【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
緑谷出久は……数年前まで、女性から好意なんて向けられた事が無い人物であった。
原因は個性もあるが、何より自身が雄英に入る前に過ごした故郷となる街『折寺』の環境もあっただろう。
緑谷と爆豪がかつて通った、折寺にて唯一の公立中学校である『折寺中学校』ははっきり言って……。
『不良の巣窟』だの『ヴィラン養成所』と呼ばれた魔窟であった。
折寺のママさんは、少なくともこの折寺中学校に入れないために子どもに勉強させ、中学受験させて私立中学へ入らせようとするのがパターンだったりする。
個性の事で小学生、いや保育園から荒れていた緑谷出久は、素行不良により弾かれて折寺中学校へ入学した。
ちなみに……爆豪は『折寺中学校から唯一の雄英合格者』という箔をつける為に、わざわざ私立合格を蹴り入学した経緯がある。
その魔境に居る女子達は……はっきり言って雌猿としか言えなかった。
非行に走り、夏休み中には数人が学年問わず妊娠して登校不可になるような、そんな秩序もへったくれもない学校だった。
そんな中で緑谷出久は……めちゃくちゃ嫌われていた。
まぁ何しろ彼はその個性で恐怖政治を敷いた男だったので、やられた彼氏の仇と背後から刺しに来たり、下駄箱に剃刀を仕掛けたりと、女性?好意?なぁにそれな状態だった。
緑谷自身も、こんな個性なので好いてくれる女性は居ないと諦めていた節があり、やがて孤独に死んでいく覚悟すらしていた。
恋なんてできないだろうなと。
それが、雄英に来てから変わった……自身の個性を理解して、好意を向けてくれたクラスメイトが2人。
相談に乗ってくれて、甘えさせてくれる女教師が1人。
挙句……外国にフィアンセまで居るという、今までの灰色の春を染め上げる好意の山が迎えてくれたのであった。
「その……申し訳ないんですけど……もう僕これ以上女性関係で対応できる許容量を超えてるので……キミの好意は嬉しいけど、受け取る事ができないんです……」
あまりにも贅沢すぎる、ここに峰田くんが居たら絶交してヴィラン反転しそうな、そんな理由で、しかし自身の最大の誠実さで緑谷は、トガヒミコの告白を断ったのであった。
「な!?」
トガヒミコは、失恋に頭上へ『ガーン!!』の文字が浮かび上がるんじゃあないかというほどにショックを受けていた。まさか、断られるとは思わなかったようだ。
背後で待機中の麗日が、安堵と気恥ずかしさに頬を掻いているのを見て、嗚呼なるほどと蛙吹は理解した。
「そ、そんな!アタシはこんなにもアナタを愛してるのに!初恋の人にそっくりな、血の似合うアナタが大好きなのに!」
「えぇ……キミの初恋の人って猟奇的な人?」
「お願い、断らないでよ!私を好きになって!ちうちうさせて欲しいの!!」
初恋が血に染まった自分に似ている人って余程ヤバくないかと、実際は少しニュアンスが違うのではあるが、諦めきれないトガヒミコの叫びに、緑谷はふむと顎に手を当てながら考え、彼女に言った。
「その……ちうちうってつまり、フェ◯チオの事?」
「緑谷ちゃん!?」
「ちょっ!!イズクくん!?」
彼女の言う『ちうちう』なる行為に、分からなかった緑谷はとりあえず思いついた単語を吐いて、蛙吹と麗日が何言ってんのこの子と赤面させた。
「いや違うのです!?そうじゃなくて……血を吸いたいんです!!緑谷くんの、ダーリンの血が吸いたいんです!!」
赤面して驚くトガヒミコに、吸血したいと言う意味と説明される緑谷。それを聞いた緑谷は……唸り、首を傾げながら尋ねた。
「まぁ、血を吸いたいのはいいとして……恋人に対してそうしたい理由は?そもそも恋人って、お互い好きになって、デートで映画やゲーセンいったりショッピングしたり、食事をしてから……綺麗なホテルで一夜を過ごすのが恋人じゃないの?」
「あらまロマンティックでオーソドックス……出会った頃とは思えないわ」
「成長したんやなぁ……イズクくん……」
出会った頃の情緒が未発達だった彼から成長したなぁと、お母さんみたいに感じる麗日と蛙吹。その緑谷の恋人の当たり前に対して、トガヒミコは答えを返した。
「私にとっては……"同じになる"事がそれなの……それでしか、満たされないの」
「…………」
「ねぇ、ヒーロー……私を、どうしたい?」
同じになる……彼女の個性"変身"の事かと、緑谷はトガヒミコの話を聞いて、麗日とこの日を迎える前、トロイアの断崖での話を思い出す。
そして、話を聞いて……理解した。
トガヒミコは……彼女は、飢えていると。
話を聞いた緑谷が、その次に取った行動に、麗日と蛙吹は驚いた。
緑谷は、ゆっくりとトガヒミコに歩み寄っていき、刃物が届く間合いにすら入り、それを不用意すぎると見た麗日が声を上げた。
「イズクくん!危なーー」
そして、緑谷はトガヒミコの手首を引いて寄せてーー。
