【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
姫鷹について行った轟がたどり着いた場所は、施設内にある『柔道場』であった。かつて、幼少時にエンデヴァーの指導を受けた自身の家にある鍛錬場の板張りと違う、畳を敷かれたその場所は、今は誰も利用していないらしく静かであった。
一礼してから靴を脱いで、姫鷹は柔道場に上がるや、轟も同じ様に一礼してから靴を脱いで上がった。
「昨晩、他校の先生方とも意見交換会がぁあってな、轟くんに関してもぉ相澤先生からぁ話を聞いて、組手で気づいた事も話たぁ……」
「はぁ……」
「トラウマもそうだがぁ、轟くん……キミは個性に頼る場面がぁあるなぁ、と言うよりはぁ……それで済むほどの実力と強さを仕込まれたと、言うべきかぁ……故に今日までトラウマに気づく機会を失っていた、と言えよう」
姫鷹の語る自らの傾向に、轟は確かにと頷かざるを得なかった。両親から受け継いだ強力な『半冷半燃』は、それを振るうだけで大抵のヴィランを薙ぎ払えてしまう力であり、そもそも轟と互角に、追い詰めた相手は雄英生でも、ヴィラン達でも数えるほどしか居なかった。
そして昨日初めて、女性の同じ実力や個性を持ったヒーローを目指す少女に追い詰められた事で、ようやく隠れた弱点に気付いた。これはある意味で幸運だったのかもしれない……。
振り返った姫鷹に見下ろされて、その眼差しの力強さに轟は一瞬体が強張った。引退した身とはいえかつては、AFOが全盛期の時代を生き抜いたヒーロー、その強さに衰えあろうと眼光は鋭かった。
「そんなキミに私から提案する事は一つ、轟くん……武術をやってみないかね?」
「武術ですか?」
「と言うかぁ……キミはそのあたりエンデヴァーに仕込まれなかったのか?」
姫鷹が、轟に提案したトラウマへの対応方法……それは『武術』であった。その提案をした矢先、姫鷹は轟に徒手空拳に関しては父であるエンデヴァーの指導は受けなかったのかと尋ねられ、轟は答えた。
「親父から教えられたのは個性の扱い方で、幼少の時には親父と母さんとのこともあって、冷気の個性ばかりだったんで……」
「成る程なぁ……」
ここにも家庭の事情があったかと姫鷹は頷いた、姫鷹も道理でアンバランスな戦い方だなと感じていた。個性運用はトップクラス文句なしだが、近寄られて格闘戦の時は追い詰められていたのはそれでかと。
「まぁ、キミの弱点とトラウマに対応する為に、是非とも私は提案したい……キミは、ヒーローアーツという言葉を知っているかね?」
ならば尚更、是非とも習得するべきだと、姫鷹はまず、とある単語を轟に問いかけた。轟は、その単語を聞いて瞼が少し強く開いた。
「確か……緑谷が言っていたな、一年の職場体験だったか、その体験先で教わったと」
「ほぅ……単語は知っていると、なら話は早い……」
轟の反応に、姫鷹は笑みが浮かんだ。そうだった、亡き友グラントリノが緑谷出久を指導し、そしてその戦い方を束ねて、ブラッシュアップして開花させていたなと、説明が省けて助かると彼は頷いた。
『ヒーローアーツ』
それは!ヒーローが経験と個性に向き合い、実践で磨き上げた技術の結晶であり武術の事を言う!そのヒーローの"型"や"戦闘スタイル"の総称である!
一般的に代表例を出すならば!麗日お茶子が職場体験で指導をして貰った『バトルヒーロー』ガンヘッドの『ガンヘッドマーシャルアーツ』が有名だろう!
そして!雄英高校においては、緑谷出久がグラントリノとの実践稽古の果てに編み出した『レッキングスタイル』『フルイドスタイル』『クライムスタイル』さらに、それらをまとめ一つにした武術『ヴィランスタイル』もまた、ヒーローアーツと呼べよう!
