【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「お……おい……嘘だろ……?」
天空の棺に電力を供給する別棟の屋上で、物間寧人はその結末を信じられなかった。あれ程完全勝利を謳っていた、苛立ちすら覚える自身には無理な事をやってのける、No.1を超えると豪語していた、嫉妬すら覚える同輩が……。
「ダメでしょ、それは……!それは駄目だろぉおおおおおおおぉぉおおお!!」
目の前で、死んだのだ、そんな事があってたまるかと信じられないと、物間の叫びは空へと消えた。
事実が、現実が目の前に叩きつけられた通形は歯を食いしばりながら死柄木へ向き直る。こんな、畜生こんなと……緑谷が来るまでに全員守ると決めていたのにと。
「今度は死んだ、今度は委ねたからだ、だからガッカリしたんだイレイザー」
この所業は、委ねたお前のせいなんだぜと、死柄木は彼方此方を見るしか無い相澤に呟いた。聞こえなくとも、この惨状から理解できようという一人語りだ。
「さて、次は?誰が?緑谷出久の、プレゼントになる?」
次は誰だ?誰が犠牲者となり、緑谷出久の心を揺さぶるのだと尋ねる中で、取るに足らない意識の外の触腕が、何かを掴んで死柄木はそちらを見た。
ああ居たなと、逆さ釣りに捕まえたミルコが、憎しみと苛立ちの眼差しを此方に向けていたので義手を外してやりながら死柄木はそのザマを眺めた。
「あん時!テメェをぶっ殺せてりゃあ!私があと……一歩早けりゃぁ!!」
後悔を口にするミルコ、蛇腔病院のラボで、調整中の死柄木を止めたのはミルコであった。しかし、不運やアクシデントの重なりが、死柄木を復活させた。仕方ない話であろうと、あの時自分がと後悔し、未だに闘志は揺らがず目はギラついていた。
「気にするなよ兎山ルミ……あの時はまだヒーローが沢山居た……キミだけがしょうもなかったわけじゃあない……ヒーローが減って、あんな青二歳すら前線に立たざるを得ない状況の時点で、死ぬさそりゃ!一人や二人!」
煽る、死柄木がヒーロー名でなく本名でミルコを呼びながら。お前が悪いんじゃなくて、ヒーロー皆がどうしようもなかったのだと、有象無象でしか無いと纏めてこき下ろしてやる。ヒーロー皆がどうしようもなかった、そして爆豪勝己は死んだのだと。
「キミらは先制を仕掛け、ベストを尽くした……それでも足りなかっただけさ、人も、備えもね?ヴィランに準備させちゃあいけないと、事を急いた緑谷出久は正しかったんだよ……例えそれが、徒労に終わると決まっていたとしても」
キミたちは頑張った、人事を尽くした、しかし天命は此方にささやいただと、死柄木の言葉が事実であるように……各地で、呼応するように、戦線は変化を始めていた。
ーー神奈川県、神野ーー
「やっぱり、直に喰らうと違うんだなぁ、コツが直感で分かるっつうか……」
「焦凍くん逃げてぇ!!」
バーニンの叫びが響き渡る。さっきまでの青空が、再び煙の暗雲に染まっていた。轟焦凍と飯田天哉の目の前、荼毘こと、轟燈矢は……あの氷塊を溶かして復活していた。
「あのブレスみたいな技が身体を凍結させる寸前、一か八か真似してみた……これであってるよなぁ!?焦凍ぉお!!」
「オニマーさん!!」
さらなる勢いの蒼炎を迸らせ、左手にはオニマーを鷲掴みにした荼毘の胸には、紫色の十字架の炎が燃えたぎっていた。
あの土壇場……荼毘は、焦凍の一撃を介して真似をして見せたのだ!『赫灼熱拳・燐』を!
いや、出来ないわけがない!轟燈矢は、兄は!独学で今日この日まで個性を高め、父親の技まで模倣して体得してみせた執念が、センスがあったから!やってのけてみせたんだと、同じエンデヴァーの血筋である事を突きつけられた!
