「やああっ!!」
「ぐああっ!?」
ハンマーが振り下ろされる寸前、アクマは後方に吹き飛ぶ。その直後に額の紋様が消え去り、モモカはアクマの浄化に成功したと思った。
「こ、ここは?」
「狩人君!?良かった、元に戻ったんだね!!」
「うわぁっ!?ま、魔法少女!?」
目を覚ました狩人はモモカの姿を見て驚き、彼女はアクマに乗っ取られている間の記憶がなくなったのだと思って慌てて誤魔化す。
「あ、えっと……じ、実は君はアクマに乗っ取られてたんだよ。だから私の力で元に戻したんだよ」
「え?アクマ?そ、それって噂になってる化物の事?」
「そうそう!!もうアクマは浄化したから大丈夫だからね!!」
「な、何だかよく分からないけど、助けてくれてありがとうございます」
狩人は起き上がるとモモカは安堵するが、落ちているスマホに気付く。不思議そうな顔をして拾い上げると、スマホの動画が再生されて生徒会室で春香が変身する場面が映し出される。
「こ、これって!?」
「わっ!?そ、それは見ちゃ駄目!!」
「ま、まさか会長ですか!?」
「ち、違うよ!?私はモモカだよ!?」
モモカは必死に誤魔化そうとするが、動画を見られた以上は誤魔化す事はできなかった。狩人はスマホを見せつけながら問い質す。
「やっぱり会長ですよね?よく聞くと声だって似てる気がする」
「う、ううっ……」
「答えてください!!いったいどうして会長がそんな姿に!?」
「……はあっ、分かったよ」
春香はこれ以上に隠しきれないと判断し、彼女は胸元のペンダントに手を伸ばすと、変身を解除して元の姿に戻った。春香が戻ったのを見て狩人は驚愕の表情を浮かべた。
「そ、そんな!?会長がまさか魔法少女だったなんて全然気づきませんでした!!」
「み、皆には内緒にしてね?バレたら大変な事になるから内緒にしてるんだ」
「分かりました。でも、会長の正体を教えてください」
「……絶対に誰にも言わないと約束してくれる?」
「信用して下さい!!俺が会長を裏切るはずないじゃないですか!!」
「そ、そうだよね」
狩人の言葉に春香は日頃の彼の行動を思い返し、生徒会に入ってからずっと自分のために献身的に接してくれた事を思い出す。彼ならば信用できると思い、春香は魔法少女に至るまでの経緯を話す。
――事の発端は一年半前まで遡り、高等部に進学したばかりの頃に春香と秋香は一人の少年と出会った。その少年こそが「天使」であり、実を言えば天使の正体は春香達の弟ではなく、そもそも彼はこちらの世界の人間ではなかった。
天使の正体は「異世界人」であり、彼が住んでいた世界は「アクマ」という寄生生物によって滅ぼされかけたが、生き残った人々が力を合わせてアクマに対抗する兵器を生み出した。その兵器こそが春香達が所持している宝石で名前は「ライフジュエル」という。
ライフジュエルを使用すれば十代後半の女性の姿に変身し、寄生生物であるアクマにも対抗できる力を手に入れられる。ライフジュエルのお陰で天使の世界のアクマの殆どは滅びたが、生き残ったアクマの中に世界を行き来する能力を持つ存在が現れ、狩人達が暮らす世界に逃げ延びた。
こちらの世界の兵器ではアクマに対抗する事はできず、このままでは地球がアクマに滅ぼされる事を危惧した異世界人は「天使」を派遣した。彼の目的は地球に逃げ込んだアクマの殲滅であり、そのために彼にはライフジュエルを与えられた。しかし、こちらの世界に天使が転移した際、異世界人の襲来を予測していたアクマの集団に襲われた。
命からがら天使は逃げ延びる事に成功したが、彼が所持していた三つのライフジュエルの内、一つはアクマに奪われてしまった。辛うじて守り通した二つのライフジュエルも傷ついた彼では使いこなせず、怪我を負って弱っていた所を春香と秋香が見つけて保護したという。
「じゃあ、天使君は人間じゃなくて異世界人なんですか!?」
「別の世界から来たけど、天使君の話だと肉体の構造はこっちの世界の人と殆ど変わりないと言ってたよ?こっちの世界に来るときに身体を少し改造されたとは言ってたけど」
「そ、そうなんですか……ファンタジーと思ったらSFみたいな話ですね」
天使はこちらの世界に訪れる前に肉体に改造が施され、様々な能力が与えられた。彼の本来の役割は持参したライフジュエルをこちらの世界の人間に与えて一緒に戦ってもらうつもりだった。
「天使君の話だとライフジュエルは一人一個しか扱えないから、こっちの世界の人にも与えて一緒に戦ってもらう予定だったの。だから私と秋香ちゃんが天使君のために一緒に戦う事になったんだよ」
