【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
309話 彼は何処へ?
日本のヒーロー社会、超人社会は崩壊した。
超常解放戦線とヒーローの戦いは、表面こそ見れば超常解放戦線の幹部から構成員の一斉検挙に解散とヒーローの勝利とはなっているが、その最中にヴィラン連合の死柄木弔による蛇腔市の崩壊に、荼毘こと轟燈矢によるエンデヴァーの過去、ホークスのマグネ殺害の告発で、日本のヒーローへの信用は地に落ちた。
更に、逃げ仰せた死柄木、ヴィラン連合の脳無襲撃によりタルタロスが陥落、全国六つの刑務所も襲撃され、うち四つから囚人、ヴィランが脱獄した。
無論、その中にはAFOも居た。
脱獄したヴィラン達は安直ながら『ダツゴク』と呼称され、全国各地で暴れ出し、日本は混沌と化した。世界中から渡航制限がかかり孤立する最中……ヒーロー達は篩に掛けられた。
発端は、ビルボードチャートNo.9のヒーロー『ヨロイムシャ』の引退からだった。
彼は此度の件で自身の限界を悟り引退を表明した、逃げただけだと非難に晒されながらの引退……チャート上位の引退が、ヒーロー達の引退を加速していった。
スーツを脱ぎ捨て逃げ出すヒーロー達、もうヒーロー飽和社会と言えなくなる程に次々と事務所を閉め、辞めていく。
だが、それでもと立ち上がるヒーロー達も居る。批判に晒されても、罵倒されても、助けの声あればと身を粉にして、この日本を建て直すために戦うヒーロー達も。
そんな混沌とした日本で……ある噂が流れていた。
『ヴィラン殺しのヒーローが現れた』と。
ヒーローとして犯してはならぬ『殺し』のラインを超え、血を被りヴィランを狩るヒーローが居ると。
彼はヒーローか?
はたまた快楽殺人者か?
時代が産んだ化け物か?
ただ一つわかる事は……
ヴィランも一般人も……彼を恐れているという事だ。
「また昨日、5件はあったみたいです、エンデヴァーさん」
「みたいだな、ニュースにもなっている……」
寂れた倉庫で、ホークスとエンデヴァーが、ホワイトボードに貼られた関東地区の地図に印を付けて言った。
「連絡を一切経断って、緑谷くんは一人で戦っている……そして確かに成果を出してはいますが……搬送されたダツゴク、ヴィラン達は見るも無惨な姿だと」
「無惨とは……つまり?」
近場のドラム缶に座っていたエッジショットが問いかけ、ホークスはそれに顔を顰め答える。
「解放複雑骨折……内臓の損失に破裂、酷い者は半身不随や全身不随にまで至っていると……殺してはいないが死んだ方がマシな状態……ですね、脊髄ぶっこ抜かれて死んだ方が、刺し直せば蘇生可能な分、五体満足という状態です」
「殺してないだけ、か……グレー寄りの黒ね、バッシング物じゃない、今はそんな余裕も司法には無いくらいだけど」
左瞼に付いた傷を指でなぞりながら、Mt.レディは緑谷が現在行なっているヴィラン退治……いや、最早『ヴィラン狩り』に難色を示した。
確かにヴィランを殺してない、退治はしている、あくまでそれは文言を守っているだけの、蓋を開ければ鬼畜の所業であった。
「兎も角我々も、ヴィラン確保をしながら彼を保護しなければ……彼が今持ってるんだろう、オールマイトの個性を?」
自分たちもヴィラン確保をしながら、早く緑谷出久の保護を急がねばならないとシンリンカムイが頷いた。
「その様です……もしも緑谷くんがAFOの刺客にやられたり、ヴィランに負けて連れて行かれたら終わりです……特に、タルタロスが破られたなら、もしあの人がAFOに組していたら……出会ったら緑谷くんは確実に負けます」
残存した日本トップヒーロー達による、緑谷出久捜索は急を要した。それ程までの緊急事態だった、何よりホークスが懸念しているのは『あるヴィラン』との接敵であった。
「あの人って……?」
そんな危険なヴィランとは一体と、Mt.レディが尋ね、ホークスは答えた。
「元、公安ヒーロー……レディ・ナガン、俺の先輩にあたるヒーローです、会ったことはありませんが……彼女と接敵する前に保護しないと」
プロヒーロー達が軒並みスーツを脱いでいく中、仮免許を取得した学生ヒーロー達は学校自体が休校となり、学徒動員という形で救助やヴィラン退治に充てがわれていた。
かつて、雄英一年A組と共に仮免試験を受け合格した、傑物学園の二年生……現三年生真堂揺と中瓶畳も、その二人であった。
この混沌とした情勢下、エンデヴァーやヒーロー公安委員会、警察が下したのは『ヒーロー校を避難所として利用する避難だった』
雄英高校始め、士傑、傑物、全国のヒーロー科を有する高校に避難させ、保護し、ダツゴクや脳無から守るというもの。無論反論して、自分の身は自分で守ると街に残る者もいた。
