【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
「危険ですので早めに避難所へ……」
「ご迷惑をおかけしております」
夕刻ーージュウモンジ以下辻斬り捜索隊は、京都御所周辺にてパトロール兼捜索を開始。夜が来る前に出歩いている人々へ、避難所及び自宅への帰宅を丁寧にお願いしながら、警戒を強めた。
「ヒーローは殺さずに、一般人だけを?」
「そう、どうもそこが引っかかって……」
ジュウモンジ班に配属された尾白猿夫は、緑谷からあらかたの話を聞きつつ、気になっている事を吐露されて、その疑問に自身も首を傾げた。
ヒーローだけを生かし、一般人だけを殺す極悪ヴィラン。その狙いが分からないと語る緑谷、ジュウモンジの言う『ヒーローの信用喪失による、京都府民の不和扇動』もそうなのだが、何故ヒーローだけ生かすのかはいまだに疑問が晴れないでいた。
「ヨロイムシャのサイドキック狩り、とかじゃないの?」
「だったら何で、トドメを刺さないのかと……何でだ?本当に」
葉隠が言う『ヨロイムシャへの恨みからサイドキックを狩る』も考えられるが、それなら殺してる筈で、わざわざ復帰可能な怪我を、超絶技巧でプロヒーローにつけている理由が分からなくなる。
「……この辺りはあらかた見回ったか……緑谷、悪いけど高いところから出歩いている人がいないか確認してくれるか」
「了解です」
ジュウモンジに言われ、空を引き寄せ緑谷は飛翔して、近場の建物の屋上へ着地して街を見下ろす。
緑谷たちがパトロールを行なっているのは京都御所南側、丸田町通りから南下していく形にパトロールをしていた。京都の通りを数える最初の通りだったなと過ぎる緑谷は、街を見下ろして不審な者や出歩いている者は居ないかと確認する。
声かけか、はたまたこの二日間二件も殺人が起きれば、出歩く者も流石に居なくなるのかもしれない。全く人気の無い夕暮れの京都の街の静けさに、これがノスタルジーというやつなのかと緑谷は思ったりしてみる。
「まだ夕方ですからね、特に見当たらないですねー」
「そうか……降りて来ていいぞ」
「了解」
兎も角、出歩いている人間が居ないだけ良しとしよう。辻斬りが出てくるのは夜中だ、建物から降りて自らを引き寄せ、勢いを殺し着地した緑谷は、ジュウモンジ達に合流した。
「……うん?」
降りて来たその最中であった、あまりに近かったのか、所謂足元近くの見え難い角度だったらしい、ふと路地を歩いている人影を緑谷は目にした。
「どうした、緑谷」
「いや、今そこの路地に誰か……」
ジュウモンジに尋ねられ、近場の路地に誰か居たのだと答えながら、緑谷はその路地まで歩き近づいていく。
シャッターが閉まった蕎麦屋の前、一人の男がその前に立っていた。
黒い髪の青年だった。まだ20代の、若さが見える青年が、蕎麦屋のシャッターで屈むと、落ちていた兜を拾い上げ、横に立っているヨロイムシャの等身大人形に被せてあげたのだった。
「あの、すいません」
まだ出歩いてる人がいたのかと、緑谷は声をかけると青年は緑谷を、そして後についてきたジュウモンジ、尾白、葉隠の方を向いた。
「何ですか?」
何ですかと問いかけるその黒髪の青年に、緑谷は丁寧に、今は危ないからすぐに避難所へ帰る様に伝える事にした。
「すいません、今この京都はヴィラン活動が活性化していて危険なんです、お近くの避難所へお帰りいただけますでしょうか?」
緑谷の言葉に、ああと青年は従順に頷く。
「そうですよね、また最近ヴィランが暴れてるんですよね……すぐ帰りますから」
「近くまで、送りましょうか?」
「お願いできますか?」
一人で居るなら、避難所まで護衛はしたほうがいいなと、緑谷は青年を近くの避難所まで送ると願い出れば、彼は必要無いと言わず従順にお願いするのだった。
「ジュウモンジさん、僕この人を避難所まで送ります、終わりましたらまた連絡して合流しますね」
「ああ、頼んだ」
この近くだと……スマホの災害マップを照らし合わせ割と近い場所にあるなと緑谷は、青年に画面を見せた。
「普段避難しているのはこちらですか?」
