【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
久々の訓練は、有意義なものだったと風呂から上がった緑谷は入浴セットを抱えて雄英男子の宿舎に戻っていた。
あの後、花霞姉妹と加礼燈に組み手を申し込み、他にも数人他校制から申し込まれて技術交流を行った。学校変われば教える技術体系や理念も違うわけで、参考にしたい動きもあったなと、夏にしては珍しく涼しく心地よい夜風で、湯上がりの火照りを冷ましながら、緑谷は雄英高校の宿舎まで歩いていた。
「うん?」
その途中……緑谷はふと、植木の木陰で蹲る者を見た。躓いて怪我でもしたかと、心配になったのでそこに歩み寄れば……その水色髪に誰かと気付く。
勇学園の、藤見露召呂だった。
ああ、やはり……緑谷の眉間に皺が寄り、先程の訓練を思い出す。彼から仕掛けた組手での敗北により、実力差を見せつけられて、やはり堪えたらしい、重々しい雰囲気を漂わせいじけていた……。
一度訓練で対峙した身とあっては、中々にくるものがあるだろうと、緑谷はその小さな背中を見ながら、宿舎へ向かった。
藤見露召呂は……今日の組み手においての無様な自分に、嫌気と挫折、様々な負の感情に包まれていた。
「こんな筈じゃなかったのにな……」
一年振りに出会った気に入らない、ヤンキー上がりのあの男『爆豪勝己』あの男は雄英体育祭で活躍して、事件の渦中として語られ、あまつさえAFOや死柄木との戦いで活躍を報じられた。
あんな奴が……そんな負の感情が湧き立ってならず、つっかかった。するとどうだ、まるで牙を失ったように大人しくなっていた。
聞けば右手があの戦いで再起不能になるまで砕かれ、縋るようにリハビリを続けているという。
もうヒーロー活動も難しいと……。
だからちょっと煽ってやった、居る意味あんのかよと。それで乗り気にさせて組み手に持ち込んで…‥あしらわれた。
信じられないくらいに、強くなっていた。合同訓練の時と全く違う、ステージが違うと、突きつけられた。
曲がりなりにも、名門の雄英や士傑でなかろうと、自分もヒーロー科で、ヒーローを目指す1人として自覚はある。努力も積んで頑張って来たつもりで、雄英と同じように一年で仮免許も取れた。
だけど、爆豪はさらに向こうへ進んでいた。その事実に、藤見は打ちひしがれた。
「……俺の個性じゃ、やっぱりヒーローは無理なのか」
たまにチラつく事がある。自らの個性はヒーロー向きでは無いという事実に……。
『ゾンビウィルス』
それが、藤見の個性。
体内で生産した毒ガスを吸引した者は、意思を失い暴走するゾンビとなる。感染した者は個性をより強くするが、暴走している為に暴れ、噛まれた者は感染してゾンビ化する。
決して、ヒーロー向きでは無い。自覚すらある……だが、彼もまた憧れてしまったのだ。
オールマイトに……。
そして、ヒーローという仕事に。
向いてない個性と分かっても、ヒーロー科に進んだのだ。ヒーローになりたいと、なれると自らに言い聞かせ、ここまで来て仮免許も取れたが……口に出して呟くくらいまで、今日の組手で分からせられた。
あんな無様を、他校生も居る中で晒して、立つ背がないなと自嘲気味に呟く藤見……。
「冷た!!」
その頬に突如、ひんやりと何かが当たって声を上げて立ち上がった。誰だ一体!?ふざけやがってと立ち上がった拍子に背後を見れば、そこに立つ相手に目を見開く。
「て、テメェは!?」
「お疲れ、飲みなよ」
雄英高校の、爆豪と同じクラス……そして『大戦の英雄』として名を刻んだ男。緑谷出久だった。
緑谷は、カフェオレの缶コーヒーを藤見に投げ渡せば、藤見は受け取ってしまったが為に捨てるなんて事は倫理的にはできないので、促されるままにプルタブを開けて飲んだ。
「…‥甘い」
「甘いの苦手だった?」
「いや……」
それは安心したと緑谷も、プルタブを開けて一気に缶を傾け煽り、一息吐いた。何のつもりだと睨む藤見に緑谷は睨みつけたが、その睨みすらも受け止めて笑顔を崩さなかった。
