【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「衣装……できましたーー!」
「おおっ!緑谷遂にできたのか!」
その声が雄英寮に響いたのは、文化祭残り二週間前の事であった。デザインを考え、八百万に原型を作成してもらい、アレンジとサイズ合わせを経て、計10着の、ダンス隊衣装が出来上がったと緑谷が衣装ラックを押して1階談話スペースに現れたのだった。
「今後ダンス隊は、これを着て練習して着心地を確認して欲しい、破れたりしたらすぐに言ってね?それと……」
これからは衣装の動きやすさや着心地を確かめるために着て練習を頼む緑谷、さらにとダンボールを置き、それも開けて取り出したオレンジのシャツを皆に見せる。
「A組スタッフTシャツも、出来上がりましたー!瀬呂くんのデザインです!」
「おー!かっこいい!」
「まぁ流石にプリントは外注だけどな……」
A組のスタッフTシャツも届いたぞと、瀬呂デザインのTシャツも一人一着外注したのが届いたと、一着広げて見せて皆が自身のサイズを取っていった。
「ふぅ……これで衣装関係は一区切りついたかな……」
「お疲れ様、出久くん」
衣装の仕事はこれで一段落ついたと、緑谷は皆がシャツを体に当てたり、ダンス隊は衣装を早速羽織ってみたりするのを見て、ソファに背中を預ける。そこへ、当たり前とばかりに麗日が隣へ座って労いの言葉をかけたのだった。
「うん、お疲れ様、麗日さ……」
緑谷は、普通にお疲れ様と言おうとして彼女へ顔を向けたのだが……あの夜を思い出して固まり、赤くなり、そっぽを向いた。麗日も思い出したのか、真っ赤っかになって、隣に座っていたのを少し離れて同じく顔を合わせれないと彼方へ顔を向けた。
「緑谷さん、多忙な中の衣装制作とTシャツの段取りお疲れ様でした、今お茶を淹れますね」
そして八百万も、お疲れ様と今から紅茶を淹れて労うと言うのでお礼を言おうと彼女に顔を向けた。
「あ、はい……ありがとう八百万さ……」
そして、彼女の笑顔や言葉を紡ぐ唇を見てまた止まった緑谷は、さらに恥ずかしくなって下を見たので、八百万も頬赤らめていそいそとキッチンに向かった。
芦戸が衣装に気を取られて見ていなかったのが、幸運であったろう。もしも見られていたら問い詰められていたに違いない……三人して節度を守ったお付き合いをと決めたあの夜を思い出してしまってならない。
抑えろ緑谷、節度を守れと言い聞かす、こんな時こそ何か気を紛らわせよう……見逃した特撮がまだ消費できてなかったから気晴らしにと動画アプリを開いた。
ああ違うTTFC(東映特撮ファンクラブ)か円谷イマジネーションだろ開くのは、何Yap!Tubeのアプリ開いてるんだと、指すら落ち着きが無い。
ああでも、こっちも見逃し配信やってたなと探していると、間違えて別の動画をタップして、再生してしまった。
『ジェントール・ビデオ』
いい声が、スマホから鳴り響きフリー素材らしからぬ音楽が始まった。聞いた事のあるような渋さと安心感のある声に緑谷は、その動画から戻らず再生を続けた。
『リスナー諸君はいつどんな紅茶を飲む?私は必ず、仕事の前と後に……』
動画に出て来たティーカップは、まるで注いで溢しまくったように汚れているが、白髪の老紳士気取りが構わずそれを動画に晒している。何というか……せめて綺麗なやつを映せよとなった緑谷だが、そのまま動画を見続けた。
「紅茶の動画?タイムリーやね、はい出久くん」
「ありがとう……」
八百万が淹れた紅茶を、麗日が持って来てくれたらしい。それを受け取った緑谷はテーブルにそれを置いて、この動画投稿者が誰であったかを思い出した。
彼の名前は『ジェントル・クリミナル』
迷惑系動画を投稿しているヴィランである。自身の動画における迷惑行為を、世直しとして投稿してはBANされ、それでもまた復活を繰り返すイタチごっこを警察やヒーローと繰り広げる男だ。
このヴィラン、それこそ犯罪はこすい事ばかりだが逃げ足が早く、こうして動画を投稿してヒーローや警察を嘲笑っている為、厄介極まりない存在で一部では有名な輩であった。
『次に出す動画……リスナー諸君だけでなく、社会全体に警鐘を鳴らす事になる……心して待っていただきたい……』
『きゃーー!』
女の子の嬌声を最後に、動画は終わった。その動画のタイトルは、こう記されていた。
【犯罪予告】その日、歴史が動く【本格始動】
いかにも底辺動画投稿者みたいなタイトルだった……しかし緑谷は、それは兎も角ある事に感想が漏れた。
「声、良かったな……勿体無い」
「有名な人?出久くん、知っとるん?」
「迷惑系の動画投稿して、捕まってないヴィランだよ……」
一体誰なのか、端的に麗日へ説明した緑谷は。アプリを閉じて紅茶をいただいた、寝落ちしてしまった時、一口しか飲めなかった紅茶だった、まさかまた淹れてくれるとはと八百万に感謝を示したくなる。
いやそれにしてもと、緑谷はティーカップを口から離して一息を吐いて、宣う。
「勿体無いなぁ……めちゃくちゃいい声だったこのヴィラン、なんでこんな犯罪してんだろ」
「そこなんや……」
