【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
ライブが終わり、観客も出て行った体育館γにて緑谷は安全第一のヘルメットを被って、演出に使った氷を一輪車に積んでどんどん運んでいた。遠足は帰るまでが遠足、ライブは片付けまでがライブというやつだ。
何往復したかは知らないが、まだ興奮が冷めやらないが故に、疲れすら感じないぞとどんどん緑谷は氷を運んでいく中……。
「おー!イズク、お疲れ様!ライブめちゃくちゃカッコよかったよ!」
通形ミリオが、エリちゃんと尋ねてきたので、緑谷は手を止めてヘルメットを脱いだ。緑谷は返事代わりに頭を下げて、ふとエリちゃんの方を見下ろした。
病院の時には無かった、朗らかな年相応の女児の笑顔で、エリは緑谷を見上げて両手を握りしめていた。
「あのね!さいしょは大きな音で怖くてね……けどダンスでぴょんぴょんなって、ぺかーっとなってイズクさんは居なくなったけど、ブワーって冷たくなって、プカーって、キラキラを見たらイズクさんをみつけて!で、ドンってイズクさんが飛んでステージでキラキラの楽器を弾いて、かっこよくて、ほかのひともうおーってなって!わたしもわー!って、言っちゃった!」
要領を得ない、子どもらしい感想、それくらい彼女には非日常で、刺激的で、そして楽しんでくれた事が分かった緑谷は、少し涙を流したがすぐに拭って笑って見せた。
「楽しんでくれて……本当に良かったよ、エリちゃん」
その笑顔に釣られたエリもまた笑う、そして通形は気づいた。
「イズクも笑えるようになったじゃん!」
「え……」
「いい笑顔だよ、楽しかったんだろ?」
緑谷は、まるで入院した時にエリがやったように自らの顔に触れた。そっか……僕は、ようやくまともに笑う事ができるようになったのかな……その笑顔をくれたのは、エリちゃんであり、そして……クラスの皆かもしれないと緑谷はヘルメットを被りなおし目元を隠した。
「すぐ終わらせて、文化祭一緒に回りましょうよ、ミリオ先輩、エリちゃんもちょっと待っててね!秒で終わらせてくる!」
すぐ片付けて文化祭を共に回ろう!そう約束した緑谷は、一輪車を動かして残りの氷塊を運びにかかった。
「緑谷急げ!早くしねぇとミスコンのいい席取られっぞ!」
「よし分かった、安全かつ素早く作業にかかろう!」
その背中を見送り、ミリオとエリは彼とA組の撤収作業が終わるまでゆっくり待つのであった。
そして……文化祭はまだ始まったばかりである!
「これは……何をする会場なのかな?」
「今分からなくなったんだよねぇ……」
「本当は学校一の綺麗な女の子を決めるんだけど……仮装大賞に今変わったのかな?」
というわけで、まず峰田が望んだミスコンへ付き添う事になった緑谷は、エリちゃんを肩車して見やすいようにしてあげたが、ミスコンが二連覇覇者の絢爛崎のサポートカーによるパフォーマンスで、仮装大賞に変わってしまったみたいだとエリちゃんに説明した。
「緑谷」
そんな緑谷に、声をかける者が居た。歯を剥き出しにした骸骨じみた顔をした男、1年B組の骨抜柔造であった。
「ああ、骨抜くんお疲れ様」
「ありがとうなー、ザングラソードとドンブラスター貸してくれて、お陰で殺陣やらがいい感じになった」
緑谷は、骨抜から交渉されて小道具の貸し出しをしていた。ヒーローオタク、特撮マニアな緑谷の話を聞いての交渉で、ヒーローアイテムを借りていたのであった。
「つーわけでこれ、台本」
その依頼料代わりにと渡されたのが、B組の出し物の演劇、その台本であった。
演目は『ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人と王様戦隊キングオージャー』
緑谷はエリちゃんをしっかり支えつつ台本を軽く流し読みして、パタリと閉じた。
「どうかな?特撮好きなキミの感想は」
骨抜に感想を聞かれた緑谷は、一息吐いて頷く。
「やっぱり、Don't Boo!ドンブラザーズは名曲だし、これ流したらどんな終わりでもまぁいいかってなるよね?よくまぁ1時間に纏めたよ」
