【原作完結】僕の脊髄ぶっこ抜きアカデミア【オリジナルストーリー開始】 作:ぶっこ抜きデク
藤見の一言で、緑谷と湧水も霧が異様に濃くなっている事に気づいた。それだけではない……明らかに、気温がぐんぐん下がっていくのを自らの肌で感じた。まるで轟の冷気が押し寄せてくる感覚に、緑谷は顔を顰める。
「一体……この富士山で何が起きてるんだ?」
「どうします緑谷殿、ここは一度引き返しますかな?」
この異常な気候変動、何が起きているのか?しかし、このまま濃霧の山道を進むには危険すぎるだろうと、湧水の言葉に緑谷は頷いた。
「……そうだね、僕たちまで無理して行軍して遭難なんて笑い話にもならない、戻ろう」
湧水の言う事が最もだった、こちらはヒーロースーツを着ているとはいえ、山岳地帯を行く装備まで持ってはいない。さらに、富士山中の地理を詳しく知らず、濃霧まで出てきた。
いくらヒーローでも、このまま強行軍は二次災害になりかねないと、藤見にも目配せして、それでいいかと確認すれば藤見も頷いた。
「よし、ならこのまま一度戻━━」
このまま出発地点まで帰還だと、緑谷が決めた瞬間だった。
ゾクリと━━あの大戦の時と同じ"奴"の気配を感じた。
「押さないで!ゆっくり並んで乗ってください!」
「誘導に従って焦らずにお願いします!」
一方で、御殿場新五合目にて、捜索組とは別に帰還した登山客の避難誘導をしている者達も居た。この御殿場新五合目に駐車している客も居れば、今下山してきた登山客と、車の誘導及び、合宿で乗ってきたバスを利用して、合宿組は避難誘導に協力していた。
「登山ツアーの名簿、確認取れましたか?」
「こちら側からの登山客はこれで……個人登山は分かりませんが……」
聖愛2年、加礼燈が富士登山ツアーを統括する現地ツーリストより提供して貰った名簿を確認し、この登山口からのツアー客は全員確認が取れたと確認が取れた。
「元から今日の登山やめた客も居るのが幸いだったのか……何事も無く避難できそうでよかったな」
「本当、これなら避難はすぐに終わりそう」
誘導役として働く切島も、その報せに少し安堵のため息が漏れ、同じく誘導役に従事していた芦戸も頷いた。この異常気象から予約をキャンセルした団体もあり、登山客自体が少なかったのもスムーズに誘導できたのもあるなと、気を引き締めつつ少し安堵の台詞を漏らした。
避難に使った自分たちのバスが降りて行くのを爆豪は無言で見送りながら、山頂への道に振り返った。ニュースも、新聞も、富士山の異常気象を取り上げていたが……この時期に、この富士山だけがこうもなるのかと。
そして……今朝の朝食で、緑谷が見た『悪夢』……。
「……何事も起きなきゃいいが」
杞憂であればいいのだがと、呟く爆豪。そんな心配をよそに、相澤先生が言い放った。
「よし、俺たちは捜索隊が帰還次第下山する、素早く行動を━━」
捜索隊が戻り次第帰還、そう皆に伝えようとした相澤の左目が、ふと富士山を見上げる様に動いた。その目が、何を捉えたのかと爆豪は背後に振り向き、その視線の先を追うと……。
「あぁ?んだあの光……」
爆豪が見たのは『赤い光』であった。それは相澤も見たのだろう、妖しく輝く光が富士山で灯っていた。一瞬、救難の為に焚かれた発煙筒か、信号弾か?と、ヒーローとしてまずそちらから頭に浮かんだ爆豪だったが……その光の妙な、不穏で不可思議な輝きを注視した。
何しろ……発煙筒や信号弾なら煙が見えるし、より輝きは強い。霧の中でも煌々輝くほどに、ここに居るぞと示す為に強い光を放つ筈。
しかし、その赤い光は霧にかかる程度の強さで……何より……。
『等間隔に、二つ輝いていた』のだから。
まるで……巨人がこちらを見下ろしているかの様に━━。
その光を目の当たりにした爆豪は、皆に向かって叫んだ。
「全員ここから離れろぉおおお!!」
その叫びと同時に……富士山に凄まじく冷たい風が吹き荒び、この場で救助に参加していた全員に叩きつけられた。
そして━━緑谷達、捜索組では……。
「な、何ですか、こいつは!?」
湧水が、そう思わず吐き出すほどにまで……異様な存在が山林から現れたのだ。それは、世に居る『異形型個性』から、かけ離れた、その枠組みから外れた形をしていた。
異形差別もクソもない程の造形だった、頭部は脳漿を解した様で目玉は無く、虫の様な胴体と伸びた左右三対計六つの手足……その足の先には甲殻類の鋏が鋭く光り、肉体は紫にピンク色が入り混じった色の、甲殻類を思わせる外殻を有していた。
異形型個性の持ち主でも、人間としての肉体は留めているのが普通だ。例を挙げるなら、サー・ナイトアイのサイドキック『センチピーダー』もムカデの異形型個性であるが、人の形に収まっている。
故に、湧水がそう走るのも仕方が無かった。その、異形から外れた怪物はまるで……そうだと緑谷は思い出す。
「こいつまさか……脳無か!?」
この富士の山嶺に、まさか脳無の生き残りが居たのかと緑谷が叫んだ瞬間、目も見当たらない脳漿じみた頭部が緑谷達に向き、その鋏を持った腕を振り翳した!!
「藤見くん!!」
「ぬぉわぁあぉ!?」
範囲に居た、1番近くで佇んでいた藤見を緑谷は個性により引き寄せた。近場の木々が、ただ振り翳した鋏が"通り抜けた"様に見え、木々が音も無くズレて、倒楽した。
もし引き寄せてなかったら、藤見の胴体が真っ二つになっていた!それ程までの切れ味を見て、助けられた藤見は顔面蒼白になりながらも立ち上がる。
「敵意満々ってか……!」
「話には聞きましたが、これが脳無!AFOが造った人造兵器!」
攻撃を仕掛けてきた脳無に、藤見はヒーロースーツの袖にウイルスガスをチャージし始め、湧水も忍び装束の腰のホルスターからペットボトルを取り出し栓を開け、水を操り引き出して相対する。
緑谷も指を鳴らしながら対峙する……が、違和感も感じていた。
こいつは……本当に『脳無』なのかと。
だが、そんな事は今考える必要無い。
目の前の脳無に似た化け物は、こちらに攻撃をしてきた、それを放置して逃げれば、まだ残っているかもしれない登山客に被害が出るかもしれない。
「2人とも、隙を作って……この脳無は僕が殺す!!」
ならば打ち倒す他は無し!2人の前に出た緑谷は、湧水と藤見に指示を飛ばした。