「僕が声優の会社のスカウトなら、即座に名刺渡してるよ、吹き替えやらせたらとても様になる」
声が良かったと、しみじみ言う緑谷に苦笑を浮かべる麗日、緑谷はまた一口紅茶を頂きつつ思考に耽る。
思えば、自分も『運が良かった』だけだったのかもしれないと。
荒れに荒れた中学時代、遂に一線超えてヴィランを危うく殺しかけた。助けたかっちゃんに手を払われ、周囲には人殺しと見られ、ヒーローに捕まり留置所に叩き込まれた。
そこを、憧れのオールマイトが尋ねて来て、諭されて自分はヒーローへの道へと引っ張って矯正してくれたのだ。
『キミは、ヒーローになれる』
この言葉が無ければ、今の自分はこうしてここには居ないのだと。
仮に……誰もあの場に来てくれなかったら自分は……それこそヴィランになっていたかもしれない。もしくは、自身の考える正義をと、ステインじみたヴィジランテとしてやってたかもしれないなと、緑谷はもしもを考えてしまう。
だから……緑谷は今の今まで対峙して来たヴィランに対し……少しばかり『共感』を感じる事があった。
死柄木弔の『破壊衝動』にも、ステインの『英雄回帰』にも、オーバーホールの『英雄症候群』も……。
それを、全てとまでいかないが『共感』を感じてしまうのは、やはり『個性』と、そこから歩んできた過去によるものだろうと。
今まで対峙してきたヴィラン達は……自身の『もしもの姿』なのだと。彼らが何を抱え悪に至ったかは知らない、しかし堕ちかけだった自分は『両親の愛』と『憧れからの声』に救われた運のいい人間でしかないと、自身を断じるのだった。
「この人も……ヴィランになった理由があるんだろうなぁ……」
人間、生まれてから善悪が最初からあるわけではない、人生の積み重ね、経験、時として刻まれた思い出やトラウマがその方向を決めると緑谷は考えている。
緑谷は紅茶を飲み干して、今日はもう寝ようと、立ち上がった。
その一方……暗い部屋にてパソコン画面を前に目頭を押して霞を取る老紳士が居た。
「さて、手筈は整えたが……ラブラバ?この作戦における、イレギュラーについて話しておこう」
老紳士(実年齢は実は三十代)のジェントル・クリミナルは、此度の企画の段取りを話し終えた中で、その際のイレギュラーに関して話をしておこうと傍の女性に語り始めた。
「イレギュラー?」
「ああ、此度の我々の企画、雄英高校侵入してみた、におけるイレギュラーさ」
「一体それは何かしら……」
小児体型の赤髪ツインテールの女性、ラブラバが何かあっただろうかと考える。
「引退したオールマイトも今や鶏ガラの見る影も無い、警備体制も確かに厳重だけど気をつけるべきはハウンドドッグの鼻、あとは私のパソコンがアクセスできる範囲に近づけたら問題はないと思うのだけど……」
「確かに……ラブラバの言う通りハウンドドッグが最後の難関となるだろう、しかし……当日何が起こるかは分からない、特に気をつけなければ……出会ってはならない人物が雄英には居るのだよ……」
ジェントルはラブラバを信じている、彼女が来て動画の企画のクオリティや再生数も伸びた、評価は低いがリスナーや民衆は確かに我々へ興味と関心を抱いている。
此度の企画、是が非でも成功させたいがしかし……最も恐ろしいイレギュラーを雄英は抱えていると、ジェントルは雄英のサイトを開いて……今年の有英体育祭アーカイブを開いた。
一年の本戦、ガチバトルの映像……そこでは凄惨な映像が映されていた。血を吹き出す頭部を失った少年と、その生首つき脊髄を掲げる緑髪の少年を。
「緑谷出久……今、ヴィラン界隈でエンデヴァーより恐ろしいと囁かれている、未だ仮免許のヒーローの卵さ……」
「し、知ってるわ……ヴィラン殺しの緑谷出久……個性は脊髄ぶっこ抜き……何でこんな子がヒーローになろうとしてるのよ!普通、雄英も落とさない!?」
ヒーローの名門である雄英に、何故こんな子どもが合格しているのか!?しかもアーカイブでグロ動画を公開している雄英はどうなんだとラブラバが仰天する、しかしジェントルは自信満々にその理由を推測して答えた。
「逆さラブラバ……彼をヒーローの名門という檻に閉じ込めて矯正と調教し、ヒーローとして飼い慣らす為に雄英は彼を合格させたのだ……彼を野放しにしたらそれこそ……AFOすら霞むヴィランの魔王になりかねないからね」
「な、なるほど、ヴィランにならない様に飼い殺しているのね……」
「そして彼こそがイレギュラーさ、この子に比べたら教師陣や三年のBIG3に、爆豪勝己、轟焦凍なぞ可愛い方だ……」
全く見当違い……とも言えない推測をさも答えだと宣うジェントルにラブラバも納得し、彼こそ此度のイレギュラーだと宣う。
「何せ……彼には情けや容赦なんて無い、一度ヴィランと、敵対したとなれば殺してでも捕まえる、そして蘇生ができてしまうが故に加減も知らない……もしも何かの不運で出会ってしまった場合は……」
「場合は?」
「即座に逃げる、いや本当にラブラバ、この子だけは恥も企画も外聞も無しに必ず逃げるようにしよう……私とて命は惜しいからね、怖いよ本当に……」
ティーカップをカタカタ震わせて、そう決めている、決定事項と此度の最優先だとジェントルは宣った。