【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
バスの屋根に揺られて数時間、終点に到着した緑谷と少年はあたりを見回し、警察がいない事を確認した。
「警察は……ここまでまだ来てない……って事か」
とりあえず警官や警察は居ない、全国指名手配の割にはまだ捜査網はそこまで伸びていないらしい、少しは安心できるかと息を吐く緑谷。
「なぁ……」
そんな緑谷に少年が尋ねた。
「なにさ?」
「ちょっと、電話してきていいだろ?」
「誰に……あ、弟と妹?」
電話がしたいという少年に、たしか弁明を聞いた時に弟達が居るんだと言っていたなと緑谷は思い出して自らの服のポケットを弄った。
「ほらこれ、電話してあげて」
「いや金は……ありがとう……」
2ユーロ硬貨を少年に渡す、金は持っているのだが……少年は、このヒーローは電話の口実を隙に自分が逃げたりする事を考えないのかと思いながらも近場の公衆電話に向かった。
電話番号を押していき、コール音が鳴って、受話器を取る音が鳴った。
『はいスタンリーク』
「あ、おっちゃん?」
『ロディか!?』
運び屋の少年、ロディが電話をかけたのは弟や妹の居るトレーラーハウスではなかった。運びの仕事を斡旋してるバーの店主にだった。
「あぁ……いきなりでワリぃんだけど……俺の家に行って、弟と妹にしばらく帰れないって伝えてくれないかな?金は後で払うからさ……」
そもそも、ロディのトレーラーハウスに電話は無い。だから斡旋先のバーの店主に頼むしかなかった。が……。
『バカヤロウ!!テメェにそんな事してやる義理はねぇ……それよりブツが届いてねえってクレームが来たぞ……』
そもそも、運びの仕事を失敗していたのだ。クライアントから、ヴィランからクレームが来ていると店主の声にも怯えが混じっている。
「いや、それは……違うんだ!」
『言い訳してんじゃねぇ!死にたくなかったらさっさとブツをとどけろ、いいな!?』
一方的に切られ、通話は終了した。確かに言われてみれば……下手したら自分は宝石の持ち逃げを疑われて仕方がない状況だなと、ただロディは項垂れた。堕ちるとこまで、堕ちていくなと本当にロディは堪えた。
「くそ……ブツなんてねぇよ!!」
怒りを受話器にぶつけて思い切り元の位置に戻した。そうしてしばらく息を荒げて、ロディはふと振り返った。
そこには背中を道の手すりに背中を預けていた緑谷が、すぐそばにいた事に気付く。
「聞いてたのか、趣味悪ぃな……」
「足洗うにはいい機会じゃない?」
「簡単に言いやがって、日本人のボンボンが……」
どこへも逃げ場は無いと理解させられる……自分の人生はなんなのだろうかと考えながら、ロディは緑谷に悪態を吐いた。
「それで、あの暗号は一体何なんだ爆豪……」
同時刻、警察から出立し電車にてクレイドへ向かう爆豪と轟は、車内で爆豪が看破した緑谷の暗号に関して尋ねていた。全くわからなかったが特別な暗号なのかと尋ねられた爆豪は、舌打ちして答える。
「グロンギ語だ」
「グロンギ語?どこかの部族の言葉か?聞いた事無いな……」
まるでアフリカの少数民族じみた言語名だなと呟く轟に、爆豪は説明する。
「クソヴィランが好きな特撮で、仮面ライダーっつう昔のヒーローのシリーズがあって、そのクウガってシリーズの敵怪人の言語だ、あいつはそれで文章を打ってたんだよ」
「仮面ライダー……たしか緑谷、話をしてたな」
「その言語で訳すと……こんな文章になる」
爆豪はわざわざスマホのメモアプリで、緑谷の文章を訳したものを打ち込み、轟に見せた。文章はこう翻訳されるらしく、爆豪はその文章を目で追った。
暗くなったら
冷蔵庫の中の
イチゴを
どうぞ
「冷蔵庫のいちご?」
「んで、わざわざ段落作って送るってこたぁ、意味がある……最初の文字を縦読みしてみやがれ」
「……あ!?」
暗 冷 イ ど……即ち『クレイド』!つまり緑谷は二重で暗号を送って来たのだ、しかし轟は難色を示した。
「爆豪に見せなかったらわからなかったぞ……縦読みだけで良かったろうに……」
「全くだ……んで、クソヴィランが捕まえた運び人が、宝石のケースと取り違えたのが……」
「ヒューマライズの団員が持っていたケースらしい」
暗号は分かった、そうして緑谷はこの騒動に巻き込まれ警察に追われる事になった。警察の動きや対応があまりにも早すぎた理由はやはり、と爆豪は言う。
「警察の中にもヒューマライズの信者が居て、クソヴィランが指名手配された……となりゃ、オセオン警察の偉い奴らがそうなんだろうな……」
