【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
エピローグ いつかやがて……
「何にも、黙って帰ることなくね?」
「ねー?」
フェリーの欄干にもたれ掛かりながら上鳴が呟き、芦戸が相槌を打った。あれから数日、雄英高校1年A組は、復興作業の手伝いを切り上げて、学舎へ帰還する事になった。
本来なら即時中止からの帰還だったが、世話になった島をそのまま放って置けないと、期日まで復興作業の手伝いをさせてもらう事になり、そして邪魔をしないようにと黙って帰ることになった。
「復興の邪魔をするわけにはいかない」
「ま、黙って立ち去るのも……」
「ヒーローっぽいか!」
「ええ!」
島民に言って、別れに気を遣わせてはならない。時にヒーローは黙って去ることも必要かと、切島が言えば八百万も頷く。出港の汽笛が鳴る中、最上階のテラスの欄干にもたれ掛かる爆豪に、緑谷が話しかけた。
「この島ともお別れだねー……」
「はっ、清々するわ」
ようやく面倒な事も終わったと言い切る爆豪に、素直じゃないなと笑みを見せる緑谷。出港の汽笛が鳴り、フェリーが動き出す中で爆豪は珍しく話しかけた。
「あのガキ共に、別れの挨拶せんでよかったんか?」
島乃姉弟の事、やはり爆豪も気にかけていたらしい。あの後父親も島に帰ってきて再会できたから、親子水要らず邪魔になると離れていたが、挨拶くらいしてやったらどうだったのかと。
緑谷は首を横に振って爆豪に言う。
「言わずとも、伝わってるよ……大丈夫」
言わぬが花だろうと、必要ないと呟く。そうして目を閉じて開けて、ふと何やら港を走る姿を見つけ、緑谷は目を見開いた。
「いずくにーちゃーん!」
「ばくごー!みんなー!!島の人たちを守ってくれて……ありがとーー!」
島乃真幌と島乃活真が、別れのためにわざわざ港まで来てくれたのだった。クラスメイトも手を振って応える中、必死に走って最後まで見送ろうとしていた。
「いずくにいちゃん!ぼく、強くなるね!!お父さんと、お姉ちゃんを守れるくらい!強くなるから!!」
活真の口から放たれた決意表明を聞いた緑谷は、思わず笑みがこぼれ……傍に携えていたヒーロースーツのケースを開けた。そこにある、自身のヒーロースーツの一部である、黒の帽子を取り出してケースを閉じて、帽子を弄びながら活真の決意表明を聞いた。
「そして!いずく兄ちゃんやばくごーさんみたいな、カッコいいヒーローに絶対なってみせる!」
「活真くん!!」
その決意に祝福をと緑谷は、黒の帽子を思い切り腕を振って投げつけた。その帽子を活真はしっかりとキャッチし、そして確かに掴んだ事をアピールするように掲げてみせた。
「雄英に入って、ヒーローになったら返しにおいで!!約束だ!!キミは、ヒーローになれる!!」
次に会う時は、ヒーローになってその帽子を返しに来いと緑谷は約束として帽子を活真に投げ渡した。
「いいんか?クソ高いオーダーメイドだろ?」
取り返しつかねぇぞとケタケタ笑う爆豪に、緑谷は笑った。
「いいさ、約束だからね、彼が返しに来る日が楽しみで仕方がないよ」
それから、活真は船が見えなくなるまで緑谷の乗る船を見送った。麦わら帽子を脱いで、緑谷のヒーロースーツの一部たる、オールマイトの前髪を模したデザインの黒い帽子を被ってみる。
まだ大きくて前が見えないけど、いつか必ずこの帽子を、ヒーローになって緑谷に返しに行こうと、活真は笑って決意するのであった。
ーー同刻、I・アイランドーー
「じゃあ、クリスマスにはちゃんと届く手筈になったわけか、デイヴ」
「ああ、イズクもびっくりするだろうさ、僕たちのクリスマスプレゼントに」
I・アイランド内、ディヴィット・シールドのラボで、デイヴと緑谷出久の父、久は話をしていた。
と言うのも、兼ねてから用意していた『クリスマスプレゼント』が、ちゃんと期日通り届くか否かを心配していたらしい。
「こっちに来てからは連絡くらいでな、何年もプレゼント渡せられてなくて……せめて今年はと頑張った甲斐があった」
画面に映る図面を眺めながら、久は首を回した。それは、愛する息子のためにと描いた物だった。それが今、目の前の世界一の個性研究者であり発明家により形となり、コンテナに収容され日本に向かっている。
「組み上げは兎も角、手続きやテスト、届出に時間が大半を割かれてしまったな……それにしても、ユニークなモービルだね?何か元になった物があるのかい?」
「昔の特撮ヒーローのガジェットだよ」
組み上げるよりも、動作テストや日本政府への届出の方が時間がかかったとデイヴは苦笑した。
「しかし、よかったのかデイヴ?オールマイトの頼まれたガジェットとやらもあるんだろ?」
