【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
平静を取り戻したジュウモンジは、二回目以降の物資輸送を、無事に緑谷達雄英組と完遂した。さっきの取り乱したのが間違いだったと、しっかりプロヒーローとしての働きを後進に見せることが出来た。何より緑谷達も、プロヒーローであるジュウモンジの指示通り的確かつ機敏に反応して活動できた。
あの戦いを超えて、しっかりヒーローとして力をつけていると自覚ができた。物資輸送業務が終えたら、自衛隊及び警察官、プロヒーロー達は一度食事を取り、ここから夜間パトロールを行う。
それこそ大人であるプロヒーロー達の仕事ではあるが、学生の仮免ヒーローにも担当して貰わねばならないあたり、ヒーローの減少を緑谷達は目の当たりにするのだった。
「昼間は無様を晒したね、いや本当……面目ない」
「そう掘り返さなくていいですよジュウモンジさん、後はしっかりできてましたし、鴉天狗衆も現れなかったじゃないですか」
夜の京都は中京区、三条通を緑谷はジュウモンジとバディを組んで夜間警備にあたっていた。切島や芦戸、葉隠も違う場所でプロヒーローと夜廻り警備に出ている。物資輸送が決まった場所と量を配達するのに対し、夜間警備は広範囲を守るための苦肉の策であった。
夜更かしは女性陣には辛いだろうな、お肌の天敵らしいし大丈夫かと、芦戸と葉隠を心配しつつ、夜の京都を歩きパトロールを続ける緑谷。真剣に無言で、真面目にと些細な事にも気を張れとエンデヴァーのインターンで学んだことを実践する。
「静かですね……」
「大戦の前まではまだ人の気配もあったんだけどね……静岡も?」
「中心地ですからね、気配すらも感じないくらいに静まりかえってましたよ」
が、やはり静寂に耐えられないのが若人なのやもしれない、それくらい静かだった。前は夜に出歩く人間が幾らか居たのに全く居ない、AFOとの戦いを終えてなお、かつての安全がすぐ戻ると言う事は無い。
どこもかしこも、かつての夜中にあった賑わいが戻るのは先も先なのだろうなと、月光と電灯を頼りに二人は歩き続ける。
「ところで……尋ねても?」
再び緑谷から話しかけた、それくらい落ちつかない静けさだったのだ。
「お?何か気になる事でも?」
「えーっと……ヨロイムシャとは、喧嘩別れの独立……だったとか?」
だから、緑谷は少し踏み込んでみた。
昼間の鴉天狗衆との小競り合い、彼はヨロイムシャと比べられて怒りの琴線が切れて突撃した事。それは彼がヨロイムシャの『元サイドキック』である事を緑谷は知っていたからだ、そして……遺恨がある事も。
『ジュウモンジ引き抜き退社事件』
一年少し前、緑谷が雄英に入学する前、具足ヒーローヨロイムシャのサイドキック時代のジュウモンジが引き起こした事件である。
当時のジュウモンジが、ヨロイムシャのサイドキック達の3分の1を引き抜いて、ヨロイムシャの事務所を退社し、自身の建てた事務所に引き入れたと言う『事務所分裂事件』である。
その分裂事件は、様々な憶測が飛び交った。税金対策、仲違い、給与問題……しかし、何が原因でこの事件が起きたのかは結局分からず、ヨロイムシャは引退し事務所は閉鎖。ヨロイムシャのサイドキック達も、ヒーローを引退した者から、フリーランスになった者、ジュウモンジに合流した者と様々である。
そこでやはり、仲違いがあったこそ、先程怒りを露わにしたのかと、緑谷の質問に……ジュウモンジは困った笑顔を緑谷に見せたのであった。
「まぁ、仲違いもあるし、ちゃんと話もつけた……俺の跳ねっ返りもある、色々ない混ぜで俺が、俺と同じ考えの奴があの時出て行ったんだよ」
仲違いはそうである、しかし話はそれだけではない。そんなジュウモンジが、そうだと懐中電灯を、通りの……廃墟となったコンビニに向けた。
「イズク、アレなんだ?」
その懐中電灯に照らされたのをみて、ちょっと緑谷はびびった。
「うわ怖っ!ヨロイムシャの等身大人形!?しかも首がない!!」
「へぇ、大戦の英雄は幽霊とか苦手なんだな」
「和式ホラーはちょっと……スプラッタとかサイコキラーはイケるんですが」
「あー……実体があると抵抗できるから?」
「そう、それです」
首だけではない、色々壊されたヨロイムシャの等身大人形がそこに立っていた、下手したら幽霊というか落武者だろあれはと怖がる緑谷に、ジュウモンジは笑った。
「じゃあほら、あの老舗の菓子屋の立て看板……」
そして少し離れた先、シャッターが閉まった和菓子屋の立て看板を照らす。そこには……ヨロイムシャの顔がプリントされ『ヨロイムシャ御用達』なんて記されていたが、ヨロイムシャの顔にバツ印が刻まれていた。
「……ヨロイムシャばかりですね」
ヒーローと企業のタイアップ……決して珍しいわけではない。ヒーローの収入源として、公務員ではあるがヒーロー達は副業が許されている。
街に出れば様々なヒーローとのタイアップ商品やイベント食品、フィギュアにアクセサリ、化粧品……様々な物とヒーローはコラボしている当たり前の風景だ。しかし、この京都は異様だ……壊されたり、塗りつぶされたヨロイムシャの看板やら人形、旗まで、ヨロイムシャばかりであった。
「京都はな、ヨロイムシャの国なんて言われてたんだよ……あのジジイが引退するその日まではな?」
「ヨロイムシャの……国……」
