【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
エピローグ① 死柄木からスピナーへ
進級も止め置かれ、いつの間にか6月になっていた。何から語るべきかと考え、順番で語って行こう。
通形先輩を含め、3年生の卒業式が執り行われた。凄まじいリズムのEDMが鳴らされる卒業式に、新二年生の僕たちはドン引き、新三年生は慣れていた。雄英高校卒業式は、元気で騒がしいのが伝統だと。
僕たちも、二ヶ月遅れの進級となった。クラス替えは無しにそのままのクラスメイト、相澤先生も担任を続投。こんな事態が故の異例、というやつだ。
青山くんは雄英を去ることにした、ケジメとして……また一からヒーローになる為出直すと宣言して。
その空いた席には、心操くんが普通科から編入し、新生2-Aとして新たに授業が始まって……と、言うことにはならなかった。
この決戦の復興にヒーローはまだ足らない、数ヶ月前はヒーロー飽和社会だとか言ってたのにだ。僕たちは新たな3年生、プロヒーローたちの指示の下、全国の復興支援にしばらくは赴く事になった。
決戦となった静岡周辺だけではない、ヴィランの活動は全国に広がり、戦いを終えてようやく今から復興が始まったから、むしろこれからというやつだ。
主だったヴィラン達は、新たな『タルタロス』へ収監されるとかで、今は警察やヒーローの監視下で勾留。
轟くんの兄さん、荼毘こと轟燈矢は……緩やかな死に向かっているらしい。僕が死柄木と戦っている最中、彼も死闘の果て荼毘を、家族で止めたのだと。その戦いの傷はもう、荼毘をまともな生活には戻せなくした。
あまり踏み込むのは良くないけど『蹴りはついた』と、焦凍くんは踏ん切りのついた顔を皆に見せた。
援護射撃をしてくれたレディ・ナガンは……その無理がたたって、車椅子から立ち上がれなくなったらしい。彼女の過去の謂れ無い罪は、潔白を証明できても……二度とヒーローとしての復活はできなくなった。
AFOから個性を奪われ、無個性となったホークスは……新たなヒーロー公安委員会の会長になったらしい。若い神輿として……あの人が会長なら、もうレディ・ナガンの悲劇は起きないだろうと思う。
全てのヒーロー社会崩壊の罪を背負ったエンデヴァーも、荼毘との戦いで戦えぬ身体となって引退となった。短いながら、それでもNo.1としてヒーロー社会の闇を全て背負って、これからも荼毘の被害者の慰問や賠償をして行くと言っていた。
ーーそして、僕も……一つの区切りをつけるために、セントラル病院に来ていた。
「何しにノコノコ来やがった、人殺しーー」
包帯に巻かれた、患者の服を纏うトカゲの異形の男……ヴィラン連合の一人スピナー……緑谷は彼と対面していた。怪我をしたヴィラン達も、治療後に牢屋へ送られる事になる。
スピナーに至っては、AFOに個性をいくつも与えられた結果、脳無になりかけていたらしい。セントラル病院が脳無に対して解析。研究もしていた結果、スピナーもそれを免れたのだと、監視役の医者から緑谷は説明を受けて面会していた。
「死体撃ちに来たのか?テメェ、英雄様は悪趣味だな」
大戦の英雄、勝者が、死体撃ちに来たのかと怒りを抱えた言葉をスピナーはぶつける。その言葉を聞いて……緑谷は口を開いた。
「死柄木から、遺言がある」
「は?」
「それを伝えに来たよ、聞く?」
最後に戦った自分から、スピナーに宛てた遺言が預かってある、だから会いにに来たと緑谷から告げられたスピナーは、しばらく黙ったがそのまま緑谷に尋ねた。
「…俺?トガや荼毘……コンプレスには?」
「キミだけだった」
その3人ではなく、キミにだけだと念を押すように語る緑谷に……また黙ったスピナーだったが、声を絞り出して語りだした。
「死柄木は……希望だったんだ、笑って……全部壊そうって言った!」
ミシミシと、スピナーの肉体が悲鳴を上げて肥大化を始めた。幾つもの個性を、AFOから与えられた彼が、興奮状態に陥り抑えが効かなくなっている。
「泥花で歪な地平を見せてくれた、あいつは俺の代弁者だったんだ……虐げられても俺自身が、異形だしなって諦めてた……」
立ち上がったスピナーを見上げる緑谷に、監視の医者が鎮静剤のシリンジを取り出したのを見て緑谷は待ったをかけた。
「そんな俺に夢を見せてくれた、何かでかい事が起きるかもって……!何者かになれるかもって……!死柄木弔は……俺のヒーローだった!」
