【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
その日……緑谷出久は完全なるオフであった。インターン出向も無し、埋め合わせの補習授業も無しの完全な休み……緑谷はグラウンドβに来ていた。
「いいんですかオールマイト、せっかくの休日なんでしょうに」
その傍には、オールマイトの姿があった。
グラウンドβは雄英高校の所有する、ヒーロー科の市街地訓練のために建てられた仮想市街である。その道路には、一台の車と一台のバイクが並んで駐車されていた。
「わたしも、デイヴから贈られたこれの試運転をしたくてね……まぁ外部に出れないから仮想ツーリングといこうじゃないか」
「まさかオールマイトにもクリスマスプレゼントが来ていたとは……じゃあ、始めますか」
漆黒の車と、白のバイク……正反対のカラーリング。その車体に向かい二人は歩き出す、緑谷はヘルメットを被ると、その目の意匠が赤い光を放ち、アナウンスが響き渡った。
『システム正常、イーヴルマジンとの同期完了……ヒーロースーツ:シン、起動します』
緑谷の羽織るコートの下から、駆動音が響き渡る。さっきまで装着した触感があった筈が、まるで無くなったかのように馴染み緑谷は驚いた。
「それじゃあ、イーヴルマジンとヒーロースーツ:シンの試運転を始めようか、緑谷少年」
「よろしくお願いします」
緑谷出久は、クリスマスに父から贈られたヒーローモービル『イーヴルマジン』に乗る為、年明けから即自動車学校に入学した。そして夜間講習と空いていたオフを利用して、徹底的に学科を進めて実技もしっかり受け、その結果一月下旬、見事免許取得したのである。普通自動二輪と、ヒーローモービル資格(二輪限定)の二つだ。
そして、このオフの日に初めて、イーヴルマジンの試運転と、ヒーロースーツ:シンの着心地を試そうと決めたわけだ。そのサポートとしてオールマイトが来た理由はやはり、イーヴルマジンも、ヒーロースーツも彼の友人デヴィット・シールドの開発した物だから見届けたいのと……実は彼自身も車が送られていたらしいその新車の試運転も兼ねてであった。
早速、イーヴルマジンにまたがり右足で、リアブレーキを踏み、右手はブレーキレバーを握ってエンジンキーを捻る。セルスターターのスイッチを入れ、エンジンが起動した。
意外にも静かな音だった、左のクラッチレバーをしっかり握り右足をついて、左足の爪先でチェンジペダルを踏み一速に入れて、また右足でリアブレーキを踏み左足を地面につける。
後部のオールマイトの方に向いて頷けば、オールマイトが手を振った。
他に誰もいないグラウンドβだが、一応路肩から発進するため、ウインカーを入れて確認し、ブレーキペダルから足を離し、レバーからも指を離す。
ゆっくりクラッチレバーを開けば、バイクが前に走り出した、アクセルを捻りスピードが少し上がり、両足をステップに置き、いよいよイーヴルマジンが道路を走り出した。
『現在、通常モードです、オートパイロットへの切り替えの際は、デバイスから操作を』
「分かった、イーヴルマジン」
モービルの名であり、AIの名前でもある『イーヴルマジン』からの案内に、緑谷は左手でタッチパネルのメーターに触れ、オートパイロットを選択した。
『オートパイロット起動、ハンドルとアクセルから手を離してください』
アナウンスに言われるがまま手を離す。見ればアクセルにクラッチレバー、チェンジペダルまで自動で動いてスピードが上がっていき、50km/hで巡行し始めた。
自動運転……車にもやがて搭載がされるらしい機能が、このバイクにも搭載されている。ステップに立ちながら手を広げてみてもバランスを崩さず走ってみせるなんという精密な機能だろうかと驚かされた。
『調子はどうかな緑谷少年?』
後方から追走するオールマイトの通信に、緑谷が答えた。
「驚かされてばかりですね、じゃあ……レーサーモードに切り替えて運転してみます」
イーヴルマジンには、三つのモードが組み込まれている。通常の街乗りの機能たる『通常モード』そして、さらなる速度限界を取り払う『レーサーモード』、もう一つのモードはこの試運転にはまだ必要ない為割愛させていただく。
デバイスの自動運転を解除してしっかりハンドルを握りアクセルを開きながら、左側ハンドルのロックレバーを指で解除し、緑谷はハンドルを押し下げた。
『イーヴルマジン、レーサーモード移行』
アナウンスと共に、ネイキッドスタイルのボディが音を立ててカウルからフロントまで組み変わっていく。そしてその車体が、レーサーレプリカのような形に変貌し、緑谷は前傾姿勢となって車体にしがみついた。
速度が上がり、後部から追っていたオールマイトはすぐに離された。
「……全く振りはなされる感覚がしない」
『イーヴルマジンと同期したシンが、マスターの操作をサポートしています、余程の外的要因がなければ、マスターが倒れる事はありません』