広義で捉えるならば……轟焦凍の父エンデヴァーが編み出した炎の極意『赫灼熱拳』もヒーローアーツである!!
「今はこの単語を使うヒーローはあまり見なくなったが……轟くんにピッタリなぁ、ヒーローアーツがあるんだ」
「俺にぴったりな……」
緑谷と同じ様な格闘術を、自分が?想像ができないが、それがトラウマや弱点を補えるのだろうかとやはり疑念は浮かぶ中で話は続く。
「名付けるならば、誠刃流柔術拳法……誠刃高校でも希望者に指導しているカリキュラムであり、俺がヒーロー活動の中で編み出した実践柔術拳法……無手にて個性を無力化し、敵を捕縛する体術だ」
そのヒーローアーツの名を語り、姫鷹は杖を傍らに置きながら、柔道場の畳の中心へと立った。
「言葉でいってもピンと来ぬだろうよ、せっかくだから体験してみるといい」
「はい?」
「そこへ立ちなさい、一手戦ってみようじゃあないか」
見るより体験してみた方が良かろうと、姫鷹は自分と一度戦ってみる事を提案した。杖をついて歩く様な老獪からの提案には、さすがに轟もたじろいだ。
「いやしかし、貴方は杖を……」
「さっ、構わず打ってきなさい」
少し腰を落として構えはなく、対面した姫鷹に待ったをかけるもどうやら聞く気はないらしい。いくら先人のヒーローとは言え引退した男に、今の自分が戦って怪我をさせたらと考えた轟。
まぁ、軽くだ、軽くと……轟は拳を握りしめて、それなりの速さで踏み込みながら右手を振ろうとした瞬間━━。
「!!?お、わぁああ!?」
いつの間にか、まるで気配すら感じる事も無く、姫鷹に間合いを詰められて、轟は両足を払われて、そのまま宙を浮き、胸板を押さえ込まれて背中から中々に良い音を立てて叩きつけられた。
「かっはぁっ━━」
「受け身はある程度教わっているようだなぁ?」
肺の息を全て吐き出させられ、横隔膜が迫り上がってしばらく呼吸が止まった、それ程の衝撃。そんな轟を見下ろしながら、姫鷹は語る。
「やはり甘いの……ヴィランに性別も年齢も関係は無い、こんな老人でもヴィランであればぁ、必死の抵抗でキミを殺しかねないかもしれんのに」
「っぉああ……」
「ワシがヴィランならお主、死んどるぞ?」
あまりに甘い、その甘さがこの景色を作り出して、お前は今殺されたと、先程は話をしていた老人は冷たい事実を突きつけながら、轟の右手首を捻り上げて押し込んだ。
「━━!?」
「立てんじゃろ、立ったら自分の手首や肘や肩が壊れる、その痛みや力のかかり方が分かろう?」
「っつぁああ!?」
片腕一歩で、制された轟は思わず空いた左手で畳を叩いた。降参を告げるタップに、姫鷹は手を離して、轟は拘束を解かれて体を起こす。
「その甘さを貫く力が無ければぁ、キミも、キミの背を頼りにしている民衆も死ぬ、ヒーローにはぁ言い訳は無い、例え如何なる理由があれ、敗れ背中の人々を守れなければぁ……ヒーローとしては失格よ」
なんとも、懐かしい話を轟は姫鷹より聞いた。一年時の雄英体育祭で、ガチバトルの時に緑谷が自分に言ってきた事を、この姫鷹先生も言ったのだ。
父の呪縛を超えて、実の兄に拳を振るい、倒し、そして止める事ができた。超えたと思っていた呪縛は、まだ轟の足首に巻きついていたのだ。
「甘さを貫くならば、それを貫ける力をつけねばならん、超えねばならん……やるかね?轟くん」
「……ご指導、よろしくお願いします」
「よろしい、明日の午前から始めよう、特別な練習相手も捕まえておく」
彼もまた、さらに向こうへ行くために、一歩を踏み出した。