そういえばこいつ、爆豪のストッパーで『総大将』呼びされて一番雄英で強い生徒だったと、合同訓練のことを思い出した。何より……あのオールマイトが気に掛けた男だったと。
「…‥かっちゃんに負けて自信無くした?」
開口一番、ズケズケとこの男は自分の心に踏み込んで来た。苛立ちが募り、目を見開くも、事実で言い返せないくらいに弱っていた藤見は黙るしかなく……緑谷は続けた。
「ちなみに、あれ多分四割っちゃんだよ?心臓潰されてエッジショットに治療うけてまだリハビリと体力も戻ってないし、片腕……100%かっちゃんはさらに強いだろうね、僕なんか勝てないくらいになる」
藤見に突きつけられた、さらなる事実。あの一瞬で倒された時の力は四割程度でしかないと……完全に復活した爆豪は、もはや自分でも手がつけられないだろうねと語る緑谷に、藤見は尋ねた。
「あいつ……どうしてあんなに強くなったんだ?」
愚直で、シンプルな質問だった。どうしてあんなに、爆豪勝己は強くなったのかと。その問いかけに対して、緑谷はまた一口コーヒーを飲んでから答えた。
「色々あったんだよ、かっちゃんも……」
「色々って……」
「そうとしか言えないよ、乗り越えて、出会って、折れて飲み込んで……僕も知らない瞬間に彼は、色々経験したからあの強さになったんだと思うよ」
この一年、雄英はあまりにも色々ありすぎた。それを超えて来たから、爆豪勝己は強くなったんだと、緑谷は困り顔で語る。
「つまりは、キミが一年前に歪みあってたかっちゃんではないよ、今のかっちゃんは……クレバーに、ひたすらに……オールマイトを超える為にと邁進するヒーローの1人さ……根っこはまんまだけどね」
一年前の彼ではない、成長して変わっているのだと緑谷の語りに……中々に堪えているらしく、しゅんとしながら藤見は尋ねた。
「やっぱあれか、個性の違いなんかな……あいつ……爆破なんてヒーローらしい個性持ってるし、俺みたいなヴィランじみた個性は……オールマイトみたいになれないんかな」
先に進むいがみあった相手に、自らの個性すら藤見は蔑み出した。諦めが漂う彼に、緑谷もまた目を細めながらコーヒーを飲み干し……引き寄せを間の両端から押しつぶすように行使してプレスしながら語った。
「なれるわけないだろ、バカ言うなよ」
「……はぁ!?」
藤見は、少し期待していた。慰めを……『そんなことは無い』と言ってくれたりするのかと思ったら、全否定を叩きつけられて、一拍置いて流石に声を荒げた。
「オールマイトは、オールマイトにしかなれないよ、かっちゃんはかっちゃんだし?僕はイズクにしかなれない……例えオールマイトの個性を奪って使っても、オールマイトには誰もなれないよ?キミはキミにしかなれない」
だが、否定ではなかった。
オールマイトは、オールマイトにしかなれない。誰もなり変われることはできない、と言う意味合いであり、藤見は足を掬われたたような感覚を覚えた。
「キミはキミの力で、オールマイトを超えればいい……あの人にできなかった事を、キミはできると思う、その個性でね?」
「……こんな個性でか?」
「立派な個性だよ、僕みたいな殺すしかない個性に比べたらさ……」
オールマイトには出来ない事が、キミだけにしか出来ない事がある。それで彼を、憧れを越えればいいと緑谷の言葉に、出来るのかと藤見は問うた。
自分に比べたら立派な個性だと言う緑谷、さらに緑谷は話を続けた。
「それに、キミの個性なんだけど……まだ拡張性があると思うんだよね?ただゾンビにするだけに留まらないと思うんだけど……」
「なに?」
「個性はさ、進化するし……理解を深めたら新たな形で現れる事があるんだ、僕の個性も根幹の力を引き出せたから……アプローチを変えたらより違う派生が生まれるような気がする」
と言うわけで、と緑谷は藤見に続けた。
「明日の土曜か明後日日曜日、暇があるなら一緒に個性伸ばしでもどう?」