【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
ーー多古場競技場周辺ーー
「ーーかはっ……はあ……はあ……はあ……」
ビルの屋上から、ぽっかり胴体に穴が空いた肉塊の巨人を、四つん這いになって緑谷久は見た。口から煙を吐き出して、息を切らして、焼けつく喉を冷やすように呼吸を続ける。
自身が作り上げたパワードスーツが、個性因子を増幅させ、燃料たるアルコール摂取無しに熱線を放つ事ができるようになり、その一撃であの肉塊の巨人は止まった。
その代償とばかりに、雨に濡れる手を見れば……甲からゆっくりと、蛇のような爬虫類じみた鱗が浮き出て、爪も人から離れ尖り始めている。
「……人から外れる、か……」
背後に佇むイーヴルマジンの言う通りだ、これだけで済んだのが幸いかと、溜息を吐く。
だが……久が再度顔を上げて、肉塊の巨人を見た瞬間、愕然とした。
「そんな……」
肉塊の巨人、レギオン・オーバーホールは……開けられた穴をゆっくりと、確実に修復し始めていた。
再生能力も桁違いだったのだ。
止められると思った、浅はかにも、人の形を投げ打てば……驕りでしかなかったのかと、久は喉を鳴らし項垂れる。ヒーローですら無い自分が、息子のためにと、色々背負った息子の荷物を少しでも軽くしてやりたいと思って駆け出して、何もできないのかと久は悔しさから拳を握りしめた。
そんな久の携帯が鳴った……こんな時に誰だと、苛立ち混じりにポケットからスマホを取り出して……その番号に目が見開いた。それが誰の電話番号なのかまでは設定はしてない……しかし久は画面をタップしてスピーカー機能を作動させ、声を待った。
『ーーついに人をやめたかぁ、久』
「……やめるつもりはないよ、兄さん」
響いた声がなんとも嬉しそうで、余計に苛立った。電話をして来たのは兄、悠であった。つまりは、今の熱線をどこかで見ていたのだろう……声色からなんとも言えない嬉しさが漏れ出ていた。
『受け入れろ久、どの道お前は人では居られなくなる、その日が伸びて今日になっただけだ……個性を使えば使うほどに俺たち緑谷の人間は、人から離れてやがて……』
「どこからか……見てるの?」
その先を、聞きたく無いから、言わせたくも無いから久は遮るように言った。現実逃避を分かっていながら、それでも久は言わせないと話を続ける。
「僕は……兄さんやお爺さんみたいには……」
『もう一度今の炎を放てるか?』
「は?」
そんな兄から、リクエストが来た。もう一度、熱線を放てるかと。余程人間を辞めるのが見たいのかと久は苛立ち、ふざけるなと叫ぼうとした。
『対面側、紫の炎が見えないか?』
「!!」
だがそれも遮られ、対面のはるか先、肉塊の巨人を隔てた先、確かに紫色の妖しい炎が煌めいているのを久は見た。
「何故……来てたの?」
『と言うより、通りかかっただけだ……お前の火が必要だ』
まさかの、数十年ぶりの会合。遥か先に、死んだはずの……そして生きていた悪党の兄が、同じこの場に居る事実に衝撃を受け、久は怒りすら彼方に吹き飛んでしまった。そんな兄が、電話越しにお前の熱線が必要だと宣う。
『あの化け物、どうやらいくらでも再生するらしい……お前の熱線の熱で直線に焼き払っても、残れば意味が無い……』
まるで二射目をこちらが放つのが決まったような口ぶりで、兄に悠は肉塊の巨人の詳細を語り出した。いくら久の熱線で部分的に焼き払おうと、あれは復活して活動再開が落ちだと。
「……だったら、どうすれば」
自身の熱線では、穴を開けれたが完全に消しとばさねば終わらないと聞いて、方法があるのかと電話に語る久に、悠の返答が響いた。
『俺に向かって、熱線を放て』
「!?」
『そうすれば、俺がお前の熱線を操り、あの化け物をチリ一つ残さず消滅させれる……初めての兄弟共闘といこうじゃあないか、久』
兄からの、荒唐無稽な提案……しかし弟故に久は知っている。緑谷悠の、兄の個性ならば……そんな馬鹿げた芸当すら可能だと。
だが、気に入らなかった……本当に腹だたしかった。こんな輩の言うとおりにしなければならない事にーー。
『ほぉら、頑張れ頑張れおとーさん?』
電話から煽られた久はーーキレた。
妻や息子には決して見せない怒りの表情を浮かべて、自身が作り上げたパワードスーツ『機竜』の外装が、電流を放つも肉体を抑えつけられず、繋ぎ目から弾け始める。
「そこで立ってろ……焼き尽くしてやる!!」
『殺す気でおいで、久』
久の肉体が、鱗からさらに隆起して岩肌の様になり服を引き裂き、顔すらも肌が変質して瞳を紅に染め上げる。
悲鳴を上げる『機竜』が遂に弾け飛び、背骨のラインから不揃いなヒレが現れ、熱を帯びた鉄の様に先端が赤く染まり上がり、久は身体を反らし天に叫びを上げた。
「GiiiAAAAAaaaaaaaaaaaaAAAAAAa!!!」
つんざくような咆哮に、多古場競技場の担当していたヒーロー達もその咆哮が聞こえた方角を皆凝視した。
そしてーービルの屋上に突如現れた『怪獣』が、衝撃波を伴った白き熱線を放ったーー。
先程以上の威力と火力、離れていたヒーロー達も衝撃に吹き飛ぶ熱線がーーレギオン・オーバーホールの胴体を掠めて直撃せず、通過していくーー。
「来たかーー!!」
その対角線のビルの屋上で……迫り来る熱線を待っていた悠は、ニヤリと笑い両手を前に差し出しーー。
「おぉあああああーーー!!」
自らが操る紫色の炎に包まれ、黒い爪と紫色の皮膚の異形へ変異すれば、熱線の軌道が空へ切り替わるや、同時に熱線が白から紫色へと染まっていく。額から双角が生え、まさに『鬼』のように成り果てた悠の両手が空に翳されれば……久から受け取った熱線はグングンと集まり、膨張し……巨大な紫の焔へ変貌した。
「肉塊の化け物よ……お前が何故現れたかは知らん、あの腰抜けの支配者気取りが戯れに作ったのだろうよ……」
悠は現在、ヒーローとヴィランが日本の運命を決する戦いを行なっている事は知らない。しかし、この混乱を招いた輩はAFOだろうという事は、何となくだが予想していた。
「お前が掲げた意思や、目的もあるかもしれんが……あの男の支配の先にあるのは停滞……そこに俺を脅かす英雄も、敵も現れはしない……故に、ここで消えていけ!」
AFOの支配の先にある『停滞』それは『怨龍』緑谷悠が最も嫌う世界、その礎の一つなら消えていけと、悠は両手を振り下ろした。
紫炎の火の玉が、肉塊の巨人に触れーーそして端からチリとなり消えていく。ヒーロー達も蜘蛛の子を散らすように、離れていくのが見えーーレギオン・オーバーホールは、周囲の建造物もろとも塵となり消え去った。
後に残ったのは、神野でオールマイトがAFOに一撃を叩き込んで出来上がった、それに比類するクレーターだけであった。