【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「ヨロイムシャさんが辞めた後、バッシング凄かったからさ……ご家族とかも被害に遭ったら危ないと、だから僕が護衛を買って出たんだ」
「相変わらずジジイの子飼いだなヨイチ、ご苦労な事だ」
武家屋敷の廊下を歩きながら、ジュウモンジはヨイチと久々の再会らしく語らい、その背後に緑谷と葉隠がついていく。彼もまた、ジュウモンジがヨロイムシャのサイドキック時代だった時の事務所の後輩であった。
『弓取ヒーロー ヨイチ』
弓矢による後方支援を得意とするヒーロー、事務所最年少ながら剣術も覚えがよく『ヨロイムシャ4剣士』として最年少で刀を与えられた彼は、死柄木、AFOとの戦いには参加していなかった。
理由は簡単、引退後に突きつけられた鎧へのバッシング、それによりヨロイムシャの家族が被害を受けたりしないように、その護衛を買って出たらしい。
家族への被害……荼毘こと轟燈矢の告発により、クラスメイトの轟焦凍も、家族もそれに晒されていた事を緑谷は思い出した。ヒーローの家族というだけでも、やはり世間の目は奇異の目線や、叩く相手にしてしまうようだ。
「ジジイ……元気にしてるのか」
事務所のサイドキックを率いて辞めた手前、どの面下げてとはなるがやはり心配はしているらしいジュウモンジ。その問いかけにヨイチは一度振り向いてジュウモンジを見上げてキツイ眼差しを向けたが、すぐに振り返り再び廊下を歩き出す。
ジュウモンジさん、もしかして地雷踏んだかと、黙って歩き出したヨイチに、ジュウモンジは一度緑谷と葉隠に顔を向けたので、緑谷は首を横に振った。
やがて、たどり着いた襖の前にて、ヨイチが声を上げ呼びかけた。
「ヨロイム……武市さん、ジュウモンジさんが来ましたよ」
初めて知ったかもしれない、ヨロイムシャの本名は『鎧装武市(がいそうたけいち)』というらしい。ヒーロー名鑑にも載ってないレア情報だやりぃ!とは、緑谷も流石に喜ばず……応答も無いが、構わずヨイチが襖を開き、その先に待つヨロイムシャの姿を見て……3人は絶句した。
「……ジ……ジジイ……」
そこには、確かに『ヨロイムシャ』は居た。
だが、緑谷の知るかつての迫力あるヒーローの姿も、葉隠が芦戸や青山と指導を仰いだ師である姿も、そこには無く……。
かつて、彼の筆頭サイドキックであり袂を分かったジュウモンジですらも、その変わり様に声が出なかった……。
白い介護用のベッドで、上半身を起こし、陽の光がさす外の景色をただ眺めるだけの、枯れ枝の様になってしまった『老人』がそこに居た。
「手に職持った年寄りがさ、仕事辞めると一気に老けるとかあるでしょ……ヨロイムシャにとってヒーロー活動がそれで……引退したあの日から、もう館の中を歩くしかしなくなってから……こうなった」
「んな……馬鹿な……」
「なんという……そんな……」
「ヨロイムシャさんが……」
あの雄大な鎧を着こなした、老獪な渋いヒーローが、その背中を追ったかつてのヒーローが、こんなに変わり果てるのか……。ジュウモンジも、緑谷も葉隠も、こうも人は変わり果てるのかと絞る様にしか言葉が出ない。
信じられないと、部屋に入ったジュウモンジはベッドに近づいて、それでも気配すら感じてないらしい呆けたまま窓を見るヨロイムシャに、声をかけてやった。
「おい、ジジイ……ジジイ!ヨロイムシャ!!」
大きな声だった、それでも耳が遠くなってしまったのか、ヒーロー名を呼ばれたからか、ゆっくりとヨロイムシャがジュウモンジの方を向いて、その顔を見上げた。
「ジジイ……久かたぶーー」
「ヨイチ……この方は……どちらさんかな?」
「!!!」
ああそんな、嘘だろ……。
ジュウモンジは顔を悲痛に歪めて後ろに下がった。あの憎たらしい、話を聞かない、それでもこの京都を守って来た、日本を代表するヒーローだった人が、具足ヒーローヨロイムシャが……ただのボケ老人にまで成り下がっていた事実に、ジュウモンジは歯を食いしばった。
「…………別室で話そう、ジュウモンジ先輩」
今は、そのままにしといてやってほしい。話は別室で聞かせてほしいと、ヨイチは移動を促した。
立派な談話室のソファにテーブルを挟み、緑茶をそれぞれ置かれて、ヨイチと、ジュウモンジ達3人が対面して座る。これだけの財を築き上げたヒーローの末路があれなのかと、一抹の悲しみを感じた緑谷だったが、それでも今京都で起きている事について、ヨイチに話を聞かねばならない。
「コウシロウさんが……そんな……」
「ああ、それで……すまねぇなヨイチ、話を聞いて俺は、まずお前を疑ってた」
ジュウモンジより、かつての仲間コウシロウが斬られた事を知らされ驚愕するヨイチに、まずジュウモンジは頭を下げた。正直に言えば、お前を疑っていたと。
