【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
そんな悪夢をよそに、ヒーロー訓練の為にバスが富士山向けて走る。車内で緑谷は腕を組み、どうしたものかと考えた。
あれは悪夢である、しかし……こうも現実と同じ場所の夢を見るか?いくら何でもあんな夢を見るのかと自問する。
相談すべきか……相澤先生にと、バスの一番前左列で寝静まる担任の姿を見て、緑谷は少し躊躇いができた。
たかが個人の悪夢で、授業を止める事になるかもしれない。杞憂だったら迷惑を他校生にもかけるかもしれない……その考えが緑谷の頭の中で巡っていた。
だがもし……ここで黙って、訓練中に何かあったら?
万が一……AFOが"何かしら"を残していて、死柄木が夢で告げていたら?富士山が近づいてくるなか、右手で額を押さえてどうすればと考え込む。
「緑谷くん、大丈夫か?さっきから唸っているが……」
「む……」
「具合が悪いのか?吐き気があるならエチケット袋を用意するが……」
通路を隔て、反対側の座席の飯田が、流石に緑谷の悩む様に気付いた。何でもない、とは流石に言えない雰囲気になってしまったなと、緑谷自身少し吐いて楽になりたい気分もあったので……通路に身体を乗り出しながら、飯田にだけ聞こえるように相談してみた。
「実は……今朝夢の中で死柄木に出会って、富士山にかかる月がAFOの顔という悪夢を見て……」
「ああ……朝早く騒がしかったのはそれで……月がAFOの顔とは酷い悪夢だね」
「ね?だけど、富士山って言う今僕らが向かう場所に、この2人が出てくるって……何か異様と思わない?」
緑谷の相談に、飯田は……顎に手を当てて考え始めた。
「夢というのは、時に正夢なんて現象があるくらいだ、現にキミはAFO因子にOFAをオールマイトから分け身を持っていて彼らと夢の中で対面していた……だから"ただの悪夢"とは吐き捨てる事ができないな」
普通なら『ただの悪夢だ、疲れてるんだよ』で笑い飛ばせる話になるだろう。
しかし、AFOとの戦いの渦中に関わった雄英生徒、その1人であり当時の内情も知る飯田は、そう断じる事はしなかった。正夢という話もある、それは何かの予兆なのではと真摯に受け止めて考えてくれたのだった。
「うん……けど、夢だなんだでこの合宿の訓練を止めるわけにはいかないし……」
「キミの言い分も頷けるよ緑谷くん、けどよく言ってくれた、言い辛かったろう?走行中だから、停まったらすぐ相澤先生に一緒に話をしよう」
「ありがとう」
緑谷が言い出しにくかった理由も分かると、飯田は目的地に着いたら共に、すぐに相澤先生に相談しに行こうと付き添いまで請け負ってくれたのだった。
バスが止まる……今回の訓練会場となる場所は、富士山の『御殿場口新五合目』なる登山口だった。訓練内容はまだ明かされてない、バスから次々降りていく中、緑谷は飯田と共に、相澤先生に話をする為近づいた。
「相澤先生、すいません、少し……」
バスから降りた緑谷が、すぐに話しかけた瞬間だった。相澤は背後から聞こえた緑谷の声を聞いて、尚且つ待ったとばかりに右手のひらを向けて待つようにと止めた。
「待て緑谷、様子がおかしい……先に向かった聖愛と勇の先生方が何やら話をしているみたいだ……」
話すタイミングを逃してしまった……だが、相澤先生が言う通り、先に到着していた聖愛の引率ヒーローであり教師、アーミー・マチルダと、勇の養護教諭である科内先生が、現地の富士山管理員と何やら話をしていた。
相澤も、雰囲気がおかしいと義足の足で歩き、何事かと尋ねにいく……そして、先生方々がそれぞれの生徒の下へ戻れば、相澤も雄英A組の下へ戻った。
「お前ら、来て早々だが訓練中止だ」
「えっ」
「どう言う事ですか、先生」
