【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
それは、当の本人も信じたくないし言うのを躊躇う。緑谷も、切島も、芦戸も、葉隠もコウシロウの証言に時が止まった。
「……お前が冗談を言う奴じゃないのは知ってるが……」
「冗談でも……こんな心無い事絶対言わないよ」
聞いたジュウモンジも、語ったコウシロウも、互いに冗談であってくれと空気が一気に澱んだ。
この人斬りの犯人が……かつてヨロイムシャに認められたサイドキックであり、ヒーローであるなどと信じたくはない。
「俺がジジイの事務所出た時にもさ、主義主張は違うけど、互いにヒーローとして頑張ろうって言ってたあいつらの……誰かが、犯人なんか?」
「……それを突き詰めないと、また不用意に夜中に出た人が殺されかねない」
だが、手がかりとしては決定的な物だ、冗談ではない事実であるとコウシロウより言われたジュウモンジは、椅子から立ち上がった。
「必ず捕まえて刑務所に叩き込む、だからしっかり治せコウシロウ」
「頼むよ、ジュウモンジ……」
覚悟は決まったとばかりに、ジュウモンジが面会はこれまでと出ようとしたので、一番後ろにいた葉隠が扉を開けて、緑谷達も横にずれてジュウモンジを先に退出させてから、後について行った。
ヒーロー社会が崩壊してから、ヒーロースーツを脱ぎ、事務所を畳み辞めて行ったヒーロー達も居る。一方で……その暴言にヒーローとしての心を砕かれ、ヒーローからヴィランに堕ちたヒーローというのは、奇跡的な程にこのヒーロー社会崩壊からは聞いた事が無かった。
元々解放戦線側に与したヒーローこそは居たが、辞めて市民に戻ったヒーローは居ても、その一線を超えた者は居ない。しかし今、この京都にそんな……堕ちたヒーローが現れたやもしれないと、病院前でジュウモンジが桂駐屯地の復興活動本部へこの証言を連絡し、緑谷達は終わるのを待っていた。
「ヒーローからヴィランに、か……こんな状況だ、むしろ今まで現れなかったのが不思議なくらいだな」
「デモとか凄かったよね、雄英で緑谷が帰ってきた時とか、今思い出すと身震いするもん」
「AFOを倒しても、まだあるって聞いた……」
復興への歩みを始めた中でも、まだヒーローへの風当たりは止まらない場所はあって。むしろ今まで、ヒーローがヴィランとして暴れ出したのが話に上がらない位には、この時代のヒーローは善性と矜持があったのやもしれないと、切島達は互いに語り合う。
「うーん……」
一方で、緑谷は……何やら悩んでおり唸っていた。
「緑谷くん?どうしたの、やっぱり徹夜明けが響いてる?」
心配した葉隠に大丈夫かと尋ねられた緑谷、大丈夫だと顔を向けた緑谷は、唸っていた理由を彼女にこぼしたのだった。
「いや……この首斬りヴィラン、目的が見えないんだよね」
「え?目的?」
緑谷は、ヴィランの正体は兎も角そもそも目的が分からないと語り出し、葉隠は聞き返した。
「そう、目的……強盗殺人だったら、財布とか盗んでるはずだろうし……それも無かったんだよね」
「ああ、確か警察官言ってたような……」
この一件、金品を奪う強盗殺人では無かった。被害者は首を切り落とされたが所持品に一切手はつけられていない。コウシロウを斬り倒して緑谷が到着するまで、奪える余裕すら時間はあったとも推測できた。
「で……なんでコウシロウさんにトドメを刺さなかったのかなって」
「トドメを?」
「いや違う……どうして"ヒーロー"を生かして"一般人"を殺したんだろう?」
トドメを刺すなんて物騒なと、芦戸が苦笑するが、緑谷が感じた違和感を口に出す。
一般人は首を斬り落とし殺害した。対して、何故……ヒーローのコウシロウを生かして、言葉まで残したのかと。それがどうも、緑谷には引っかかってならなかった。
「それが何かおかしく感じるのか、緑谷には?」
切島からすれば、ただ仕損じただけではないのかとしか思わないが、違うのかと聞かれた緑谷は頷いて語り出す。
「うん、切島くん……この、ヨロイムシャの刀を持ったヴィラン……仮にもし、ヨロイムシャのサイドキックだったとして、こんな事をする動機は、何になるかな?」
「え?えーっと……あ、雇い主が辞めて、事務所から放り出されたその恨みか!」
そもそもこの首斬りヴィランの動機として、正体を仮に『ヨロイムシャのサイドキック』だった場合、その動機は引退からの事務所閉鎖による雇用消失の恨みが考えられると、切島の答えに緑谷はその通りと頷く。
「そう、まずそれが浮かぶよね?けどさ……それなら引退したヨロイムシャを直接襲撃すると思わない?」
「言われて見りゃ確かに……働き先失ったならそのヒーローを恨むべきだよな、なんで一般人をこんな……」
「憂さ晴らし、とかじゃないの?」
仮にそうならば、恨む先はヨロイムシャだけになるはず。八つ当たりで人を斬っているとしか思えないと、芦戸の話に緑谷は更に語り出した。
「そこで、コウシロウさんが聞いた言葉だよ、ヨロイムシャに助けを乞うてみろ……」
「助けを乞えって、まるでヨロイムシャを呼んで来いとでも言いいたげな……」