自警団……ヴィジランテとして活動し始めた一般人はサポートアイテムでヴィランに抵抗したが、違法サポートアイテムも横行しており、その暴走で逆に怪我をする者までいた。
「警察にヒーロー、そんで持って今度は子どもを寄越しきたか?」
「無駄だ、帰りな」
未だ街中に残る彼らを、避難所に連れて行くため説得するのが彼らの仕事だったが、早々に去れと冷たい言葉が待っていた。
「ここは危険です、生活用品や食料の備蓄も長く持たないでしょう?傑物学園には物資が豊富にあります、どうか避難していただけませんか?」
めげずに、真堂はまず優しく諭すように頼んだ。気持ちはわかるが物資も少なく、何より危険だ、ヒーロー校なら物資もあるし安全だからと交渉する。
「はっ!人が集まったところにヴィランどもが襲来した時……あんたらはどうにかできんのかい?」
この区域のヴィジランテの長らしい男がくってかかる、もうヒーローは信用しないと見るからに態度から真堂も、中瓶も分かってしまった。
「うちの店を襲った屑どもを何人も返り討ちにしてやった」
「俺たちは目が覚めたんだ、テメェの育った街はテメェで守る、命は他人に預けねぇ」
頑なだ、当たり前だ、真堂も中瓶も理解している。避難勧告が出てまだ街に残る市民は、そういった筋金入りだと。それでも真堂は説得を続けた。
「金品や物資を狙う輩なら撃退するのも可能でしょう……しかし、ダツゴクや脳無は違います」
自分たちの力で守る、それはいい、そして実績もあるなら自信もつこうが、今この街中に現れるのは火事場泥棒やチンピラではないのだと真堂は話す。
「昨日すぐ近くで、目撃情報が入ってます……暴力……それ自体を目的とするような、人とかけ離れた連中……対応を誤れば、プロでも死にます」
ダツゴク、そして脳無は違うと。プロですら死ぬような犯罪者が、破壊の権化が今は全国を、街中を彷徨いてここにも来ている。ヴィジランテでは決してどうにもならないと、だから避難して欲しいと真堂は諭すように語る。
「……言ったろ、ヒーローよりもテメェを信じる、他人の生き方も強制出来るほど偉いんか、ヒーローってやつは?」
それでも決して届かない、いよいよ許容限界だと内心苛立つ真堂だが、しっかり笑顔で更に踏み込んで言い放つ。
「貴方がたより、戦うことには長けています、お守りさせてください」
「その言葉を信頼してきた結果がこれだろう?」
その歩み寄りすら弾く、冷ややかな返答と眼差しがヴィジランテのリーダーより返された。それに続くようにメンバーも口々に言い始める。
「ここを管轄していたヒーローは、あの事件の後!一目散に尻尾を巻いて逃げていったんだぞ!!」
「ここだけじゃねぇ、西区も東区も居なくなった!今まで散々チヤホヤされてきたくせによぉ!!」
信じてきたヒーローは一目散に逃げていった、信用なんてすでに無いんだと殺気立った声で言い返されてしまった。
「平行線だ坊主、とっとと帰んな、俺たちはもう……ヒーローを頼らねぇよ……」
「だぁああ!もう!あんなビル、個性を使えばすぐ瓦解しちまうんだぞぉ!!強制連行していいならひきずってやるのにぃ!!」
「ダメじゃん……」
というわけで、追い返された真堂は苛立ちを吐き散らした。流石にそれはダメだよと彼女でもある中瓶は呆れ気味に諭す。
「けど……困ったね、いつダツゴクや脳無が現れてもおかしく無いのに」
だがしかしどうしたものかと、このまま放っておくわけにはいかないと打開策はないか考える中、中瓶のスマホが鳴った。相手は同じ傑物学園の真壁漆喰からであった。
「……基地局もいつまで持つか」
中瓶は呟きながらスマホの通話をタップした瞬間、焦る声が響いた。
『二人とも逃げろ!!』
「え?」
『ついさっき射手次郎が肉眼で確認した!俺たちじゃ間に合わん!すぐに逃げろ!』
その電話と同時に……近場の崩れかけたビルの一棟が砂煙を上げて瓦解した。
「ーー来る!?」
砂埃から何かが飛び出し、真壁と中瓶の近くのビルを砕きながら降り立つ。
「ほんっと馬鹿だよねヒーローってさ、戦力差も分からないのかなぁ?見てわかるだろうに」
「ふしゅるるる、ふしゅぅううーー!」
現れたのは、二人のヴィランだった。詰襟にガスマスクをつけた少年は、指でくるくると拳銃を弄びながら呟いて、筋肉繊維が膨張し、皮膚を突き破った男の肩に乗っていた。
彼らはダツゴク。
一人目は『マスタード』個性はガス、雄英高校の林間合宿時、元ヴィラン連合の一人として襲撃に加担した学生ヴィラン。
そしてもう一人は、かつて『血狂いマスキュラー』と呼ばれた快楽殺人鬼であり、同じく元ヴィラン連合……マスキュラー!
そのマスキュラーは、背中に酸素タンクじみた物を背負い、白目を剥いて自身の意思を奪われたように呼吸しかしていなかった。