「そしてケースには重要な何かがある、そうでもねぇと、ここまで大規模に警察は動かねえ……どこにヒューマライズの目が光ってるかもわからねぇ、慎重に行動するぞ」
「命令すんじゃあねぇ」
夕暮れの電車の中で、二人は緑谷出久の元へ急ぐ。
緑谷出久が指名手配されて、最初の夜が訪れた。国境へ向かう中、廃屋の納屋を寝床として、カンテラの灯りでオセオンのマップを眺めながら緑谷は、国境までのアクセスを探していた。
「……大概国境を越えるバスが海外にはあると思ったけど、オセオンには無いのか……なら、乗り物を調達するか……最悪歩きかも」
「はぁ!?歩く!?無理だろ!何キロあると思ってんだ!?」
交通機関は無い、電車はあるが国境や各駅に警察は張っているに違いない。最悪歩くしかないと言い出した緑谷に、ロディは言い放つ。歩ける距離な訳あるかと、緑谷は地図を見せながら人差し指と中指を立てて、およその現在地と国境に置いた。
「地図上で指一跨ぎだから行けるでしょ?」
「スケールいくらの地図だよ!?その一跨ぎが何百キロなんだよ!!」
「まぁこれくらいなら僕は行けるけど、なに、君を引きずってでも行くから安心して」
「せめておぶるとか言ってくれよ!!ヒーローならさぁ!?」
本当にお前ヒーローなのかよと、この道中何度目の疑問をぶつけながらロディは不貞寝した。廃屋の納屋の藁のベッドで寝転がるロディに対し、緑谷も背中を向けながら睡眠に入ろうとする。
「弟妹がいるらしいけど、ヴィラン絡みの運び屋で飯食わせてるの?」
眠りにつく前に質問してみた、どうしてヴィランの下働きなんてしているのかと。それに対してロディは舌打ちしながら機嫌を悪くして言う。
「好きでやってるわけじゃねえ、まともな仕事……出来ねぇんだよ俺、出来なくなったんだ」
「そう……」
「ヒーローには分かんないだろうな、八方塞がりで、頼れる奴もいない人間の事なんて……もしヒーローが居るなら、今の俺や妹、弟を助けて欲しいよ……」
緑谷は、それ以上何も聞かなかった。彼もまた、ヒーローの手が届かなかった人なのかもしれないと。過去をほじくり返すのは良くないと、踏み込む事をやめた。
「もし……何も解決できなかったら、責任取って1億ユーロ、この荷物を欲してる奴からふんだくってくるよ」
「はっ、期待するかよクソヒーロー……けど、1億ユーロかぁ……そんだけありゃ、弟も妹もまともな生活送らせてやれるだろうな……」
「先に弟妹なんだね……じゃあ豪邸立ててさ、お手伝いさん雇ってあげなよ……」
「俺が守るって決めたからさ……唯一の家族だから……」
家族か、痛いくらい分かるなと緑谷は、少年がいかに弟妹を愛しているのか話して分かった。自分の場合、両親かなと目を閉じる……。
藁の上は寝付けないなと、背中を向けながら目を閉じていると、背後から音が聞こえた。ジュラルミンを持ち上げる音も聞き、ピンクの小鳥の鳴き声まで聞こえた。
……帰って来れたのか、空の彼方までぶん投げたのに。すげぇなと思いながら、ロディがジュラルミンを抱え納屋から出ていくのを音で聞いた緑谷は、ゆっくり起き上がる。
「クルルゥうーー!キューー!」
「分かってる、大丈夫……昼間はごめんね?」
ピンクの小鳥……ピノだったか、ジュラルミンを運び出したのを伝えているのを緑谷は頷き、優しく手に包み肩に乗せて、ロディの後を追った。
「じゃあ、待ってますーー」
ロディは、廃屋の納屋の近くの街灯に照らされた公衆電話ボックスで、連絡を取り終えた。これでもう、逃げる必要も無い、これでいいとジュラルミンを抱えて息を吐く。
そして、電話ボックスを出た瞬間ーー。
「こんばんわ」
「いやぁああああああ!?」
緑谷出久は既にそこに居た、そのまま尻餅をついてジュラルミンを落としたロディは、街灯の逆光で表情が見えない緑谷を見上げ、最初は怯えの表情だったが、すぐに苛立ちへ変えて吐き散らした。
「も、もう付き合い切れねぇ!あんたの正義や事情は知らねぇ!こいつを渡したらもう、俺は関係無い!そうだろうが!?ああ!?」
「ヒューマライズに電話したんだ?」
「したさ!!悪いか!?」
もう嫌だと、だからこれで渡して終わりにしたいとロディの言葉に緑谷は顎に手を当てながら、頷いた。
「いいよ、渡してみよう」
「え?」
返って来たのは、裏切りへの怒りや粛正でもなく、承認だった。
「僕も同席して渡してみて……逃がしてくれるか口封じするか、賭けをしてみようよ?そうしたらキミも納得するだろ?」