【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
コンマ数秒の判断が、人の生死を分ける。それが、ヒーローの現場である。名前は知らない、しかしこの目の前に落ちた、肉体を折りたたまれて血を吐き絶命したのはヒーローの一人で、そして見上げるほど巨躯な、蜘蛛の身体を持った脳無が殺して緑谷と轟の目前に降りて来た瞬間。
「ショウトォオオオ!!僕に構わず氷を放てェェええ!!」
「穿天氷壁!!」
緑谷が叫びながら、近場の街頭に自らを引き寄せて叫び。即座に轟の氷結の力が路面から蜘蛛型脳無へ伸びて凍りつかせる。
「つめた、い……が……やわい、これは……」
大凡のヴィランならこの一手で終わる、仮免補講組とはいえ、轟は特待生の一人で才能も実力もヒーロー科一年では留まらない実力の持ち主である。
が、凍らされた胴体をまるで意に介さず蜘蛛型脳無は割砕いて来た。
「にく、にく、ちぃい、くわせ、のませろぉぁお!!」
蜘蛛型脳無の口から吐き出された白い糸、なら蜘蛛糸と考えるしかなかろうと二人向けて放たれるそれを、緑谷は両手をかざして左右に振り抜く。個性による引き寄せの力が働き、蜘蛛糸の軌道を切り替えて無効化しつつ、轟の横に降り立った。
「何度か目にしたが、脳無はこれだけ強いのか……」
凍結を突き破る膂力があるのかと、構わず動いて来た相手に轟は衝撃を受けた。自身の個性を楽に超えて来たのは中々にメンタルへ響くものだ。
「いや、多分こいつ特別製だ……今まで会った奴は喋らなかった」
緑谷は、過去の経験から特にこいつは特別な個体だと断じた。今まで相対した脳無は三体、その全てが意思も知性も持ち合わせて無い暴れるだけの個体だったが、今こいつは喋っていたからだと理由も述べる。
「絶対倒れたらダメだ、此処を死守するよ、ショート!」
ヒーローが斃れ、今この場に居るのは自分と轟だけ、此処を止めなければ避難する一般人に被害が出る。負けられない、死んでも守らなきゃならない、そう思って構えた矢先ーー。
「にく、にく、こいつ…ら……やっかい、ありつ……けな……い?なら……もっと、かんたんな、やつ……」
「!?」
蜘蛛型脳無は、二人に目もくれず跳躍して、またビルの壁に張り付いて登り始めた。この脳無の片言の言葉に緑谷は戦慄した、この脳無の行動は明らかに、一般人を狙って動いたと。
轟の個性と、緑谷の個性を見て、厄介と感じて戦うことをやめたと。そして台詞から察するに、この個体は『捕食』『食欲』を満たすために動いていると理解した。
ヒーローに目もくれず、一般人に狙いを定める悪質極まりない個体を前に、緑谷は舌打ちした。
「行かせない!」
グラップルガンを使う暇もない!ビルに手をかざし自らを引き寄せ、反動で飛び上がった緑谷はビルを登る蜘蛛型脳無の先に周りこんだ。
宙を舞う中、身体を前方宙返りさせ、真下でよじ登る蜘蛛型脳無の顔面向けて踵を振り下ろす!
「イーヴル・ヒールクラッシュ!!」
勢いをつけた前方宙返り踵落とし、その一撃は蜘蛛型脳無の足が楽々と防いだ。
「じ、じゃま!じゃまぁあ!」
さらに別の足で、緑谷を貫きにかかる蜘蛛型脳無。それに対して緑谷は、ビル壁に自らの足底を引き寄せて壁に着地して地面に見立て降り立ち、そのまま身体を捻り回避する!
「緑谷、避けろ!」
下から叫びを聞いて、その声に従い隣のビルの広告看板向けて自らを引き寄せ、脳無から離れた緑谷。そして蜘蛛型脳無は、炎に包まれた。下からの援護射撃による轟のフォロー、しかし依然蜘蛛型脳無は動きに衰えは無い。
「ぬ、くい……このていど、か……?」
轟の炎を温いと吐かすか、この脳無は。しかし見れば、燃えて筋繊維が露出したそばからみるみる再生していってるのが見てわかる。
「じゃま、にく、くえない……まず、お前ら、たおして、いく……」
この脳無の言葉を鵜呑みにするなら、標的がこちらに切り替わったなら好都合だった。一般市民が逃げる時間を稼げる、と思った瞬間ーー。
緑谷の背後から、明らかな『死の気配』が、脳裏によぎって反射的にビル壁を蹴り、宙を舞った。そして見た……彼方此方に、脳無たちがビル壁や路上に降り立つ様を。自らに腕を振り下ろして奇襲を仕掛けたまた別の脳無の姿を!
「まだ居たのか!?どれだけ居るんだ、こいつら!」
皮膚が緑がかった辺り、この個体は確か再生を持たないタイプだろう、それが福岡の街の彼方此方に散って暴れ回っている!
まだ、ヴィラン連合はこんなに脳無を抱えていたのかと、先程ホークスが言っていた脳無が全国で目撃された噂話は、事実だったのかと驚愕する。
「すき、あ、り!」
「しまっーー!」
宙を舞う緑谷を、追いかける様に跳ねた蜘蛛型脳無がその足を振り下ろしコンクリの地面へ叩き落としにかかる。防御しても無事じゃ済まないが、それでも防がねば死ぬと腕を交差させた緑谷。
「ダークシャドウ!!」
『まかせなぁああ!!』
その一撃は、漆黒の障壁でもって防がれて、緑谷はそのまま地面に向かう。信号機を見つけ引き寄せを使い勢いを殺し、轟の前に着地した緑谷、さらにもう一人が二人の前に着地する。
「ありがとう同胞、危うく死にかけてた」
「危機一髪だったな、同胞」
先に避難誘導をしていた常闇が、緑谷と轟に合流した。
「しかし……これは余りにも酷いな、神野と同じだ」
彼方此方に脳無が現れ、地元のヒーロー達が対応しているがそれでもまだ足りない。そして、緑谷達の前には……。
「じゃま、にく、ち、のめない……たおしたら、のめる?じゃま……」
知性ある、蜘蛛型脳無。さらに方々にもまだ脳無が散っている、これを今居る3人でどうにかしないといけない。
「二人とも聞いて、こいつらに情けかけたらダメ……こいつらはヴィランの化け物、命はあっても知性は無い、生け取りや捕縛は考えないで、弱点は露出した脳みそ」
「倒すしか無いわけか……」
「四の五の言ってられないな……」
この脳無達に、ヴィランへの生捕りなんて手段は選べない。倒すしか無いと経験から二人にそれだけ話、目の前の蜘蛛型脳無に構えた緑谷。轟も常闇も、互いの背中を守る様に周囲をカバーして、散らばった脳無達を見据える。
「此処を防衛ラインにする、絶対に死守して皆を守るんだ!」
「ああ、分かった」
「承知した、同胞よ!」
脳無達が迫る、3人がそれぞれ構える中、蜘蛛型脳無と接敵した緑谷が迎えうとうとした最中。
その横腹から、一台の車が、蜘蛛型脳無に追突した。
青のスポーツカーが、その車体で緑谷と一般市民の居る方角から引き離す様に蜘蛛型脳無をボンネットに載せ引きずった。
「こいつは俺が堰き止める!お前たちは他の個体を!!」
「タカカズさん!!」
ナイスガイヒーロータカカズ、その愛車たるヒーローモービル『ドハッテン』が一般市民を、そして連れて来た仮免の高校生を守るため、脳無を引き剥がしにかかったのであった。