「あっちはメリッサがオールマイトと通信して対応してるから心配ないよ、見事なものさ」
会話は続く中、ラボに一人の女性が入ってきた。
「ミスターヒサシ、貴方宛に電話が入ってます」
「僕宛に?」
久は、珍しいなと女性から携帯を手渡された。番号は無い……妻の引子でも、息子でも無いが、誰が一体と久は耳に携帯を当てた。
「はい、久ですが……」
変わった事を伝えた久、そして電話の主の声が耳に届けられた。
『息災か、久?』
その声を聞いて、久は驚愕して目を見開いた。
「……は、悠(はるか)兄さん……!?」
「何?」
デイヴが、久の狼狽えぶりと、彼に兄が居た事実に驚く。だが、電話を受けた久はそれどころではなかった。
「……数年前に死んだと聞きました、生きていたなんて……」
『怪我をしただけだ、那歩島で療養していた……』
既に死んだはずの男から、生存の連絡。久は兄の存命に対して、歓喜よりも焦燥が顔に浮かんでいた。
『久……お前の息子に会ったよ、大きくなったな?出久、だったな?ヒーローになるんだって?』
「出久に何かしたのか!?」
『急くな久……まだ何もしておらん、する気も起きん……あれはまだ未熟だ』
その死んだ兄が、我が子出久と接触していた。その事実に久は怒りを孕んだ声で尋ねたが、受話器の先の兄はまだ、何もしちゃいないと飄々と返す。
『初めて会ったのは、そう、お前の家がある折寺だったか?木を殴っていたのを見かねて殴り方を教えてやったのが懐かしい……が、惜しくもある、あれはヒーローより、俺と同じ武術家になるべき輩よ……惜しい事をした』
既に、自分が知らないところで、そんなに昔から兄は自分の子に接触していた事実に、久は歯を食いしばった。そして、兄に向かって言い放つ。
「出久に……僕の息子に手を出してみろ……貴方が例え恐ろしい伝説のヴィランだろうと、ただじゃおかないからな!」
その言葉に、電話の先の兄は嬉々として答えた。
『そうか……だが、いずれ出久は俺と対峙するさ、奴がヒーローで俺がヴィランならば……必ずな?その時が楽しみだ……お前には止められまい、それが緑谷の因果、緑谷の血だからな』
お前に何ができようか、兄の言葉に目を閉じた久は、深呼吸してから、ゆっくり言い返した。
「その時は……僕が兄さんと刺し違えてでも止める、お前の好きには絶対させない……絶対にだ……怨龍!」
それを最後に、苛立ちから久は電話を切った。取り乱し、怒る仕事仲間の姿にデイヴは固まっていた。
「ヒサシ……大丈夫かい?」
「すまん、デイヴ……取り乱した」
「とりあえず、座りなよ、な?」
椅子を差し出すデイヴに甘え、座る久は頭を押さえて俯いた。
緑谷悠(みどりやはるか)
Cv.星野貴紀
年齢 47
性格 はた迷惑な求道者
緑谷久の兄、つまりは……緑谷出久の叔父にあたる人物。久が出久の件で実家と絶縁する前……彼が高校時代の時には緑谷家を出奔し行方不明になった男。
個性は『鬼火』
紫色の炎で、普通の火と違い意思を持ったように動かせる。その火は纏わりつき、さらには爆発したりする。水を掛けても消えず、着火した物を燃やし尽くすか、悠の意思で命じない限り消えない呪いの火である。
職業は流れの武術家であり、ヴィラン。『AFOが恐れた一人』と呼ばれた人物で、主にアジア圏のヴィラン組織やヒーロー達の中では『怨龍』と呼ばれる一匹狼。
ヒーローだろうがヴィランだろうが、己の前に立ちはだかる者はその拳で打ち砕いてきた結果、ヴィランからもヒーローからも恐れられる伝説の存在になった。
その恐ろしさは個性の強さでは無く、武術家としての強さ。強さを求めて研ぎ澄ましてきた武は、もはや個性を有しているヒーローやヴィランですら敵わない実力。実は昔、緑谷出久が幼少の頃に『拳の握り方』を教えた人物。
戦う理由は至極簡単、ひたすらに『強さ』を求める求道者で、それは個性も武術も、ましてや権力ですらもその身一つで打ち砕く無頼漢。故に場所によっては『ヒーロー』として祀られていたりするが、今の時代にヒーロー免許も無しにあちこち無差別に闘いを求めれば指名手配されても仕方ない事である。実際、その武力でアジア圏のヴィラン組織を手玉に取りいいように使っている為、彼は世間的に言えば大悪党である事は変わらない。
那歩島へは、昔AFOと対峙(AFOが逃げ、その後にオールマイトが倒した)した際の傷を癒すために潜伏しており、アイス売りのおじさんとして生活している。島で唯一のヒーローにはその際に助けられた恩義から、周辺海域に関係するヴィラン組織に、那歩島とその海域への襲撃や活動を決して行わないようにさせていた。
その呪われた鬼火と研鑽を積んできた独自の武術『灰燼滅拳』の使い手である。