加速に耐えうる理由はヒーロースーツであった、そのままグラウンドβの市街地のカーブすら曲がり切るアシストまで付いているらしい、時折ブレーキやギアチェンジが自動で作動していた。
「よし……イーヴルマジン、緊急脱出を試したい、できるか?」
『かしこまりました、3秒後に打ち上げます……カウント開始、2…1…』
イーヴルマジンに命じた緊急脱出、カウントが終わった瞬間、緑谷は空に射出された。ヒーロースーツ:シンのブーツとイーヴルマジンのステップから電流が流れ、レールガンの機構で射出する脱出機能らしいが……グラウンドβのビル群に届きかねない高度まで飛ばされた。
「あんなに勢いよく飛ばされて負荷も感じないなんて……」
緑谷はそのまま、コートの滑空翼でゆっくり降下していく。イーヴルマジンは路肩にゆっくり止まって直立し、レーサーモードから通常モードに変形し直していた。
着地した緑谷に、追いかけて来たオールマイトの車が近くに止まり、中から出て来た。
「どうかね緑谷少年、乗り心地に着心地は……」
さて、総括してみようかとオールマイトに尋ねられた緑谷は、ヘルメットを脱いで息を吐いて……言い放った。
「これ、危ないですね……着られてる感じすらします」
危ない……まさかの感想だった。
「頭の中で描いた動きが、簡単にできてしまう……何より着ているはずなのに、皮膚のように全く着た感じがしない……これに慣れたら、このスーツありきのヒーローになってしまいそうです」
あまりにも、このヒーロースーツ:シンは高性能だった。緑谷出久が頭に描く動きができると、たった一度の緊急脱出から起動して動いての感想がそれだった。高性能すぎて、自身の実力が育たない、このスーツが壊れたら何もできなくなってしまうようなと頭に過ぎるくらいには凄まじい性能であった。
「それほどまで……」
「父さんとデヴィット博士が目指す……個性がない人間もヒーローになれるスーツ……現実味が出て来たみたいだ……」
I・アイランドの事件で着ることになった災害救助スーツ『エルクレス』は、一年経たずその理想に近づきつつあり、その形の一つがこの『シン』なのかもしれないと、着てみて実感した性能に緑谷は冷や汗を垂らした。
「イーヴルマジンには悪いけど……これを着るのは余程の事になりそうだ、ごめんね?」
『いいえ、マスターがそう望むのであれば構いません』
このスーツを着る、それは自分でもどうしようもない事態に直面した時かもしれないと、イーヴルマジンに話しかけた緑谷に、AIだからこそか、それとも人格まであるのかその謝罪を受け止めたのだった。
「オールマイトの方は?そちらのスポーツカー、乗り心地は?」
さて、オールマイトの車はどうかと尋ねて、オールマイトは質問が来ると思わなかったらしい、慌てて答えた。
「え?ああ、いい感じだよ……しかし運転って体が覚えてる物だね、私久々に運転したけどしっかり覚えてたよ……」
「え、オールマイトって……ペーパードライバーだったんですか?」
久々の運転と聞いて、まさかペーパードライバーだったのかと緑谷は目を見開いた。免許取り立ての自分が言えた義理ではないが、普通にプライベートはスポーツカーくらい乗り回しているのかとイメージがあった。
「ほらぁ、私現役の時は一っ飛びでどこへも行けたし車が必要なかったんだよねぇ、アメリカで免許取ってから、数十年ぶりかもしれないね」
「それでスポーツカーいきなり運転したんですか?!」
ペーパードライバーからスポーツカーをいきなり!?安全運転でも振り回されないかと思ったが、普通についてきたので経験は余程の事がないと消えないのかもしれない。
「いやしかし……いいものだね、運転……落ち着いたら山にドライブ行くのもいいかもしれないね」
「あ、いいですね……どこかツーリングしましょうよ、朝霧高原とか白糸の滝とか」
このヴィランが活発になった今では無理だが、いずれ落ち着いたらこの車でどこかにいくのもいいかもしれない……ヒーローを引退して一教師になったオールマイトが、人らしい趣味を見つけようとしている事に、緑谷もならばとドライブを提案した。
いつか、そんな日常を取り戻せたらいいなと語り合う二人。しかし、そんな会話すら許されないとばかりに、二人の携帯電話が同時に鳴った。
「はい、私だ……え……なんだって!?」
「なんだ、轟くんからメッセージ?リンク?……え?」
オールマイトはその電話口の相手からの話に驚愕し、緑谷は轟からメッセージでニュースサイトのリンクが送られてきた。
その日……世界を揺るがす犯行声明と、凶悪なテロが、ヨーロッパで行われた。そして……緑谷出久は、迫り来る世界の危機に立ち向かう事になるのであった。
次回、僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア
劇場版編第三弾
『World Heroes' Mission編』
ご期待ください。