巨大な手が、緑谷を握りしめる。見上げた緑谷に、涙を流し見下ろすスピナー。異形の差別で引きこもっていた彼が、希望を見出したのが死柄木弔だった、全てを壊してくれると思っていた。
「ゲームが……好きだったんだよ……!引きこもってる間ずっと、俺……ゲームばっかやってて……そしたらあいつも、やってるゲーム結構おなじでさぁ……!」
いや、違う。ただ一人の友人だったとスピナーは涙ながらに語る、代弁者である前に唯一話が合う気の置けない友達だったんだとスピナーの、嗚咽にも似た声に、緑谷は目を閉じて口を開いた。
「だってさ、死柄木」
「え?」
まるで、ここに死柄木弔が生きていて、居るかの様な口ぶりに、スピナーは呆けた。そして……その時、不思議な事が起こった。
緑谷の髪の毛が浮き上がり、緑かかった黒から白く色を失って……顔つきすらも変わった。右目や口に奔った傷跡に、乾燥した唇……監視の医者ですらも唖然とするしか無い……スピナーですらも目を見開いた。
「スピナー……」
「死柄木……死柄木なのか!?」
掴み掛かった手を解いて、肉体もみるみる萎ませて……スピナーは死柄木に変わった緑谷を見た。信じられない、なんだこれはと医者も、警報を鳴らしかけたが手を向けて何もしないとだけ言った。
「こ、これは……一体……」
「こいつに体を借りてる、といっても……もうすぐ溶けて俺は消えて無くなるがな、先生……AFOの因子を緑谷も持ってて、因子の記憶と意思を、緑谷が体に取り込んで繋いでくれたんだ……」
何故こんな事がと問うスピナーに、死柄木は答えた。最後の戦いで、AFOに意思を食い殺され消えかけたあの時、微かに残った自分の個性因子を、緑谷が自身に引き寄せて取り込んだのだと。
AFOの因子と力に目覚めたからこそできた芸当で、緑谷は死柄木に遺言を伝える時間をくれたのだと苦笑した。
「容赦ないだろ、死の間際に遺言を自分で伝えろと吐かしやがったんだ、このヒーローは……だから、こうしてスピナーに直接言える」
「ああ……ああ!」
スピナーは、震えながら涙をこぼして目元を押さえた。もう居なくなると言っている、消えて無くなると、だからこそ声も姿も目に、耳に刻み込まなければならないのに、涙で顔が見えないのだ。
「ドクターが言ってた、何もなしてないただのチンピラと……けど、お前が言ってくれて……背を押してくれたから俺は、少しは夢を見せてやれたかなとは思う」
「違う、違うんだ!俺だって、あの時……止めてりゃ、お前を止めてれば!いつだって俺は……流されるしか……!」
「スピナー……俺は、最後まで、壊すために戦ったよ……お前らのヒーローに……なれたかな?」
「うぅあああ……ああああ……」
笑った死柄木の髪の毛の色が、肌が、顔立ちが、ゆっくりと緑谷へ戻っていく。そして……この瞬間、死柄木弔は確かに死んだのだった。
「…………敵ながら、いい友達が居たんだな、羨ましいよ死柄木が」
泣き崩れたスピナーに、泣いてくれる友達が居て羨ましいと緑谷は呟いて立ち上がる。やる事はこれで済んだ、もう帰ろうと緑谷は面会室の扉へ、スピナーに背を向けて向かった。
「お前達は……これからも戦い続けるんだろ?」
その背中に、スピナーが声をかけて止めた。
「そしていずれ……死柄木弔も、ヴィラン連合も忘れて笑うんだろう……」
この事件も、復興の果てに笑って忘れるのだろうとスピナーが言う。歴史の一幕、一文にてただ刻まれるだけで、忘れ去られていくのだろうと。
「本を書く、死柄木弔という恐怖の象徴をーーヴィラン連合は、壊すために生きたと永劫、ヒーローに突きつけてやる……過去は消えない、俺が死柄木弔を紡ぐ……」
スピナーの覚悟を聞いて、緑谷は少し振り返ってから……彼の覚悟に応えた?
「なら、僕はヒーローとして死ぬまで言い続けてやる……ヴィランの誰もが恐れた男、イーヴル・ヒーローイズクが、最も苦戦して恐怖した、最強のヴィランは……死柄木弔だったと……死ぬまで言ってやる、そして本当にしてやる」
「ああ!?」
「死ぬまで他のヴィランに負けない、死柄木弔を殺したヒーローとして……絶対に忘れないよ」
緑谷出久にとっても……死柄木弔は、同じ因子を持って、人生を歪められた被害者であり、交わることがなかった敵同士である。
しかし、最後は分かり合えた友達だった。
その手向けとして、生きて進む者として、語り継いでいくとスピナーの意思にこたえたのだった。
「ふん……俺からも伝言だ、タコに……頑張れよって」
障子くんのことかと、緑谷は承り、そのまま面会室から退出した。