【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
仏壇の前にて手を合わせて黙祷するエンデヴァー、線香の煙が揺蕩う中……何故か緑谷はその背後にて同じ様に正座していた。
いや本当に何故……?何故、よその家族のお亡くなりになった長兄の前で、他人の自分が正座しているのか?自分も手を合わせるべきなのか?何故エンデヴァーは、自分をこんな……霊前に招き入れた!?天国のお兄さんびっくりしてるよ絶対と、頭の中は堂々巡りだった。
黙って拝むエンデヴァーの合わせた手が離れ、緑谷を見ないままに口を開いた。
「一つ……尋ねていいか?」
「あ、はい、答えれる事でしたら……」
16のガキに何を聞く気だ、碌な事言えるわけ無かろう、何を聞こうとしてるんだと悪態を心の中で緑谷は吐いたが、知らずに着いてきて家族問題に踏み込んでしまった後ろめたさもあったので、答えられる範囲でならと念を押して答える事にした。
「キミの父親は……どんな人だ?ウチの息子、焦凍が憧れたとまで言ったその人は……」
「え……」
エンデヴァーから尋ねられたのは、緑谷出久の父、緑谷久の人となりだった。初日に焦凍が、父エンデヴァーに対して憧れの一人に挙げられて焦っていた緑谷だが、まさか一週間掛けてここで尋ねられるかとしばらく黙った。
「……はっきり言って、普通か?と言われたら少し躊躇いますね、父さんは……」
自分にとっての父親、普通にその辺りにいる、普通の家庭の父親かと問われたら緑谷は首を縦には振れなかった。
「ヒーロースーツやモービルのデザイナーなんです、アメリカに渡って……今はI・アイランドでディヴィット・シールドのチームのデザイナー担当やってて……えっと、ヒーローではないですけど、エキスポの時に僕たち助けられたんです」
今でも覚えている、ただのデザイナーの父が、最上階に上がろうとしてコントロールされたロボットに、蒼炎を吐いて麗日さんを助けた姿を、そして最後まで一緒に戦ってくれた事。
「こんな個性に生まれて、まぁ普通気味悪がって捨てるか、虐待してもおかしくない僕を、親族との縁を切ってまで愛してくれました……普通、そこまで……するのかな?よその家族、普通の家族はどうか知らないけど……こんな僕を育ててくれた父親、とだけは言っておきます」
「そうか……」
尋ねておいて、エンデヴァーはその一言だけだった。思う事があるのかもしれない……緑谷もまた、態々エンデヴァーが吐いたこの仏壇の長兄に関して聞くくらいはさせてもらう事にした。
「燈矢さん、ですよね……殺したと言いましたが……まさか」
「…………」
罪の自白、それを何故こんなガキにしやがったのか……吐き散らすにはもってこいだったからか?同じ大人や親族には言えない、本当に手をかけて今になって、自分になら懺悔として吐いてもとか思ったのか?
緑谷は立ち上がり、右手を開いた。
「俺が……殺したようなものだ……」
殺したようなもの……まだ手は止まらない、そんなに謝りたいならあの世に行って謝らせてやるよと、エンデヴァーの頭に右手を置こうと触れかけた瞬間ーー。
「瀬古杜岳に……個性を見て欲しいと約束された、俺は……行かなかった、それで燈矢は、火事に焼かれて死んだんだ」
手は止まった……流れが分からなかった、個性を見なかったから?約束を破って……火事になって?なんか繋がりが曖昧だと緑谷は考えて……つまりはとエンデヴァーに言う。
「自殺したと?」
「そうかもしれん……燈矢は、俺と同じ火の個性を持って生まれた……」
さっさとここから出てしまえば良かったのだが、緑谷は立ったまま……No.1ヒーローの懺悔のような独白を、そのまま聞いてしまった。
オールマイトを超える為、No.1になる為、必死に努力を続けたエンデヴァー。オールマイトが引退するその日まで、決してNo.2の座を明け渡さなかった。
しかし、その努力では決して届かないと、オールマイトの背を見て悟ってしまう。しかし、諦めきれなかったエンデヴァーは……次代にその野望を託す事にした。
金ならあった……No.2のヒーロー様だったから。そんなエンデヴァーは『個性婚』で、落目にあった庄屋の『氷叢家』から、焦凍の母、冷を娶った。
そして……轟燈矢が産まれた、冬美さんも夏さんも。
長兄、燈矢には自身の個性が宿り、自身より強い炎が出せる事が分かった……だが、体質は、母である冷の体質……寒さへの体質を受け継いでいた。エンデヴァー以上の炎を持ちながら……その身体は炎に耐えられなかったのだ。
「夏雄も、冬美も、冷の氷結の個性だけしか発現しなかった……そして俺は、もう一人子を作る事に決めた」
