【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「うちの娘がすいませんねぇヒーロー?遊び盛りで怪我が多いんですよ」
目はにっこり笑って、治崎がそう言った。ルミリオンことミリオはまずいなと、顔にこそ出さなかったが、緑谷出久が何かしないかと、心構えだけはした。
サーを介して、さらには噂で、事実で通形ミリオは緑谷出久の人となりを知っている。普段でこそただの、落ち着いた優しい少年であるが、一度戦いのスイッチが入れば殺意を激らせ相手を完膚なきまで叩き潰す。
そんな少年が標的と接敵したら、まどろっこしいと戦闘に入るのではと。インターンで、彼を引き受けてミリオに組まされた理由もそれがあった。
しかし……。
「いえいえ、こっちこそすいません、よく見るべきでした……ぶつかって申し訳ありません」
立ち上がって治崎に謝った緑谷に、ミリオはおっ?と、話と違う行動に出た緑谷を見つつ、心中でいいぞと彼の動揺しない様を褒めた。
「おしゃれなマスクですね、もしかして……喉や鼻がよろしくなかったりします?ペストマスクって中にハーブを詰めて息の通りをよくするって聞きますから」
「ええ、鼻詰まりがね、メントール系のを詰めて爽快ですよ、汚れにも敏感でして……排気ガスもね、お二人とも初めて見るヒーローだ……」
2人の何気ない会話が続く中、ミリオは一度離れるべきだなとにっこり笑って話に入りつつ、距離を置こうとした。
「そうです、まだ新人なんで緊張しちゃって……さ!行こうか相棒、まだ見ぬ未来に向かおうぜ?」
「あ、はい先輩、では僕たちはこれで……」
改めて一礼をして、緑谷もミリオと離れようとした。それが今は正しいと思ったからーーしかし。
「んお!?」
がっしりと、緑谷の新しいヒーロースーツの白いコートを掴み、白髪の少女は、震えて緑谷を見上げた。そして、聞こえてしまった。
行かないで、と……。
聞いてしまったのだ、緑谷は……ああ見た瞬間分かってた。この子は、治崎とやらに何かされて逃げてきたのが見て分かる。
「こらこらエリ、駄目じゃないか、ヒーローに迷惑をかけたら、これから彼らは街を見回るパトロールなんだから、ね?」
あいも変わらず、治崎は普通に笑ってる、ああそうだ、このまま彼女を助けてやりたいと緑谷は思った……しかし、それはできない!
彼女が明確に、助けて!と叫んでくれたらまだ色々できたが、それをしていない!開いた手を親指から握ったハンドサインもしてない!治崎が何かしたのを見たわけじゃあない!
「あー……なんだか、なつかれちゃったかなぁ……どうしましょう先輩?」
困ったなと緑谷は頭を掻いて、ミリオに助け舟を出してもらおうと顔を向けたが……。
「エリ?これ以上ヒーロー達を…‥困らせちゃだめだ」
治崎が、その手にはめた手袋に手をかけた。それを見たエリと呼ばれた白髪の少女は、さらに怯えを強めて緑谷のコートから手を離し、治崎の元に戻って行った。
「すいません引き止めちゃって……パトロール、頑張ってくださいね?」
エリの手を引いて、治崎は路地裏に消えていった。それを見送った緑谷は、そのままミリオの方に向いて、そしてパトロールの続きをと歩き出した。
「よく……耐えたね、イズク」
「……離れたら、サーに連絡しましょう」
「うん、雨も降って来たし早く合流しよう……」
ミリオが横を見ると、緑谷は斜め下に向いて、拳を握りしめていた。顔が髪の毛で見えなかったが、赤い雫が伝い、地面に落ちていた。雨の雫が一粒、一粒と落ちてくる、ミリオはスマホを取り出すや、ナイトアイに連絡を入れた。
「すんません、事故りました……まさかあんな、転校生と四角でバッタリな感じになるとは……」
連絡を取り合い、近場のコンビニで死穢八斎會本拠地を張っていたナイトアイと、バブルガールに緑谷とミリオは合流した。開口一番、事故で治崎と遭遇した事を謝ったミリオに、ナイトアイは待ったと手を出して言う。
「いや、これは私の失態……事前にお前たちを見ていれば防げた……」
この失態は自分にある、だから気に病むなとナイトアイが言う。ふと、バブルガールは緑谷が、何やら顔を気にしている様子を見てどうしたのかと尋ねた。
「緑谷くん、どうしたの?何かあった?」
「あ、その……緑谷、奥歯が欠けたみたいで」
「なに……?何があったんだ、ミリオ?」
何故に?接敵して戦闘したわけでもなく?ナイトアイはその理由を尋ねると、それもミリオが手を挙げて話した。
「実は、怪我の功名なんですけどね、新しい情報で、治崎には娘がいます……彼女とも接触しました」
「娘が……それと緑谷の奥歯に何か関係が?」
「ええと……彼なりに我慢してたというか……」
どう説明すべきかと困るミリオに、緑谷がここからは自分で話すと遮った。
「エリちゃんと呼ばれてました、その子は……手足に包帯を巻いてて、触れる事ができない位に怯えてて、恐らく、虐待されてるのが見た目で伺えました」
ナイトアイからも、見下ろす形の為に髪の毛で目元が隠れていたが、雨に混じり涙を流しているのが分かった。
「あそこで、保護するべきだったのかと思う気持ちと、今現在自分はナイトアイさんのインターンの立場である事、そもそも治崎が現行犯じゃないと考えて、下手に動いたら余計に場を掻き回すと感じて……何とか今は離れるべきだと思って……歯を食いしばってたら……」
その話を聞いたナイトアイは……オールマイトから聞いた様子と違うなと顎に手を当てた。はっきり言えば……ナイトアイはミリオの監視があるとは言え、治崎と接敵した瞬間、調査が振り出しに戻るかもしれないと覚悟していた。
この少年は、一度火がつけば敵を倒し切るまで止まらない、さらには自身の全てを打ち捨ててまで、誰かを助ける選択をすると聞かされていたから、一時退避を選択し、その選択に奥歯を砕くほど我慢したのかと理解した、その上でナイトアイは尋ねた。
「正直、そう踏み切ると私は思ったが……貴様を止める何かがあったのか?」
その問いに関して、緑谷は答えを返した。
「相澤先生から言われました……正式な手続きを踏み、正式な手段を持って、正式な活躍をしろと……プロヒーローはそうしなければならないと…… けど、今結構、辛いです、心にキてます……」
教師の言葉を、しっかり自らの枷にして耐えたのか。ナイトアイは一度眼を閉じて、緑谷に言い放つ。
「志で救えるほど世の中は甘く無い……ましてや貴様は、救いたい時に救えるほど特別じゃあない、真に賢しいヴィランは闇に潜む……時間をかけねばならない時もあると心得ろ、だが……よく耐えてその選択をしたのは褒めてやる、ミリオ、歯科医に付き添ってやれ」
「はい!行こう、緑谷くん」
ナイトアイからの厳しい言葉、しかして意を汲んで耐えた事へのフォローをしてもらい、緑谷はそのままミリオに付き添って貰って歯科医へ向かった。
緑谷は考えた、少し前の自分だったら……仮免許捨てて彼女を助けに向かったかもしれないと。しかし、全寮制になる際の相澤先生の話を思い出し、踏みとどまれたと。
けれども……この間にエリという名前のあの小さな子は、どんな事をされているのかと想像してしまえば、果たしてそれが正しかったのかと自問する。
こうして、緑谷の辛いインターン初日は終えたのだった。