「はい、そちらです」
「では一緒に行きましょう」
ニコニコと青年は、緑谷の言われるがままに避難所へ誘導されてついていく。こんな時勢だ、ふざけんなヒーローだの、俺は大丈夫だと反抗的な人も居るなかで、すんなり従ってくれるのはありがたいなと思いながら、緑谷は青年を誘導した。
「……ヒーローさん」
「はい?」
「こんな事、いつになったら終わるんでしょうか?」
唐突に尋ねられて、緑谷は少し返答に困るも、それだけ彼もこの京都の避難生活でストレスや鬱屈も溜まっているのだろうなと、その不安を少しでも和らげれるならと、会話をする事にした。
「申し訳ありません、僕たちヒーローも、自衛隊も、警察も……必ず元の暮らしができる様に頑張ります」
必ず、平和に暮らせるよう、元の家で生活できるようにしますと決意を込めた言葉。それを聞いて、青年は少し悲しげな眼差しを見せた。
「オールマイトが引退してから……全国でヴィランの動きは活発化してました、この京都でも……」
「……」
「けど、他所ほどではなかったんですよ、ご存知ですか?」
「それは……知らなかったです」
オールマイト引退から、ヴィランの活動が活性化したのは緑谷も、と言うよりヒーローたちも理解して肌で感じていただろう、だからこそ、あの時のヒーロー達はより活動やその方針を変えていった、人々の平和を守る為に。
京都はそんな中でも違ったのだと、青年は語り、そうだったのかと緑谷は興味が湧いて彼の話を聞いた。
「何故だか分かりますか?」
「……ヨロイムシャですか?」
「ええ、あの人が居たから、この京都は他よりもヴィランの活発化も抑えられていたんです」
ジュウモンジからも聞いた、それだけヨロイムシャは……京都にとっての『象徴』であった事を、青年も嬉しそうに語る。
「皆、ヨロイムシャに守られていました……それが群訝で引退してから……京都の人は彼を排他していった……手のひらを返す様に、酷い物でしょう」
だが、その表情も悲しみへ一気に切り替わった。緑谷も同じ事を考えていた、ジュウモンジも同じ事を語っていた。
辞めたタイミングはどうなのかとは思う。
けど、あの会見も……今の京都の人間も、それが今まで守ってもらって来たヒーローへ向ける態度なのかと、胸がモヤついた。
「……ヨロイムシャ、好きなんですか?」
当たり障りない言葉を探して、緑谷から出た言葉がそれだった。青年はその言葉に、笑みを浮かべて頷く。
「はい、辞めた今でもあの人のファンです……だから、戻って来て欲しいです……出戻りと言われても、また彼が戻ってくれたら……京都のこの荒れ様は少しは……高望みでしょうか」
願望や諦観、ない混ぜの笑みに……この人は余程ヨロイムシャのファンなんだろうなと緑谷は思った。たとえ辞めても、バッシングを受けたとしても、こうして戻って来て欲しいと願う人は居る程に、ヨロイムシャというヒーローは偉大だったのだ。
そのヨロイムシャは、もう戻ってこれない。彼は壊れてしまったから……それでもこの人は願い続けるのだろうかと緑谷は考える。
「……元気な姿を、見せて欲しいですよね」
顛末を知りながら、緑谷は嘘を吐いた。
流石に言えるわけなかろう、ヨロイムシャが痴呆により最早復帰も、生活も介護がなければままならない事など。緑谷の言葉に、青年は、頷いた、
やがて、話し続けていれば避難所に到着したので、青年はここでと頭を下げた。
「ありがとうございます、ヒーローさん……活動頑張ってください」
「はい、応援ありがとうございます」
この小さな応援で、やる気はまた違ってくる。緑谷は青年に背を向けて、ジュウモンジ達と合流する為に避難所から駆け足で離れた。
その背中を見送りながら、優しい眼差しを浮かべた青年は……目元を手で覆い……鋭く冷たい眼差しに変わった。
「あの人は、もう戻ってこない……元気な姿なんてあり得ない……」
青年は、避難所には入らず傍の裏路地に歩いて行くーー壁面に映し出された、青年の影……その背中から勢いよく、羽の影が生える。
夕日が山に沈み、夜の帳が下りる中、電線の鴉達は一斉に鳴き始めた。
また、夜が来るーー。