相澤の口から放たれたのは、訓練中止の報せだった。その言葉にまさか、何かあったのかと心臓がキュッと締め付けられた感覚に緑谷は襲われた。飯田も唐突な話に、何事かと相澤先生に尋ねると……その眠気眼が鋭くなっていることに気付いた。
「訓練は中止し……これより雄英A組及び、この合宿に参加している全員で、緊急のヒーロー活動を行う」
相澤先生の号令に、雄英A組全員の緊張が高まった。
これは"訓練"にあらず、この富士山で今から本当のヒーロー活動をしてもらう事態が起きているのだと、皆が理解したのだった。
「いやはやしかし……訓練がヒーロー活動になろうとは、到着して驚きましたよ」
「それほど、今の富士山は一気に環境が変わったと言う事みたいだね」
山道を歩きながら、誠刃の生徒湧水は、緊急のヒーロー活動が始まった事に驚きを溢し、緑谷に語った。
相澤の号令を経て、後続のバスで到着した雄英B組と誠刃の生徒も集まり、今この富士山で起きている事態に、現地管理員からの要請を受けた合宿組は、引率のヒーロー達の下富士山にて『避難誘導及び捜索』を行う事になった。
と言うのも、今年の夏は気温が低い冷夏となり、富士山頂近辺は雪が降り出して大変危険な状態となっている。この数日で一気に富士山周辺の環境は激変し、緊急の閉山に踏み切ることとなったのだ。
今はまだ、プロヒーロー達も復興活動により少ない現状、仮免を持つ者も居る合宿組が訓練に富士山を訪ねてきたのは、現地管理員の者達からは僥倖だったらしい。
緑谷達は引率のプロヒーローの下、富士山周辺のトレッキングコースにまだ取り残されている、トレッキング中の登山客やハイキング客を呼び戻し誘導、下山させる事になったのであった。
合宿組は人数を分けてチームアップさせ、富士山のハイキングコースや登山道に向かわせた。緑谷がチームアップしたのは、誠刃の湧水と……。
「なぁ、本当にハイキングコースなのかこの道?足場も悪いし……」
勇学園の藤見、この三人が割り振られた。藤見は緑谷と湧水の少し後ろで、少し足を取られながらも何とかついてきていた。
「ハイキングというか、トレッキングだね?軽登山、富士山にいくつかあるハイキングコースの一つ……だけど、ハイキングの名を被ったハードなコースだよ」
緑谷以下三人が行くハイキングコースは、出発点である御殿場新五号目から、富士宮口五号目に行くコースであった。往復7時間を要するルートで、引き返せる場所に登山客がいればそれを先導し、富士宮口に抜けるのが早いならばそちらに向かうよう指示された。
ハイキングとは名ばかりの、なかなかハードなルートである。足場も、ヒーロースーツによりある程度対応できるシューズを履いているとはいえ、藤見の足取りは覚束なかった。
「お前ら、よく平気に普通に歩けるな?靴が違うのか?」
対して緑谷と、湧水は慣れた足取りで歩く様に、ヒーロースーツのシューズもそういう形に作ってあるのかと尋ねれば、両人はそれぞれ答えた。
「個人的に山籠りとかしてたからさ、中学の時に富士の樹海を歩いたりしてたし……」
「まー多分、日頃から足腰は誠刃の生徒は嫌なほど鍛えてますからな、何しろ校舎への石階段が長いの何の」
「マジかよ……」
藤見も仮免持ちだ、それだけ鍛え上げてきた自負がある。しかし目の前の仮免持ちの緑谷の山籠り経験、そして仮免持ちでない湧水の証言に閉口した。
「それにしても……肌寒いですな緑谷殿、夏とは思えませぬぞ」
「確かに……息まで白い……」
忍装束を着た湧水は、身震いしながら自らを抱きしめ二の腕を手のひらで擦り上げながら呟く。確かにと、言いはしなかったが吐息も白く耳や口元が冷たくなるほど寒さがあった。
秋の終わり、冬が始まったような寒さ……いくら何でもここまで寒くなるのだろうか。かっちゃんならその辺り、登山が趣味だからすぐ分かるだろう、聞いておけばよかったなと思いながら緑谷は山道を歩く。
「なぁ……霧が濃くなってないか?」
しばらくして……藤見はふと、霧が濃く出てきたのではと違和感を覚えた。