【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
エンデヴァーが戸を開く、その先に待っていたのは、綺麗な白い髪の毛の中にメッシュのような赤色の髪を持った女性だった。彼女はにこやかな笑顔でエンデヴァーを、そして焦凍、爆豪、緑谷を出迎えた。
「いらっしゃーい!忙しい中、お越しくださってありがとうございます、はじめまして、焦凍がお世話になっています、姉の冬美です!」
美人だった、峰田くんが居たら涎を垂らし、エンデヴァーに燃やされかねない反応をしそうな美人が居た。隣に居るクラスメイトの焦凍が、アザを差し引いても美男子な為、彼の入院してる母親が美女で、その遺伝子を色濃く継いでいるのが分かる美人だった。
「この度はお招きいただきありがとうございます、轟くんのクラスメイトの緑谷出久です」
一礼して、招いてくれた感謝をした緑谷。そしてうんうんと冬美は頷いた。
「知ってる!雄英体育祭で焦凍と戦った子で!ええっと……大変だった子よね?」
雄英体育祭?確かあれは個性の事もあり、アーカイブだけでしか、僕の試合は見れなかったよな。でも弟が出るならアーカイブも見るかとなった緑谷だったが……冬美の視線が明らかに下へ行って、赤面したのを見て、思い出してしまった。
「うぁあ……思い出したくない……」
「いやほんと、悪かったって緑谷……姉さん……」
「やだごめんなさい!ささ、上がって上がって!」
全国にち◯こを放送してしまって、あれから色々あった緑谷はその場に崩れ落ちた。その原因である轟も、姉さんマジでやめてあげてくれと緑谷の肩に触れて謝った。
「改めて紹介するわね?私は焦凍の姉の冬美です、小学校で先生をしています」
目の前に並ぶ、家庭的な料理、上座にエンデヴァーが、その左右に轟家の人間、反対に緑谷、爆豪、そして焦凍が3人並んで座椅子に座り夕食前の自己紹介と、冬美は改めて名を名乗った。
「こちら、焦凍の兄の夏雄、大学生」
「どうも」
一緒に食事を、となったその白髪にエンデヴァーと同じ髪型、肩幅の広さを持つ大学生夏雄が挨拶した。
「焦凍、お友達を紹介してくれる?」
「ああ、ヒーロー科のクラスメイトで、緑谷と爆豪」
「初めまして、焦凍くんのクラスメイト、緑谷出久と申します」
緑谷は深めに頭を下げて名を名乗ったが、爆豪は名乗らなかった……そして、ふと静寂が広まって、夏雄とエンデヴァーに何やら異様な雰囲気が漂っており、何かしたか自分はと緑谷は焦った。
「えっと……」
「と、とりあえず!冷めないうちに食べましょう!苦手な料理があったら無理しないで!食べなくていいからね?」
異様な静寂を必死終わらせようと、食事を始めようと冬美が言い出して、緑谷もそれに応じた。
「は、はい!いただきます!」
「いただきます」
「いただきます……」
友達の家での夕食って、こんなに重苦しいの!?誰か、峰田くん!麗日さん!八百万さん!教えてくれと助けを呼びながら、とりあえず夕食をいただく事にした。
で、始まってしまえば、その料理のおいしさに緑谷の目は爛々と輝いた。知っている味は家庭と学食くらいな緑谷、他人の家の料理は口にしたのは初めての経験だった。
此度並んだ中華料理、麻婆豆腐に餃子、中華風のきゅうりの和え物に、ロールキャベツも中華風の味付け、竜田揚げもカラッと上がってご飯が進む品々だった。
「美味しい……この餃子、野菜多めなのに噛んだ瞬間肉汁が……」
緑谷が驚いたのが餃子だった、明らかに野菜のが多くあっさりしているのに、噛んだ瞬間何故か肉汁が口に広がりびっくりしたのだ。
「ああそれ、仕込んだ後に一度冷凍するんだよ、そうしたら焼く時に野菜の細胞膜?が壊れて水分がよく出てジューシーになるんだ、姉ちゃんの得意料理」
「そんな手間を……」
その秘密をわざわざ夏雄は語ってくれた。そんなふうにしたらこうなるのかと、噛んだ餃子の断面を眺めながら呟く。