「吹出くんが、呻きながら纏めたんだよ……三日三晩寝れなかったらしい」
「うわー……想像したく無い、後で飲み物奢ってあげよう……」
吹出くん、よく台本書き切ったな……緑谷は台本を脇に携えながらミスコンに目を向け、BIG3の波動ねじれの演技が始まっていて注視した。
空舞いながら波動エネルギーにより薔薇を描く……個性は、時としてこうも人を驚かせて目を奪うのかと緑谷も目を奪われるのだった。
「勘弁してくれませんか!?もう夏の林間合宿で終わったじゃあないですか!!」
「まぁまぁまぁまぁ」
「一名様ごあんなーい!」
「いいやぁああああああああ!?」
普通科に引き摺り込まれた緑谷を、ミリオとエリちゃんが見送り、A組の何人かが閉まった扉から響き渡る緑谷の絶叫に苦笑を漏らした。
1年C組普通科の出し物、心霊迷宮……お化け屋敷を通り過ぎようとしたが拉致された緑谷は、C組生徒達に引き摺り込まれてしまったのであった。
「イズクって、あんな格好のヒーロースーツの割にはお化け苦手なんだね?」
「幽霊は実態が無いから反撃できないからと……」
「あくまで作り物やのに……」
これだけ怖がって驚いて絶叫してくれたら企画者は冥利に尽きるだろう、それが雄英で最も恐ろしいとまで言われる生徒となれば、力も入るようだ。まだ聞こえてくる叫び声に蛙吹と麗日が、そこまで嫌いかと呟くのであった。
「悪かったって緑谷……」
「ぐすっ……」
結果、心操に出口で肩を叩かれ謝られながらガチ泣きして出てきた緑谷に絶句したのだった。なお、他にも入ったA組が語るに『ああ、うん、苦手なら泣く』くらいにはクオリティが高かったらしい。
「タコス屋まで出展してるなんて、本格的だ……」
泣き止んだ緑谷は屋台村へ気を取り直して歩いていた、そして見つけた二年の出し物はなんとタコス屋だった。しかもそれだけじゃ無い、トルティーヤチップスにタコスの具材を入れるウォーキングタコスから、チミチャンガまで作ってくれる本格屋台に緑谷は気になって立ち止まる。
「はーいアミーゴ!俺ちゃんお手製本場のタコスだぜ?チミチャンガも食べて行かない?」
そして……店員はあのマーベルのお騒がせヒーロー『デッドプール』に扮して役に徹して作るキマリっぷり。昼はこれにしようとタコスにチミチャンガ両方を緑谷は購入した。
「緑谷さん、そちらもクレープですか?見当たらなかったのですが」
八百万はクレープ片手に、そんな具材はメニューになかったと尋ねてきた。
「あ、これタコス、隣の店だったみたいだから勘違いしちゃうよね」
「一瞬オカズ系やと思ったわ……」
女子陣はやはり甘いもの好きらしい、次々クレープ屋台で頼んでいるのが伺える。そして隣の芝は青く見えるので、やはり気になるわけだ。
「一つ食べる?」
四個ワンセットだったので、二つそれぞれを気になるならと麗日と八百万に差し出して、二人は齧り付いた。
「これはまた……ライム系の酸味とひき肉がスパイシーで、こんな感じなんですね」
「ハンバーガーとか想像するとまた違うんやなぁ」
どうやら二人とも初めて食べたらしい、想像と違うけど美味しいと聞いて緑谷は安堵した。
「ん、どうぞ出久くん」
「おかえしですわ、緑谷さん」
「え?」
というわけで、貰ったなら返すのが当たり前と二人はクレープを差し出して来た。いいのだろうか……いいのか、うん。緑谷はそれぞれ二人のクレープに一口ずつ齧り付いた。
チョコレートに生クリーム、抹茶に小倉餡子と甘さのミックスが口に広がる。その様子を殺気立って血涙を流していた峰田が見ていたのを緑谷は知らない。
ふと、視界の端で芦戸と切島も自然とクレープを交換していたが、あれくらい自然にできたらいいなと、緑谷は思ったのだった。それはそれとして……葉隠がクレープを食べる様はまるで空間が削り取る様でシュールであった。
なお、この後知った話だが……緑谷が尋ねた二年のタコス屋台は休憩中だったらしい……ではあの『デッドプール』は誰だったのか、雄英文化祭の怪異としてしばらく噂になったのである。