにハドレッドについても。くれぐれも、宜しく頼む。

 

「……そうですね。私はハドレッドが居る限り、機関に身を置き続けるでしょうから」

 

 弟と共に居る。家族だから。

 悲壮というわけでもなく当然のように、クーナは涼しい顔。

 

 機関の外であるため姿のない弟分を想う顔。

 その顔のまま、こちらを見上げた。

 

「兄さまもそうです。機関に残された、数少ない人員のひとり。……また顔を出してください」

 

 都合が合えば出すことにしよう。ルーサーも訪問くらいは断らないに違いない。

 とはいえ新人戦闘員である現在、自分には仕事の都合などないのだが。

 

 そう思っていると、クーナがどこからか書類(メール)を1通取り出してみせた。

 

「ではこちらを兄さまに。お仕事の切欠となれば幸いです」

 

 受け取って表を見る。

 『情報屋』からの依頼だそうだ。

 

「私にあてられたものではありません。ルーサーが抱え死蔵していた依頼のひとつであるようです」

 

 色々と理由はあって実施はされていなかったようですが……と付け足される。

 裏を見る。差出人の所には、パティ&ティアという連名が書かれていた。

 

「内容は検閲済みです。どこからか嗅ぎつけた機関員への取材と、惑星アムドゥスキアへの先行調査と、その護衛。よくばりな内容ではありますが……今の兄さまにはぴったりなのでは?」

 

 ぴったりすぎる。

 アークスとしての初仕事は、決定したようなものだった。

 





・デューマン
 PSOをシリーズとしてみた場合、ポータブル2インフィニティから登場した種族。
 肌は白く、角が頭に生えるのが特徴。転生だとか色々と設定は入り組んでいる。


・ゼルシウス
 身体のラインがばっちり出るエロコス。特に尻。
 あまりにもあまりなので、一時期には肌色ゼルシウスというコスチュームが流行したほど。
 今はもっと酷いのがあるので気にならない(
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