「でも、どうして会長たちが?」
「だって、最初に会った時の天使君は凄くひどい怪我をしてて放っておけなかったんだ。もしも私達が止めなかったら天使君は一人で戦うつもりだったんだよ。だから私達も一緒に戦おうと決めたの!!」
「なるほど」
天使を保護した際に春香と秋香は事情を聞かされ、酷い怪我を負いながらも自分達とは何の関係もないこちらの世界の人間のために戦おうとする彼の姿に胸を打たれた。だから春香と秋香はライフジュエルを受け取って「魔法少女」に変身して戦う事を決意したという。
「でも、どうして魔法少女なんですか?」
「え、えっとね。実はライフジュエルには変身する能力は元々はなかったんだよ?でも、秋香ちゃんが元の姿のままで戦うとまずいからって変身する能力を付け加えたの」
「そ、そうですか」
魔法少女の姿に変身するのは秋香の提案らしく、仮に変身せずに戦っていたら瞬く間に正体が知られていただろう。しかし、狩人が気になったのは天使との行為だった。
「あの、乗っ取られてた時の記憶が戻ってきたんですけど、どうして生徒会室であんなことを?」
「えっ!?ま、まさか覚えてるの!?」
「はい、おぼろげですけど」
「あ、あれは違うから!!その、エッチな事をしてたわけじゃないの!!いや、してたんだけど……ええと、どう説明すればいいのかな!?」
「お、落ち着いて下さい!!何か理由があるんでしょう?」
生徒会室での行為を知られて春香は恥ずかしそうに顔を隠すが、狩人の言葉に頷く。
「じ、実はね。こっちの世界の人はライフジュエルを完全には使いこなせないの」
「使いこなせない?」
「ライフジュエルで変身するにはマナと呼ばれる力が必要なの。天使君は異世界人だからマナを生成できるんだけど、こっちの世界の人はマナは生み出せないから、事前に受け取った分のマナが切れるとライフジュエルが使いこなせなくなって変身が解けちゃうんだって」
「えっ!?それってまずいんじゃ……」
「だから私達は変身する前に天使君にマナを分けてもらう必要があるの。でも、マナを分けてもらうにはその……せ、性行為が一番なんだって」
「なるほど、そういう事情だったんですね」
狩人は生徒会室での三人のやり取りからだいたいの事情は察していたが、話を聞いて確信した。天使は二人とは本当の姉弟ではなく、アクマを倒すために二人にマナを与えるために性行為していたと知って少し安心する。どうやら春香は天使に恋愛感情は抱いている様子はなく、性行為もアクマを倒すために必要な行為と割り切って行っているらしい。
「天使君の話だとマナは男女の性行為でしか分け与えられないみたいで、だから変身前に……せ、性行為をしないといけないの」
「じゃあ、もしかして天使君と二人は……」
「い、言っておくけど最後まではしてないからね?今の所はその……顔射?だけで十分にマナが回復できるから」
「へ、へえっ……」
春香の口から「顔射」という言葉を聞く日が来るとは思わなかったが、どうやら三人は本格的な性行為はまだしていないらしい。それを知って狩人は安堵するが、それでも春香が他の男と性行為する事に嫉妬してしまう。
「……マナを余分に補給するとかはできないんですか?」
「それが無理なの。天使ちゃんが一日にマナを生成する量は決まってるし、私達のライフジュエルは一度変身すると蓄積しているマナを全部使い切る仕組みだから」
「意外と不便なんですね」
「でも、良かったよ。今日は早めに補給してたから変身できて……あ、でも帰ったら天使君にまた補給してもらわないと」
「……補給か」
全ての事情を察した狩人は笑みを浮かべ、春香の正体と彼女の首にかけているライフジュエルなる宝石に視線を向ける。
(この宝石に触れるのはまずいな)
狩人に憑りついたアクマは浄化はしておらず、先ほどから春香に語り掛けてるのは狩人に化けたアクマだった。アクマの狙いは魔法少女の情報を探る事、そして春香を蹂躙するために策を打つ。
春香の話によれば現在の彼女は変身できないようだが、この場で彼女を襲うのはまずい。春香が帰らなければ妹の秋香に怪しまれる可能性もあり、そうなれば色々とまずい。
(ライフジュエルか。まさか、こんな形で使う事になるとはな)
実を言えば狩人を襲ったアクマこそが天使を襲撃し、彼から「ライフジュエル」を奪ったアクマ張本人だった。春香のライフジュエルと違い、アクマが手に入れたライフジュエルは既にアクマの力の一部と化していた。