【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
『ヒーローは篩にかけられた』
あの日、誰かが言ったか……そう耳にした。
群訝山荘と蛇腔から、ヒーロー達の信頼は失った。今、それを少しずつ取り返している時期だ。
オールマイトという『平和の象徴』が照らした光というのは、あまりにも眩しいもので、人々はそれに『慣れてしまった』のだろう。
ヒーローの代名詞に彼が挙がる、彼のようなヒーローこそが尊いのだと。
故に……人々はヒーローに求めすぎたのだ。個性の種類、強さ、差異はあれどヒーローも『一人の人間』なのだ。
嬉しければ笑い、悲しければ泣く、そして難題に悩み……心折れて膝を突く事もある。
個性が人々に現れる前の、テレビの中やコミックの中の『ヒーロー』達だって、全てが決して高尚で高潔では無かった。
時には、人々に呆れ戦うのをやめかけた光の巨人だって居る。ヴィランに洗脳されて自らの手で恋人を殺してしまい、正義を見失い管理社会を築き支配した超人だって……。
ヨロイムシャは頑張った。
ヒーローがまだヒーローでは無い時代に、自分なりに正義を考え戦い、かつての友を討ち、プロヒーローとして長年活躍し続けた。その終わりがあの会見であった。
もう心も砕け、老いと痴呆で何もかも忘れて朽ちていくだけだった……だが、叩き起こされた。
突きつけられる、かつて守った町の惨状。そして蘇ったかもしれぬかつての友であり宿敵。
自身に憧れながらも『その先』を見ていた弟子は、泣きそうな声と顔で『もう一度立って欲しい』と頼んできた。しかし、無理だった……とうに心は折れて砕けた、今更戻って何故また罵詈雑言に身体を、心を晒さねばならない。
老いた身体は、数ヶ月でさらに衰え、まともに戦える時間なぞもう1分と無いだろうに。今更、また戦えとお前はいうのかと弟子に勘弁してもらった。
幻滅、呆れ、失望……全部叩きつけられて弟子は去った。他の弟子二人も、その眼差しはかつて自分を慕う目から、老人を労る慈しみへと変わってしまった。
だがいい、これでいい。
ヨロイムシャはあの日死んだ、死んだ人間は、そのまま朽ちて去るだけ……。
一人、月夜を窓辺から眺めるヨロイムシャ、いや……老人、鎧装武市は……今一度、呆けの微睡に沈みゆこうとしてーー。
「ぬ?」
柔らかな風が、病室に流れ込んだ。梅雨に入ろうとしている湿気を含んだ風邪では無い、涼やかな夜風が窓のカーテンを揺らして、鎧装はその風に包まれた。
やがて……窓から、一枚の黒い羽が入り込み、鎧装の体にかけていた布団の上に舞い降りる。鎧装はそれを手に取り眺め……ゆっくりと重苦しかった瞼が開かれた。
「鴉羽……!?まさか!!」
鎧装は跳ね起き、そして下駄を履いて病室から飛び出した。真夜中の静かな駐屯地病棟の廊下を、覚束ない足で必死に、なんとか歩いて、階段を降りて……外へ出る。
出てすぐそこに……『奴』は居た。
かつての同門、かつて競い合い磨き合った好敵手……そして、悪に堕ちた……鴉を模した仮面と服に、腰元に携えた同じ鞘の刀ーー。
「天眼……なのか?」
鞍馬天眼……かつて自分が討ち取ったヴィラン『ホウガン』が、仮面の穴からこちらを見据えて佇んでいた。鎧装の声に彼は答えず、ただ黙りその姿を見据えていた。
「ワシを……殺しに来たか?ならよい、構わん、この老体の首……持っていくといい」
かつての敵が地獄から、復讐の為に蘇ったのだろう。アスファルトに正座した鎧装は、これで幕を下ろせるならそれでいいと、首を捧げようとした。
だが、何も言わない。
呆けから見た、幻影かもしれないなと自嘲する鎧装。首を下げて項垂れた彼に、鋭い何かが勢いよくアスファルトへ、ヨロイムシャの眼前へ突き刺さった。
「何だ……これは……」
鴉羽を模した苦無と、紙片が数枚ーーなんだこれはと鎧装は苦無を抜いて紙をとりあげてそれを目で追った。
「今日、日が変わると同時に……鴉天狗衆が京都に火を放ちます、かつてのあなたが見た……ホウガン大火を再演しようと、今の鴉天狗衆の頭領が動いてます」
「なにっ!?」
「それは奴らが燃やす、寺社仏閣と重要な道路に面した建造物のリストです」
鎧装も、話は少し聞いていた。今の、名前を借りた新たな『鴉天狗衆』が、京都を荒らしている事を、そしてヒーロー達も手を焼いている事に。それだけの人員と組織力の、ヴィラン団体が……この京都で悪事を働いていると。
それを『ホウガン』が報せに来た?自分に?何故?本当に自分はいよいよ呆けて取り返しのつかない認知症までなったかと、背を向ける『ホウガン』に、鎧装は待ったをかけた。
「ま、待て!待ってくれい鞍馬!!何故!?何故現れた!!お前は……鞍馬天眼なのか!?ワシは、ワシは夢でも見ているのか!!」
お前はかつての鞍馬天眼なのか?認知症の果てに見えた幻影か?問いただす鎧装に『ホウガン』は止まり、首を向けた。
「全てを終えたら……また現れます、その時……貴方はもう一度……ヨロイムシャとなる」
「待てーー!」
ブワァア!!と鴉のように輝く黒翼を広げて羽ばたかせ、ホウガンは空へ飛び月夜へと颯爽飛び去った。
ただ見上げるしか無いヨロイムシャ、しかし……会話の中で気付く。
「あれは、あの声は紛れもなく、若き日の鞍馬そのものだった…….しかし」
アスファルトより抜き放った鴉羽の苦無は、模して作られた物ではなかった!手元の羽苦無が、硬さを失い一枚の鴉羽へ、その握った手の中で変化したのである!
恐らくは、あの羽が……『ウィングヒーロー ホークス』の個性『豪翼』のように、意思通り操るだけでなく、鋭利な刃としても変化させられるという事が、鎧装には見て分かった!
「鞍馬の個性は、こんな芸当はできなかった、奴はただ空を飛ぶしか……だが、声はかつての鞍馬であった……まさか……」
鎧装……いや、ヨロイムシャは……地獄から蘇ったかつての敵が消えた月照らす夜空を見上げ、その正体に近づきつつあった。