【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
警察が来るまでのただの暇潰し……それくらいにはなるだろうよと、緑谷はジェントルが、ラブラバが、何故ヴィランになったのか身の上話を聞く事にした。
「私もね……ヒーローを目指していたんだ、将来名前を残す偉大なヒーローになりたかったんだ」
彼もまた、ヒーローを目指していた。しかし落ちこぼれだった、落第と仮免落ちの果て、学校からも自主退学を促された。それでも諦めきれなかったある日……工事中の事故で落下して来た人を個性を使い助けようとした。
勝手に身体が動いたのだ、しかし……それが悪い方向へ転がった。その個性使用が、ヒーローの邪魔をして二次災害となり救えなかった。
公務執行妨害としてジェントルは勾留、さらに被害者から訴えられた結果家庭は崩壊して一家離散の憂き目にあった。高校も退学となり、孤独となった彼はヒーローになったクラスメイトと出会うも、存在すら否定された様に忘れ去られていた。
そして……せめてこのまま何も残せず死ぬくらいならばと、迷惑動画投稿を始めたらしい。自らを義賊と名乗り、世直しを掲げて。
それに救われたのが彼女、ラブラバであった。
彼女は好きな男性にラブレターを送った。しかしそれをストーカー行為と嘲笑われ失恋、心砕けて引きこもりになり、PCに向かい自殺を考える日々、当たり散らす様に独学でハッキングやプログラミングで方々に迷惑をかけていた中、ジェントルの動画を見てファンとなったという。
それからジェントルの居場所を突き詰め、無理矢理に協力をしたいとお願いしてジェントルが折れ、二人は共にヴィランとして今日まで活動していたのだという。
「雄英というヒーローのエリート学校に通うキミには、私達の過去など理解できまいよ……」
「ぬくぬくと育って来た貴方に、私達のことなんて共感もできないでしょう……」
悲惨な過去を、もう牢屋に入るしかないからと吐き散らした二人。緑谷はそれを聞いて、口を開いた。
「成る程分かった……合縁奇縁って言葉があるけど……今日僕はそれを実感したよ……貴方達は、あり得たかもしれない僕の姿なんだな」
「は?」
「何だって?」
緑谷が、一人納得してそんな事を言うので二人してどう言う事だと尋ねる。
「ジェントル……僕もさ、数年前荒れてたし、殺人未遂で捕まるかもしれなかったんだ、下手したら貴方と同じヴィランになってたかもしれないんだよ」
「何だって!?」
緑谷は、そのままスマホからある記事を調べて画面を見せた。ジェントルとラブラバは、その画面を注視した。折寺で、ヴィランが一人の中学生を襲い、そして鎮圧された事件である。
「新聞やニュースでは、ヒーローが鎮圧した事になってるけど、僕はこのヴィランを個性で擬似的に殺傷して勾留された……こんな個性だからさ、こうするしか当時はできなかった」
二人はヴィラン界隈で有名な、緑谷出久の個性を知っている。その個性でクラスメイトを助けたが、その方法は殺傷以外できず、緑谷はヒーローに拘束されて捕まってしまったと語った。
「こんな個性だったから……周りは僕を気味悪がってたし、親族からは首輪をつけろだの、殺処分しろなんて言われてた……」
個性差別による、親族からの叱責と罵倒、異形差別並みに酷いことがあったと語る緑谷にジェントルは唖然としながら尋ねた。
「そ、そこまで言われてたのかキミ、じゃあキミは虐待されて……」
「いや、父さん母さんが守ってくれた」
両親からの虐待もあったのかと聞いたジェントルに、むしろ両親は守ってくれた唯一の存在だったと答え、ジェントルはホッとした。
「けど……やっぱり子どもは純粋で残酷で、いじめられて……仕返しに僕はやり返してた……」
「こ、殺したの!?」
「うん、殺した、あ!けどハメ直したら生き返るから擬似的に……いや、それでも僕は……今日まで何百回、何百人と人を殺してる」
ラブラバに殺したのか尋ねられ、緑谷は蘇生が可能だろうが言い訳にはならないと、自身が大量殺人を起こした事を認めて頷いた。
「そんな事してたらやっぱり、周りは僕を異常者なヴィランだと指差して来るわけで……ああ、そうなんだなってヤケになってたんだ……ヒーロー目指してた癖に……その日も、助けたクラスメイトから手を払われて逃げられちゃった」
そんな過去を経て、この事件に直面してクラスメイトを助けた先にあったのは拒絶だったのだと、緑谷は笑った。どうして笑っていられる、じゃあ何故ヒーローの名門の学生になっていると、ジェントルもラブラバも理解ができなかった。
「キミは、折れなかったのかい?私ならとうに折れて諦めている惨状だよ」
その問いかけに……緑谷は答えた。
「運が良かった、たったそれだけだったんだ」
「運が?」
「オールマイトが……僕を引っ張り出してくれたんだ」
そう、ただ運が良かった。それを見ていた象徴が、留置所までわざわざ尋ねて来てくれたのだと、そして話を聞いてくれたのだと緑谷は語った。
「オールマイトが来なかったら僕は、それこそ貴方達みたいになってた、際の際で僕を助けてくれた……あの人にとっては助けた一人だろうけど、縁があった、運が良かったんだなって今でも思ってる」
そうして自分は、マイナスからヒーローを目指す事を決めたのだと二人に語り終えた。
「ジェントル……貴方が訴えられた個性を使った事件は……運が悪かったんだよ、本当にただ間が悪かったんだ」
緑谷が、ジェントルのヴィランへ堕ちた事件は巡り合わせの悪かった話だったと言う。何だ、僕は運が良くてヒーローになれると自慢したいのかと怒りがまた湧き上がりそうになる中、緑谷はさらに尋ねた。
「けど、助けたかったんだよね?だから、身体が動いた、個性を使った……違いますか?」
「!!」
その言葉に、ジェントルは思い出した。その通りであったと、ヒーローになりたくて、名前を残したいと気持はあった。だが……それよりも、当時の自分はあの時そう思った。
『助けなきゃ』
けど、ダメだった。運が悪くて、巡り合わせが悪くて、家庭は崩壊してしまった。それでも、あの時事故から人を助けたいと思った気持ちに、嘘偽りは無かったとジェントルは口を開いた。
「ああそうだ、私は助けたかった……邪な気持ちもあった、焦りも感じた……けど、その時落ちる人を助けたいと願って体を動かしたんだ」
それを聞いた緑谷は、決意した。数年前、オールマイトが自分にしてくれた様に、今度は自分の番だと、だからこうして自分とジェントルが出会ったのだと理解して、立ち上がる。
「ジェントル……時間が迫ってますから、僕は今から雄英高校に戻ります」
「え……」
「僕は、貴方がこれから来る警察から逃げず、自首すると信じて立ち去ります」
緑谷は財布から一万円を取り出し、伝票立てに挟み、そのまま喫茶店から立ち去ろうと歩き出した。捕まえたヴィランを、自首すると信じて緑谷は立ち去る事にした。
「最後の紅茶を飲むくらいはあります、どうか……よく考えてください」
喫茶店のドアが閉まる、ジェントル・クリミナルとラブラバは……閉じたドアを見つめ、そして挟まれた一万円札を見て、押し黙った。