「ジジイがまたヒーローに戻る為、ヴィラン出没を演じてるか、ジジイがそれを頼んだとか……考えちまってた」
ジュウモンジ曰く、この件はヨロイムシャがヒーロー復帰のために仕組んだ事件じゃないかと疑っていた。引退して大戦に参加していないヒーローが、出戻りのためにサイドキックを使い京都で犯罪を演じ、そこに颯爽自分が現れ解決、元の位置に戻るという流れで。
しかし、今のヨロイムシャに復帰などとそんな事はまず無理な様子であったし、ヨイチ自身もヨロイムシャの介護と、その家族の護衛で暇も無いのが分かった。そもそもジュウモンジ自身、まさかヨイチがヨロイムシャの下に身を寄せていた事すら知らなかったのだ。
「いいですよジュウモンジ先輩……けど、同じ刀を託された人が……ですか」
「俺としちゃあ誰も違った、誰か関係ねぇ輩が同じ物を使って撹乱してる、コウシロウが夜闇で見間違えた……なら安心なんだが……いや、1人一般人殺されてるからそんな事言えないな……あの様子じゃあジジイに話を聞けないみてぇだし」
疑いを向けられたが、晴れたからいいと笑うヨイチに、ジュウモンジはかつて刀を託された誰もが違ってほしいと願いを吐露する。しかし、本当ならば話をヨロイムシャから聞きたかったらしいが、それもできそうにないとジュウモンジは、緑茶を飲んでため息を吐いた。
「聞きたかった事とは?」
「ああ、ジジイが刀渡したサイドキックだよ……ヨロイムシャ4剣士以外に渡してねぇか、そのあたり知らねぇか?ヨイチ」
ジュウモンジが聞きたかった事は何か?緑谷の質問に、ジュウモンジが答える。
それは、ヨロイムシャが刀を託したサイドキック達がどれだけ居るかだった。自身が知る『ヨロイムシャ4剣士』には渡していたのは知っているが、自身が退社して独立した後に、刀を渡した奴は居ないかとヨイチに尋ねる。
「いや……渡してないと思う」
「となりゃあ、切島くん達に頼んだ滑野(なめの)が下手したら……」
四人以外は渡したのを聞いていない、そして後一人は、切島と芦戸に話を聞きに行かせたサイドキックだなと頷くジュウモンジに、葉隠があれ?と声を上げた。
「え?コウシロウさんに、ヨイチさん……芦戸ちゃんと切島くんが向かったヒーローの、滑野さんで3人ですよ?もう一人居るはずですよね?」
そう、まだ3人だ。『ヨロイムシャ4剣士』と言っていた以上、もう一人が居るはずではと尋ねた葉隠に、ジュウモンジとヨイチは真顔で葉隠に答える。
「「あいつにコウシロウを斬った傷はつけられないよ、もしあいつだったら、コウシロウは真っ二つになってる」」
「「真っ二つ!?」」
二人して、最後の一人は『論外』扱いだった。もしその一人が此度の事件の犯人なら、コウシロウは『真っ二つ』にされて死んでいるとまで言う。
「兎も角、ヨイチが白とわかってよかった……戻れねえよな?」
「こんな状況だ、ヨロイムシャに、その娘とお婿さん、お孫さんも辺りの目があってね……守ってあげないと」
「……何かあったら連絡しろ、すぐ駆けつけるから」
あんな辞め方してしまったから、家族も近所付き合いに響いている。だからヨイチが、一人今日までヨロイムシャの家族を守っていた。赤の他人、ただヒーローとサイドキックで血も繋がってなかろうに、ヨイチは義理堅い男らしい。
それでも、限界が来たら助けるとだけジュウモンジは伝え、聞くことはこれ以上無かろうと立ち上がって、ヨロイムシャの邸宅を出る事にした。
広いし迷ってもダメだから玄関まで送ると、ヨイチにより案内され緑谷達はヨロイムシャ邸を後にする。途中、轟家のような日本式庭園を見ながら、廊下を歩いていると……。
「…………カラス?」
「え?」
「いや、やけにカラスが多いと」
庭園の外、電線が見えた緑谷が、ふとその電線に異様な数のカラスが止まっているのを見た。びっしりと、見てしまったらなんとも不吉を思わせてならないなと、しばらく立ち止まるくらいに。
「ほんとだ、びっしり居る……ちょっと怖いね」
「見なかった事にしとこう……」
葉隠も嫌なもの見てしまったと、先に行くジュウモンジとヨイチに置いていかれそうになる前に廊下を早歩きで緑谷と共に歩く。
その中の一羽が、不意に飛び立つや……路地の影へと消えて一人の男の腕に留まった。カラスは男に鳴きつき、男は羽を撫でてやれば足に取り付けた小型カメラを外して、カラスを解放してやった。
「……既に貴方は終わってしまった、いや、終わらされたのですね、この京都の人に」
指で小型カメラを弄び、そのまま地面に落として、男はそれを踏み砕き、怨嗟の声を漏らす。
「いや終わってない、ヨロイムシャは終わらせない……あなたが立ち上がるまで、私は何度でもこの京の人間の首を斬り落としましょう……かつての貴方の、宿敵として」
そのまま男は、路地へと消えていく。服の下から、黒い輝く鴉羽が、落ちて……風に靡かれていき……ヨロイムシャの庭園の池へと舞い落ちた。