「あーー」
トガヒミコを、抱きしめたのだった。これには麗日も、蛙吹も面を食らった。何をしているのかと理解ができなかった。
「あ、え?イズクくん?いきなりじゃないですか?」
「血を吸いたいんじゃないの?ほら、吸いなよ?いくらでもさ……不味いかもしれないけど」
いざ抱きしめられたトガヒミコは、慌ててわたついて、しかも首筋を差し出す相手に止まってしまった。こんな人は……生きてきて誰一人居なかったから。
今まで、傷つけて、無理矢理に血を吸ってきたから、いざ許可されたら……しかも一目惚れした相手から、抵抗無く与えられる事に戸惑った。
しかし、それも束の間、口を開けたトガヒミコの糸切り歯が緑谷の首筋に突き立てられた。吸血鬼の如く、容赦なく、皮膚と肉を突き破り血がトガヒミコの唇と緑谷の右首に濡れ滴る。
「緑谷ちゃん!!」
「大丈夫!!蛙吹さん、大丈夫だから!!」
助けに来ようとした蛙吹を、緑谷は止めた。邪魔をしないでと、大丈夫だからと緑谷の声に、蛙吹も、麗日も止まるしかなかった。
「個性由来か、生来の性か知らないけど……ずっと抱えてきたの?トガヒミコ……」
喉を小さく鳴らすトガヒミコに、緑谷出久は抱きしめながら尋ねた、この吸血鬼のような衝動や、ねじ曲がった愛情表現は、生まれて来て、個性が発現してからそうだったのかと。
返答は無い、しかしまだトガヒミコは緑谷の首の血を吸い、飲み続けている。余程美味しいのかは知らないが、緑谷は止めずトガヒミコの好きにさせた。
「生きにくかったでしょ……真っ当になれって、どうしようも無いって感じでさ……」
緑谷出久は知っている。
個性による弊害で、真っ当に生きる事ができなくなった人を、その果てまで行き着いた者を知っている。
そして……自分自身もまた、何か一つが違ったら、この子と同じようにヴィランになっていた事も理解していた。
父と母が、個性を気味悪がり育児放棄していたら?
あの時、オールマイトが留置所に来てくれなかったら?
A組の皆が、雄英高校が、自分を受け入れてくれなかったら?
様々なもしもが、頭によぎる、自分は恵まれていたとその度に痛感する。
トガヒミコもまた……自身の『もしも』の姿なんだと緑谷は思った。
正義と悪、決して交わることは無い真反対の存在。
決して理解し合えない相手……。
だが……緑谷出久は理解できる。
彼自身も悪の個性を宿し、堕ちかけていたからこそ、トガヒミコの苦しみを理解できたのであった。
満足したのか、トガヒミコは首筋から歯を抜いて、力を抜きながら緑谷の耳元で呟いた。
「小さい頃から、血をちうちうするのが好きでした……パパもママも、普通にしなさい、普通になりなさいしか言いませんでした……」
「……」
「まともが分からなかった……普通がわからなかった……好きなのに我慢する理由も……」
「抱きしめてくれる人も……ですか?」
「パパもママも、ぶつだけでした……ママからは、人間じゃない子を産んだって……我慢しなさいとしか、お医者さんは言ってくれませんでした」
肩が濡れ始める、トガヒミコは涙を流しながらポツポツと語り出す。自身の個性故かは知らない、小さな頃から、吸血の嗜好を持っていて……カウンセラーは矯正の為に我慢しろしか言わなかったと。
「血を吸うと言う、愛情表現、嗜好……まぁ少数派だよね?けど、海外とかには恋人の首筋に歯形をつける愛情表現とか、似通ったのもある……理解者が居ないと、キツイよね」
「イズクくんは……違うんですか?」
「うーん……死ぬまで吸わないならまぁ、僕もちょっと人に言えない嗜好があるし……誰しもそうだよ……それを抱えて皆生きてるし」
血を吸うという、愛情表現も……まぁ自分なら許容できるよとトガヒミコに緑谷は言い切った。何しろ誰だって、二つ三つは人からドン引きされる嗜好や衝動もあるだろうからと、トガヒミコのあり方を緑谷は許した。
「もう少し……早くトガさんと出会えたら、こんな事にならなかったかもしれないですね……」
ちょっとだけでも早く、出会っていれば……貴女をこんな所まで行かせはしなかったと緑谷は離れた彼女の涙を拭ってあげた。しかし、トガヒミコはしゃっくりが止まらず、涙も止まらず、膝から崩れ落ちてナイフを砂浜に落とした。
「私も、出久くんと……もう少し早く出会えてたらなぁ……何もかもが、遅すぎたのかなぁ……」
首筋から血を滴らせるのを止めず、緑谷は泣き腫らすトガヒミコの前に片膝を付いて、懐から鎖を取り出して、トガヒミコの両手を優しく持ち上げてから手際良く縛り上げた。
「遅いなんて無い……でも、一生を掛けなきゃ償えない……でも大丈夫ですよ、僕が責任を取って、最後までトガさんの償いを見ますから」
その間も、一切彼女は抵抗せず、されるがままに縛られた。
「トガヒミコ、拘束完了……」
第二次決戦『奥渡島』
ヴィラン名『トガヒミコ』
戦意喪失により、拘束完了。