「京都でのヒーローは、ヨロイムシャか、ヨロイムシャのサイドキックの誰々さんか、そして……ヨロイムシャ以外のヒーローって、名前も覚えてもらうのが難しいんだ」
ジュウモンジが語り出した、京都府のヒーロー縮図は……なんとも世知辛いものであった。
そもそもの話、ヨロイムシャ自身がヒーローの中でも大ベテランのヒーローであり、その始まりはまだヒーロー制度ができていない、ヒーローがまだ『自警団(ヴィジランテ)』として活動していた時から彼は活躍していた。
緑谷もヒーローオタクの端くれ、オールマイトだけではなく様々なヒーローの伝説は頭に入っている。そして、ヨロイムシャというヒーローは、若き時代からこの京都で、数々の活躍と伝説を残し、トップヒーローとしての確固たる地位を築いて来た。そこに決して嘘偽りは無い……。
「あのジジイの、ヒーローとしての働きも、築き上げた実績も、信頼も……何一つ嘘は無い……ヨロイムシャは日本を代表するトップヒーローの一人だ……けどな、だからこそ、それが弊害になってたんだ」
「弊害……」
「ヒーロー人気の独占さ、長年の活躍が生んだ信頼関係は、他のヒーローの参入を許さなかった……それこそジジイが引退する前なんて、京都だけでヒーロー人気投票したらオールマイトにダブルスコアつけるくらいに」
「それ、本当ですか?」
「データあんぞ、ヒーロービルボードチャートの県別投票率で調べたら、びっくりするぞ」
それは知らなかったなと、ヨロイムシャの人気は京都府という一つの都道府県を独占する、一極集中から来てたのかと緑谷は驚いた。
「ヨロイムシャの築き上げた実績、人気、信頼……それはこの京都で活動するヒーローにとっては超えられない壁だった、頑張っても名前を覚えてもらえない、協賛やタイアップも奪われて、事務所を閉めたり奈良や三重、大阪、滋賀、和歌山に福井へ活躍の場を改めたヒーローだってどれだけ居るか……」
「そんな事が……」
「けどな、それだけヨロイムシャのジジイが活躍していたのは事実だ、金で人気を買っただの、議員に袖の下を渡したなんてしてない、ただひたすらにあのジジイ築いたから……誰も文句は言えないんだ」
ヒーローの富の一極集中というやつかと、緑谷はジュウモンジの語る話に聞き入った。
オールマイトやエンデヴァーは、それこそ全国レベルの活躍をしており、その人気は全国区であるが分散している。ホークスは九州での人気が凄まじかったのを緑谷は覚えていた。
ヨロイムシャは、その長年積み重ねた活躍が故に、京都の人気を独占してしまったのだ。そして最近まで居座り続けた……。
正確な年齢は聞いた事無いし、ヒーローカードには無かったから知らなかった緑谷だが、まだヴィジランテの時代からつい最近までトップヒーローとして活躍した長年の積み重ねは、オールマイトすら超えられない物であるのが分かる。下手したら、亡くなってしまった師であるグラン・トリノよりも年上かもしれないなと、緑谷は思い立つ。
「俺は言ったんだよ、そろそろ引退して後進の指導に回って、若い奴らに飯を食わせてやれるようにしろって……ジジイは空返事ばかりしやがって……だから俺は、独立志向や不満持ってたサイドキックに声かけて、独立したんだよ」
「なんというか……ドロドロというか……色々あったんですね」
一極化の波を砕きたいための独立……話を聞けば非はどちらにも無いが、長年活躍したが故の弊害なんてあるんだなと、緑谷は考えさせられた。ヒーローの世代交代は、ここまでこじれる事があるのかと。
「そんで群訝山荘でジジイはやられて引退……正直歓喜したよ、ヨロイムシャの時代が終わると……したけどよ、記者会見のありゃあねえとよ思った」
いの一番に辞めたヨロイムシャ、その引退会見に歓喜したと正直に言い放つジュウモンジ。しかし、同時に居た堪れない気持ちもあったと頭に手を置いて呟く。
「そりゃさ、辞めるタイミングもあるけど……あのゴミ投げてた記者の奴らも、ジジイに守られてた一人だろ?それが手のひら返しだよ……今照らした人形も、看板もそうだ……こんな終わり方まで俺は、望んでなかった……ジジイもジジイだ、日本の10本指に入るヒーローの癖に、簡単に辞めやがって……」
ジュウモンジは顔を押さえながら、緑谷に吐き尽くした。ヨロイムシャに守られていながら、甘い汁吸っときながら手のひら返したファン達も、その期待や信頼を簡単に放り投げて辞めたヨロイムシャの無責任さも、何より……辞めた時に歓喜した自分の浅ましさも……全て無いまぜにして吐くしかできず、指の間から涙が溢れていた。
「……すまん、また無様を晒した」
「心中、お察しします」
「さ、切り替えよう、まだまだ長い……あと2時間はーー」
泣き顔を見せず、謝るジュウモンジに、緑谷はそれしか言えなかった。涙を拭ったジュウモンジは振り返り、語りすぎたなと、パトロールを再開しようと言いかかった瞬間。
ぎゃ あ ああ ああああ ああああ!!
夜の京都に、絶叫が響き渡った。
・ジュウモンジ退社事件
緑谷出久が雄英に入学する、少し前に起きた事件。
当時、ヨロイムシャの筆頭サイドキックだったジュウモンジが、事務所の所属サイドキックの3分の1を引き抜いて離反し、自身の事務所に引き込んだ内部分裂。不仲説、税金対策、サイドキックの給与問題と様々な憶測が飛び交った。
その真実は『ヨロイムシャ一極集中人気による、他ヒーローの参入、活躍の弊害と、後進の育成の提案、引退を空返事し先延ばしにしたヨロイムシャと、ジュウモンジの衝突』であった。