【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「たくさん殺した……ヒーローへのテロを謀計していたグループ……ヴィラン組織と癒着して金と名声を得たヒーローチーム……」
髪をちぎり、捏ねて弾を作り、腕のライフルに装填しながらナガンは言う。怒り、諦観、そんな感情が声色から緑谷には分かってしまう。
「社会の基盤を揺るがしかねない人間達は……法に裁かれる事無く罪ごと消えた……全て、公安の秘匿命令だ……!」
「…………」
公安直属のヒーローの仕事は、とどのつまり汚れ仕事。ヒーロー社会の信頼を維持する為に、ヒーローの不正や明かされれば崩れるヒーローの悪事を闇に葬るのが、レディ・ナガンに課せられた仕事だった。
「表の顔と裏の顔、どちらも欠けたら立ちいかねぇから、だから従った!従って、従って!殺して!清廉潔白の一枚板のハリボテの汚れを拭い続けた!!その脆さに……眩暈がした……疲れたんだ……分かるか!ヒーローのガキ!洗脳なんだよ、薄暗いものを隠し続けて綺麗なものだけを見せ続けたのがヒーロー社会だ!その果てに私は……当時の公安委員長を撃ち殺した!!」
独白を聴き続ける緑谷、そして真実を報されて。レディ・ナガンはヒーローを殺してタルタロスに収監されたのではなかった……公安の汚れ仕事の果てに、精神を病み嫌気がさして、ヒーロー社会の本当の姿に絶望した果てに当時の公安委員長を殺害したのだと、彼女の口から報された。
「……ニュースにもなってましたね、公安は、そこでもハリボテを守ったという事ですか……」
表沙汰にはヒーロー同士の言い争いから殺したという記事だった。ヒーロー公安委員会が、ヒーロー社会を守る為にそう隠匿したのかと、緑谷はなんとも言えぬ事実に奥歯を噛み締める。
「そうだ、誰もが空想し憧れた超人社会は、薄く脆い虚像……そんな物、取り戻してどうなる……」
弾丸の装填を終えて、レディ・ナガンは立ち上がる。ダメージも引いてきた、ここからもう一度、次はもう喰らわないと壁から飛び出た。
そして目を見開いた。
緑谷出久は、隠れず、逃げて仕切り直しをするどころか、仁王立ちで立っていたのである。
「ーーそれで、こう思ったと?AFOの支配がマシと……」
「何のつもりだ……ガキが……」
何かを仕掛けたのか?最大限の警戒で、ライフルに変形した右腕を構えて、ナガンは緑谷から銃口を外さなかった。
「……去年です、公安から名刺をもらいました……悩みがあったら聞くと、先生から止められたのは……この事があったからと貴方の話で分かりました」
「何だって……?」
「都合が良かったのかもしれません、僕の個性も誰かを殺すにはもってこいだから……貴方の後釜になるかもと……」
こんな時になって緑谷は、ようやく合点がいった。職場体験でヒーロー公安委員会が接触してきた理由を……彼ら公安は、レディ・ナガンの後釜が欲しかったのだと。
目の前に居る彼女は……つまり自分の成れの果てだ。いいように利用されてやがて破滅した自分が、彼女なんだと緑谷は一歩踏み出す。
引き金が引かれた、左頬から耳に熱がはしり、赤い線ができて、だらりと血の幕が降りる。それでも……緑谷は一歩、また一歩と進む。
「レディ・ナガン……貴方の気持ちが、僕には、よく分かる……分かってしまう……」
「なにを……ガキに何がーー」
「僕だって人を殺した!!世界の為に!!」
「!?」
正義のために、平和のために、社会のために彼女は歯車になり、手を血に染めた。その重積、良心の呵責は計り知れない。それは、少し前にある事件で敵の命を奪った緑谷出久と同じだった。
『ヒューマライズ事件』
宗教団体『ヒューマライズ』の教祖、フレクト・ターンが起こした世界規模のテロ。1人の男の絶望が、世界を崩壊させかけた大事件だ。
「みんな死ぬかもしれなかった、殺さないと……殺して、今でもその顔を思い出す……」
その事件の果てに、緑谷はフレクトを殺した。殺さなければ、世界が終わっていたから、殺さなければ……大切な仲間や親友が死んでいたかもしれないから。
「お前……嘘だろ……その歳で……?」
「今も考えてしまう……自分以外だったらまた違ったのかって……その人が何故ヴィランになったかも、同情してしまうくらい……だから、貴女がここまで絶望するのも……子どもなりに、分かってしまう……」
緑谷は苦しそうな眼差しで、また一歩近づき、ついにナガンのライフルの銃身が胸元に当たる距離まで近づき、そして触れた。
「けど……だからって、何もかも自棄になるのはダメだ……AFOの支配は、そんな虚像の平和よりも絶対酷い世界になる……だから、お願いです……止まってください、レディ・ナガン」
銃口を掴まれて……撃てば心臓を射抜ける胸元にまで近づけて、緑谷は言う。それに対してナガンは言い放つ。
「それでまた、同じことを繰り返すだけだ……キラキラ輝く星だけを見せられ、また誰かが真実に蝕まれる!」
撃ち抜け、レディ・ナガン!0距離の標的に何をしていると、緑谷の胸板に強く銃身を押し付ける!
「そんな事には、絶対ならない!!させない!!悪意も悲しみも、僕が全て引き受けてやる!!もう……誰一人泣かせない!!その中に貴女も入ってる!!」
押し付ける銃口を振り払い、緑谷はそのままレディ・ナガンに手を差し出した。
「こっちに来いレディ・ナガン!闇を知る貴女なら、これから照らす方向もわかるだろう!一緒にAFOと戦おう……貴女はヴィランじゃない!麗しきヒーローレディ・ナガンだ!!」
振り払われた銃身を、再び突きつける事はできなかった。その眼差しを見て……ナガンは感じた。この子は危ういと、私と似た目をしている。
全て引き受けると言うその強い眼差しは、最早狂気だ危なすぎる。この子が辿りつくのはーー私だと悟った。
けれど、その狂った眼差しと力強い言葉に、レディ・ナガンは手を伸ばそうとしたが、体内の胎動に気付く。
そうだよな、裏切りには死……それくらいするよなと彼女は、緑谷のスーツの首元を鷲掴みし、背面の窓へ投げた。
「ーーえ?」
「緑谷出久……お前は……私のようになるな」
最後に見た笑みは、救われたと言う笑顔か、はたまた諦めか……。
兎も角、緑谷出久はビルから投げ出され、その刹那、レディ・ナガンの身体が爆発に包まれた。