コウシロウがヴィランより言われた言葉『ヨロイムシャに助けを乞うてみろ』その台詞は、ヴィランがまるでヨロイムシャが出てくるのを待つようにも聞こえる。だが、緑谷はここにも疑問があるのだと話した。
「ヨロイムシャに助けを乞えって、そんな言い方するのかな……それこそ僕がこのヴィランで、引退したヨロイムシャを呼び出すために人を殺すなら……ヒーローの方に手をかけて一般人にメッセージを届けさせるか、二人とも殺して壁に血でメッセージを書いたりとかそうするよ」
「そ、そんなもんなの?」
葉隠からすればヴィランの考えやらは分からないので、悪を知る緑谷の言う事なら納得してしまう、それが物騒すぎて苦笑して汗が一筋流れた。
「うん、実力を誇示するんだ、このヒーローじゃ俺に敵わない、ヨロイムシャを出せって意味で……けど、ヒーローだけを生かして、一般人を殺してるから……分からないんだよ、動機が……」
このヴィランが、ヨロイムシャに執着があるのは分かるが、何故一般人を手にかけてわざわざヒーローだけを生かしたのか、その理由や目的が見えない。悩む緑谷であったが、ジュウモンジがスマホをしまったのを見て、いよいよ次に動く時間かと、歩いてきたジュウモンジを迎えた。
「とりあえず本部には証言を伝えといた、鑑識からはまだ話が来てない、俺たちはこれからそれぞれに分かれて情報を集めようと思う」
ジュウモンジからこれから行う事を示される、このヴィランに関して調べ上げるため、分かれて情報集めをとジュウモンジが指示を言い渡した。
「芦戸さん、切島くんは……南区の担当をしている、同じ刀を与えられたヒーローを当たって欲しい、もしこいつだったら……すぐに連絡して周辺ヒーローと連携して捕縛を、無理はするな」
「うっす、了解!」
「分かりました!」
南区に、コウシロウと同じく剣をヨロイムシャより渡されたサイドキックが活動しているから、そのヒーローから話を聞いて欲しいと指示された切島と芦戸は即座に走り出した。
「緑谷、葉隠は……俺と来てくれ、ある場所に行く」
残った緑谷と葉隠は、ジュウモンジと共に違う場所に情報を集めに行くとだけ伝え、そのまま歩き出した。
「ジュウモンジさん、どちらへ行かれるんですか?」
場所を教えて欲しいと言う緑谷に、ジュウモンジは歩きながら答えた。
「左京区の下鴨、ジジイの家に話を聞きに行こうと思う」
京都府左京区下鴨……京都の寺社の中で最も古い『下鴨神社』を擁し、鴨川と高野川が合流し、Δの形を形成する観光スポット『鴨川デルタ』は、平和な時の休日になれば子連れの散歩客やピクニックを楽しむ姿があった。
自然との共生により景色の美しい場所……その西側の通りは『社長通り』と呼ばれ、京都でも様々な豪邸が建ち並ぶ富裕層の住まうエリアであり……かつてトップヒーローだったヨロイムシャも、そこの豪邸の一つに住んでいた。
「……八百万さんや轟くんの家程ではないな」
「ほー、雄英生ってのは金持ってんのな、聞いたらあのジジイ泣くんじゃねえか?」
「私からしたら、場違いにしか思えないよぉ」
トップヒーローの息子に大会社の令嬢、二つの家に招待された緑谷からしても、その通りの豪邸は確かに豪邸ではあるが、それよりも小さいなと呟いてしまった。
長年頑張って来たヨロイムシャが泣くぞと、呟やきながらその西通りを歩き……一つの日本式武家屋敷の表門で止まった。
表札に刻まれた『鎧装』の二文字……ここがかつてトップヒーローだった、ヨロイムシャの家であり……彼の苗字なのかと緑谷は、ヒーローチップスですら知らない、ヨロイムシャの本名を知る事となった。
チャイムのボタンを押したジュウモンジ、そして受話器が上がったらしい音が鳴る。
『あら、あんたは……』
「ジュウモンジだ、ジジイ居るか?事件があってな、話を聞きたい……」
ここでもジジイ呼びなんだなと、追い返されないかと心配する緑谷に葉隠。しかし、武家屋敷の立派な門は、その奥ゆかしい見かけとは裏腹に自動で開き始めた。
その門の先で……赤髪の鍛え上げた好青年が仁王立ちで立っていた。姿が目に入るや、ジュウモンジはその青年に声をかける。
「ヨイチお前……見ないと思ったらジジイのとこに居たのか」
「ジュウモンジか……相変わらず口の悪い……ヨロイムシャさんの頼みでね、あの人の家族の護衛やってるよ俺は」
どうやら、この青年もまたヨロイムシャのサイドキックだったようだ。
セキアカオリジナルヒーローファイル!!
『弓取ヒーロー ヨイチ』
本名 弓弦要一(ゆみつるよういち)
年齢 21歳
ヒーロービルボードチャートJ 741位
元ヨロイムシャのサイドキックであり、『ヨロイムシャ四剣士』の一人。四人の中では最年少ながら、その実力を買われ刀を託された。赤髪に、鍛え上げ引き締まったキレある肉体の青年で、ヨロイムシャを敬愛しており、引退後もヨロイムシャの身辺警護や家族を守るため、使用人としてヨロイムシャの側に仕えていた。その為、大戦には参加していない。
ヨロイムシャに指導された剣術の腕も中々であるが、本来は弓矢による遠距離戦を得意とする。
個性は『皆中』
放った矢が射程圏内であれば、必ず狙った場所に当たる。必殺必中の個性、ただし和弓でなければならず(洋弓やボウガン、銃には作用しない)範囲外には及ばない(50m以内)という弱点もある。