「それで産まれたのが、焦凍くんですか」
燈矢ではオールマイトを超えられない、自らの野望を託す為、轟焦凍は生まれて来た。その彼は、エンデヴァーの理想となる個性を持っていた。これで、オールマイトを超えたNo.1ヒーローを作れると、エンデヴァーは彼に苛烈な……虐待としか思えない特訓を課した。
それをよく思わないのが長兄燈矢だった、期待をしておいて、超えれないと分かった途端にエンデヴァーは、ヒーローを諦めるように仕向け、そして冷に押し付けた。
「だが……燈矢は諦めなかった」
それでも諦めなかった燈矢は独自に研鑽を積もうとした、時には師事をエンデヴァーに頼んだが、エンデヴァーは無視し、諦めるように諭した……エンデヴァーにとってのヒーローは『自身とオールマイトを超える存在』だけ、可能性の無い燈矢を見ずに、焦凍へ没頭した。
「そして……瀬古杜岳で、自身の成長を見て欲しいと言った燈矢の元に、俺は行かなかった……山火事で燃えた山林を探したが……骨の欠片すら見つからなかった」
自分でもオールマイトを超えられる、ヒーローになれる、それを見てほしいからと待つ燈矢をエンデヴァーは無視した結果……燈矢の個性暴走か、はたまた焼身自殺か……そうして轟燈矢は死んだのだった。
独白が終わって、緑谷はエンデヴァーに尋ねた。
「なんで……それを僕に言ったんですか?関係ない僕に……家族の問題でしょうが……」
苛立ちもあったので、口も少し悪くなった。それこそ体育祭で、殴りかかった時と逆だった。無関係な自分に何故そんな事を吐き散らしたのかと……その答えは……。
「お前を……指導する中で、思い出してしまったんだ、燈矢を……」
「はぁ!?」
なんとも度し難い答えで……緑谷出久は人生最高レベルの怖気を感じたのだった。
「燈矢が個性を発現して、指導を始めた……少しの間だった……緑谷、お前が追いつこうとする姿に……死んだ燈矢を重ねてしまって……自責を感じてしまった」
が、補足を聞いてある程度怖気は飛んでくれた。つまり、自分の成長と燈矢さんが重なってしまって、何を今更過去に浸ってしまい、テンションが上がった自分に自責を感じたので、全部吐いたのかと。
助けてくれ、かっちゃん、轟くん、オールマイト、もうこの際、死柄木でもいいから……。独白を聞き終えた緑谷だが、助けなんて来るはずも無いが……このまま吐き散らされてサンドバッグにされたのが癪なので、言い返す事にした。
「赤の他人に……家族のこと吐き散らして楽になれたなら、あんた全然反省しちゃいないよ……結局自己満足じゃないですか……それで燈矢くんが生き返るなら幾らでもそうしてください」
「…………」
「けど、死んだ人間は蘇らないし、何も言えない……謝っても許しちゃくれないですよ」
「償う方法は……無いと思うか?」
それを子どもに聞くのかと思った。けど、分かってしまった……エンデヴァーもまた、崩壊した家族に対して情も優しさもたしかにあったと。しかしNo.1への、オールマイトへの執着、狂気がこの景色を生んだ。
全部お前のせいだ、それは揺るぎない、その癖償いたいと、許して欲しいと思っている。
だが……なんて事だろう。緑谷出久は、その問いかけに対して答えを知っていた。
「生きる事じゃないですか?その身が朽ち果てくたばるまで」
贖罪の答えは……生き続ける事。その答えをまだヒーローでもない16の子どもが言い放って、エンデヴァーは首を緑谷に向けた。
「死んだらそれで終わりなんですよ、死に得?ですかね、そこから悲しい事も苦しい事も起きませんからね?死んで詫びるなんて言うけど……結局後の苦しみから逃げるだけと思うんです……」
だから、と緑谷は続けた。
「石投げられても、後ろ指差されても、気の済むまでそれに身を晒して生きるのが贖罪と思います……それで気が済んだらよし、死ぬまで罵倒されても言い返さず、好きにされようと何も言わないのが、唯一の贖罪かと……ま、日本じゃそれは駄目だから、賠償金やら、懲役か死刑かを裁判で決めるわけですが……」
生き続け、罪に苛まれようと、身を晒して耐えるのが唯一の贖罪だろうと緑谷は断じた。その代わりとして賠償金や懲役があるから、流石に言葉そのままはできないだろうが、贖罪を考えるならそれくらいの心持ちは要るでしょうよと吐き捨てた。
「……そうか」
エンデヴァーの答えは、その一言だった。まぁ自分の半分以下しか生きてないガキの死生観なんて、聞いて本気にする気はなかろうなと緑谷は、何を語ったんだ馬鹿馬鹿しいと恥ずかしくなった。
「そろそろ学校に送る時間だな、車を出す」
こうして、地獄の轟くん家での食事会は、終わりを告げた。