「スケプティィーーック!!」
荼毘が、唐突にその名前を叫ぶ。それは、超常解放戦線のメンバーの一人だった。その名前を叫んだ瞬間、倒したはずのニアハイエンド脳無が、むくりと起き上がった。
『今忙しいんだ、話しかけるな!ファザコンめ!!エンデヴァーなら群訝山荘跡地でAFOと交戦中だ』
その頸部から、なにやら光る発信機らしきものが光り、通信が入った。
「弊社め、私を損切りしたつもりか?相変わらず脳みその詰まってない連中だ!」
スケプティック……本名、近属友保。
超常解放戦線の前身となるヴィラン集団、異能解放軍から活動しているヴィラン。表の姿は大企業『Feel Good Inc』の"元"取締役である。
第一次決戦後、荼毘によって救出されて残党に与する形になったが、会社から懲戒解雇された彼は、洞窟の中でキーボードを打ち込み、画面を通して自身の任務にあたっていた。
「このネットワークは私が構築したんだぞ!権限を取り戻すなど容易に決まっているだろう!?国外に逃げてまで頭脳を失った会社を存続させて何になる!保守も度を越せば思考停止の泥人形だ!」
それは、ヒーロー側の情報網の撹乱と、システム権限の奪取であった。懲戒解雇した会社の人工衛星を介したネットワークを奪っているのだ。しかしそれは、ヴィラン連合の為でも、死柄木弔のためでも、ましてやAFOへの中世の為でも断じてなかった。
「私は違う!私は死柄木弔を擁立しながら、リ・デストロの本懐を遂げる!あまねく人々は平等に能力を活かし!それによって権益を勝ち取る……!」
全ては解放思想、捕まったリ・デストロの本懐を成すために。死柄木弔の擁立も、AFOへの協力もその為、向かう先が同じだから手を貸しているだけだとスケプティックは一人言い放った。
「そこには、ヒーローもヴィランも居ない、真の自由秩序がある……AFO、お前は好きにやれ!私も好きにする!革命の後に旧態の残滓を残してはならぬ、とりわけ前時代の奴らに賛同し縋った者達!あれらは……新たな世界に不要な者達である!」
そして、今終わろうとしているヒーローに縋る者達を殲滅する為にと、スケプティックの指は止まらなかった。
ーー雄英、避難所ーー
外は、戦いの最中らしい。その筈だが音すら聞こえないのは、この雄英バリアのおかげなのだろう。
緑谷久は外のベンチで、隔壁となった天井を見上げながら、どんな厚さであの隔壁作ってるのかなと気にしながら……かつて息子に与えたヒーロースーツ『シン』のグローブに取り付けていたデバイスを眺めた。
シンのデバイスは、特別製だ。
秘匿ネットワークと、独自の……デイヴィッド・シールドのチームが所有する衛星を介して独立したネットワークを持っている。
だから……緑谷久は『全ての戦況を』一人知る事ができた。
傍に、銀色のアタッシュケースを置いて、各地の映像を確認する。戦況は……よろしくないなと、久はベンチを立ち上がるやアタッシュケースを携えた。
「行くんですか、久さん」
そんな久に、声が掛かる。最愛の妻引子が、いつの間にか後ろに居た。久は、黙ったまま止まった。
思えば、自分も彼女に出久を押し付けたようなものだった。出久がヒーローになる為に、その障害を、阻む者を、取り除く為にと財を、縁を築いて来た……所詮は口実でしかなくて、息子が怖くて離れる為だけの。
「……止める?」
止めて欲しかったのかもしれない、そうすれば、お前が一番大切だと、全てを託して後は、ヒーロー達に、出久に任せる口実になるから。母さんを守る為だったのだと、もっともな話ができるからと、だから久は顔を向けず引子に聞いた。
「いいえ……」
引子の返答に、久は振り向いた。痛々しい右目の眼帯のままで、心労で痩せ細った身体で、引子はゆっくり久の下に歩いて手を回し、抱きしめた。
「共に覚悟は決めてます、出久を、私たちの息子を助けてあげて……」
久々だった、この温もりが、離れるのが惜しいと久は頭を撫でながら思った。自ずと離れた引子を見下ろして、久は振り返りながらアタッシュケースを持ち、右耳にインカムをはめて歩き出す。
「イーヴルマジン、今僕が居る場所から、外に出れる隔壁か扉はあるか?」
インカムとデバイスを介して、久が呼んだのは出久より預かったヒーローモービルであり、AIの『イーヴルマジン』であった。デバイスから即座に応答が入る。
『旦那様、現在雄英バリアに何者かがシステムに入り込んでいます、ある意味では都合がいいですね、簡単に開けて閉じれます』
「分かった、その出口で落ち合おう……」
『どちらに行かれますか?』
「多古場競技場だ、あそこが特に押されている」
ある意味で、好都合な状況だったらしい。久は一人、息子の愛機と共に戦場へ向かう。息子が、気兼ねなく力を振るい戦えるようにと、久はアタッシュケースを持って歩き出した。
携えたアタッシュケースには『三式』と刻み込まれていた。