「お手伝いさんが腰やっちゃって、引退してからずっと姉ちゃんが料理作ってたから……」
「ナツも作ってたじゃん、代わりばんこで!」
お手伝いを雇えるくらい裕福なのか、家庭の事情を垣間見た緑谷は、爆豪から小鉢を渡されたので、麻婆豆腐をよそって渡してあげた。確かにかっちゃんの好きな花椒が効いた本格派だった。
「え?じゃあ、俺も食べてた?」
焦凍の質問に、緑谷はクエスチョンマークが浮かんだ。家族なのに、食べてないみたいな口ぶりだったから、普通食べて知っているのではと。
「あー……どうだろう、俺のは味濃かったから……エンデヴァーが止めてたかもな、こんな物食うなってさ」
夏雄の発言に、食卓が凍りついた。
いや……それを、言ってしまうのか?確執とか、家庭環境とか、雄英体育祭で轟焦凍本人から聞かされた緑谷だったが……弟の友人の前で言うのかと緑谷は固まり、爆豪に目線を向けた。
爆豪も今回ばかりは……知るかこっちみんなと目線を逸らしていた。
「……気づきも、しなかった」
エンデヴァーのアンサーに、夏雄は何も言わなかった。また重苦しい静寂が広がる……。
「し、焦凍は学校でどんなの食べてるの!?」
「学食で……」
何とか雰囲気を戻し、会話を繋げようとする冬美の発言が、なんとも痛々しい。それに応えようとした焦凍だったがーー。
「今度……夏雄の料理も……」
被った、なんてタイミングだ、間が悪い。これが決定的になったか、夏雄は茶碗と箸を置いて言い放った。
「ご馳走さま……席には着いたよ、もういいだろ?」
「ナツ!」
あくまで兄としての義理を果たしただけと、茶碗と箸を持って夏雄は立ち上がった。
「ごめん姉ちゃん……やっぱ無理だ……」
姉の冬美の声も届かず、夏雄は食卓を後にして出ていった。楽しいはずの夕食は……それからただ食事を口に運んで腹に入れるだけとなってしまった……味も美味しかった、腹も満たされた緑谷だったが……なんとも言えない重苦しさまで感じて終わったのであった。
夕食を終えて、食器を台所に運ぶのを緑谷と爆豪も手伝う。一人、スポンジで洗うエンデヴァーの背中が……自分達がインターンで追いかけている強大な背中が、今はなんとも小さく見えてしまう。
「あの、食器は……」
何処に置けばと尋ねる緑谷に、無言でエンデヴァーはテーブルを親指でさす。そこに二人は置いて、まだある食器を運ぶ為に緑谷と爆豪は食卓へ戻った。
「と言うか……かっちゃんも知ってたの?轟くんの家の事情……」
あの場で黙して食べていた爆豪に、まさか知っていたのかと緑谷は尋ねた。知らなかったら、爆豪なら帰っていただろうと思う事実、内情。そうしないから、知っていて耐えたんだろうなと尋ねる。
「ああ?俺の居る所でテメェらが話してたんだよ……!」
「あの場に居たんだ……」
爆豪も、雄英体育祭で轟が緑谷を呼び寄せた場所に居たのかと驚いた。なら知っているか、その後歩きながら色々と話をしたが、最初の家族問題は立ち話だったから、聞かれていたようだ。
『緑谷くん達に片付け手伝わせちゃって悪いなぁ……』
『手伝わせない方が二人に悪い……』
まだある食器を運ぶ為に戻った矢先、姉弟の会話が始まったので、爆豪は止まり、緑谷も少し入る事に戸惑った。
『……私だって、ナツみたいな気持ちが無いわけじゃないんだ……でも、チャンスが訪れてるんだよ……焦凍は、お父さんの事どう思ってるの?』
『……この火傷……親父から受けた物だと思ってる……お母さんは耐えて……耐えて溢れてしまったんだ……お母さんを蝕んだアイツを、そう簡単に許せない……』
一枚の障子越しに聞こえる会話、家庭崩壊の果てに母は壊れ、父から受け継いだ個性を憎んだクラスメイトと、その姉の話を緑谷は聞き続ける。
『でもさ、お母さん自身が今、乗り越えようとしてるんだ……どうしたいか正直、自分でも分からない……親父をどう思えばいいのか、まだ、何も見えちゃいない……』
