【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
scene10 名前、聞いてなかったな
ロディは賭けに負けた、やはりヴィランは逃してはくれないようだ。あの後、廃墟の納屋ではなく、近場にあった広い横穴を見つけ、2人はそこに隠れた。
ロディは焚き火の火を眺めながら思う。またヒーローに助けられた、逃げる時の言葉をロディは思い出す。
『その時は……ヴィランを殺してでもキミを守るよ、約束する』
殺してでも守る、このヒーローは本当にやってみせた。目の前でヴィランの頭部を脊髄ごと引っこ抜いて殺して、もう1人は当たった矢を引っこ抜いてから投げ返し、目に刺してジュラルミンを回収して、自分を抱えて逃げてみせた。
揺らめく焚き火の炎の灯りを使い、貫かれた矢傷をまるで慣れたように、救急キットの針と糸で縫い合わせる緑谷にロディは尋ねた。
「どうして、こうまで庇うんだよ?」
「何が?」
その質問に対して緑谷は、体に包帯を器用に巻きながらさらに聞き返した。まるでそんな質問来るとも思わなかったぞと、呆気に取られた表情だ。
「俺は……ケースを持ち出した、しかも居場所まで吐いた……賭けにも負けたし、捨て置いてもよかったろうに矢から庇うまでして……」
緑谷は包帯を巻き終え、庇った理由を聞いて来たロディに、その理由を話した。
「キミは宝石強盗の仲間で重要参考人だ、まだあの事件は終わってないから死なれたら困るーーキミを生きたまま警察に突き出して、初めて僕の仕事が終わるのさ」
宝石強盗の事件の犯人の1人であるキミを、警察に渡すまで事件は終わってない。死骸を渡すわけにいくまいよと冷たい理由に、ロディは舌打ちした。
「けっ、結局犯罪者とヒーローって事かよ……」
「死ぬよりはマシでしょ?家族が居るなら生きて帰らないと、たとえキミが犯罪者だろうがね……そんで罪を償って、真っ当に働いて、真っ当な金で弟妹を食わせてあげな」
オセオンマップを眺めながら、緑谷は言う。死ぬよりマシだと、家族もいるなら生きて帰るのが最優先だと。そしてちゃんと罪を償ってまともに生きろと言う緑谷に、ロディはそのまともに生きるができなくなったからこうなってると言ったよなと言い返そうとした。
「だから……はぁ、まぁいい……お前本当分かんねぇな……あれだけ俺を殴って、ヴィラン殺しといて、俺には更生しろだなんて支離滅裂だよ」
しかしもう諦めた、身の上を知らないからそう言えるのだと。そしてこのヒーローの荒唐無稽すぎる行動と弁舌に、ため息混じりに愚痴をこぼす。
「こんな僕でも更生してヒーローになろうとしてるんだ、キミにもできる……見たろ、僕の個性?」
緑谷が愚痴にも律儀に言い返す、そして思い出してしまう先程の残酷なる光景……ロディは見た以上気になって尋ねてみた。
「ありゃ、どんな個性なんだよ」
「脊髄ぶっこ抜き」
「えぇ……そのまんま?」
「あと、今は色々引き寄せれるし、臓物もぶっこ抜ける、この個性が原因で親戚から殺処分する様になんて言われたよ、友達も……まぁ高校まで皆無だった」
こんな個性だから、まぁ個性差別を受けてたよと言う緑谷に、ロディはそうだろうなと言う反面、やはり大変だなとも感じてしまう。そして……更生という単語からまさかと更にロディは尋ねた。
「て事は……お前もヒーローや警察の厄介に?」
「クラスメイトを助けたくて、ヴィランを殺しかけた……そして捕まったよ、まぁそれ以前に不良の吹き溜まりな学校で色々やらかしてたから、年貢の納め時かなって」
淡々と語る過去の話に、ロディはこのヒーローも元々こちら側だった事を理解した。だからかと、真っ当に今自分も生きようとしてるから、おせっかいにも引き上げようとしていると。
「留置所に囚われて、それで……そこにオールマイトが来てくれた、見てたらしいんだ、僕がクラスメイトを助けるとこをね?」
「え!?あの、オールマイトが!?」
「そ、そして僕に……個性の使い方を覚えてヒーローになりなさいって言ってくれた、あの出会いが無かったら……僕はヴィランになってただろうね」
だからこそ、緑谷はロディに手を差し伸べようとしているらしい。だからこそ余計に、そう余計に……ロディは腹が立った。
「結局……あんた運が良かったんだな、俺と違って……俺は、誰も手を差し伸べちゃくれなかったよ」
あの街に手を差し伸べてくれる存在はいない、ヒーローも助けに来たりしない、金にならないから。奪われるか、貶められるか、必死に生きて何とか弟妹を食わしてやるしかできない明日も見えない日々の暮らし。
「お袋は妹を産んでからすぐ亡くなって、親父は俺たちを捨ててヒューマライズに行っちまった……そうしたらどうだ、周りの奴らは、イカれた家のガキだって石を投げつけて、家も学校も追い出されたよ……」
「!!」
「更生だと、なぁ教えてくれよ……こっから俺は、どうやってまともな人間になりゃいいんだよ」
痛感する……八方塞がりな人生という事実を緑谷は痛感する。自分はまだマシな方だったと、運が良かっただけなのだと。彼の父親はヒューマライズの関係者、それにより周りから差別を受けて堕ちるとこまで堕ちたと。
ヴィランになるのには、理由がある。
ただ思いと衝動に駆られたから。
ヒーローという存在が憎いから。
様々な理由がある中の一つ。
ならざるを得なかったから。
訳も知らず、更生をと語りかけていた自分に、緑谷は恥じた。そしてーー緑谷は立ち上がって手を差し出した。
「なら僕が助ける」
「ああ?」
「僕がキミを助ける、まともな生活を送れる様に、キミを助ける」
なんとも、浅はかな発言だろうか。普通もっと深刻な表情でもするだろうと、見上げたロディは目を細めて差し出された手を見て、そっぽを向いた。
「……どうやってだよ?」
「そうだね……まずは、キミを無事に弟妹の元へ返す、それから考えるよ」
「何も思いついてないんじゃねぇかよ」
苦笑しながらも、ロディは緑谷の右手に、右手を伸ばして握った。軽々と出された手でも、信用がなくても、ちょっとだけその差し出された手が嬉しいと感じたのだ。
「そう言えば名前聞いてなかったな、あんた」
「あー、確かに……お互い名乗らずだったね」
ここに来て2人はようやく名前すら知らなかったなと認識して、互いに今更だなと笑い合った。
「僕はイズク、イズク・ミドリヤ、ヒーローネームもイズク……イーヴル・ヒーロー、イズクだ」
「ロディだ、ロディ・ソウル……しかし、悪のヒーローか……その通りだな全く」
2人はここに来てようやく、互いの名前を知るのだった。