心情の吐露を聞かされた緑谷は、押し黙ったのに対し、爆豪は苛立ちを障子にぶつけそれなりの力加減で開きながら言い放った。
「客招くならセンシティブなとこ見せんなや!!まだ洗いもんあるだろうが!!」
「あいけない!!ごめんなさいつい……」
「晩飯とか言われたら感じいいのかと思うわ普通!四川麻婆が台無しだくそ!!」
「申し訳ありません、その、聞いてしまって……」
台無しにされた、そう思うくらい美味しかったんだなと苦笑しながらまとめられた食器を運び出す爆豪。まぁ、そうなるよなぁと今回は爆豪が文句言うのも仕方ないなと同情しながら、緑谷は残りの食器をお盆に集めた。
「……轟くんはさ、優しすぎるね……」
「え?」
「普通だったらさ、こんな状態……僕がキミと同じだったら、エンデヴァーに絶縁突きつけてるし、何だったら児童虐待の訴訟とか、SNSやマスコミに吐き散らしてるよ?それくらいしても、許されるもの……夏雄さんもそんな事してないあたり……良心がある方だよ」
今、改めて知る。轟焦凍も、そして冬美も、夏雄もあまりに優しすぎるなと。
「あまりにも優しいのは、キミのお母さん譲りなのかな?だから……轟くんはお母さんの為に受け入れようと、何とか折り合いをつけようと……今は考えて、待ってるんじゃない?」
あまりに優しすぎるから、母親が立ち直るならその為に受け入れようと、家族を取り戻そうとしているんじゃないかと、まだそれは難しい問題で、すぐに答えは出ない事で……だから悩んで、待っていると思えると緑谷は轟に言う。
「そう……なのかな……」
「ま、これ以上他人の家のこと、首突っ込むのはやめにしとくよ……憎み続けるか、歩み寄るか……そればっかりは他人が言えない事だからね……そもそも僕は言える立場の人間じゃないから……出過ぎた真似をしたよ」
残りの食器を携え、台所に運びながら緑谷は二人を後にした。
緑谷出久にとって……家族の形は一つだった。
こんな個性に生まれた自分を、両親は愛して守ってくれた。親戚からは首輪を着けて閉じ込めろだの、殺処分しろだの指を差されたのを覚えている。両親はそんな親族と縁を断ち、愛をくれた……だから、轟焦凍の家庭環境というのを聞いて、ドラマや創作の世界のような事が現実にもあるのかと驚いたくらいだった。
そして、そんな親への復讐も話では知っていて……それだけやられてまだ、母の為に考える轟焦凍の根底にある優しさに苦笑するしかなかった。
食器を運びながら、緑谷はふと……エンデヴァーが残った今日の夕食……いや、前もって取り置きしていたらしい小鉢に入った食事を盆に乗せて、別の場所に行くのを見かけた。
食器を台所に置いた緑谷は……気になってその後を追う事にした。エンデヴァーがある部屋の障子を開け、入っていく。
小鉢に食事を盛るのは、仏壇に供える為にやるんだったよなと緑谷は思い出す。なら、ここは轟くんのお爺さんがお婆さんの部屋になるのだろうか……なら着いてきたら駄目な部屋じゃないかと、緑谷はやらかしに気付いて方向転換した。
「誰だ?」
が、気付かれてしまって障子が開け放たれてしまった。
「す、すいません……緑谷です、その……気を使えなかったみたいでーー」
弁明しても意味無いよなと思いながら、ふとその角度から……仏壇の写真が見えてしまった。詰襟の少年で、髪の毛は白髪の写真……夏雄さんと同じ髪の毛だが髪質が違うのが分かってしまった。
「その子は……」
思わず、口に出てしまった。この後、緑谷はエンデヴァーから怒鳴られる覚悟をしていた。家族のことだ、知らず知らずに踏み込んでしまった報いの一つくらい来るだろうと。
「……この子は……うちの長男だ」
「え……」
「名前は燈矢……俺が……俺が殺してしまった……俺の罪だ……」
待ってくれエンデヴァーよ、それを長年連れ添ったサイドキックや、友人にではなく、学生の僕に言うのかと、緑谷は怒鳴ってくれた方がマシだったとこの時思ったのだった。